職能資格制度とは?他制度との違いやメリット・デメリット・運用例をわかりやすく解説!

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職能資格制度とは?他制度との違いやメリット・デメリット・運用例をわかりやすく解説!

職能資格制度とは

職能資格制度は、従業員の職務遂行能力を基にして、その能力に応じて等級を定める給与制度です。この制度は、勤続年数が長くなるほど職業遂行能力も上がることを前提にしています。
また、従業員の能力に応じて、あらかじめ企業が規定している賃金表(賃金テーブル)によって給与を決めます。

この制度の主な特徴は、職務遂行能力が上がれば等級(給与)は上がりますが、役職の昇進とは連動しないことです。また、従業員の能力を等級の判定基準としているため、従業員の能力が高いと判定されると、等級(給料)が下がることは基本的にありません。

職能資格制度は日本で生まれた評価制度で、現在も日本の企業で最もポピュラーな給与制度となっています。特徴の一つとして職能資格制度で決定される等級は必ずしも組織内の職位と一致するわけではないという点も挙げられます。

日本で浸透している裏付けとして、厚生労働省が『職業能力評価基準の策定業種一覧』と業種別に能力基準を作っています。

職能資格制度における評価

職能資格制度を運用するためには、人事評価を行う必要があります。主に次の3つの要素を評価の柱とすることが一般的です。

情意評価

情意評価」は、規律性・責任性・協調性・積極性などを評価の軸にし、仕事に対する意欲や態度を評価する項目です。

主に経験の浅い新卒社員や役職のない一般社員に適用される場合が多く、管理・専門職などの高位の職能については情意評価を行わず、能力および成績のみを評価対象としたりすることもあります。成績評価の比重を高めることで成果主義を念頭においた運用も行うことができます。

情意評価」について詳しくはコチラの記事をご覧ください!

能力評価

能力評価」は、知識や技術、技能といった「基本能力」、問題対応力や対人対応能力といった「習熟能力」など従業員の持つ能力を評価する項目です。

ある特定の資格を等級の条件にしたり、独自のサーベイを実施したりして運用される場合が多いです。
特に「基本能力」は明確に表記しやすく、社員の自己研鑽を促しやすいという効果が期待できます。

成績評価

成績評価」は、その名の通り従業員の業務成績を評価する項目です。「業績評価」と表現されることもあります。
成績評価の運用には、目標管理制度を活用して行うと効果的です。

成績評価(業績評価)」についてはコチラの記事をご覧ください!

職能資格制度のメリット

ゼネラリストの育成に適している

職能資格制度では、企業で必要とされる職務遂行能力を身につけることが等級(給料)を上げるのに必要となります。そのため、企業内で必要な汎用的な能力を等級の判定基準として設定することで、バランスの良い社員であるゼネラリスト人材を育成することができます。

ゼネラリスト人材を育成することで、人事異動や職務変化に適応する人材が多くなり、組織の柔軟性が高くなることも強みの1つです。

納得性の高い昇格・昇給で、社員に安心感がある

職能資格制度では、わかりやすい等級別の賃金表(賃金テーブル)が規定されています。そのため、従業員は昇格・昇給に関して事前に確認することができるため、納得度の高い昇格・昇給を行うことができます。

また、職能資格制度の下では基本的に降格がなく、従業員は安心して長く働き続けることができます。加えて、職務の範囲にかかわらず他の従業員に仕事を教えたり作業を分担したりすることも評価の対象となるので、臨機応変にチームで協力し合えることもメリットとしてあるでしょう。

長い時間をかけて人材育成するのに向いている

職能資格制度は、勤続年数が長くなるほど職業遂行能力も上がることを前提にして設計されている制度で、勤続年数も等級評価の1つの項目になっています。

そのため、長期間会社に勤務する社員も多くなり、じっくりとその会社にあった人材を育成することに長けています。

職能資格制度のデメリット・問題点

人件費が高くなりやすい

「職能資格制度」は、従業員の能力が下がらないことを前提に作られているため、退職がない限り社員の等級は上がるか維持されるかのみで、それに応じた人件費が必要となります。

そのため、高い等級の社員が増えるにつれて、全体として人件費が高くなっていく傾向があります。
実際に、バブル崩壊後の低成長時代に入ると職務資格制度を採用していた日本企業の人件費が会社の業績を圧迫するようになり、正規雇用者の数を減らすリストラが行われました。

他の制度は、職務や役割をまっとうできたか否かにより等級が上下するため、賃金が下がるケースが大いにあるので、比較的人件費は高くならないだけでなく、ある程度の調整も可能です。

能力の評価が難しく、能力と賃金のミスマッチが生まれやすい

職能資格制度では一度評価された職務遂行能力は失われない前提がある上に、社員の能力がすべて業務に活かされているとは限りません。
そのため、厳密な評価が難しく、実際の成績と評価で乖離が生じる可能性があります。

能力の評価が難しいため、勤続年数を重視した評価を行ってしまう企業・組織も多く、その結果として「年功序列型」の組織にならざるを得ない企業もあります。

他の制度では、成果やプロセスに対して会社で決めた方法で、高い客観性をもって評価することが可能なので、評価の合理性を高く保つことができます。

能力に限らず、評価の合理性を高め、従業員が不満を抱かないようにすることは離職防止や生産性向上の点において非常に重要です。

  • 人事評価の重要性とは?
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職能資格制度・役割等級制度・職務等級制度との違い

職能資格制度・役割等級制度・職務等級制度の比較表

職能資格制度の他にも「役割等級制度」や「職務等級制度」という制度があり、名前も似ているためよく混同されることも少なくありません。

ここでは「職能資格制度」・「役割等級制度」・「職務等級制度」の違いについてわかりやすく説明していきます。

役割等級制度との違い

役割等級制度は社員の役割で等級が決まる

役割等級制度ミッショングレード制とも呼ばれます。職務区分の中で役職に応じた「役割」を設定して、等級分けを行います。

それに対して、職能資格制度は前述のように、職務遂行能力を等級分けの基準としているので、役割等級制度とは対象が異なるのです。

職能等級制度が「ヒトに仕事をつける」制度である一方で、役割等級制度は「役割にヒトをつける」制度なのです。

評価基準の明確さの違い

役割等級制度では、全社的な目標から逆算して与えられ、細かく定義されるミッションに応じて給与基準が設定されます。そのため、給与の基準が比較的明瞭かつ合理的です。

それに対して職能資格制度は、職務遂行能力で評価されるため、評価の実態は抽象的になってしまうこともあります。

役割等級制度」についてはコチラの記事をご覧ください!

職務等級制度との違い

職務等級制度は業務内容で等級が決まる

職務等級制度は、それぞれの職務ごとに仕事内容やその難易度を定義し、それに対応して等級づけを行う制度です。
すべての職務に職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)があり、遂行すべき職務が詳細に記されています。

それに対して職能資格制度は、前述のように社員の職務遂行能力に応じて等級分けを行います。つまり、職能等級制度が「ヒトに仕事をつける」制度である一方で、職務等級制度は「仕事にヒトをつける」制度なのです。

日本における普及度

産労総合研究所の人事制度調査によると、日本における職務等級制度の普及率は3つの制度のうち最も低いとあります。

これは、日本では複数人が境界なく協力して業務を行うことが多く、職務記述書に業務の範囲を定義できないことが原因として挙げられます。
一方で、職務等級制度はアメリカなど海外で多く導入されている制度であることから、グローバルに事業を展開している会社は導入している場合もあります。

それに対して職能資格制度は、3つの制度のうち日本における普及率の最も高い制度です。しかし、バブル崩壊後の業績悪化・人件費削減の流れから成果主義にシフトする企業が増え、導入率は横ばい、あるいは低下しているのが現状です。

職務等級制度」についてはコチラの記事をご覧ください!

職能資格制度の具体的な運用例

多くの企業で導入されている職能資格制度はその規模や企業風土によって様々です。本パートではその中でも共通する、あるいは一般的な事項として3点紹介します。

等級数

1つ目は等級数についてです。一般的に、新入社員は第1等級から始まります。
100人未満の企業では6~7等級、数百名規模の企業で7~9等級、1000名以上の企業で8~10等級が標準的とされています。

注意点として、等級数が多すぎると等級間の差がわかりにくくなり、少なすぎると同じ等級の社員で大きな差ができるケースがあります。
会社の規模に応じて適切な等級数を設定することが重要です。

資格要件

2つ目は資格要件についてです。各等級には、「指示を受けた通りに業務に取り組める」、「後輩に対して指導ができる」、「経営目標の達成のための適切な戦略を立てることができる」といった資格要件が設定されています。

注意点として、資格要件を具体的に設定しないと、解釈の幅が広がってしまい適切に運用されない可能性があります。

その結果、上司にとっては判断のしづらい、部下にとっては納得感の低い要件になってしまうでしょう。資格要件は具体的かつ明瞭な納得感の強い内容で構成することが重要です。

対応職位

3つめは対応職位についてです。ある程度の等級の間隔で、部長や主任といった「対応職位」が設定されます。
「対応職位」は、その職位に必ず就くというわけではなく、その職位のための能力の目安です。

また、職能資格制度の設計の上では対応職位を設定し、そこからその職位までにどのくらいの等級数が必要かということを逆算して等級数を決定するというやり方も行われています。

職能資格制度と並行して使いたい評価制度・目標制度

職能資格制度にはメリット・デメリットの両方の側面があります。その場合、評価手法を変えたり、他の制度を同時並行で導入することで、デメリットを解消することができます。
職能資格制度と相性が良いおすすめの評価制度・目標制度について説明していきます。

360度評価

360度評価は、多面評価とも呼ばれ、上司のみでなく同僚や部下、異なる部署の社員など、様々な視点から評価を行う評価手法です。
評価手法を新たに加える、もしくは変更するだけなので制度の大枠は変更せずに制度を改善することができます。

360度評価の結果を重視することで、「年齢を重ねているから」といった一視点的な評価にならず、「業務において能力が発揮できているか」、「要件に足りるような能力を備えているか」のような多視点の評価が必要な項目について適切に評価することができます。

「360度評価」について詳しくはコチラの記事をご覧ください!

コンピテンシー評価

コンピテンシー評価とは、高い成果を上げている社員の行動特性をモデルとし、それを基準に評価を行う手法です。
評価の基準サンプルがすでに出来上がっている状態なので、評価体系が作りやすいというメリットがあります。

また、コンピテンシーを基準とした相対的な評価をすることで、上司と部下間の評価に関する認識が明確になり、職能資格制度の弱点である等級と実際の能力の乖離を小さくすることができます。

「コンピテンシー評価」について詳しくはコチラの記事をご覧ください!

MBO(Management By Objectives)

MBO(Management By Objectives)は、全社的な目標から逆算して社員が自分で設定した目標を共有し、管理する手法です。
MBOでは目標を自主的に設定し、達成度やそのプロセスを評価するため、年功序列的になってしまう制度の中で社員の自主性をはぐくみ、全体として生産性を向上させることができます。

「MBO」について詳しくはコチラの記事をご覧ください!

まとめ

本記事では職能資格制度の定義、メリット・デメリット、他の制度との違い、相性の良い評価制度・目標制度について解説してきました。

職能資格制度などの等級制度は、人事制度の中では基幹ともいえる制度です。
制度の内容をしっかり理解し、適切な導入を実施すれば会社の生産性向上などに対して大きな恩恵をもたらします。
もし既存の職能資格制度の課題がある場合、解説した点をふまえつつ制度改革や部分改善を試みてはいかがでしょうか。

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