株式会社日立製作所や、富士通株式会社など、日本においてもジョブ型雇用を導入する企業がみられており、その話題性からジョブ型雇用制度の注目度がうかがえます。
株式会社リクルートの調査によると、多くの企業がジョブ型の導入をしている、または検討しているというデータがあります。
しかし、現状として導入は進んでいません。
この傾向は、ジョブ型雇用を等級制度として一端を担う職務等級制度にもいえることでしょう。
しかし、テレワーク下での評価の難しさなど、様々な背景に後押しされて、職務等級制度の導入の必要性は大きく増しています。
そもそも職務等級制度は、どのように定義され、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
本記事では、背景や他の等級制度との違い、職務分析・職務評価とはなにか、導入事例の紹介を交え解説していきます。
職務等級制度とは
職務等級制度とは、職務を基準として序列化、評価する制度であり、職務ごとの仕事に焦点を当てて評価を行います。
人事制度の基幹となる等級制度のの種類には3つあり、職務等級制度のほかに職務資格制度、役割等級制度があります。
具体的には、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)に明記された業務が審査・評価の対象となり、その評価に準じで賃金や報酬が決定されます。
職務等級制度への注目の背景
職務等級制度はどのような背景によって注目されるようになったのでしょうか。
本パートでは4つの側面に分けて解説していきます。
同一労働・同一賃金の導入
1つ目の背景は行政による同一労働・同一賃金制度の導入です。
働き方改革の施策の一環として、「同一労働・同一賃金」が定められ、それを実現できる等級制度として注目されるようになりました。
職務等級制度は仕事に基づいて等級が分けられるので、仕事に応じて賃金が払われます。
よって、同一労働・同一賃金を実現することができるのです。
一方、職能等級制度では、職務遂行能力に対して等級分けがされるため、同じ仕事をしていても能力が異なるとみなされれば等級が異なり、賃金も異なります。
日本型雇用慣行による生産性向上の限界
2つ目の背景は、経済状況における日本型雇用慣行による生産性向上の限界です。
バブル崩壊後、終身雇用や年功序列といった日本型雇用慣行を続けた結果、日本企業の国際競争力が落ちてしまいました。
職務等級制度では、各自に仕事ベースで等級分けがされ、業務の成績によって評価されるため、おのずと成果主義的になり、結果として生産性が向上します。
一方、職能等級制度では、能力分けの軸をあいまいな「能力」としてしまうために年功序列的になります。
その結果、優秀な人材が適切に評価されずに離職したり、生産性の低い年功者によって不当な人件費高騰が起きてしまうのです。
テレワークの普及
3つ目の背景はテレワークの普及です。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い急速に普及したテレワークにより、仕事を基準とする職務等級制度への注目が高まっています。
テレワークの普及によって社員間のコミュニケーションが減少した結果、業務の境界をはっきりさせる必要性が高まり、職務等級制度の導入へ結び付いたのです。
一方、職能等級制度は境界のあいまいな業務に対し、社員同士の助け合いを前提としているので、職場への通勤を前提とした業務形態では業務の境界が曖昧でも業務遂行に大きな支障は生まれませんでした。
しかし、テレワークの普及から助け合いの頻度が減り、業務遂行の取りこぼしができてしまったのです。
ITの発展による業務の複雑化
4つ目の背景はITの発展による業務の複雑化です。
ITが発展し業務の細分化・複雑化が進んだことで、職務等級制度の必要性が増加しました。
ITが発達し、既存の業務がコンピュータにとってかわられたことで、業務の細分化や新たな職種の誕生が起こり、スペシャリスト育成の必要性が高まりました。
職能等級制度は一般的にジョブローテーションを行うために多くの職種を経験するのでジェネラリストを育成できる反面、一分野に秀でたスペシャリストを育成しづらいのです。
そのような形態では細分化・複雑化する業務に対応が難しいと言えます。
職務等級制度のメリット
前述のような背景により職務等級制度は注目を集めており、その注目に値するメリットもあります。
本パートでは、職務等級制度のメリットを5つに分けて解説していきます。
給与と労働の結びつきが明確になる
1つ目のメリットは給与と労働の結びつきが明確になることです。
職務等級制度では社員が担当する業務の境界がはっきりしています。
職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)に明記された内容に沿って賃金や報酬が決定されるため、給与の労働に対する対価である側面が際立ちます。
また、担当した職務の成果によって評価が行われるので、客観性の高い評価が可能となります。
これらから、担当する職務が明確に定められており、残業の減少が見込めるので、ワークライフバランス、給与への納得度上昇が期待できます。
スペシャリストを育成しやすい
2つ目のメリットはスペシャリストの育成をしやすいということです。
メンバーシップ型雇用を採用している日本の環境においては、スペシャリストの育成は難しいといえます。
昨今ではマーケティング戦略や、ビッグデータを活用したアナリストといった専門性の高い職種の需要が高まっています。
職務等級制度では職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)に担当する職務が明記されており、担当する職務に専念することができます。
よって、社員の業務の範囲が他の制度と比べて狭く、ある分野における専門性を短期間で高めることができます。
さらに、高い専門性を持ったスペシャリストが多く存在する職場では生産性向上も期待できます。
人件費を削減できる
3つ目のメリットは人件費を削減できるということです。
業務の範囲が明確になることで、やらなくてもよい業務を行わなくて済み、残業を減らせる可能性があります。
また、日本の年功序列制度では定期昇給により人件費が高騰していきますが、職務等級制度では業務内容に変更がなければ給与は変わりません。
さらに、成果を評価対象とするため、生産性は低いが年功により給与の高い社員を減らせます。
その結果、削減した人件費を他分野への投資に用いるなど、企業の成長を加速することができます。
そして、社員も自身のスキル向上により給与アップが見込めるのでモチベーションの向上に寄与します。
優秀な人材を採用しやすい
4つ目のメリットは優秀な人材を採用しやすいということです。
採用したい人材の能力や職務内容を明確にして採用できるため、その分野において価値の高い社員を採用することができます。
新卒一括採用では採用コストを抑えられる反面、採用後の会社と社員のミスマッチが起きやすいというデメリットがあります。
職務等級制度では、採用のミスマッチの防止による離職率の低下や、優秀な人材による生産性の向上が期待できます。
評価がしやすい
5つ目のメリットは社員の評価がしやすいということです。
職務等級制度には管理職による社員への評価が他の制度と比べて明確かつ簡潔に行うことができます。
また、担当する職務における成果に対する評価が数字などで示されるので、客観的な要素によって判別することができます。
これらから、客観的な評価は社員の評価に対する納得感の上昇、管理職の負担軽減に繋がり、生産性の向上につながります。
パフォーマンスマネジメントツールCo:TEAM(コチーム)では、目標を常時計測可能にし、定期的にフィードバックを送り合うことができます。そのため、納得感のある評価をつくるうえで役立つでしょう。
職務等級制度のデメリット
前述のようなメリットがある職務等級制度ですが、他の制度と同様にデメリットも存在します。
本パートでは3つに分けて解説していきます。
人事への負担が大きい
1つ目は人事担当者への負担が大きいという点です。
職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)で詳細に職務の内容を定義するため、外部環境の変化などによって内容が変わるたびに修正しなくてはなりません。
職務の変更に応じた待遇や報酬の設定を変更の都度見直さなければならず、人事担当者のへの負担は大きいと言えます。
人事担当者への負担軽減対策として、外部コンサルタント利用が挙げられます。
また、外部のコンサルタントを通して、ノウハウを共有してもらうことも有効です。
社員の業務への柔軟性が損なわれる可能性がある
2つ目は社員の業務への柔軟性が損なわれる恐れがあるということです。
メンバーシップ型雇用ではジョブローテーションによって社員に様々な業務を経験させることができるためです。
よって、職能資格制度では急な人材不足にも対応が可能です。
しかし、職務等級制度では担当経験のある職務が限られているので対応が難しいと言えます。
また、職務の内容を厳格に定義しているので、自分の範囲外の仕事はしないという社員が出てくる可能性があります。
これらの対策としては360度評価の採用が有効です。
360度評価とは、上司だけでなく、評価対象者の同僚や部下など仕事上で関係を持つ多方面の社員が人事評価を行う制度です。
社員の行動を多面的に評価させることで、自分の範囲内でしか業務を行わないという傍若無人な態度を未然に防ぐことに繋がります。
環境変化への柔軟性が乏しい
3つ目は、環境変化への柔軟性が乏しい点です。
こちらはプレイヤー側のデメリットとして挙げられます。
職務等級制度によって採用、もしくは成長した社員は高い専門性を有することになります。
その結果、専門性の高い人材を多く抱えることになりますが、技術革新などの外部環境の変化が大きいとそれまで通用していたスキルが通用しなくなる場合があります。
それによって自身の持つスキルに価値がなくなってしまうと失業のリスクになってしまいます。
社員自身が常に外部にアンテナを張り、自身の成長に貪欲でいる必要があります。
職能資格制度・役割等級制度との違い
以上のような背景をもって注目されている職務等級制度ですが、他の等級制度とはどのような点が異なるのでしょうか。
本パートでは、代表的な3種のうちの他の2つである職能資格制度・役割等級制度との違いを、2つに分けて紹介していきます。
等級分けの対象の違い
1つめは等級分けの対象が違うということです。
職能資格制度は、職務遂行能力に対して評価がつき、等級分けがされます。
役割等級制度は、職務等級制度と職能資格制度の中間的な位置づけで、定義された役割に対して課されるミッションをベースに等級分けがされます。
日本での普及度の違い
2つ目は両制度の日本における普及度の違いです。
職能資格制度は、バブル崩壊まで一般的に導入されており、現在も最も多く導入されている制度です。
そして、役割等級制度は職能資格制度に次いで2番目導入率の高い人事制度です。
職務等級制度が普及しないのは職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)作成のハードルの高さが挙げられます。
現在は、職務の定義が比較的緩やかな役割等級制度の普及率が増加傾向にあります。
日本では「人」の能力に重きを置いた職能資格制度が普及してきましたが、職能資格制度は欧米、特にアメリカを中心に世界各国で発展した等級制度です。
日本ではチームで一丸となって成果を出すことが重要とされてきた一方で、アメリカでは個人で成果を出してく傾向が強く、評価の対象も個人の能力に焦点を当てたものが発展しました。
日本の社会で個人に焦点を当て過ぎるとチームがうまく機能せず、期待された成果が上げられない場合もあるので日本での導入には慎重を期す必要があります。
職務分析の方法
職務等級制度における重要な手続きである職務記述書を作成するうえで、必ず行われるのが、職務分析です。
また、職務分析の手法には様々あり、一般的には4つに分けられます。
本パートでは、職務分析の手法の一般的な4種類について解説していきます。
観察手法
1つ目の職務分析の方法は観察手法です。
対象となっている従業員の仕事を分析担当者が観察して分析を行います。
経験と観察力に富んだ分析者が実施することで客観的なデータの収集が可能です。
しかし、情報の収集に時間がかかってしまうデメリットもあります。
面接手法
2つ目の職務分析の方法は面接手法です。
事前にアンケートなどに答えてもらい、それを題材に面接形式で調査を実施する手法です。
情報収集に時間がかからないメリットがあります。
しかし、調査対象となる社員の主観が入ってしまうデメリットもあります。
この手法は観察手法で集めたデータとの比較をするとさらに有効な結果が得られます。
記述手法
3つ目の職務分析の方法は記述手法です。
職務を担当している従業員自身に所定の質問一覧に書き込んでもらう手法です。
面接手法と同様に時間の短縮問いメリットがありますが、職務担当者の主観が入ってしまうデメリットもあります。
記述手法もほかの手法と併用して実施されるケースが多く見られます。
体験手法
4つ目の職務分析の方法は体験手法です。
分析担当者が調査対象の社員と同じ業務を直接体験して調査を実施する手法です。
メリットとして外からでは得られない視点や実際の疲労感などより深い調査が可能です。
しかし、調査と分析に大きな労力と時間が必要になります。
職務評価の方法
職務評価とは、社員を査定する手法の一つで、社員が担当した職務を評価の対象として社内においての相対的な重要性を決める評価法です。
通常、職務分析の結果を用いて各職務のランク付けを行います。
本パートでは職務分析の手法を4つ紹介します。
序列法
1つ目は序列法です。
序列法とは、職務に序列をつけてランク付けを行う方法です。
各職務を1対1で比較していくのでシンプルな評価が可能です。
分類法
2つ目は分類法です。
分類法はいくつかの職階と言われる階層に職務を作成し、各職務を振り分けを行う手法です。
職階が設定してあるので、振り分ける際の基準が明確になります。
要素比較法
3つ目は要素比較法です。
要素比較法はあらかじめ設定された要素条件を基準に評価する手法です。
要素条件としては、知識量や経験などが用いられます。
点数法
4つ目は点数法です。
点数方は点数となる項目をいくつか設定してそれに準じて採点を付けていく方法です。
採点基準があり、数字として表れるので職務同士の評価比較がしやすいメリットがあります。
日本での職務等級制度の導入事例
以上のように職務等級制度について様々な面から解説してきましたが、実際の企業ではどのように導入・運用されているのでしょうか。
本パートでは、日本での職務等級制度の導入事例について、2社取り上げ、解説していきます。
パナソニック株式会社
家電業界の売り上げで国内1位のパナソニック株式会社(以下:パナソニック)は職務等級制度を導入しています。
パナソニックでは、人材育成に力を入れるとともに、「仕事・役割等級」として職務等級制度を導入しているのです。
この制度は、処遇の透明性と納得性を高めるとともに、新しいことへのチャレンジ目標を明確にして、失敗を恐れず果敢にチャレンジする人と組織を求める、という企業風土に合致しています。
参考:人材育成 – 人材育成・多様性 – CSR・環境 – 企業情報 – Panasonic(https://www.panasonic.com/jp/corporate/sustainability/employee/development.html)
カゴメ株式会社
トマト加工の食品や「野菜生活」で有名なカゴメ株式会社(以下:カゴメ)も職務等級制度を導入しています。
「グローバル・ジョブ・グレード」として、職務の大きさと市場価値を考慮して等級を設定し、それに応じて人事施策を行っています。
人を大切にするという基本原則のもと、グループのグローバル化に伴い全世界共通の等級制度を2014年に導入しました。
全世界の従業員が自分に合うキャリアを選択し、世界中どこにいてどんな仕事をしても公平な基準で評価されて公正な処遇をうけることを目指しています。
参考:雇用の維持と多様な働き方の尊重|カゴメ株式会社(https://www.kagome.co.jp/company/csr/employee/employment/)
まとめ
以上のように、国内で注目度・必要性が高まっている職務等級制度について解説してきました。
制度の導入には慎重を期さなければなりませんが、海外においてはメジャーな制度でもあります。
導入における課題解説方や実際の事例も多くあるので導入のハードルは超えられるものです。
この記事をきっかけに制度の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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