カッツモデルを基礎から解説!理論や人材育成における効果とは?

「戦略的な研修計画や人事評価の指標をつくりたい」

「そのために『カッツモデル』を活用したいが、十分に理解できていない」

このような人事担当者の方はいらっしゃいませんか?

本記事ではカッツモデルの基礎やメリット、活用法や注意点を解説します。9パターンに及ぶ活用例も必見です。ぜひ最後までお読みください。

▼ この記事の内容

  • カッツモデルとは: ロバート・カッツが提唱した、役職ごとに必要な能力比重を示す理論です。トップ・ミドル・ロワーの3階層で、求められるスキルのバランスが変わるのが特徴。
  • 3つの構成スキル: 業務遂行能力の「テクニカル」、対人関係の「ヒューマン」、本質を見抜く「コンセプチュアル」に分類されます。
  • 人事評価への活用: カッツモデルを元に、階層別スキルマップを作成することができます。定量・定性の両面から評価基準を明確にすることで、公平性が保たれます。
  • 研修設計のコツ: 現場で使う頻度が高いスキルを中心にプログラムを組みます。トップ層は戦略立案、ロワー層は実務スキルなど、優先順位をつけると育成効率が上がります。

カッツモデルとは

カッツモデルとは、役職ごとに求められるマネジメントスキルを示す理論です。アメリカの経営学者であるロバート・L・カッツが提唱しました。

マネジメントスキルは「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」、役職は「トップマネジメント」「ミドルマネジメント」「ロワーマネジメント」と、それぞれ3つずつに分 かれています。

下の図のように、階層ごとにスキルの比重が変わるのが特徴です。

カッツモデルを構成する3つの「スキル」

カッツモデルはマネジメントに必要な能力を、以下の3つに大別します。各スキルの具体的な内容を見ていきましょう。

  • テクニカルスキル(業務遂行能力)
  • ヒューマンスキル(対人能力)
  • コンセプチュアルスキル(概念化能力)

1.テクニカルスキル

テクニカルスキルとは業務を遂行するための専門知識や技術力を指します。高いほど労働生産性が上がる能力です。

加えて、業務の正確性が増して取引先から信頼を得られるのがポイントです。

具体的な能力は業種や職種によって異なるため、以下に例を示します。

事務ソフトウェアの操作、帳簿管理、書類作成・管理など
医療・福祉医療知識、看護・介護技術、手続きや法令の理解など
製造機械操作、工程管理、品質管理、安全管理など

このようにテクニカルスキルは、業務に直結する具体的かつ個別的な能力を指します。

2.ヒューマンスキル

ヒューマンスキルとは良好な人間関係を構築し、維持する力です。

この力を身に着けると、合意形成がスムーズになる、信頼関係が深まり協働が進む、他者のモチベーションを引き出せるなどの効果があります。

具体的には以下のような能力が挙げられます。

コミュニケーション力対面、電話、メール等で、相手に分かりやすく情報を伝えられる
傾聴力相手の話を注意深く聞き、意図や感情を理解できる
プレゼンテーション力分かりやすく印象に残る内容で、相手の合意や賛同を得られる
交渉力意見や利害のことなる相手と合意形成をできる
モチベーション管理力働きかけによって他者のやる気を引き出し、維持できる
協働力チーム内で自分の役割を果たし、他者と協力できる
リーダーシップチームや組織の目標に向かって他者を動かせる

組織内で業務を進めたり外部と取引をしたりするうえで、ヒューマンスキルは不可欠と言えます。

3.コンセプチュアルスキル

コンセプチュアルスキルとは物事を抽象的にとらえて本質をつかむ能力、すなわち概念化する力を指します。

課題の本質を見抜いて改善を図る、組織全体の相互作用を理解し調整する、業界での自社の立ち位置を俯瞰して戦略を立てる、などに有用な力です。

具体的には以下のような能力が挙げられます。

ロジカルシンキング(論理的思考)物事を因果関係や構造で理解し、筋道立てて考える
クリティカルシンキング(批判的思考)あえて疑いをもって、物事の本質を考える
ラテラルシンキング(水平思考)前提や既存の手法から離れて自由に考える
戦略的思考長期的な視点から組織や事業の方向を考え、戦略を描く
洞察力・俯瞰力物事を大きな枠組みで見て、全体の関係性や方向性を把握する
柔軟性・受容性変化や不確実性を受け入れ、新しい情報や視点を取り入れる
知的好奇心・探求心未知の分野や問題を深く探ろうとする
創造性・発想力未来や未踏の可能性を創造し、新たな構想やビジョンを生み出す

上記のように、現状を捉え、組織の方向性を見定めるために役立つのがコンセプチュアルスキルです。

カッツモデルを構成する3つの「階層」

続いては、カッツモデルで分けられている3つの階層について解説します。

  • ロワーマネジメント
  • ミドルマネジメント
  • トップマネジメント

1.ロワーマネジメント

ロワーマネジメントは下位管理層を指します。例えば、係長、主任、チームリーダー等です。役職のない一般社員でも、プロジェクトリーダーなど他の従業員をまとめる立場にあれば当てはまります。

この階層に求められるのは、上司から与えられた指示や方針を受け取り、現場で業務を実行・管理することです。

そのため、テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルの順に重要視されます。

スキルごとの要求される状況および内容は以下の通りです。

テクニカルスキル作業指導や新人トレーニングを担当することが多い。実務経験や技術、専門知識が不可欠で、ロワーマネジメントで最も重視されるスキル。
ヒューマンスキル部下の指導・育成や、意見のすり合わせ、モチベーション管理が求められる。日々の業務における信頼関係の構築が重要視される。
コンセプチュアルスキル日々の業務における課題を把握し、改善する必要がある。他の階層ほど高いレベルは求められない。

このように、プレイヤーとしての技術と管理者としての能力、両方が求められるのがロワーマネジメントです。

2.ミドルマネジメント

ミドルマネジメントとは中間管理職を指し、部長、課長、マネージャーなどが当てはまります。

この階層に求められるのは、上層部が策定した戦略・方針を具体的な実行計画に落とし込み、現場への伝達や調整を行うことです。

テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルがバランスよく求められます。

スキルごとに要求される内容は以下の通りです。

テクニカルスキル指導や業務管理をする立場として、中程度の現場に関する技術知識・業務知識が必要とされる。
ヒューマンスキル経営層と現場の間に入って、人と組織をつなぐ役割。信頼関係を築き、対話・調整・指導を行うスキルが重視される。
コンセプチュアルスキル組織の戦略を現場に落とし込み、長期的視点を持って判断・提案をすることが求められる。

このように、中長期と短期の視点を併せ持ち、トップと現場の橋渡し役を担うのがミドルマネジメントです。

3.トップマネジメント

トップマネジメントとは上位管理職を指します。具体的には、社長、会長、役員、CEO(最高経営責任者)、COO(最高執行責任者)などです。

この階層には、経営方針・戦略の決定や、市場変化やトラブルへの対応、部門横断的な調整や外部の利害関係者との関係構築が求められます。

そのため、コンセプチュアルスキル、ヒューマンスキル、テクニカルスキルの順に重要視されます。

スキルごとに要求される内容は以下の通りです。

テクニカルスキル現場業務を行うことは少ないため、基礎的な知識を備えていれば問題ない。ただし、他の階層と異なり経営に関する専門知識が求められる。
ヒューマンスキル組織文化をつくり維持する、協力会社や株主との関係を構築する、社内外に向けてビジョンを伝える、などの力が必要とされる。
コンセプチュアルスキル組織のビジョンを定義して具体的な戦略に落とし込んだり、市場環境を読み取り方向性を決めたりするうえで求められる。最も重視されるスキル。

このように、継続的に業績を上げるための戦略を描き、社内に浸透させ、実行に移すまでを行うのがトップマネジメントです。

カッツモデルを人材育成に活用するメリット

続いては、カッツモデルを人材育成に活用する利点を解説します。

取り上げるのは、以下の3つです。

  • 人事担当者が育成プログラムを設計しやすくなる
  • 管理職が評価やフィードバックをしやすくなる
  • 従業員のキャリア設計やモチベーションアップに役立つ

1.人事担当者が育成プログラムを設計しやすくなる

まず、カッツモデルを用いると「どのスキルがどれだけ重要か」が整理され、育成プログラムを設計しやすくなります。

階層ごとに「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の優先度が示されているからです。

例えば、ロワーマネジメントの育成プログラムを設計するときは、テクニカルスキルを優先します。

逆に、ロワーマネジメントにとってコンセプチュアルスキルが低いのは当然で、育成の優先順位は低いと判断できます。後回しにしても影響は少ないでしょう。

カッツモデルという指標があることで、こうした判断が容易になります。育成スキルを取捨選択し、効果的な育成プログラムを設計できるのです。

2.管理職が評価やフィードバックをしやすくなる

次に、カッツモデルは適格な評価・フィードバックをするためにも有用です。「求められる水準に対してどのスキルが足りないか」が分かるからです。長年活用されてきた信頼性のある理論を根拠とすることで、公平かつ説得力のある内容になるでしょう。

例えば「テクニカルスキルは基準以上ですが、ヒューマンスキルの『チームへの指示ができる』が不足しているため、人に積極的に依頼をするようにしましょう」といったフィードバックが考えられます。

カッツモデルを活用し、客観的かつ納得感につながる評価・フィードバックを行いましょう。

3.従業員のキャリア設計やモチベーションアップに役立つ

最後に、カッツモデルはキャリア設計やモチベーションアップに役立ちます。3つの階層に分かれているため、段階的な成長目標を立てられるのです。

例えば、若手社員は身に着けるべきスキルが膨大にある状態です。すべてを身に着けなければならないと気負うとゴールが遠すぎて、モチベーションが維持しにくくなってしまいます。

そこで、カッツモデルを活用すると、「一年目はテクニカルスキルの習得に努めよう」と目標を絞れるでしょう。さらに、「二年目は……、三年目は……」というふうに、キャリア設計が可能になります。

このように、従業員が自身の立ち位置を理解して意欲的に仕事に取り組めるようになるのです。

カッツモデルは古い?ドラッカーモデルと比較

カッツモデルと似た人材育成のフレームワークに、ドラッカーモデルがあります。経営学者のピーター・F・ドラッカーが提唱した理論をもとにつくられました。

カッツモデルは「個人のマネジメントスキルアップ」を対象にしているのに対して、ドラッカーモデルは「組織としての成果の向上」を重視しています。

ドラッカーモデルのほうが新しいものの、視点が異なるため、カッツモデルが一概に古いというわけではありません。

ドラッカーモデルは、下記の図で示されます。

カッツモデルと大きく異なるのが、ナレッジワーカー(知的労働者)が加わっていることです。ナレッジワーカーを含むすべての階層では、自ら学び続け、知識を実践につなげることが求められています。

そのためには、自律的に課題を分析して意思決定をする必要があり、コンセプチュアルスキルが欠かせません。

したがって、ドラッカーモデルでは、すべての階層でコンセプチュアルスキルが要求されています。

このように、ドラッカーモデルは、組織としての成果向上にはコンセプチュアルスキルが必要だと説明するものです。マネジメントスキルの育成を目的とするフレームワークではない点でカッツモデルと異なります。

「古い・新しい」と比べるのではなく、カッツモデルとドラッカーモデルの役割の違いを理解し、場面に合わせて活用しましょう。

カッツモデルの2大活用法

続いては、カッツモデルの内容や活用するメリットを踏まえ、具体的な施策への導入方法をご説明します。

「人事評価の指標づくり」と「研修の設計・改善」の2つに分けて見ていきましょう。

1.人事評価の指標づくり

カッツモデルは、階層に応じた人事評価の指標づくりに役立ちます。

人事評価では、「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」のうち、それぞれの階層で重要視される要素のウェイトを高くしましょう。そのスキルの向上を促すインセンティブになります。

具体的には、階層別のスキルマップをつくり、スキルの重要度に応じた重みづけをします。

階層別スキルマップをつくる

スキルマップとは、必要なスキルに対する各従業員の習熟度(スキルレベル)を一覧で可視化したものです。平均値を出すことで、各従業員だけではなく全体の傾向も表せます。

例えば、ロワーマネジメントのスキルマップとして、このようなものが考えられます。

3つのスキル分類ごとに細目を整理することで、スキルの全体像を把握しやすくなるでしょう。

スキルの重要度にウエイトをつける

次に、洗い出したスキルに重みづけをしましょう。人事評価に、階層ごとの3つのスキルの重要度を反映させるためです。

例えば、AさんとBさんが、下の表のスキルを保持しているとします。スキルレベルを点数として計算すると、2人の合計点は22点で同一です。

しかし、ロワーマネジメントに求められるテクニカルスキルを1.5倍で計算すると、変換後の数値はBさんのほうが高くなります。

このような方法で、階層ごとのスキルの重要度を評価項目に反映できるのです。

2.研修の設計・改善

2つ目のカッツモデルの活用法は、研修の設計・改善です。階層ごとに重視すべきスキルが分かるため、より効率的なプログラムを設計できます。

階層ごとのプログラムを設計する

研修プログラムの設計では、各階層で重視されているスキルを中心に据えると効果が高まります。

カッツモデルにおいて重視されているということは、その階層の現場において使う機会が多い力だからです。

例えばトップマネジメントは、定期的に市場分析を行います。そのため、市場分析に関する研修をすると、すぐに効果が表れるでしょう。一方、ロワーマネジメントに市場分析の方法を教えた場合はどうでしょうか。日々の業務で市場分析をする機会はほとんどありません。よって、効果がでないことはもちろん、習った内容を忘れやすくなります。

このように、階層ごとに優先度の高いスキルに合わせて研修を最適化すると、効率的な人材育成につながります。

人事評価の結果を研修に反映させる

人事評価の結果から階層ごとの優先課題を把握するためにも、カッツモデルが役立ちます。不足スキルのなかで、どのスキルを向上させるべきかが分かるからです。

具体例として、トップマネジメント候補の従業員を育成する場合を考えてみましょう。

人事評価で明らかになった不足スキルが「リスク管理・コンプライアンス」「組織文化形成・ビジョン共有」「経営戦略の策定」のとき、どのスキルを伸ばすことが優先課題でしょうか。

カッツモデルにあてはめると、コンセプチュアルスキルである「経営戦略の策定」を優先的に研修するべきと考えられます。

このように、人事評価の結果から優先課題を抽出して研修に生かすうえでも、カッツモデルを活用できるのです。

カッツモデル活用の注意点

カッツモデルは人事評価や人材育成に役立ちますが、活用するうえで注意すべき点も存在します。以下の3つが重要なポイントです。

  • 既存の枠組みに捉われずカスタマイズする
  • 定量的・定性的評価を組み合わせる
  • 測定基準を明確にする

1.既存の枠組みに捉われずカスタマイズする

カッツモデルは業種や社会の変化に応じてカスタマイズをする必要があります。

さまざまな状況に活用できるように一般化した考え方のため、自社の状況に合っているとは限りません。

例えば、IT企業のトップマネジメントが開発戦略の方向性を判断するためには、ソフトウェアやシステムの技術的知識が求められるでしょう。

さらに、今はVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代です。従業員全体の主体性を上げ、迅速な企業活動を行う必要があります。したがって、ドラッカーモデルで述べられているように、あらゆる従業員に自律性が求められます。

カッツモデルを基礎としながらも、注目すべきスキルを見極めて人材育成施策を行いましょう。

2.定量的・定性的評価を組み合わせる

定量的評価と定性的評価は組み合わせるのがオススメです。

スキルは定量的に表せるものとそうでないものがあります。また、評価を実施する目的によっても、定量的評価と定性的評価のどちらが適しているかが変わります。

各スキルの評価指標例としては、以下のようなものが挙げられるでしょう。

テクニカルスキル定量的:資格取得の有無・スコア、業務処理件数や達成率
定性的:新しい技術への学習意欲や適応力、専門知識の説明の分かりやすさ
ヒューマンスキル定量的:部下の離職率やチーム定着率、教育担当件数
定性的:フィードバックの質、部下や同僚との信頼関係
コンセプチュアルスキル定量的:業務改善提案の件数・実施率、戦略的意思決定による売り上げ改善やコスト削減
定性的:部門横断的な調整力、リスクや弊害を踏まえた判断

スキルの要件や評価目的に応じて、定量的・定性的評価のバランスを取ることが大切です。

3.測定基準を明確にする

カッツモデルに即して従業員のスキルを測る際は、評価基準を明確にすることが大切です。曖昧では信頼性が下がり、モチベーション低下を招いてしまいます。

例えば数値で表せない定性的評価は、測定基準が曖昧になりやすいという特徴があります。対応策として挙げられる例は、以下の通りです。

行動指標を設定するコミュニケーション力を「相手の話をさえぎらずに要約して返している」「結論→理由→詳細の順で伝えている」などの指標から判断する
行動レベルを設定するリーダーシップを「レベル1:他メンバーと連携してタスクを進める」「レベル2:チームの課題を発見し改善策を提案する」「レベル3:メンバーに役割を割り振り、成果に責任を負う」などと段階的指標で判断する
評価者を複数にする上司・同僚・部下と複数の視点を用いる360度評価を行う

カッツモデルによる人材育成施策に納得感を持って取り組んでもらうために、測定基準を明確にしていきましょう。

「階層×スキル」全9パターン!人材育成への活用例

最後に「階層×スキル」全9パターンについて、スキルアップの方策をまとめます。

トップマネジメント層の育成方針

トップマネジメント層は、組織全体を俯瞰し、戦略を立案して意思決定をする役割を担います。さらに、周囲を巻き込んで、決定した方向へ組織を動かすことも必要です。

これを踏まえ、テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルの育成アプローチ例をご紹介します。

トップマネジメント×テクニカルスキル

トップマネジメント層にとって、テクニカルスキルは重要視されません。現場の専門技術・手順を自ら詳細に運用する機会が少ないからです。

したがって、かけるリソースは必要最低限にして、ヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルの育成に力をいれましょう。

以下がスキル習得方法の例です。

  • 外部専門家との定期的な1on1ブリーフィングで業界動向を学ぶ
  • 現場視察のルーティン化で最新テクノロジーを理解する
  • 専門書・レポート購読を業務として設定する

トップマネジメント×ヒューマンスキル

トップマネジメント層には、組織の価値観やビジョンを周知し、組織メンバーや外部関係者を巻き込む力が不可欠です。信頼構築力、対話力、交渉・調整力などを育成しましょう。

以下がスキル習得方法の例です。

研修を行うというより、ヒューマンスキルが必要な施策を実践するなかで学んでいくと良いでしょう。

  • 部下や役員、顧客へのヒアリングを行い信頼関係を構築する
  • 経営者同士の学習会を開き、リーダーシップを学ぶ
  • 社外役員・外部団体との交流機会を創出して信頼関係を築くとともに、交渉力を養う
  • タウンホールミーティング(全社ミーティング)を定期開催して、メッセージを発信したり傾聴をしたりする

トップマネジメント×コンセプチュアルスキル

トップマネジメント層は、多くの情報や関係者の意見に囲まれます。

それらを抽象化・整理して、課題解決や成長戦略の立案をするためには、高いコンセプチュアルスキルが必要です。

以下が具体的な育成方法例です。

  • 新規事業のリードや、複数事業の横断マネジメントを経験させる
  • シナリオプランニング(未来予測)の研修をする
  • 経営チームによる経営戦略合宿を開く
  • 他業界の経営者とのラウンドテーブル(円卓を囲んだ自由な意見交換)で視野を拡大する

ミドルマネジメント層の育成方針

ミドルマネジメント層は、トップの戦略を現場に落とし込み、部門やチームの調整・運営を行う役割を担います。

したがって、経営陣と現場の橋渡しをするヒューマンスキルを軸としつつ、戦略を理解するためのコンセプチュアルスキル、現場を理解するためのテクニカルスキルがバランス良く求められるのです。

これを踏まえ、テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルの育成施策例をご紹介します。

ミドルマネジメント×テクニカルスキル

ミドルマネジメント層は業務フローを改善をするために、標準化や部下への指導を行う必要があります。そのためには、一定のテクニカルスキルが求められるでしょう。

以下が具体的な育成内容例です。

  • 社内でナレッジ(知識・知見)を共有する役割を担当させる
  • 業務プロセス改善のためのフレームワーク講座を開く
  • 自部署の専門分野における中難易度の資格取得を支援する

ミドルマネジメント×ヒューマンスキル

ミドルマネジメント層は部下や上司、他部門と信頼関係を築き、組織目標を推進する役割です。したがって、他の階層に比べてヒューマンスキルの重要度が高くなります。

傾聴力・対話力・巻き込み力を育成すると効果的でしょう。

以下がスキル獲得のための施策例です。

  • 優秀マネジャーの会議を見学してファシリテーション技術を盗む
  • 1on1やコーチング、メンタリングの手法に関する研修をする
  • 対立解消(コンフリクトマネジメント)の手法に関する研修をする
  • 部下・同僚・上司からの360度フィードバックを受けて行動改善を図る

ミドルマネジメント×コンセプチュアルスキル

ミドルマネジメント層には、トップの戦略を現場に落とし込むためにコンセプチュアルスキルが求められます。例えば、構造化思考能力や戦略的視点などです。

具体的な育成内容例としては、以下が挙げられます。

  • 経営会議へのオブザーバー参加をさせる
  • 事業横断プロジェクトのリーダー経験を担当させる
  • 経営戦略を部門戦略へ分解する機会を設ける
  • 問題解決フレームワークを研修で学ぶ

ロワーマネジメント層の育成方針

ロワーマネジメント層は、現場の業務を管理し、日常業務を円滑に遂行する役割を担います。

これを踏まえ、テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルの育成施策例をご紹介します。

ロワーマネジメント×テクニカルスキル

ミドルマネジメント層は現場で起こる細かな課題に対処し、業務品質を維持・向上する必要があります。よって、専門知識や業務改善力、マニュアル化能力を身に着けると良いでしょう。

以下が具体的な育成内容例です。

  • 改善(カイゼン)提案制度に月1件提出してもらう
  • 工程見直しのミニプロジェクト担当者に任命
  • 現場での品質チェックリストやマニュアルの作成を任せる
  • 品質管理・安全管理に関する資格取得を支援する

ロワーマネジメント×ヒューマンスキル

ロワーマネジメント層は、部下やメンバーとの日常的なやり取りや指導を通じて現場を動かす立場であるため、ヒューマンスキルは必須です。

フィードバックやチームビルディングをする力を伸ばしましょう。

以下が具体的な育成内容例です。

  • ロールプレイ中心のOJTで指示出しや注意の仕方を練習する
  • 小規模チームのリーダー経験を段階的に増やす
  • 現場トラブルを“学びの機会”として振り返るミーティングをする
  • モチベーション管理やチーム内コミュニケーションの研修を実施する

ロワーマネジメント×コンセプチュアルスキル

ロワーマネジメント層でも、最低限のコンセプチュアルスキルは必要です。日常業務で発生する問題を抽象化して根本原因を探るために役立ちます。

課題の構造化や論点整理の基本を学ぶと良いでしょう。

以下が具体的な育成内容例です。

  • 小さな改善プロジェクトの企画を任せる
  • “なぜなぜ分析”の提出を習慣化する
  • 現場課題をマネジャーへプレゼンする機会を設ける
  • 目的思考・優先順位付けの研修を行う

よくあるご質問(FAQ)

Q1:カッツモデルとドラッカーモデルの違いは何ですか?

A:目的と対象範囲が異なります。 カッツモデルは「個人のスキル比重」を重視して階層を分けますが、ドラッカーモデルは「組織の成果」を主眼に置きます。そのため、ドラッカーは全階層に知識の実践(コンセプチュアルスキル)を求めている点が特徴です。

Q2:人事評価に取り入れる際の具体的な手順を教えてください。

A:まずは「階層別スキルマップ」を作成しましょう。 必要な能力を洗い出して可視化した後、役職ごとに重視するスキルへ「重みづけ(ウエイト)」を行います。その比重を評価点数に換算・反映させるのが、最も基本的で効果的なやり方です。

Q3:カッツモデルは現代では古い理論なのでしょうか?

A:古いわけではありませんが、カスタマイズは必要です。 現代は変化が激しい「VUCA」の時代です。従来の枠組みに加え、現場社員にも自律的な思考(コンセプチュアルスキル)が求められるなど、自社の状況や職種に合わせて柔軟に調整しましょう。

Q4:数値化しにくい「対人能力」などはどう評価すべきですか?

A:行動指標(コンピテンシー)を具体的に設定しましょう。 例えば「相手の話を要約して返せているか」など、具体的な行動レベルに落とし込むことが大切です。上司だけでなく同僚や部下も評価に加わる「360度評価」を取り入れるのもおすすめです。

Q5:研修計画を立てても、現場で効果が出ないことがあります。

A:現場での「使用頻度」に合わせて研修を設計しましょう。 カッツモデルを活用し、その階層で最も優先度が高いスキルを特定してください。例えばロワー層に高度な戦略論を説くよりも、明日の実務に使える技術を教えるほうが定着しやすくなります。

まとめ

本記事では、カッツモデルの概要から活用方法までを網羅的にご紹介しました。日々の管理職育成の場面で、ぜひご活用ください。

さらに、スキルマネジメントや研修設計、人事評価へ応用する場合は、下記の記事も参考にしていただくと理解が深まります。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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