「従業員のスキルを可視化して、育成計画に役立てたい」
「誰にどんな業務を任せればいいか、判断基準が曖昧だ」
組織の拡大や人材不足に伴い、このような課題を解決するために「スキルマップ(力量管理表)」の作成を検討する企業が増えています。
スキルマップを正しく作成・運用することは、人材育成や評価の公平性を実現する有効な手段となります。しかし、作り方を間違えると「現場の実態と合わない」「更新が面倒で形骸化する」といった事態に陥りかねません。
本記事では、初めての方でも迷わず作成できるよう、スキルマップの作り方を4つのステップで具体的に解説します。また、一般的なスキルマップ運用で陥りがちな課題と、それを解決して「成果が出る人材」を育成するための手法についても紹介します。
組織の成長を加速させるためのツールとして、ぜひ本記事の内容をご活用ください。
>>無料で『本当に効果が出るスキルマップの作り方・運用方法』をダウンロードする(職種 / 業種別のテンプレート公開中)
▼ この記事の内容
- スキルマップ作成のコツ:業務フロー(仕事の流れ)に沿って洗い出すのがポイントです。抜け漏れを防ぎ、実務で使える標準化されたマップが完成します。
- 運用の課題:一般的な手法では、「スキルはあるが成果が出ない」「評価が上司の主観でバラつく」「具体的な育成方法が分からない」といった壁に直面しがちです。
- 解決の秘訣:成果が出ない時は、評価軸を「行動プロセス」に変えた「スキルプロセスマップ」の導入が有効です。作成後は1on1で活用し、現場での定着と成長支援を図りましょう。
目次
スキルマップの定義と目的
スキルマップ(Skills Matrix)とは、業務の遂行に必要なスキル項目を洗い出し、従業員一人ひとりの習熟度(スキルレベル)を一覧表として可視化したツールです。製造業におけるISO認証取得のための「力量管理表」としても広く知られています。
スキルマップを作成する本質的な目的は、単なる能力管理ではなく、「人材育成」を促進することにあります。「現状のスキル」と「あるべき姿(目標)」のギャップを明確にすることで、誰にどのような教育が必要かが可視化され、効果的な育成計画を立てられるようになるからです。
また、組織全体のスキル保有状況を把握することで、戦略的な人員配置や採用計画の立案といった「組織力強化」にも直結します。
スキルマップ導入のメリット
スキルマップを導入することには、主に以下のようなメリットがあります。
- スキルの可視化:誰が何を得意としているかが一目で分かり、属人化を防げます。
- 育成計画の標準化:個人の感覚ではなく、客観的なデータに基づいた指導が可能になります。
- 評価の公平性向上:明確な基準に基づいてスキルを評価するため、評価者によるバラつきを抑制できます。
- 人材配置の最適化:プロジェクトに必要なスキルを持つ人材を、迅速かつ適切にアサインできます。
スキルマップの作り方
ここからは、実務で使えるスキルマップの作り方を4つのステップで解説します。今回は、汎用性が高くイメージしやすい「営業職」をモデルケースとして進めていきます。
STEP1:スキルマップを作る目的と職種を明確にする
Excelなどのツールで項目を作成する前に、まずは運用の「設計図」を描くことが重要です。その上で、目的と対象範囲を明確にします。この設計図が曖昧なままだと、作成しても現場で活用されない「形骸化したマップ」になりやすいからです。
具体的には、以下の3点を事前に決定します。
- 対象職種はどこか?(全社一律ではなく、営業、エンジニア、事務など職種ごとに作成します)
- 誰が作成・管理するか?(人事部主導か、現場マネージャー主導か)
- 誰のために作るか?(評価のためか、育成のためか、配置のためか)
最初から全社展開を目指すと失敗のリスクが高まります。「まずは営業部の新人育成のために、インサイドセールスチームから導入する」といったように、目的を絞ってスモールステップで始めるのが成功の秘訣です。
STEP2:業務フローからスキル項目を洗い出し、分類する
次に、対象職種の具体的なスキル項目を洗い出します。
ここでは、思いつきでスキルを挙げるのではなく、必ず「業務フロー(仕事の流れ)」に沿って洗い出すことが重要です。業務プロセスに沿って分解することで、必要なスキルの抜け漏れを防ぎ、実務に即したマップが完成するからです。
具体例:営業職の業務フローとスキル項目
営業職の場合、以下のようにプロセスごとに必要なスキルを分解していきます。
| 業務プロセス | スキル項目の例 |
|---|---|
| 事前準備 | ターゲットリスト作成、企業調査、仮説構築 |
| アプローチ | テレアポ、メール作成、日程調整 |
| 商談・ヒアリング | ラポール形成、課題ヒアリング、BANT情報の確認 |
| 契約・フォロー | 契約書締結、納品管理、顧客フォロー |
| 基礎能力 | 商品知識、業界知識、ビジネスマナー |
このように分類することで、「この社員はアプローチは得意だが、クロージングが苦手」といった具体的な課題が見えやすくなり、的確な指導が可能になります。
STEP3:評価基準を設定する
スキル項目が決まったら、それぞれの習熟度を測る「評価基準」を設定します。評価基準として、3段階(○△×)や5段階(5~1)の評価も一般的ですが、ここでは、「4段階評価」を標準として推奨します。
というのも、奇数段階(3や5)では、評価者が無難な「真ん中(普通)」を選びがちです。4段階にすることで、「できている(上位)」か「できていない(下位)」かの判断を明確に促せます。
また、以下の定義のように、人材が成長するステップ(知識→補助あり実践→自立→指導)と綺麗に対応します。
4段階レベル定義の具体例
| レベル | 名称 | 定義(判定基準) |
|---|---|---|
| 4 | 指導レベル | 業務を完璧に遂行でき、他者への指導や業務改善の提案ができる。 |
| 3 | 自立レベル | 指導やサポートなしで、一人で業務を完遂できる。 |
| 2 | 補助レベル | 上司や先輩のサポートがあれば、定型業務を実行できる。 |
| 1 | 未習得レベル | 関連知識はあるが実務経験がない、または実施できない。 |
注意点として、定義を文章化しても解釈が割れることがあります。「何をもって『完遂』とするか」の判断が上司によって異なるためです。可能な限り、「〇〇の資料を一人で作成し、承認を得られる」など具体的な行動で補足すると良いでしょう。
なお、より簡易的な2段階評価や、細密な5段階評価を検討したい方は、以下の記事で各段階のメリット・デメリットを詳しく解説しています。
STEP4:Excelなどでフォーマットを作成する
項目と基準が決まったら、フォーマット(表)に落とし込みます。一覧性を高め、更新しやすい状態にすることで、形骸化を防ぐためです。
一般的には、縦軸に従業員名、横軸にスキル項目(大項目・小項目)を配置し、交差するセルに評価レベル(1~4)を入力する形式を作成します。
自社での作成が難しい場合は、厚生労働省が公開している「職業能力評価シート」を活用することも一つの方法です。自社向けにカスタマイズすることで効率的に作成できます。
参考:キャリアマップ、職業能力評価シート及び導入・活用マニュアルのダウンロード|厚生労働省
スキルマップが持つ3つの課題
ここまで一般的なスキルマップの作り方を解説してきました。しかし、実際に多くの企業で運用してみると、「作ったけれど効果が出ない」「形骸化してしまった」という声が後を絶ちません。
なぜなら、一般的な手法(能力評価)には、運用を阻害する次のような課題が存在するからです。
- スキルを獲得しても成果につながらない
- 評価基準が不明瞭である
- スキル獲得の具体的な方法が分からない
課題1:スキルを獲得しても成果につながらない
1つ目の課題は、マップ上の評価が高くても、実際のビジネス成果に直結しないことです。
一般的なマップは、「知識がある」「経験がある」といった「保有能力」を評価しがちですが、能力があることと成果が出せることはイコールではありません。
例えば、営業職で「豊富な商品知識(レベル4)」があっても、顧客の前で適切な提案ができなければ受注には繋がりません。「スキル(知識)」と「成果(売上)」の間には距離があるため、能力評価だけでは業績向上に貢献しにくいのです。
課題2:評価基準が不明瞭である
2つ目の課題は、評価基準の解釈が評価者によってブレてしまうことです。
先ほど「4段階評価」を推奨しましたが、それでも「一人で完遂できる(レベル3)」という言葉の定義は、上司の主観に委ねられます。
A課長は「一度でもできればOK」とし、B課長は「常に完璧でないとNG」とする場合、評価の公平性は保てません。その結果、従業員は評価結果に納得できず、モチベーションの低下や不信感を招く恐れがあります。
課題3:スキル獲得の具体的な方法が分からない
3つ目の課題は、評価後の「育成」に関する具体的な方法が示されないことです。これが現場にとって最大の悩みとなります。
スキルマップで「クロージング力が不足(レベル1)」と判定されたとしても、マップ上には「どうすればレベル2になれるのか?」という具体的な方法までは書かれていません。
育成方法が上司個人の力量任せになってしまうため、適切な指導ができず、結局は評価をつけるだけのツールになってしまうのです。
上記の課題を解決する「スキルプロセスマップ」とは

上述した、一般的なスキルマップが持つ3つの課題を根本から解決するために開発されたのが「スキルプロセスマップ」です。
一般的なスキルマップとスキルプロセスマップの違い
スキルプロセスマップの最大の特徴は、一般的な「能力」ではなく、成果に直結する「行動プロセス」を評価基準にする点です。
スキルプロセスマップは、「知識や能力を持っているか」ではなく「具体的な行動ができているか」を可視化します。成果が出る行動そのものを評価対象とするため、「マップの点数が上がれば、必然的に成果も上がる」という状態を作ることができるのです。
スキルプロセスマップの作り方
では、成果に直結するマップは具体的にどう作成するのか、その独自の手順を紹介します。
STEP 1:ハイパフォーマーが実践している行動を特定する
まず、社内で高い成果を出している従業員(ハイパフォーマー)を分析し、「成果に結びつく行動」を特定します。一般的なマニュアルには載っていない、成果に直結する「暗黙知(コツや工夫)」を可視化する必要があるからです。
例(営業): 一般的な営業マンは「元気に挨拶する」だけだが、ハイパフォーマーは「挨拶の直後に、前回のアイスブレイクの内容を再確認している」など。
この「成果を生む1つ1つの行動」こそが、習得すべき真のスキル項目になります。
STEP 2:特定した行動プロセスを評価基準に落とし込む
次に、特定した行動をそのまま評価基準にします。
「クロージング力がある」といった抽象的な言葉ではなく、「クロージング時に、懸念点を3つ以上ヒアリングし、解消できている」といった具体的な行動レベルまで落とし込みます。
これにより、評価基準から曖昧さが排除され、誰が見ても「できている/できていない」が明確に判断できるようになります。
スキルプロセスマップの効果的な運用方法
スキルプロセスマップは、作って終わりではありません。日々の育成サイクルに組み込むことで真価を発揮します。
1on1ミーティングでスキル獲得状況を振り返る
現場の運用で最も推奨されるのが、定期的な「1on1ミーティング」での活用です。
上司と部下がマップを一緒に見ながら、「今週はこの行動プロセス(例:懸念点のヒアリング)を意識してやってみよう」と目標を決めます。そして次回の1on1で「実際にやってみてどうだったか?」を振り返ります。
評価基準が具体的な「行動」になっているため、上司は的確なフィードバックができ、部下も何をすればいいか迷いません。これを繰り返すことが、最も確実なOJT(On the Job Training)となります。
経営・人事部門でスキルの獲得状況を分析する
人事部門や経営層は、このマップを通じて組織全体の「行動変容」をモニタリングします。
「今月は営業部全体で『ヒアリング』の行動定着率が上がった。その結果、成約率が〇%向上した」といった具合に、人材育成の施策とビジネス成果の相関を分析できるようになります。
スキルプロセスマップについて詳しく知りたい方へ
「スキルプロセスマップの具体的なテンプレートを見てみたい」
そのように思われた方のために、職種別のスキルプロセスマップのテンプレートをご用意しました。一般的なスキルマップでは解決できなかった「育成の悩み」を持つ方は、ぜひ以下よりダウンロードしてご覧ください。
>>無料で『本当に効果が出るスキルマップの作り方・運用方法』をダウンロードする(職種 / 業種別のテンプレート公開中)
よくあるご質問(FAQ)
Q1. スキルマップを導入する一番のメリットは何ですか?
A: 最大のメリットは「人材育成の効率化」です。 個人のスキルと目標のギャップが可視化されるため、上司の感覚ではなく、客観的なデータに基づいた的確な指導ができるようになります。また、業務の「属人化」を防ぐ効果もあります。
Q2. スキル項目はどのように洗い出せばいいですか?
A: まずは「業務フロー(仕事の流れ)」を書き出すことから始めましょう。 思いつきでスキル名を挙げるのではなく、業務のプロセス順に必要な能力を分解していくことで、現場の実態に即した抜け漏れのないマップが作れます。
Q3. 評価基準は何段階に設定するのがおすすめですか?
A: シンプルで判断しやすい「4段階評価」を推奨しています。 3段階や5段階に比べて「真ん中(普通)」を選べない構造になっているため、「できている(上位)」か「できていない(下位)」かの判定が明確になり、運用が楽になります。
Q4. 作成したマップが現場で使われない(形骸化)対策は?
A: 定期的な「1on1ミーティング」で活用するのが効果的です。 評価の時だけ見るのではなく、上司と部下が一緒にマップを見ながら「今週の目標」を決め、振り返りを行うことで、日常業務の中に定着させることができます。
Q5. スキルマップの評価が高くても、実際の成果に繋がらない場合は?
A: 評価基準を「知識の有無」から「成果に繋がる行動プロセス」に切り替えましょう。 単なる知識量ではなく、ハイパフォーマー(高業績者)が実践している「具体的な行動」を基準にすることで、評価の向上とビジネス成果が連動するようになります。
まとめ
本記事では、スキルマップの基本的な作り方から、運用で陥りやすい課題、そして解決策としての「スキルプロセスマップ」について解説しました。
スキルマップは、企業の成長エンジンである「人」を育てるための重要な基盤です。ぜひ本記事を参考に、自社に最適なマップを作成し、運用を始めてみてください。
お役立ち情報
-
全170P超の目標マネジメントパーフェクトガイド近年増えている目標マネジメントへの不安を解消するあらゆる手法やマインドなど目標管理の全てが詰まっている資料になっています。
-
【170P超のマネージャー研修資料を大公開!】マネジメントと1on1って何ですか?「これさえ実践すれば間違いないという具体的なHOW」に焦点をあてて、マネジメントや1on1を実践できる内容となっています。
-
【全260スライド超】メンバーの成長・マネジメントを最適化させるプロが実践する1on1パーフェクトガイド組織開発・1on1 ・評価の設計運用で 100 社以上の企業に伴走してきた弊社の知見をもとに作成したガイド資料になります。







