飲食店の目標設定を行うときは、現場の店長やスタッフがより主体的に取り組むことができるような目標にしなければならず、且つ現場への目標の伝え方も非常に重要になってきます。
本記事では、飲食店のおいて目標設定がどのような意味を持つのかという説明から始まり、目標設定をする際のコツや、目標設定を通した本部と店長あるいは店長とスタッフの関わり方についても併せて解説していきます。
本記事は目標設定を行う本部と店長に向けた記事ではありますが、目標設定をする意味や実際のプロセスを知っていただくことができるため、飲食店のスタッフやアルバイトとして勤務されている方にも是非読んでいただきたい内容となっています。
飲食店で目標設定が大切な理由
最初に、飲食店で目標設定が大切な3つの理由について解説していきます。
・組織全体の接客力を向上、維持するため
・臨機応変に対応できる接客を行うため
・従業員のモチベーションを保つため
組織全体の接客力を向上、維持するため
目標設定をすることで、組織全体の接客力を向上、維持することができます。
目標設定をすることで組織全体で目指すべき接客の理想形が明確になり、従業員全員が同じ方向に向かって接客力を高めようというモチベーションを持つことができます。
また、目標を従業員に周知することで、お客様目線で接客を考えられるようになるため、年齢やスキルや経歴といった異なるバックグラウンドを持つ従業員であっても、個々の感覚に頼らずに一貫したクオリティの接客を提供できるようになります。
このようにして組織全体で接客を一貫して高品質に保つことで、誰か一人の不適切な接客が会社や店舗全体のイメージを損なうリスクを減らすことにも繋がります。
臨機応変に対応できる接客を行うため
目標設定をすることで、臨機応変に対応できる接客を行うことができます。マニュアルにないような状況に直面しても、目標があることで従業員はその場に応じて目標に沿った最適解を見つけることができます。
また、お客様は十人十色であり、時と場合によって「心地よい」と感じる接客は異なりますが、目標があれば、従業員は状況に応じた柔軟な対応が可能になります。
これにより、画一的なマニュアル対応では満足できないようなお客様にも、適切にサービスを提供できるようになります。
従業員のモチベーションを保つため
目標設定をすることで、従業員のモチベーションを保つことができます。
目標設定をすることで従業員は自分の取り組むべき方向性が明確になるため、接客の見直しや改善点の特定がしやすくなります。また、目標達成に向けての着実な進捗を実感できることで接客力向上へのモチベーションが生まれ、目標達成に向けて継続的な努力ができるようになります。
加えて、接客のモチベーションは従業員によっても様々であるため、中には「ある程度の接客ができていればOK」と考える従業員がいるかもしれません。そのような従業員に対しても、目標設定は「理想の接客」や「接客力向上」を常に意識させ続けることになるため、向上心やモチベーションを持たせる効果を発揮します。
飲食店の目標設定をする手順
実際に飲食店の目標設定をする時の手順を説明していきます。
・店舗の現状の分析
・今後のビジョンを描く
・細分化して考えて目標設定をする
店舗の現状の分析
目標設定を行うには、まずは店舗の現状を正しく理解しておく必要があります。
「なんとなくこんな傾向がある」や「~のようなことが多い」といったアバウトな分析でも、あまり具体性を持たない目標であれば問題なく設定することができますが、より踏み込んで現状の改善を図ることできるような具体的な目標については、より詳細且つ定量的な分析が必要になります。
売上、客単価、客数、利益率、商品別売上個数といった現状のデータを使用して分析することで、お店の売上推移や人気傾向といったトレンドや、自社の強み/弱みを「見える化」させることができます。
例を挙げると、顧客による購入傾向や併売商品などを特定できるバスケット分析や、顧客の最終購入日・購入頻度・購入金額という3つの要素を元に顧客をカテゴライズ化してそれぞれに有効なマーケティング戦略をたてる「RFM分析」といった分析手法が有効です。
また、目標設定や戦略立案には定量的分析が適していることは事実ですが、このような分析は時間や手間に加えてある程度のレベルの知識を要するため、なかなか実践することが難しいかもしれません。そのような場合は、特別に数字を扱う知識がなくても簡単に行うことができる分析手法を使ってみるのがおすすめです。
代表的なもので言うと、内部要因(自社)と外部要因(市場)それぞれにおける現状のプラス/マイナス要素を整理し、自社の強み/弱みや市場機会などを導出する「SWOT分析」や、主力商品・準主力商品・死に筋商品と売り上げのトレンドによって3つにプルーピングし、それぞれに合った商品管理を行う「ABC分析」などが有名です。
今後のビジョンを描く
今後のビジョンを描くことで、大まかな目標設定の方針が見えてきます。
今後店舗や会社をどのように成長させていきたいか、あるいはどのような存在になりたいかといったような「目指すべきビジョン」を描いて従業員間で共有することで、一体感を持って日々の業務に取り組むことができます。
また、一般的に目標設定というのは会社のミッション・ビジョン・バリューや経営理論を加味して行われますが、飲食店において経営理念などがない場合にはこのビジョンが代替として機能します。
具体的な目標設定の軸となる部分ですので、店舗側だけでなく、目標設定の主役となる従業員のことも考えたビジョンを設定しましょう。
細分化して考えて目標設定をする
お店のビジョンに沿って、より詳細且つ具体的な目標設定を行ってみましょう。
実際に設定された目標を指針に日々の業務を行うことになるため、抽象的な目標は避け、業務に取り組みながら進めることができるような具体的な目標を設定してみましょう。
また、目標が来客数や売り上げの達成目標だった場合、曜日や天候といった条件によっては数字が非常にブレやすくなるため、達成の見通しが立てにくいというデメリットがあります。
そのため、そのような目標を設定する場合は、来客数や売り上げといった諸条件を想定した上でそれぞれ別の目標数値を設定すれば、目標達成の実現可能性を高めることができます。
本部側から各店長に目標設定を伝える方法
実際に目標設定をする際の、本部側と店長との関わり方について説明していきます。
1.目標設定の根拠を伝える
2.今後のビジョンと連動させながら伝え
3.お店の方針を一緒に考える
1.目標設定の根拠を伝える
目標設定の根拠は必ず伝えるようにしましょう。
目標を伝える際にはデータを示したり体系的なプロセスを説明するなど、説得力のある根拠を提示するようにしましょう。これにより、「なぜ、どのように設定されたのか」という目標への理解が深まるため、納得感をもって目標を受け入れやすくなります。
また、具体的且つ定量的な根拠があれば、目標が適切で公平だと認識できるため不公平感も生じにくくなります。
多店舗経営では店舗ごとに目標が異なるのが一般的ですが、目標の内容によっては、根拠があいまいだと「自店だけ高い目標を押し付けられているのでは」という疑いを感じてしまうこともあるかもしれません。
しかし明確なデータに基づく説明があれば、店長は自店の目標設定を合理的に受け止められますし、きちんとデータによって実現可能性が担保された目標として達成のためのモチベーションを持ちやすくなります。
目標設定に際して明確な根拠を示すことで、本部と店長の間に一体感が生まれます。
この一体感はスタッフ全体のモチベーションをも高め、目標達成へのモチベーションを引き出す効果があり、結果として店舗全体のパフォーマンス向上につながるでしょう。
2.今後のビジョンと連動させながら伝える
次に、目標設定は今後のビジョンと連動させながら伝えましょう。
目標設定を今後のビジョンと結びつけて伝えると、店長の目標への理解とモチベーションが高まります。今後店舗が目指すべき姿であるビジョンと目標がつながることで、目標は単なる数字合わせではなく、将来のビジョンの到達に向けたステップとして捉えることができます。
これにより、たとえ目標が少々高めに設定されている場合でも、その背伸びの理由をビジョンのためのステップであるという部分に求めることができます。
また、ビジョンを伝える際は売上や利益だけでなく、社員やアルバイトなどのスタッフの理解についてもケアを欠かさないことが大切です。
必ずしも目標を遵守しなければならない理由やリスクを持たないのがアルバイトを始めとする現場のスタッフですが、店舗の今後のビジョンを伝えて「一員として一緒に店を作っていく」という意識のもと店へのエンゲージメントや目標への共感を引き出すことができれば、結果として目標達成への無関心や抵抗感を減らし、モチベーションをもって取り組んでもらうことが可能になります。
3.お店の方針を一緒に考える
最後に、目標設定をただ伝えるだけではなく、お店の方針を一緒に考えるようにしましょう。
目標設定を伝える際に店長と一緒にお店の方針を考えると、店長の主体性とモチベーションを向上され、目標達成に向けた積極的な取り組みが期待できます。
本部と共同で方針を決めることで、店長は自分の意見が尊重されていると感じ、本部と店長の間に信頼関係と一体感が生まれることで、目標達成への責任感とやる気が生じやすくなるためです。
また、店長は現場の状況やスタッフの特徴を最もよく知っており、その知識を方針に反映させることで、より効果的な目標達成への戦略が立てられます。
本部と現場で一緒に方針を考えるというプロセスによって店長自身が方針決定に関わることになり、自身も決定に関与したため目標へのコミットメント意識が強まり、スタッフへのリーダーシップも発揮しやすくなります。
店長からスタッフに目標設定を伝える手順
店舗での目標が決まったら、目標をスタッフに共有する必要があります。
ここでは、店長からスタッフに目標設定を伝える方法について解説していきます。
1.ビジョンなどの全体像を伝える
2.目標を細分化しながら伝える
3.具体的な行動方針について伝える
1.ビジョンなどの全体像を伝える
まず、本部と店長で共有しているビジョンについて、スタッフにも共有するようにしましょう。
目標設定を店長がスタッフに伝える際に、お店の目指すべきビジョンと、それに対する企業やお店全体の現状を伝えておくと、目標に対するスタッフの理解を深めることができます。
特にアルバイトやパートスタッフは、売上や利益、客単価などの詳細な数字よりも、全体的なビジョンや方向性を共有されることで、目標達成までのステップをイメージしやすくなります。
また、ビジョンやお店の現状といった目標の背景部分を伝えることは、スタッフの目標達成へのモチベーション向上とチームワーク強化といった効果を期待できます。
目標の背景や全体像を知ることで、自分たちが何を目指しているのかを具体的に理解しやすくなるため、結果としてスタッフの協力を得やすくなり、一体感を持って目標達成に向けて取り組むことが可能になります。
2.目標を細分化しながら伝える
次に、目標を細分化してスタッフに伝えましょう。
目標設定を店長がスタッフに伝える際に、目標を細分化して伝えると、スタッフは目標をより現実味をもって理解することができます。
月単位、週単位、日単位といった具体的な期間で目標を示すことで、日々の業務における自分たちの役割や達成すべきことが明確になり、また、詳細な目標を伝える際にデータを用いることで、目標設定の妥当性や必要性をスタッフが理解しやすくなります。
また、営業日や天候によって目標が変動する場合は、データに基づく説明によってスタッフの目標設定への納得感を高めることができるとともに、具体的な行動計画を立てやすくすることができます。
3.具体的な行動方針について伝える
最後に、具体的な行動指針について伝えましょう。
具体的な行動方針の共有は、スタッフの意識とスキルの向上につながり、結果的に目標達成への大きな推進力となります。
目標設定を店長がスタッフに伝える際に、スタッフ各自に求められる役割や行動に基づいて行動方針を併せて伝えると、スタッフ一人ひとりの行動が明確になり目標達成に向けた具体的な取り組みがしやすくなります。
例えば「お客様に呼ばれる前にお声がけする」という具体的な指示があれば、スタッフはお客様をより注意深く観察し、積極的に接客するようになります。
これによって接客の品質が向上し、お店全体のサービスレベルを向上させることができます。
飲食店の目標設定のコツ・注意点
飲食店で目標設定をする際のコツと注意点について解説します。
・できる限り数字で測定できる目標にする
・従業員が興味を惹かれる目標を設定する
・従業員が成長できると実感できる目標を設定する
できる限り数字で測定できる目標にする
できる限り数字で測定できる目標にすることは、目標設定のコツの一つです。
飲食店での目標設定において数字で測定できる定量的な目標を設定することで、様々なメリットが発生します。
売上や客数、客単価などの具体的な数字を示すことで、全従業員が同じ基準で客観的に目標を理解することができ、また日々の業務の中で進捗度や達成度を容易且つ客観的に把握できるようになるため、従業員のモチベーションを高め、効率的な店舗運営につながります。
さらに数値目標は、目標達成までの具体的な行動計画が立てやすくなるという効果もあります。
各従業員が自分の役割や責任を明確に認識できるようになるため、チームワークや個人成果への意識も高まり、その結果として店舗全体の業績向上に貢献することができます。
従業員の興味を惹く目標を設定する
飲食店で従業員の興味を惹く目標を設定することも、目標設定のコツの一つです。
従業員が自身の興味関心に基づいて業務に取り組めるため、業務へのモチベーションが高まり、自ら考え行動する積極的な姿勢を育てることができます。
また、興味のある目標に挑戦することで、従業員の仕事への満足度や店へのエンゲージメントが強化され、長い目で見て店に貢献しようという気持ちが育てられるため、チーム内の話し合いや協力も活発になります。
結果としてお客様の満足度が上がり、店の競争力も高まるといえます。
従業員が成長できると実感できる目標を設定する
従業員が成長できるような目標を設定することも、目標設定のコツの一つです。
従業員が自身の成長に繋がるような目標に取り組むことで、個々のスキルや知識を広げることができ、より難しい仕事や新しい挑戦に積極的に取り組むようになります。
個人の職能やスキルが強されることで、将来の仕事の姿が明確になり、結果として店全体の人材の質と組織の力が強くなります。
さらに、自身の成長を実感できる目標に取り組むことで、日々の仕事や目標達成の結果に対する満足感や達成感をより強く感じることができます。
飲食店の目標設定の例
飲食店の目標設定について、様々な項目において有用な例をいくつか紹介するので参考にしてみてください。
売上目標 | ・月間総売上を(前年比)10%増加させる ・平日の売上平均額を(前月比)10%増加させる |
客数増加目標 | ・週末のディナータイムの来客数を(前月比)15%増加させる ・平日ランチの客数を(前月比)1日平均5組増加させる |
客単価向上目標 | ・ディナータイムの客単価を(前月比)500円増加させる ・卓ごとのアルコールドリンクの注文数を(前月比)15%増加させる |
顧客満足度目標 | ・オンラインレビューの平均評価を星4.5星以上にする ・月間のリピート率を(前年度比)5%増加させる |
業務効率化目標 | ・食材廃棄率を毎月(先月比)3%削減し続ける |
スタッフ育成目標 | ・全スタッフが3ヶ月以内に新メニューの完全習得を達成する ・接客スキル評価で全スタッフが80点以上を獲得する |
新規サービス導入目標 | ・3ヶ月以内にテイクアウトサービスを開始し、総売上の15%を占めるようにする ・6ヶ月以内にケータリングサービスを10件受注する |
衛生管理目標 | ・月次の衛生検査で95点以上を維持する ・食品安全に関する従業員研修を四半期ごとに実施する |
まとめ
このように、飲食店における目標設定は業績向上に貢献するだけでなく、従業員の業務へのモチベーションやチームワークを強化できるなどさまざまなメリットがあります。
本記事の目標設定のポイントや実際の例文を参考にして、総合的な店舗の成長のために目標設定を最大限活用してみましょう。
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