会社経営の現場で「従業員エンゲージメント」や「社員エンゲージメント」というものがよく聞かれるようになりました。
エンゲージメントという言葉と考え方は、日本人とってあまり馴染みが深くないですが、優秀な社員の離職防止、社員の生産性向上などの重要課題への解決策として注目されています。
この記事では、従業員のエンゲージメントを最大限高める経営である「エンゲージメント経営」について、必要性やメリット、事例など様々な観点で説明していきます。
この記事を読み終わる頃には、エンゲージメント経営がどのようなものか理解していることでしょう。
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目次
エンゲージメント経営とは
まず、エンゲージメント経営についての概要を説明していきます。
エンゲージメント経営は従業員が会社信頼・愛着心を持てるような経営をすること
まず、従業員エンゲージメントとは「会社をどれだけ信頼し、共感しているか、どれだけ貢献したいと思っているかといった愛着や貢献意欲を表す指標」のことです。
元々のエンゲージメント(engagement)の意味は約束・婚約であることから、ただの雇用といった紙上の契約ではなく、互いを信頼し貢献し合おうという姿勢であるとも読み取れます。
そして、エンゲージメント経営は、従業員エンゲージメントを高める経営ということから、
エンゲージメント経営は「従業員が会社に信頼・愛着心を持てるようにする経営をすること」と言えます。
従業員エンゲージメントと従業員満足度の違い
従業員エンゲージメントとよく混同されるものとして「従業員満足度」というものがあります。
従業員満足度は「従業員が会社に満足しているか?」という従業員から見た一方向的なものです。
一方で、従業員エンゲージメントは「会社は従業員が期待する事を提供できているか?」「従業員が仕事に幸せを感じて意欲的に取り組めているか?」と、会社と従業員の双方向的な関係を指すものです。
従業員エンゲージメントと従業員満足度が異なるものという証として、従業員満足度が上がっても、従業員エンゲージメントが上がりにくいものがあります。
それらの代表的なものは以下のようなものです。
- 福利厚生の充実度
- 仕事に関連している研修への参加しやすさ
- 業務効率化のためのリソースの提供
これらのものは、従業員満足度の向上に役立ちますが、従業員エンゲージメントの向上にはあまり影響しないと考えられています。
そのため、エンゲージメント経営を行うときに、上記の部分から取り組もうとする経営者の方は多いですが、エンゲージメント経営にはならないことがあるので注意しましょう。
もちろん、上記項目を改善することにより、従業員満足度が向上し、良い効果を得られる可能性もあるので、全くの無意味というわけではありません。
エンゲージメント経営が注目される背景
なぜ日本においてエンゲージメント経営が注目され始めたのかについて、その背景を明らかにしていきたいと思います。
日本企業は従業員エンゲージメントが低い
コーン・フェリー社が世界の約480企業を対象に実施した社員エンゲージメント調査によると、日本企業のエンゲージメントレベルは海外企業に比べて明らかに低いことが分かりました。
上記のグラフは「仕事に熱意が持てていない社員比率」を示したもので、数値が高いほど従業員エンゲージメントが低いということになります。
日本においては、半数程度の従業員のエンゲージメントが低いということになります。
自分の勤めている会社に愛着などが持てないと生産性が下がるのはもちろんのこと、離職にもつながってしまいます。
従業員エンゲージメントが低い現状を見て、伸び代があると感じたことで、エンゲージメント経営が注目されるようになってきています。
労働人口の減少
エンゲージメント経営が重視されているのは、少子高齢化による労働人口の減少が影響しています。
労働人口が減少するということは、従業員1人あたりの生産性を高める必要があります。また、従業員の離職も過去に比べて損失が非常に大きくなっています。
従業員エンゲージメントの向上によって、上記2つの課題を解決する効果を得られることから、注目を集めています。
従業員エンゲージメントが高い企業は売上が上がるという事実
エンゲージメント経営によって従業員エンゲージメントが高い企業は、顧客からの支持も集めやすいと考えられています。従業員が納得感を持って積極的に企業に貢献したいと働いているので、パフォーマンスも向上し、サービスの質も向上することによって、顧客に価値を感じてもらえるようにするためです。
例えば、Appleの直営店で働くスタッフの方々を想像してくださればわかりやすいと思います。
エンゲージメント経営が実現している企業は、顧客エンゲージメントも向上することで、売上が向上するという話が広がり、注目されている背景の1つとなっています。
エンゲージメント経営を取り入れるメリット
エンゲージメント経営を取り入れるメリットを実際のデータとともに説明していきます。
労働生産性が向上する
2018年にモチベーションエンジニアリング研究所と慶應義塾大学が共同研究した「エンゲージメントと企業業績」により、従業員エンゲージメントが高いほど労働生産性が向上することが明らかになりました。
また、同様の研究で従業員エンゲージメントが高いほど、営業利益も高くなることがわかっています。
このデータから、従業員エンゲージメントを高めることで、労働生産性が上がり、売上が上がるという効果が期待できます。
このことだけでもエンゲージメント経営を取り入れるメリットは大きいでしょう。
離職の減少
2019年に株式会社アスマークが従業員の離職とエンゲージメント(愛着心・思い入れ)の関係について調査しました。
その結果によると、職種によって差はあるものの企業への満足度が高くなれば離職意向も低くなるということがわかりました。
このことから、従業員エンゲージメントを向上させることで、従業員の離職を防止することができると考えられます。
また、株式会社プレシャスパートナーズが行った2024年の新卒者を対象にしたアンケート調査では、内定先の決め手が「社風や雰囲気」(28.5%)が最多となりました。また「成長できる環境である」(15.7%)、「やりたいことがやれる」(14.3%)など、エンゲージメントに関わる部分が上位になっています。
社風や雰囲気を重要視している学生が多く、エンゲージメント経営をすることで、入社後の離職も減少するでしょう。
エンゲージメント経営を実施することで、離職防止や採用に強くなるというメリットがあります。
従業員が会社を好きになる
コーン・フェリー社が実施した従業員エンゲージメント調査を見ると、従業員エンゲージメントが高い日本企業では上記の8項目と従業員エンゲージメントとの相関が強いことがわかりました。
例えば、1位になっている「顧客に提供できる体験的価値への自信」とは自社の商品やサービスがお客様に貢献している、満足してもらえていることが実感できているということを指しています。お客様や社会への貢献を実感することで、仕事のやりがいにつながり、従業員エンゲージメントが高くなるのでしょう。
他の項目も見ていくと
- 「成果創出に向けた効果的な組織体制」「生産性を高める環境の整備」など「組織体制」
- 「自社でのキャリア目標達成の見込み」「興味ややりがいのある仕事ができる機会」などの「自己成長」
- 「個人としての尊重」など「安心できる仕事環境」
といった項目が従業員エンゲージメントを高くしていることがわかります。
このような要素が整っている会社を社員はより好きになり、仕事でも成果を出そうと注力してくれます。従業員の会社への愛着を高めるためにもエンゲージメント経営が重要でしょう。
エンゲージメント経営の導入ステップ
実際にエンゲージメント経営を行うためのステップを4つに分けて説明していきます。
STEP1:エンゲージメントスコアの測定
まず、エンゲージメント経営で最初にすることは「エンゲージメントスコアの測定」です。
エンゲージメントは、組織への愛着や信頼など目に見えないものなので、「現在の業務にやりがいを感じるか」や「会社の理念について十分に理解しているか」などのエンゲージメントが関係する様々な側面からの質問をすることで数値化することが重要です。
従業員に対して、エンゲージメントに関するアンケートを実施し、自社の現状を把握しましょう。
また、このエンゲージメント調査は定期的に行うことで、自社のエンゲージメントの状況を更新するだけでなく、エンゲージメント向上施策の効果を検証に役立つので、半年に1回程度は実施するようにするのが理想的です。
エンゲージメント調査(ES調査)についてはこちらの記事をご覧ください
STEP2:エンゲージメントスコアを集計し、公開する
次に、エンゲージメント調査で収集したエンゲージメントスコアを集計しましょう。
ただ集計するだけではなく、会社全体や部署ごと、チームごとなど様々な階層で分析することが重要です。
よくある失敗として、エンゲージメント調査の結果を会社の上層部のみにしか公開しないことがあります。
エンゲージメント調査は、調査をすることではなく、結果をもとにどのような対策を講じるのかを考えることが重要であるため、エンゲージメント調査の結果を現場のメンバー全員に公開することが重要です。
STEP3:問題点や改善点を洗い出す
次に、公開されたエンゲージメント調査の結果をもとに問題点や改善点を洗い出しましょう。
ただエンゲージメントスコアが高い、低いということではなく、「エンゲージメントスコアの〇〇という部分が低いから、××という施策が良いのではないか」というような実際にエンゲージメントを向上させるような施策を考え出すようにしましょう。
上述した通り、エンゲージメント調査の結果は現場メンバー全員に公開されていることが重要なのは、この段階で部署やチームごとに自分たちでエンゲージメント向上施策を考えてもらう方が良いからです。
自分たちで考えだしたエンゲージメント向上施策が実行されるようになることで、従業員の組織への愛着が上がるだけでなく、組織全体の課題を自分ごとに感じてもらう効果が期待できますので、社内の従業員全員でエンゲージメント向上施策を考えるようにしましょう。
STEP4:改善に向けたガイドライン作成と施策の実行
最後に、取り組むエンゲージメント向上施策をまとめて、施策を実行しましょう。
実際に出てきたエンゲージメント向上施策を比較し、優先順位をつける必要があります。優先順位をつけて、どのような効果を期待してその施策を講じるのかを計画しておくことで、後の効果検証が行いやすくなります。
そして、実際に施策を実行し、再度エンゲージメント調査でその効果を確認しましょう。
ここまでが、エンゲージメント経営の一連の流れです。あとは、この4STEPをPDCAサイクルで改善していくことで、従業員エンゲージメントが向上することでしょう。
従業員のエンゲージメントを高める方法
ここでは従業員エンゲージメント向上施策の具体例を紹介していきます。
経営理念やビジョンの浸透
従業員エンゲージメントを高める方法の1つ目は「経営理念やビジョンの浸透」です。
経営理念やビジョンが浸透すると、同じ方向に向かって一体感を持ち仕事に取り組むことができるため、従業員エンゲージメントが向上します。
実際に、株式会社ノースサンドが2019年に行った『経営理念×やりがいに関する調査』によると、働きがいを持っていない人は、会社の経営理念に共感している割合がわずか21.4%、5人に1人ということがわかりました。
一方で、働きがいを持っている人の80.4%は会社の経営理念に共感していることもわかり、働きがいを持っている人と持っていない人との間で約4倍の差があることが明らかになりました。
このことから、働きがいと経営理念やビジョンの浸透は大きく関係していることがわかり、エンゲージメント向上施策として、非常に重要であることがわかるでしょう。
具体的な施策には以下のようなことが考えられます。
- 管理職が経営理念・ビジョンを正しく理解し、部下に共感してもらえるよう伝えていく。
- 経営理念・ビジョンを分かりやすく伝える機会を設ける。
- 経営理念・ビジョンに対してディスカッションをする機会を設け、理解を深める。
- 社員証等に経営理念・ビジョンを書いたりして、経営理念・ビジョンへの接触回数を増やす。
- 経営理念・ビジョンを現在の従業員と共に、より良い新しいものを作る。
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管理職・マネージャーのマネジメント力を向上させる
従業員エンゲージメントを高める方法の2つ目は「管理職・マネージャーのマネジメント力を向上させる」です。
部下に対して、やる気を促進させるようなマネジメントを実施することにより、部下の従業員エンゲージメントが向上します。
エン・ジャパン株式会社が2018年に実施した調査によると、従業員が仕事に対してやりがいを感じることは「お礼や感謝の言葉をもらうこと」(62%)が1番で、次いで「仕事の成果を認められること」(56%)、「目標を達成すること」(50%)となっています。
他にも「尊敬できる人と一緒に仕事をすること」など上司に関わる項目もやりがいに影響していることがわかります。
上司と部下の1on1や面談の機会で、普段の仕事ぶりに対してポジティブなフィードバックを行ったり、仕事の成果を認めたり、目標を達成するための支援をしたりするマネジメントを行うことによって、従業員エンゲージメントは向上するでしょう。
具体的な施策には以下のようなことが考えられます。
- 管理職・マネージャーにマネジメント力向上の研修を受講させる
- 上司と部下の1on1等の定期的な面談の機会を設ける
株式会社O:(オー)では、人材開発支援助成金を活用したマネジメント研修を提供しています。
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ワークライフバランスの整備
従業員エンゲージメントを高める方法の3つ目として、「ワークライフバランスの整備」があります。
従業員が自身の能力を最大限発揮するためには、健康状態やプライベートとのバランスが取れていることが重要です。
ワークライフバランスを意識した制度や取り組みを始めることで、幅広い年齢層の社員が自身のライフスタイルを尊重しながらやりがいや目的を持ち働けるようになります。
その結果、労働生産性の向上や離職率低下、社員のモチベーションアップが期待できます。
自社の制度を振り返り、不足している部分がないかを明らかにしていきましょう。
具体的施策は以下の通りです。
- 従業員の残業管理を徹底する
- 従業員の日々の体調を把握する
- 福利厚生を充実させる
コミュニケーションの活性化
従業員エンゲージメントを高める方法の4つ目として、「コミュニケーションの活性化」があります。
社内でコミュニケーションが活発に行われ、良好な人間関係が構築できていることは従業員エンゲージメント向上に欠かせません。
例えば、上司と部下の関係が悪いとコミュニケーションが取れず、無駄な作業が増え、残業が多くなったりと労働環境にも悪影響を及ぼします。
具体的施策は以下の通りです。
- 1on1を定期的に実施
- 情報共有を気軽にできるツールの導入
- 社内イベントを開催する
エンゲージメント経営の事例
MVV浸透で売上250%向上「株式会社Merone」
株式会社Merone(以下、Merone)は女性の自立支援を行っているベンチャー企業で、MVVを全く知らない従業員たちにMVVを浸透させた企業です。
MeroneがMVVを浸透させるために重要視しているのは、従業員との徹底的なコミュニケーションです。MeroneではこのMVVが浸透したことによって、従業員のエンゲージメントが向上し、「組織としてやるべきこと」と「個人の成長」が両立するようになりました。そして、1on1コミュニケーションで高頻度のすり合わせをすることで「組織としてやるべきこと」と「個人の成長」が両立するようになり、従業員エンゲージメントが向上した結果、売上の向上につながりました。
会社のことを自分ごと化し離職率はほぼ0を実現「株式会社アトラエ」
株式会社アトラエは「意欲ある人が無駄なストレスなく働ける組織」を組織づくりのコンセプトにし、ルールを最小化し、倫理観を重視する方針をとっています。
出世や肩書きを廃止して上司がいないフラットな関係性を実現し、給与などの評価は360度評価制度で、従業員一人一人が能動的・自立的に判断して行動する必要がある環境を作っています。
また、全従業員に会社の株式を持ってもらうことで、株主として会社を見ることができるような仕組みづくりも行なっています。
このような取り組みを実施することによって、従業員が会社の課題を自分ごと化することができ、主体的に会社に参加することで、従業員エンゲージメントが高まり、「年間で1人辞めるかどうか」という離職率がほぼ0%の状態を実現しました。
参考)「エンゲージメント経営」に舵を切った成長ベンチャー企業たち
まとめ
今回はエンゲージメント経営について、導入のメリットや導入手順などを説明してきました。
現代の会社経営には、従業員エンゲージメントを高めるエンゲージメント経営が非常に重要ですので、ぜひ一度取り入れてみてはいかがでしょうか?
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