# 1 「組織開発におけるマネジメントの役割」はこちら
▶︎本来1on1は 、マネージャーが部下にしてあげることではない
─ 最近、1on1を会社からマネージャーに強制する、週一回やってください、というようなルールになっているのも、ホウレンソウに課題があるのを仕組み化で解決する、というようなことなんでしょうか。
溝口:もともと1on1の文脈って日本ではなく海外なんですが、日本とは状況が全然違っていて、海外はプロなんですよ。プロフェッショナルに対して、これができていない、こういうことをやってほしい、という話をするのは彼らプライドが高いから面前で言われたくない、ということがあるから1on1で話すわけです。
当然部下の方もフォロワーシップとリーダーシップの関係があるから、批判的なリーダーについていっているわけです。例えば、あなたがボスなのはわかっているけど、ここは直していっていただきたい、というような話をするわけですよ。だから1on1でやる必要がある。面前で部下が上司に対して「これを直せ」というのは、チームビルディング的によろしくない。
だから本来1on 1 は「マネージャーが部下にしてあげることではない」んですよ。部下もマネージャーに対して批判をしないといけないんです。これは、言うことを聞かないという意味ではないですよ。あなたの指示は聞くけど、こういう指示の出し方はどうなんだ、と。こういうふうにやってくれたほうが効率いいんじゃないか、と。もっと俺の能力使え、と話をするのが正しい1on1なんですよ。
▶︎1on1では、注意するべきではなく「期待値」を伝えるべき
─ どちらかというと「部下の話を聞き出せ」っていいますよね。もしくは「自分は何も言うな」とか。でも聞くだけじゃなくてその人に注意もしなきゃいけない。その点についてはどう思いますか?
溝口:それは「期待」の話なんですよ。「私はあなたにこういうことを期待している」というメッセージ。コーチングの基本的手法ですが、要するに1on1では、注意するべきではなく、期待値を伝えるべきなんです。
そういう基本的なことのトレーニングを全くせずに一対一でとくにかく話せって言われたら、「最近どう?」「ぼちぼちです。」「まぁ頑張ってるとおもうけどさ、もう少し、この辺ちょっとやってくれるとありがたいんだよね」「あ、がんばります」みたいになっちゃって、全然意味がない。なんのコミットもないし、なんの生産性もないですよね。
「最近おれに言いたいことあるか?」「指示が曖昧です。もう少し具体的に指示出してくれないと困る」「おれは君に部下をつけている。彼の成績が上がっていないところで、君にその部下の教育を期待しているんだ」「期待って例えばどういうことをやればいいんですか?」「例えば、営業の部分で彼自身が困っているみたいだから話聞いてやってほしい」「わかりました」というふうに、課題が明確であり、優先的にやってほしいと思っている、というのが大事で、そこに合意がとれれば人はやるんです。ただ、「どうなの?」「こうです」という話をしても、なんの期待の話もしていないので部下からしたら「やることはやっています」ということになって、「できていない」と言われてもそれは評価している、という話になってしまう訳です。部下としては、やっていると思っているわけだから永遠に平行線でうまくいかないんです。もし1on1を導入したい、というんだったら、どういう風にやるか、ということのサポートは絶対に必要です。
▶︎『上手くいっている事例』は、実は教科書通りにやっていない
─ なるほど。1on1の形骸化が進んでいる、という話も最近あって、そもそもなぜやるのか、どうやるのかを知らない人が多いんだと思います。なぜ1on1の本質的なところ「どういう目的があってどういうことをやるべきか」が伝わってないんでしょうか?
溝口:わたしもHR側の人間なのでその観点で話をしますと、HRって流行り廃りがすごくあるんでよね。いまから10年前でいうと、「成果報酬制」。やったらやっただけ給料が上がるというのが、うまくいかなかった。それで、結局エンゲージメントっていうのが大事だよね、という流れになった。その人達のやる気を出すために、OKRを考えましょうと。そして、OKRを出すためには定量的な目標があり定性的な目標があって、今の評価制度ではできないからそのために1on1で引き出しましょうという一連の流れがあります。
しかし、今までの人事制度に問題があるから、それを解決する新しい手法に飛びついているだけで、正しく理解できる人が少ないのが実情です。
厳しい言い方をすると、人事で本当に優秀な人ってほとんどいない。型通りやったからといって上手くいくわけでありません。『上手くいっている事例』は、実は教科書通りにやっていないんですよ。実際は、自分たちにいいように微妙にカスタムしていて、グーグルならグーグル流にやっているところの最大公約数としてどこの部署でもここまではやってますよ、と。プラスアルファは各部署で工夫してやっている。その「工夫してやっている」ところはマスキングされていて見えなくて、見えている最大公約数のところだけ見て、じゃあ取り入れてみようとしても、肝の部分がわからずにやっているから、ちょっと大味だよね、という話になる。要は細かい調整してないじゃん、という話です。そこさえやれば、どこも機能はすると思いますよ。
▶︎短期間で自己効力感を高めるために研修を実施する。しかし、ロールプレイは所詮ロールプレイ
─ オンボーディング、いわゆるエントリーマネジメント、新卒や中途で入った人が、定着せずにやめてしまうということが多かったり、思った通りの戦力にならない、時間がかかる。そのような課題の解決に企業が力を入れていて、研修のプログラムも多様化しているという話があるんですが、そのあたりについてはどうお考えですか?
溝口:それはまさにO:のサービスにもある自己効力感の話で、「大学生のころに自分はイケてました」「サークルのスターです」「みんな僕を頼っていました」という人がいたときに、学生までで培われているスキルって社会人になったらほとんど使えなくなるということなんです。そこには、断絶がある。
これは、看護師さんでもよくあります。看護学校で、ベッドサイドで患者に寄り添う看護をしなさいと教わっているんですが、社会人になったらベッドメイキング早くしなさい、と言われる。わたしのやりたいのはこんなんじゃない、、、と辞めちゃうわけですよ。
これは一般企業に限った話ではなく、自分の乏しいバイトなどの人生経験の中で、実際働いてみると違うよねっていう、期待値のギャップが問題であって、そこは解決のしようがないんです。期待値が高くて、実際やってみたら違った。このギャップって何かというと、一番は自分の能力不足なんですよ。もっと自分はできると思ってたのに、なにもできないじゃないですか。契約書取ってこいと言われても、どうやってとってくるのか、電話してこいっても電話もとれません、書類を持っていけと言われても誰に渡せばいいんですか、名刺交換はどうやってやればいいんですか、ということになる。
今まで22年間何不自由なく生活できたのに、社会人になった瞬間、頭にたまごの殻つけてぴよぴよ歩いているような状態になっちゃって、何もできない自分に対する無気力感を感じる人達が多くて、それって我々ではカバーしきれないんですよ。
「始めはできなくてもしょうがない」という話をしていくしかなくて、そこをできるだけ短期間で自己効力感を高めるために研修を実施するわけですよ。要するにロールプレイをしてシミュレーションして「できるでしょ?」というのをできるだけやっていく、というのが有効であるっていう話になっているからロールプレイを行うわけですが、ロールプレイは所詮ロールプレイなんです。
▶︎すべてのパターンをクリアすることはありえない。 原理原則と、自分はできるっていう自信を身に着けさせるしかない
─ リアルとは違う。
溝口:そう。だからロールプレイのときはみんな手厚くやってくれるんだけど、実践になったら急にみんな「なんでできないんだよ、研修でやっただろ」となる。それは、本番と練習は違うという乖離がみんなわかっていなくて、結局みんな自信をなくすわけです。あれだけロールプレイをやってきたのに、現場出たらなにも出てきませんというのは当たり前です。ロールプレイのときは嫌な指摘の仕方はするけど話は聞いてくれるけど、実際は「で?要件は?」って「結論だけ聞かせてくれよ」って。このパターンはなかった!というような。
結局そこをどうクリアするかとなったときに、すべてのパターンをクリアすることはありえないので、原理原則と、自分はできるっていう自信を身に着けさせるしかないわけです。だから自己効力感が大事で、そこを高めるための研修を本来すべきなんですが、みんな付け焼き刃でテクニック論に走っちゃう。だからうまくいかないわけです。
─ そこは育成のいちばん重要なポイントですよね。
溝口:そうですね、自己効力感はすごく大事です。まずは自己肯定をしてもらって、自己肯定感も大事なんですが、うつ病にしないためにも。自己肯定をしたあとに、自己効力感っていうこの二段階のステップアップが必要です。その確保はいわゆる心理的安全性っていうそういう話です。
▶︎マネジメントの勉強をしていると、結局「自己効力感」に行き着く
─ 自己効力感と心理的安全性っていうのは近いものなんですか?
近いですよ。心理的安全性のないところに自己効力感を発揮できるのは一騎当千の百戦錬磨の人だけです。普通の人はそういう環境では力を発揮できないので、潰れていきます。
─ ちなみに溝口さんが自己効力感を意識し始めたきっかけはなんですか?最近「自己効力感」を説明すると、流行ってますよね!と言われるんですけど。
流行ってる感じはないですけどね。モチベーション理論の中では最も仕事に関係しているので、マネジメントの勉強をしていると結局そこに行き着くんですよ。モチベーションが重要だというのは、20世紀初頭に工場の効率化をはかろうという話がありまして、どうやら目標を持たせてやる気を持たせると。一番うまくできたところにボーナスやると言うと、みんな頑張るわけですよ。そこでやる気を出させる方法があったらみんな頑張るよねという話になり、そこでマネジメントの中にモチベーションという分野ができてきたんですよ。
モチベーションは大きくわけるとふたつの潮流があります。ひとつは「モチベーションってなんなの?」という研究。もうひとつが「モチベーションを高めるためにはどうすればいいのか?」という研究。そのなかで、自己効力感という考え方は「モチベーションを高めるにはどうすればいいのか?」という文脈においてよく登場します。
▶︎自己効力感っていうのは「俺はこれができる」という話
─ エンゲージメントと自己効力感の関係性はどういうようなものなんでしょうか?
溝口:エンゲージメントと自己効力感は全く別のものです。 自己効力感っていうのは「俺はこれができる」という話であって、「静かにしろい、この音が俺を蘇らせる。何度でもよ(三井寿)」ですよ。一方で、エンゲージメントは「俺のやりたいことが組織のやりたいことと一緒」ということです。
例えば、俺は将来プロ野球選手になる、という場合。チームは弱いけど、あいつはプロに行きたいから、みんなが彼をプロに行かせるために頑張ろうという風になると、エンゲージメントは高くなるんですよ。逆に、あいつは一人でプロになるから俺たち知らない、みたいになるとエンゲージメントは高くない組織になるわけですよ。誰も協力をしてくれないと。でも彼は自己効力感は高いわけですよ。俺はプロ野球選手になるって決めてるんですから。
─ 経営者としてはエンゲージメントのほうが欲しがるんじゃないですか?
溝口:もちろん、ビジョンに共感する人を採りたいっていうのはその点なんですが、そんな人は採れないって話をしています。
▶︎「早期戦力化」という目的をかなえるには自己効力感が重要
─ 自己効力感に目を向けられている理由はなんですか?
溝口:単純に「早期戦力化」という目的をかなえるには自己効力感が重要という話であって、エンゲージメントがいくら高くても自己効力感が低ければ脱落していくので、結局生き残らせたければ自己効力感が必要なんですよ。
戦場で生き残るには自己効力感が必要。組織を強くしていくにはエンゲージメントが高くないと、組織としてモラール、士気が高くならないわけですよ。モラールを高めるためにはエンゲージメントが必要であるけれども、そのためにはひとりひとりの士気が高くなければいけないので、僕のやり方でいうと、まずは個々のモチベーションをあげていって、それを束ねるためのエンゲージメントは必要かもしれないけど、逆はあり得ない。
─ 自己効力感をあげればエンゲージメントは上がるんでしょうか?
溝口:それだけでは上がらない。まったく別です。
─ 自己効力感をあげればハイパフォーマーになるんでしょうか?
溝口:いいえ、自己効力感を上げてもハイパフォーマーにはなりません。自己効力感というのは「これくらいの仕事だったら俺でもできる」というのが自己効力感で、性能が上がるわけではない。性能をあげるのはまた別の話。
ただ、自己効力感が高まれば、うつ病になりにくくなるし、脱落もしにくくなるし、研修教育の効果が残りやすくなるので、結果として早期戦力化するためには自己効力感が高くないとだめだということになります。
エンゲージメントを高めるためには、「組織のやりたいこととお前のやりたいことが一緒」だという教育をしないといけない。適性もありますが、組織のやりたいことをどこまで本人に落とし込めるかという点が重要になってきます。
例えばワンピースのルフィの「俺は海賊王になる」という話ですが、僕がコンサルタントとして入ったら、ルフィさん、海賊王になるためにはなにをどうすればいいわけですか?と聞くと、ルフィさんは「ワンピースを手に入れればいい」と。ワンピースを手に入れたところで海賊王になれるかどうかわからないじゃないですか、という話になるわけですよ。でも彼はワンフレーズで「海賊王になる」という話をしているから麦わらの一味の基本的な方針は「うちの大将を海賊王にするのが俺らのミッション」であるという話になっているわけですね。だから小難しい理由ってほとんどいらなくて、実はワンフレーズでわかりやすいものに対して、我々はこの組織をこういう風にするんだともっていくことができればいいんですよ。
だから、エンゲージメントを高めたければ、単純化されたわかりやすい目標を出せばいい。こういうのをbehaveという。ヨーロッパとかアメリカでは企業はbehaveを重視している。簡単に言うと企業のキャッチフレーズです。理念ではない。要は従業員に我々のミッションをわかりやすく伝える、対内用の広告です。
▶︎自己効力感が高ければ高いほど、「どうやって画を描いていくか」を考えられるから達成できる
─ ちなみに以前、自己効力感かエンゲージメントかでいうと、売上のことを考えると、最終的に自己効力感が売上につながる、ということをおっしゃっていましたが、それはどういう構造なんですか?
溝口:200万円ぐらいだったら売上をあげられる、と思っている人は実際にあげてくるからです。「できる」ということは計画たてられるということです。自己効力感が高ければ高いほど、「どうやって画を描いていくか」を考えられるから達成できる。
─ なるほど、仕事の実現度が上がる、というイメージなんですかね。
溝口:端的に言えばそうですね。もちろん難易度の理解度を擦り合わせる必要はあります。そんな簡単じゃないよ、というのを簡単だっていう人もいるから。だから、仕事の難易度を適切に設定した上で、できますという話をしているのであれば、それは確実性の高い話だから売上もあがる、戦力として数えられるスタッフである、という話になる。自己効力感が低い人は厳しいわけです。
# 3 「中核人材の総合的発展が期待できるO:のサービス」へ続きます
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