「経営理念が浸透しない」この悩みを抱える経営者の方は思いの外少なくないのではないのでしょうか。経営者理念とは企業が掲げる目標のようなものです。この経営理念が浸透していない状況は、目的地が分からない旅に出るようなもので非常に危険です。そのため、経営理念が浸透していない状況は即刻改善すべきであり、企業全体に経営理念の考えが浸透することは持続的な企業の成長には必要不可欠です。
しかし、経営理念が浸透していない原因を客観的に判断することは難しく、独力で解決するのは非常に労力がかかります。そのため、本記事では経営理念が浸透していない原因について説明し、経営理念を浸透させる方法について説明します。
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目次
経営理念とは?
経営理念とは、経営者の哲学や信念・想いに基づいた企業の存在意義や、果たすべき使命・目的について明文化したものです。そのため、企業が掲げる目標のようなものであり、すべての従業員に対しベースとなる考え方に影響を与えます。
MVV、パーパス、バリュー、クレドといった、経営理念と良く似た意味を持つ言葉は多く存在します。これらは広義の意味での経営理念となります。経営理念の中で強調したい部分がある場合や、企業の文化や考え方によっては、経営理念を表す際これらの言葉を用いた方が適切な場合があります。
経営理念が浸透する重要性
経営理念が企業に浸透する重要性は多岐にわたります。今回はその中でも特に大切な3つの重要性について説明します。
企業経営の方向性の明確化
経営理念が浸透する重要性の1つ目は、「企業経営の方向性の明確化」です。この明確な方向性が確立されることで、日常業務だけでなく、予測不能な状況にもしっかりと対応できるようになります。
特に現代は「VUCA(ブーカ)時代」と称され、未来が不透明で予測が難しい時代です。将来の展望が不確かで混沌とした状況が予想され、予期せぬ問題に直面する可能性が高まっています。こうした状況下では、社員が意思決定の基準を持つことが不可欠です。経営理念が浸透すると、組織の方向性が明確になり、社員はこれを指針として自己判断を行うことができるようになります。
結果として、企業は不確実性に対抗し、持続的な成功を収める土台を築くことができるでしょう。
従業員エンゲージメントが向上する
経営理念が浸透する重要性の2つ目は、「従業員エンゲージメントが向上する」です。経営理念が浸透することによって、組織全体が共通の目的に向かって統一されることが可能になります。共通の目的が明確であれば、企業は一つの方向に向かい、組織全体として一体感を醸成することができます。この一体感があれば、従業員は仕事に対するモチベーションを高め、従業員のエンゲージメントを向上させることが期待できます。それにより、離職率の低下や労働力の定着が実現し、企業にとって人材の維持と成長の安定がもたらされます。
さらに、経営理念の普及によって、組織の理想的な姿と現実の状況とのギャップを正確に把握することが可能です。このギャップを認識することは、理想的な状態に到達するために何が必要かを特定し、具体的な行動計画や将来の目標を策定する手助けとなります。明確で具体的な目標を設定することは、組織の成長と従業員のモチベーション向上につながります。経営理念の浸透によって、組織は現実的な課題に向き合い、持続可能な発展への道を明確にすることができます。
結論として、経営理念の普及は従業員のエンゲージメント向上に寄与し、企業にとって持続的な成功をもたらす要因となります。共通の目的の下で一体となり、課題を克服し、目標に向かって前進することが可能となります。
ブランド構築とCSRの意識向上
経営理念が浸透する重要性の3つ目は、「ブランド構築とCSRの意識向上」です。経営理念の浸透は、経営理念が企業の方向性として浸透することで、企業が提供する事業や製品の価値が向上し、ブランド構築やCSRの意識向上に寄与します。
経営理念の浸透において特筆すべき強みの1つは、社員が経営理念を指針にし、自主的に行動できるようになることです。これにより、社員が経営理念に基づいた統一的な行動を展開することが容易になります。この一貫性のある行動は、顧客からの信頼に大きな影響を与え、多くの顧客が企業の経営理念を共有するブランドイメージを形成します。このブランドイメージにより、企業のイメージが向上し、売上や業績の向上につながる可能性が高まります。
このように、経営理念の浸透によって、企業は一貫性のあるCSR(企業の社会的責任)行動を実行しやすくなり、その結果、企業のブランド構築が強化されます。経営理念に基づく持続可能な行動は、顧客や市場に対する企業の信頼性を高め、長期的な成功に貢献します。
経営理念が浸透する事の難しさ
ここまで、経営理念が浸透する事が重要であると説明してきました。しかしながら、実際どれほどの企業が経営理念を浸透させることができているのでしょうか。
過半数の企業は経営理念が浸透していない
こちらの円グラフをみてください。こちらの円グラフはHR総合調査研究所による「企業理念浸透に関するアンケート調査」結果報告により作成したもので、企業の中でどの程度理念が浸透しているのかを表したものです。
HR総合調査研究所による2013年8月26日~27日にかけて実施した「企業理念浸透に関するアンケート調査」により作成
調査によると、理念が浸透していると考えている企業は全体の6%、「やや浸透している」と答えた企業は36%であり、合わせても40%超える程度です。そのため、過半数以上の企業で経営理念が十分に浸透していないという現状があると考えることができます。
経営理念は自然には浸透しない
では、なぜ経営理念が浸透していない企業が過半数なのでしょうか。
このアンケートを行ったHR総合調査研究所によると、「(経営理念が浸透するための)施策が形式的なものにとどまる例も多く、浸透への本気度には企業によりかなり差があるようだ。」と述べられています。
この結果から考えられることは、経営理念は自然には浸透しないということです。経営理念が存在していても浸透させるための工夫をしていなくては、理念は簡単に形骸化してしまいます。理念を浸透させることに成功した企業は、全社的に理念を浸透させる工夫をしていると言えるでしょう。
理念を浸透させることに成功した企業の例を挙げると、スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社が挙げられます。スターバックスは理念を浸透させる重要性にいち早く気づき、注力してきた企業です。スターバックスでは理念を浸透させるために、80時間もの教育を行っていたり、ミッションの理解を評価に繋げるといった施策を導入しています。
全ての企業がスターバックスのような取り組みを行うことは難しいですが、経営理念を浸透させるためには企業の本気度が試されるということは覚えておきましょう。
経営理念が浸透していない要因【3選】
では、なぜ経営理念が自然に浸透しないのでしょうか。ここではその原因と考えられる3つの要因について説明致します。
経営理念が認知されていない
経営理念が浸透していない要因の1つ目は、「経営理念が認知されていない」です。優れた経営理念の哲学、信念、そして情熱に基づいていても、それが広く理解されなければ、その意義は十分に発揮されません。
浸透していない経営理念を持つ企業の典型的な特徴として、経営理念を設定した段階で満足してしまうケースが挙げられます。経営理念は単なる出発点であり、到達点ではありません。そのため、設定しただけで満足してしまうのは避けるべきです。
では、経営理念を認知させるためにはどのようにすればよいでしょうか?
一般的な方法として、経営理念を朝会などで繰り返し唱えることやポスターを掲示することで、従業員との接触回数を増やす方法があります。しかし、これらの方法は従業員にとって上からの押し付けと感じ取りやすく、抵抗感やモチベーション低下の原因になることがあります。
したがって、経営理念を認知させるためには、接触回数を増やすだけでなく、従業員がなぜその経営理念が存在し、自身の業務にどのように関連しているのかを考えさせ、それを自分事として理解させる必要があります。
また、認知とは言葉の意味をなぞるだけではなく、論理的な理解も含むものです。したがって、単に経営理念の存在を知っているだけでは不十分であり、それを深く理解させる必要があります。そのため、経営理念を個別のケースに当てはめ、なぜそれが重要なのか、自分の役割にどのように関わるのかといった問いかけを促すことが重要です。
また、経営理念が設立した背景を説明することも認知の上では非常に重要です。経営理念が設立した背景がきちんと伝わると、従業員も経営理念に対して納得しやすくなります。
このようなアプローチによって、経営理念は従業員の中で共感と理解を得ることができ、日々の行動の指針として活用されるようになります。こうした取り組みを継続的に行うことで、経営理念の浸透を促進し、企業文化に組み込むことが可能になります。そのため、「経営理念を認知させること」は非常に重要な要素です。
経営理念の内容が時代と合っていない
経営理念が浸透していない要因の2つ目は、「経営理念の内容が時代と合っていない」です。創業当時と現代の「VUCA(ブーカ)時代」と称されるような移り変わりが激しい時代では、ビジネス環境の変化速度があまりにも違います。そのため、創業当時の理念が現代の環境に合わなくなってしまう場合があります。
ここで注意しておきたいのは、創業当時の理念が悪いという意味ではありません。創業当時の考えが今の企業の実績・風土などの様々な企業の根幹を創り上げており、非常に素晴らしい理念です。しかし、過去の理念のような精神論や考え方は、現代で働く人達の考え方とギャップが生じてしまい、現代の従業員の中で自分事にされないことはよくあります。この状態が続いてしまうと、経営理念が浸透せず、素晴らしい理念も形骸化してしまうといった非常にもったいない状況が生まれてしまいます。
そのため、創業当時の理念の根幹はそのままにして、現代にも馴染みやすいように再定義することが重要です。創業当時の考え方の根幹はそのままにしておけば、その企業らしさを失うことは避けられます。また、馴染みやすさがあれば、現代で働く人達にも受け入れやすく、経営理念も浸透しやすくなります。
経営理念をアウトプットする機会がない
経営理念が浸透していない要因の3つ目は、「経営理念をアウトプットする機会がない」です。従業員が経営理念を認知した後は、アウトプットする機会を提供することが重要です。経営理念に限った話ではないですが、アウトプットすることで経営理念をより深いレベルまで理解することができます。
経営理念をアウトプットする機会とは、業務の中で経営理念を体現した行動をすることです。経営理念はあくまでも経営者の哲学や信念・想いに基づいた企業の存在意義や、果たすべき使命・目的について明文化したものです。そのため、企業が掲げる目標のようなものであり、すべての従業員の考え方のベースとなります。したがって、経営理念を実行レベルにまで落とし込まないと意味が無いと言えるでしょう。
また、業務で経営理念を体現できるレベルにまで落とし込まないと、従業員側の目線では経営理念の存在意義を理解出来ません。この状況が続いてしまうと、経営理念を認知したとしても、お飾りの存在になってしまい、経営理念が存在するメリットが無くなってしまいます。そのため、経営理念を業務レベルにまで落とし込むことは非常に重要です。
そして、経営理念を業務レベルに落とし込んだ後は、経営理念に基づいた行動を人事評価に組み込み評価したり、賞賛する風土を創り上げることが重要です。これは経営理念に沿った行動をした者が評価され、逆にいくら売上を伸ばしたからと言って、経営理念に反した行動をとってしまったら評価されないということを表します。この評価制度と環境づくりがきちんとできていない企業では、経営理念が浸透する事は難しいでしょう。なぜなら、経営理念に沿った取り組みをきちんと評価しなければ、従業員側の目線では経営理念に沿った行動をする意味が無いからです。そのため、経営理念を業務レベルに落とし込むこととセットで、必ず経営理念に基づいた行動と人事評価制度との結びつけや、賞賛する風土を創り上げることを行いましょう。
経営理念を浸透させるステップ
最後に経営を浸透させやすくする方法について説明します。
経営理念を浸透させるためには、次の4つのステップの順で行っていくと、経営理念を浸透させやすくなります。
ここから次の4つのステップについて説明します。
設立
経営理念を浸透させるためのステップの1つ目は、「設立」です。このステップでは経営理念を設立することをメインに行います。
経営理念を設立する企業には、2つのパターンが考えられます。
1つ目のパターンは、会社を設立するにあたって新しく経営理念を設立したいパターンです。このパターンの場合は、経営理念を設立する段階で、今後の会社の方向性や風土が決まってしまうことを留意しなくてはいけません。そのため、経営者自身が将来どのような事業をしたいのかや、どんなミッションを達成したいのかを明確にし、明文化できるようにしなくてはいけません。
2つ目のパターンは元々経営理念があるが、新しい経営理念に変更するパターンです。このパターンの場合は、創業当時の考えが今の企業の実績・風土などの様々な企業の根幹を創り上げている点について留意しなくてはいけません。そのため、新しい経営理念を設定する際は、前の経営理念を踏襲するのか、方向性を変えてしまうのかについて考えなくてはいけません。
また、2つのパターンに共通して大切なことは、従業員が理解しやすい経営理念にすることです。経営理念とは、従業員が体現していくものです。そのため、経営理念を設立する段階で、過剰な精神論や利益のみの考え方など従業員が疑問を持ってしまう経営理念を設立することは避けましょう。
認知・共感
経営理念を浸透させるためのステップの2つ目は、「認知」です。このステップでは経営理念を認知し、経営理念に納得してもらうことをメインに行うステップです。
前述したように、認知というのは、論理的に理解することが重要で、経営理念を自分事にかみ砕いてもらう必要があります。経営理念を自分事にすることによって、日々の行動の中で経営理念をベースとした行動が可能になります。そのため、経営理念を業務レベルに落とし込めるレベルにまで認知を深めることが重要です。
そして、認知のステップと同時に従業員に経営理念に対して納得してもらい、共感してもらうことが重要です。なぜならば、従業員は共感した行動しか、積極的に行動してくれないからです。そのため、認知の段階で、従業員が共感できるような工夫をすることが大切です。具体的には、経営理念の設立の背景を説明することや理念に関する経営陣との1on1コミュニケーションを行うなどが挙げられます。
実践
経営理念を浸透させるためのステップの3つ目は、「実践」です。このステップでは経営理念を実際に実践することが大切です。この「実践」のステップは企業に経営理念が浸透するかどうかに影響を与える最重要事項です。
実践には大きく分けて2つのパターンがあります。
1つ目は、それぞれの従業員が業務レベルに落とし込んだ経営理念を実践することです。これはその企業に所属する全ての従業員が意識すべき「実践」です。このように実際に経営理念を行動に起こすことで、従業員に経営理念に納得感を与えることに繋がります。また、業務の中で経営理念を意識することで、経営理念の形骸化を防ぐことに繋がります。
2つ目は、業務レベルに落とし込んだ経営理念を評価する環境づくりです。これはもちろん、企業に所属する人が意識すべきことですが、特に上層部や役職が高い人が率先して取り組むべき事象です。前述しましたが、この評価と環境づくりを疎かにしてしまうと、経営理念が浸透する事はありません。このパターンで取り組むべきことは、経営理念に基づいた行動をした際に人事評価を上げることや、賞賛する風土を創り上げることです。人事評価の中で、経営理念に沿った行動をした者が評価され、逆にいくら売上を伸ばしたからと言って、経営理念に反した行動をとってしまったら評価しない仕組みを導入しましょう。また、企業全体の環境づくりとして、何をすればいいかを自分の頭で考えて実践することを認め、奨励することも重要です。
経営理念を「実践」するときは、それぞれの従業員が業務レベルに落とし込んだ経営理念を実践することと、それぞれの従業員が業務レベルに落とし込んだ経営理念を評価する環境づくりを意識しましょう。
浸透
経営理念を浸透させるためのステップの4つ目は、「浸透」です。「浸透」は上に挙げたステップを取り組み続けることを指すステップです。
経営理念を浸透させるために大切な考えは、経営理念を浸透させるためのステップを取り組み続けることです。経営理念が完全に浸透するためには非常に時間がかかります。そのため、焦らない気持ちを持つことが大切です。
そして、一度経営理念が浸透したからと言って、途中で経営理念を浸透させるステップを辞めてしまうのは避けましょう。一度やめてしまうと、経営理念が浸透していない状況に戻ってしまいます。また、企業は人の入れ替わりがあります。そのため、企業には経営理念の理解度が均一ではなく、グラデーションがあります。この理解度の差を埋めるためにも、経営理念を浸透させる施策を始めたら、辞めずに取り組み続けることが大切です。
しかし、経営理念を浸透させる施策を現在の業務にプラスアルファとして行うのは、業務量が増加する原因になってしまい、従業員の負担になってしまいます。そのため、継続的に続けていくためには、簡単に経営理念を浸透させる仕組みづくりが必要となります。
経営理念を浸透させる仕組みづくりとしてオススメの手段は「クラウドサービスや研修を導入する」ことです。クラウドサービスは経営理念を浸透させるために有用な1on1コミュニケーションを効率的に行うことができます。また、研修は、今まで経営理念を意識して来なかった企業や経営理念を浸透させたい企業にオススメの方法です。
経営理念という文化が企業に無い状態で1から経営理念を導入することは非常に困難です。そのため、自社外のサービスを頼ることも1つの手段です。
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まとめ
今回の記事では、なぜ経営理念が浸透していないかについて説明しました。現代の日本に存在する企業の過半数が経営理念が浸透していないと感じており、経営理念が浸透することは非常に難しいことが分かりました。
そして、経営理念が浸透していない理由は3点挙げられます。
- 経営理念が認知されていない
- 経営理念の内容が時代と合っていない
- 経営理念をアウトプットする機会がない
この3点を克服し、経営理念を浸透させるためには次のようなステップを取ることが重要です。
少しでも経営理念が浸透することのお手伝いになれば幸いです。ここまでお読みいただきありがとうございました!
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