ビジネス社会グローバル化や労働環境の変化に伴い、従業員に主体性やコンプライアンスの順守が求められるようになりました。
そこで今注目されているのが、「クレド」です。
行動指針や企業文化を従業員に浸透させてより良い組織作りをするために、クレドは大きく貢献します。
本記事では、クレドの意味や理念との違い、効果、作り方、浸透方法、有名企業の事例について解説します。
目次
クレドの意味とは
クレド(credo)とは、ラテン語で「志」「信条」「約束」を意味する言葉です。
ビジネスでは企業全体の従業員が心がける信条や行動指針を示します。
これは、アメリカ大手企業であるジョンソンエンドジョンソンが考案したもので、コンプライアンス経営や企業の改革、組織の環境開発などを目的として作成されます。
クレドと理念の違い
「志」や「信条」と聞いて経営理念や企業理念と同じように考えてしまう人がいるかもしれません。
いずれも、企業が何のために存在しているのかを明文化したものである点は同じですが、相違点が二つあります。
文言の抽象度
企業(経営)理念は企業の進むべき方向や理想の姿を抽象的な文言で表していることに対して、全従業員が意識すべき指針を具体的な行動ベースまで落として表しているのがクレドです。
作成に関わる層の違い
通常、会社の理想の姿を企業(経営)理念は企業の創業者や経営層が定めますが、クレドは全社員が話し合いボトムアップ型で作られることが特徴となっています。
このようにクレドは実践的かつ具体的であり、各従業員にあと仕込みやすいものとなっているため、近年コンプライアンスの強化や組織開発を狙うビジネスパーソンから注目を浴びています。
クレド作成の効果
クレドを作成することで、具体的にどのような効果があるのでしょうか。
- コンプライアンスの順守
- 社員のモチベーション向上
- 主体性を持った人材の育成
本パートでは、クレド作成の効果を3つ解説します。
コンプライアンスの順守
クレド作成の効果の1つ目は、コンプライアンスが順守されることです。
近年クレドが注目されている背景には、2000年代に入り、世界で不祥事による企業の倒産が相次いで起こったことがあります。
食品偽装や検査データの改ざんなどのニュースが世間を賑わせ、企業には適切な行動指針が求められるようになったため、クレドを導入する企業が増えてきたのです。
クレドは全社員が実践すべき社員の行動指針であるため、クレドに則って行動すれば社員の倫理観は統一され、不正なども起こらなくなるでしょう。
さらに、理念より具体度が高いことで社員も行動に落とし込みやすく、より効果をコンプライアンス強化の期待ができます。
社員のモチベーション向上
クレド作成の効果の2つ目は、社員のモチベーションが向上することです。
クレドは社員の行動基準であり、社員が行動基準に沿って行動することで企業にとって最善の選択ができます。
また、クレドは具体的な文言で定められているため、社員によって認識の齟齬が起きることもありません。
このような明確な基準の上で行動ができることによって、社員は自信をもって業務に取り組めるでしょう。
主体性を持った人材の育成
クレド作成の効果の3つ目は、主体性を持った人材が育成されることです。
クレドは明文化されているため、人によって解釈の差が出にくい事が特徴です。
つまり、クレドには再現性があり、社員教育の現場で教科書として使用することが出来ます。
また、文章化されていれば、教育の現場を設けずとも常に自分で復習することができます。
したがって、現場で働く社員は企業の意に沿った判断を主体的に考えて行動できるという効果が見込まれます。
クレドの作り方
ここまででクレドの内容について詳しく解説していきました。それでは、実際に導入する際にどのような手順で作成していけばいいのでしょうか。
- クレド作成の目的を明確化する
- 社員の理想の姿を定める
- 経営層にヒアリングする
- 従業員にヒアリングする
- 文章化する
本パートでは、クレドの作り方の手順を5つ解説します。
クレド作成の目的を明確化する
クレド作成の手順の1つ目は、クレド作成の目的を明確化することです。
目的があいまいなままクレド作成を進めてしまうと、完成に至らない、若しくは作っても形骸化してしまう危険性があります。
なぜなら、社員に浸透させる際に、「なぜこの行動指針を守る必要があるのか」という理由説明ができないからです。
また、手順の1番最初に行う理由は、完成に至らないリスクを避けるためです。
目的が定まっていなければ、完成までのプロセスも見えてきません。
まずは、詳しい工数を計算する前に「企業の課題は何か」「クレドがその課題にどう貢献するのか」しっかりと考えたうえで行動に移りましょう。
社員の理想の姿を定める
クレド作成の手順の2つ目は、社員の理想の姿を定めることです。
まずは、発案者本人や発案チームが自分自身で理想の姿を考えましょう。
- 理念に照らして、どのような姿を目指すべきなのか
- 自社の現状を見てどのような文化が築かれているか
- どのような部分に理想との乖離があるか
以上の点を考えます。
後述の経営層や従業員へのヒアリングの内容も以上とさほど変わりはありませんが、事前に発案者が理解を深めることで、階層の違いによる認識のギャップなどに気づきやすくなり、集約する際に役に立つでしょう。
経営層にヒアリングする
クレド作成の手順の2つ目は、経営層にヒアリングすることです。
クレドと企業理念は密接した関係にあるため、理念を発信する立場である経営層の意見が必要となります。
したがって、経営層自らが作るパターンでなければ、経営層に承認をもらい作成、ヒアリングを始めましょう。
具体的には、クレドをつくる目的を伝えたうえで、
- 自社の課題
- 理想の姿
をヒアリングして、自社の成長を促す行動指針とは何かという認識をすり合わせましょう。
従業員にヒアリングする
クレド作成の手順の4つ目は、従業員にヒアリングすることです。
クレドは全従業員の行動指針となるため、従業員の現状を知る必要があります。
完成した際に現場の状況とかけ離れたものが生まれた場合、不満が上がり浸透しないでしょう。
したがって、主に、
- 現場で感じている課題
- 目指すべき理想の姿
- 他社よりも長けているところ
をヒアリングして、集約させましょう。
クレドを文章化する
クレド作成の手順の5つ目は、クレドを文章化することです。
経営層や従業員へのヒアリングを集約出来たら、最後は文章化しましょう。
理由は単純で、文章化されていたらいつでも社員が確認することができますし、再現性があるからです。
読み手になるのは従業員で、明確に行動に移せるようにするために、
- 具体的な行動に落とし込めているか
- 文章が冗長になっていないか
- 他社と差別化されているか
以上のチェックポイントを確認し、文書を構成しましょう。
クレドの浸透方法
クレドは作成しただけでは効果は期待できずません。
従業員が確認し、行動に落とし込むことでクレドを作成した効果が出てくるのです。
したがって、クレドを社員に浸透させる手段が必要になってきます。
- クレドカードの配布
- ミーティングで議論しあう
- 従業員の目に止まる場所に掲示する
- 会社HPに記載する
- 評価項目に加える
本パートでは、クレドの浸透方法を5つ解説します。
クレドカードの配布
クレドの浸透方法の1つ目は、クレドカードを配布することです。
文章化されたクレドを紙やプラスチックカードに記載して従業員に配布する方法です。
ポイントは、携帯できるサイズで作成することです。持ち運び可能であれば、出先などオフィスを離れていても確認できます。
社員証などとあわせもって、ケースなどに入れておくとよいでしょう。
ミーティングで議論しあう
クレドの浸透方法の2つ目は、ミーティングで議論しあうことです。
まず、クレドを全体に説明する機会が必要となります。
一回きりである必要はないので、全社ミーティングで経営層から発信したり、朝礼で定期的に発信してもいいでしょう。
しかし、説明するだけでは一方的で、理解を最大限深められないため、議論を取り入れてみてもいいかもしれません。
実際にリッツカールトンでも朝礼時にディスカッションをしており、以下のような内容で議論しています。
- クレドの文章をどのように理解しているか?
- ○○な場面に直面した際にどのように行動しますか?(ケース問題)
- この部分を具体的に言うとどういう意味になるか?
- ディスカッションをする前に知っておかなければならない知識はあるか?
以上のような議論を繰り返すことで、クレドへの理解を深めることができます。
従業員の目に止まる場所に掲示する
クレドの浸透方法の3つ目は、従業員の目に止まる場所にクレドを掲示することです。
ポスターなど掲示物として社内に貼っておけば、自然に従業員の目に入ります。
「自然に」というのが重要なポイントで、クレドを議論しあったり、携帯して参照せずとも、社内で嫌でも目に付くことによって社員の意識に行動指針が刷り込まれていくのです。
したがって、オフィスの中で全従業員が目につきやすい場所に掲示しましょう。
会社HPに記載する
クレドの浸透方法の4つ目は、会社HPにクレドを記載することです。
カードやポスターのオンライン版であると考えるとメリットが理解しやすいです。
常に電子機器を持ち歩いている現代ではいつでも参照可能という点で大きな効果を発揮するでしょう。
加えて、社員以外も閲覧できるというのが大きなポイントです。
企業の行動指針が公開されていることで、顧客も企業との取引に安心感が出ます。
評価項目に加える
クレドの浸透方法の5つ目は、クレドを評価項目に加えることです。
クレドの実践度合いを評価項目に加えることで、従業員がクレドに注目する動機づけとなります。
具体的な手法としては、目標設定の際に、クレドに沿ってどのような行動を心掛け、実践するのかを宣言してもらい、評価の際にどの程度実践できたのかを評価するといった形となります。
有名企業の具体的事例
クレドとは具体的にどういう文言で作られているのか、まだイメージがわかない方もいるかもしれません。
- ジョンソンエンドジョンソン
- リッツカールトン
本パートでは、有名企業のクレドの具体的事例を2つ紹介します。
ジョンソンエンドジョンソン
クレドの具体事例の1つ目は、ジョンソンエンドジョンソンです。
クレドという概念の生みの親であるジョンソンエンドジョンソンのクレドは「Our Credo」と呼ばれており、企業として遵守すべき事柄や方向性の優先順位を示しています。
我々の第一の責任は、我々の製品およびサービスを使用してくれる患者、医師、看護師、そして母親、父親をはじめとする、すべての顧客に対するものであると確信する。顧客一人ひとりのニーズに応えるにあたり、我々の行なうすべての活動は質的に高い水準のものでなければならない。我々は価値を提供し、製品原価を引き下げ、適正な価格を維持するよう常に努力をしなければならない。顧客からの注文には、迅速、かつ正確に応えなければならない。我々のビジネスパートナーには、適正な利益をあげる機会を提供しなければならない。
我々の第二の責任は、世界中で共に働く全社員に対するものである。社員一人ひとりが個人として尊重され、受け入れられる職場環境を提供しなければならない。社員の多様性と尊厳が尊重され、その価値が認められなければならない。社員は安心して仕事に従事できなければならず、仕事を通して目的意識と達成感を得られなければならない。待遇は公正かつ適切でなければならず、働く環境は清潔で、整理整頓され、かつ安全でなければならない。社員の健康と幸福を支援し、社員が家族に対する責任および個人としての責任を果たすことができるよう、配慮しなければならない。社員の提案、苦情が自由にできる環境でなければならない。能力ある人々には、雇用、能力開発および昇進の機会が平等に与えられなければならない。我々は卓越した能力を持つリーダーを任命しなければならない。そして、その行動は公正、かつ道義にかなったものでなければならない。
我々の第三の責任は、我々が生活し、働いている地域社会、更には全世界の共同社会に対するものである。世界中のより多くの場所で、ヘルスケアを身近で充実したものにし、人々がより健康でいられるよう支援しなければならない。我々は良き市民として、有益な社会事業および福祉に貢献し、健康の増進、教育の改善に寄与し、適切な租税を負担しなければならない。我々が使用する施設を常に良好な状態に保ち、環境と資源の保護に努めなければならない。
我々の第四の、そして最後の責任は、会社の株主に対するものである。事業は健全な利益を生まなければならない。我々は新しい考えを試みなければならない。研究開発は継続され、革新的な企画は開発され、将来に向けた投資がなされ、失敗は償わなければならない。新しい設備を購入し、新しい施設を整備し、新しい製品を市場に導入しなければならない。逆境の時に備えて蓄積を行なわなければならない。これらすべての原則が実行されてはじめて、株主は正当な報酬を享受することができるものと確信する。
ジョンソンエンドジョンソン公式HPより引用
このように、優先順位として企業利益より顧客を第一としており、このような姿勢が地域社会に根付く企業文化を形成しているのです。
リッツカールトン
クレドの具体事例の2つ目は、リッツカールトンです。
リッツカールトンのクレドは、「ゴールドスタンダード」と呼ばれています。
文章は以下の通りです。
リッツ・カールトンはお客様への心のこもったおもてなしと快適さを提供することをもっとも大切な使命とこころえています。
私たちは、お客様に心あたたまる、くつろいだ、そして洗練された雰囲気を常にお楽しみいただくために最高のパーソナル・サービスと施設を提供することをお約束します。
リッツ・カールトンでお客様が経験されるもの、それは感覚を満たすここちよさ、満ち足りた幸福感そしてお客様が言葉にされない願望やニーズをも先読みしておこたえするサービスの心です。
リッツカールトン公式HPより引用
要約すると、「ホテルに来たお客様が気分がいいと思ってくださることが一番重要」という内容が記載されており、この文章に続く「モットー」と「サービスの3ステップ」という項目で具体的な行動に落とし込んで記載しています。
モットー
ザ・リッツ・カールトンホテルカンパニーL.L.C.では「紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女です」をモットーとしています。この言葉には、すべてのスタッフが常に最高レベルのサービスを提供するという当ホテルの姿勢が表れています。
サービスの3ステップ
1.あたたかいあたたかい、心からのごあいさつを。
2.お客様をお名前でお呼びします。一人一人のお客様のニーズを先読みし、おこたえします。
3.感じのよいお見送りを。さようならのごあいさつは心をこめて。お客様のお名前をそえます。
リッツカールトン公式HPより引用
また、この指針を社員に浸透させるために、クレドカードを全社員に配布したり、朝礼でクレドに関してディスカッションを行うそうです。
まとめ
近年クレドを導入し組織開発に取り組んでいる企業が増えてきました。
そういう意味では、他の企業の取り組みを見て参考にできるところが多くあるでしょう。
しかし、あくまでクレドをその会社特有のものであるという理解を忘れないでください。
他社との差別化を図りつつ目的を果たすために、ぜひこの記事を読んでクレド作成に取り組んでみてください。
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