新型コロナウイルスの流行に伴い、テレワーク(リモートワーク、在宅ワーク)は急速に普及しました。
テレワークはメリットも多い一方で、そのデメリットを解消できない企業も少なくありません。
テレワークの効果を享受しながら、デメリットを解消するためにはテレワーク下のマネジメントを見直す必要があります。
本記事では、テレワーク下のマネジメントの課題と効果、手法について紹介します。
目次
テレワークの効果・メリット
オフィス維持費(賃貸料金、光熱費、通信費用)の削減
オフィス縮小によって固定費を削減する事が可能です。コロナの影響でオフィス拡大を中止し、縮小することを決断した企業は少なくありません。
ザイマックス総研の「オフィスマーケットレポート」によれば、新型コロナウィルスで直近1年は停滞傾向にあるものの、特に都内においては、依然として賃料は高止まりしており、企業側の負担は増大傾向にありました。
その様な中で、オフィス縮小によって、固定費を削減する選択を採用する企業も現れ始めました。
2021年1月の電通のオフィスビル売却は大きなニュースとなりましたが、今後は企業規模を問わず、働き方の多様化と財務体質のスリム化を目的として、オフィスの縮小を検討するケースが増えていくと考えられます。
従業員の交通費の削減
販売管理費の削減に有効です。
例えば、定期代や営業活動のための移動費が1人あたり平均3万円かかっている場合、従業員100名の会社では、3万円×12ヶ月×100名=年間3,600万円のコスト削減が可能となります。
新型コロナウィルスの影響で、景気の先行きが見えない中で、テレワークの強化は、キャッシュフローの改善に大きく貢献すると言えるでしょう。
多様な人材の獲得
近くに住んでいる人材だけではなく、地方や海外在住の優秀なスタッフを雇用することが可能になります。
また、テレワークの普及により、地方や郊外への移住が増加傾向にあり、2020年7月以降、都内は転入者を転出者が上回る「転出超過」となっています。
都市部の優秀人材において、「地方×テレワーク」という働き方がトレンドになりつつあると言えるでしょう。
したがって、テレワークを導入しない事による採用上の機会損失のリスクが高まっていると言えます。
従業員のワークライフバランス向上と離職率の改善
通勤時間の削減で趣味に充てる時間や家族との時間が生まれます。
都市部における通勤時間は片道約1時間であると言われており、平均的な社会人は約2時間を毎日通勤に充てている事になります。
テレワークを導入すると、単純計算で1日2時間のゆとりが発生する事になり、ワークライフバランスの改善に大きく貢献する事でしょう。
また、1日生活にゆとりができることでストレスが軽減し、離職率の改善という副次的な効果が期待出来ます。
会社自体のPR
テレワークを実施しているという企業のブランディングが可能です。
求職者の約3/4がテレワークを希望しているというデータもあり、一部の大手やスタートアップでは積極的にテレワークを導入している事から、リモートワークを実施しない事が「非先進的」というブランドイメージに繋がりかねないでしょう。
事業内容や職種によっては、導入が難しいケースもありますが、対外的なイメージも考慮をした上で、テレワーク導入の意思決定をする事が重要です。
紙ベースでの管理からデジタル化(DX)
テレワークになることで紙でのやりとりが困難になることで必然的にデジタル化が進みます。
非対面では、FAXも含めた紙のやり取りは、即時性や対応コストにおいて極めて非効率な手法となってしまいます。
SaaSの様なWeb上で個人情報やコミュニケーションをやり取りする方が効率的なため、デジタル化のメリットを感じやすい状況になりつつあると言えるでしょう。
BCP対策
台風や雪のなどの自然災害や、大地震やテロ攻撃などの緊急時に事業の損害を最小限にするため早急な復旧という意味でテレワークは有効です。
象徴的な例として、コールセンター業界が挙げられます。
これまでは、セキュリティやコンプライアンス上の問題から、リモートワークやクラウドサービスの活用が極めて難しい業界であると言われてきましたが、緊急事態宣言の影響により一部でテレワークが解禁されています。
全国に拠点を分散させるというのがこれまでのBCP対策でしたが、リモートワークの導入が進めば、拠点を増やさずにBCP対策を行うという意思決定も可能になると言えるでしょう。
テレワーク下のマネジメントにおける課題・デメリット
情報漏洩リスクの増大
情報漏洩による企業の損失は計り知れません。
セキュリティソフトの導入、VPN通信環境の整備とともに機器等の紛失やネットワークへの留意等、従業員の意識改革が必要です。
特に、従業員への意識浸透については、メールやチャットによるテキストコミュニケーションだけではその重要性を十分に伝える事が難しいケースがあります。
Web会議システムや動画や、場合によってはアンケート調査等を活用しながら、適切なセキュリティリテラシーを組織に浸透させる事が重要となります。
労務管理の難しさ
テレワークは通勤時間の削減による自由時間創出とは裏腹に、仕事とプライベートの境目が無くなり延々と働いてしまう人も出てきます。
出勤していないことで物理的に制限をかける(帰るように促す、パソコンの電源を定時で落とす等)ことができなくなるので、管理が難しくなります。
人事評価の難しさ
オフィス勤務と比較すると、テレワークは仕事のプロセスや「姿勢」が見にくくなるため、人事評価が難しくなる傾向になります。
定量的な評価は可能ですが、定性的な評価は新人マネージャーにとっては困難になる可能性が高いと言えるでしょう。
ITによるプロセスの見える化や、上司/部下間の目標・ゴールの合意等に取り組む事によって、テレワーク下でも適切かつ納得度の高い評価が可能となります。
コミュニケーションの難しさ
オンラインコミュニケーションのためのツールの整備やルール化、計画的なコミュニケーションが必要になります。
また、Web会議やテキストコミュニケーションでは、対面よりも感情の機微が分かり辛くなるため、ミスコミュニケーションが起きやすくなります。
ミーティング等の会議体以外にも雑談やワークショップ等の「緩い」コミュニケーションの場を設ける事によって、非対面コミュニケーションのデメリットを解消していく仕組みを作っていく必要があります。
ネットワークなどの作業環境整備の必要性
特に自宅環境下では会社での環境と比較してネットワークが不十分であることが多くあります。
例えば、マンションでの集団契約の状態だと周囲の住民のネットワーク使用状況に依存してネットワーク速度が不十分になってしまうこともあります。
また、デスクや椅子がない場合もあるため物品の準備も必要かもしれません。
企業によっては、テレワークによって、交通費や定期代分で浮いたコストを「テレワーク手当」として従業員に支給し、より生産性の高い環境構築の支援を行う事例もあります。
自己管理の難しさ
周囲の目がなくなるため自己管理が難しくなる傾向があります。
テレワーク経験者の8割以上が、自己管理の重要性を認識する一方で、約4人に1人が自己管理に課題を抱えているという統計データもあり、個人の意識だけでなく、業務進捗やモチベーションを維持する仕組みを導入する事が重要となります。
また、テレワークは、公私の境目が曖昧化する事で、実質的な労働時間が伸びがちであるというデータもあります。
マネージャーはメンバーの稼働状況についてオフィス出社時と同等以上の注意を払い、場合によっては無理・無茶を抑制するコミュニケーションを取る事が必要となるでしょう。
新人へのOJTの難しさ
新人に対するOJTもリモートで行う必要があるので、教育体制の整備やメンター制度の導入が必要になります。
従来型のOJTとは異なり、常に先輩やメンター社員の近くで進捗をお互いに確認するという事が難しい点には十分に留意する必要があります。
エンゲージメント維持の難しさ
空間共有や対面でのコミュニケーションが物理的に難しくなることから居場所を見出せなくなり、エンゲージメントが低下することがあります。
VMV(ビジョン・ミッション・バリュー)について対話・考える機会を全社的に設けたり、貢献者に対する表彰制度などを検討する事も重要となるでしょう。
テレワーク下のマネジメントのポイント
セキュリティに対する教育と意識付け
ネットワーク整備は情報システムの部署管轄ではあるかと思いますが、各メンバーへの情報管理の意識づけは各マネージャーの役割になります。
具体的に何をしてはいけないのか、会社や個人にどのような影響があるのか、理解してもらうための教育が必要になります。
動画マニュアル作成ツールで管理すれば、履修状況も見える化可能です。
スケジュールやタスク管理の強化
スケジュール管理やタスク管理が必要であり、それらの情報が全体に公開されている必要があります。
カレンダーツールの利用やタスク管理ツールの利用、業務日報ツールの利用がオススメです。
テレワークでも定性評価が可能な仕組みの導入
テレワーク下では、定性面の把握が難しくなり、評価方法の変更や修正が余儀なくされます。
まずは、KPI等の指標を見直す事によって、チームの状態をより精緻に把握出来るように定量評価に改善に着手する事が重要です。
一方で、「数値のみ」に頼った評価は、行き過ぎた成果主義やこれまで培ってきた組織文化を破壊するリスクもあるため、チャットツールやピアボーナスの導入によってチーム内の貢献を見える化し、評価の際に参考にする事が有効です。
多様なコミュニケーションチャネルの活用
コミュニケーションの難易度が上がる原因は、対面でないことによる情報の制限にあります。
メラビアンの法則では、コミュニケーションにおいて視覚情報が55%の割合で伝わるとされており、人は発せられた言葉自体だけでなく細かなニュアンスを表情や声のトーンから読み取っていることがわかります。
そのため、ニュアンスを伝えるためにWeb会議システムの導入やコミュニケーションツールによる絵文字の使用等の対策をとることでコミュニケーションがとりやすくなると考えられます。
作業環境の評価と改善
まず、自宅環境でのネットワークが十分なのかを知る必要があります。無料で通信速度を測定出来るツールが数多くありますので、ぜひ利用してみましょう。
また、ネットワークや作業環境の整備には費用が発生します。予めテレワーク手当を設定している企業も少なくありません。
また、子育て世代がいる場合はベビーシッター等のサービスが使えるよう配慮をしても良いかもしれません。
業務状況の可視化
人の目がないことで業務に集中出来ない、モチベーションを維持出来ないというケースは少なくありません。
シューマツワーカー社の「テレワークに関するアンケート調査」では、テレワーク経験者の25%が「怠けてしまうこと」をテレワークで苦労した事として挙げています。
対策としては、バーチャルオフィスや業務日報の提出等で自分の1日の動きが見える化したり、振り返る機会を設ける事が有効です。
OJTのためのシステム環境の整備
OJTもオンライン化するためWeb会議システムの導入が必須となるでしょう。また、社内の動画マニュアル作成ツールを利用することで効率化を図れます。
エンゲージメント施策の強化
エンゲージメントを保つためには、会社のmission/vision/valueはもちろん、今動いている仕事の背景や意図を正確に言語化して伝える必要があります。
また、各メンバーが会社にとって必要な存在であることを1on1で伝えること、孤独とならないようにメンター制度の導入など対策も有効です。
また、エンゲージメントサーベイツールを導入することでメンバーのエンゲージメントを見える化し、サポートを補助してくれます。
エンゲージメントサーベイは遅行指標となりやすいので、業務日報や週報などの定期的なテキストでの業務報告で現状確認するのもオススメです。
1on1の導入
テレワークでのコミュニケーション不足を補う方法として「1on1」が注目を浴びています。
1on1のポイントは心理的安全性が保たれていること、アジェンダが用意されていること、モチベーション・エンゲージメントを高めることです。
テレワーク下においてはWeb会議ツールを使う、オンラインホワイトボードを利用する、コミュニケーションツールの通知をOFFにするなどの工夫が必要です。
雑談自体は生産性をあげると言われていますが、貴重な1on1の機会でなくても集団での雑談でも効果はあります。
緊張感があり心理的安全性の確保が難しいと判断した場合は、1on1の際にも雑談を計画的に組み込みましょう。
テレワークを効率化するマネジメントツール3選【無料あり】
Slack(ビジネスチャット)
Slackは、2013年に公開された全世界で利用されているコミュニケーションツールです。
チャット機能だけではなく、ファイル共有や通話など業務上のコミュニケーションに必要な機能が網羅されており、リモートワークを導入した際には、まずはSlackを導入すれば良いといっても過言ではありません。
また、豊富な絵文字が用意されており、通常はテキストでは伝え辛い非言語的なコミュニケーションが取れる点も特徴です。
さらに、ツール連携も豊富であり、Slackという単一のプラットフォーム上であらゆる業務を完結する事が可能です。
以下に紹介するZoomとAsanaもSlack連携が実装されています。
Zoom(Web会議)
Zoomは、2013年に公開された全世界で利用されているWeb会議システムです。
世の中に普及しているWeb会議ツールの中でも、高音質な音声出力と高品質なビデオ出力が特徴で、より対面の感覚に近いオンラインコミュニケーションが可能です。
テレワーク下におけるマネジメントにおいては、1on1等で活用されるケースが多く、画面共有やホワイトボード等の機能がコミュニケーションを強力にサポートします。
Slackと連携を行う事で、Slack上から簡単にWeb会議を始める事が可能です。
Asana(タスク管理)
Asanaは、2008年に公開された全世界で利用されているタスクマネジメントツールです。
タスクに締切日や担当者を設定する事が可能なため、マネージャーは、各メンバーが持っている業務の内容や締切に対する進捗率を簡単に確認する事が出来ます。
また、一度設定したタスクの担当者の変更が可能なため、納期やメンバーの稼働状況に応じて、工数配分を簡単に調整する事が出来ます。
Slackと連携を行う事で、Slack上からタスクを設定したり、完了したタスクについてSlack上に通知させる事が可能です。
3つのルールで成功に導くリモートオンラインマニュアル
Co:TEAMでは、テレワークでも成果を出すための重要なポイントをわかりやすく整理したマニュアルを制作しました。
テレワーク下におけるマネジメントに課題を感じている、より効果の高いマネジメント手法を模索している方はぜひご覧ください。
Co:TEAMとは?
Co:TEAM(コ・チーム)とは、組織に発生する「仕事への認識」のズレを可視化、注力すべきポイントを明確にすることで最適なコミュニケーションを可能にする、「プレイングマネジメント支援」サービスです。
Co:TEAMを活用する事で、マネージャーは、チーム及びメンバーの目標と目標に紐づくアクションの進捗度と優先順位を簡単に確認する事が出来ます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
2020年4月の緊急事態宣言以降、テレワークの導入が一気に進む中、その功罪が明らかになりつつあります。
特に、セキュリティやコミュニケーション面のリスクは無視出来ませんが、固定費の削減や採用力の強化、生産性の向上など享受出来るメリットも少なくありません。
制度やシステム等のハード面と社内のコミュニケーションの活性化等のソフト面の施策を組み合わせながら、自社に合ったテレワークのあり方を模索し、持続的な競争力を確保していく事が重要であると言えるでしょう。
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