少子高齢化社会により人材の確保が難しくなっている中、注目を集めているタレントマネジメント。
そんなタレントマネジメントが「なぜか失敗する」とお悩みの方やタレントマネジメントを導入することを検討している方向けに
タレントマネジメントが失敗する要因やデメリットについて説明していきます。
タレントマネジメント(TM)とは
タレントマネジメントとは「適切なスキルを持った適切な人材を適切な職務に配置すること」を目的として、従業員の様々な要素を数値化・データ化することで目的を達成しようとするマネジメント手法です。つまり、従業員個人の特性にあった業務を任せることで、業務の効率化を図るシステムが、タレントマネジメントです。
タレントマネジメントは、少子高齢化社会による人材不足に対応するため、人材を適材適所で配置することで、1人あたりの生産性を上げることができると注目されました。
タレントマネジメントの歴史
タレントマネジメントは、大手コンサルティングファームのマッキンゼーが2001年に発売した『The War for Talent(人材育成競争)』をきっかけに広まりました。
これにより「人=コスト」ではなく「人=資源」という見方のヒューマン・リソース・マネジメント(HRM)への転換が見られるようになります。
HRMは経営戦略と人的資源とを結びつけて考える手法で、経営戦略達成のために人的資源の生産性を高めるべく、採用や育成への投資に注力を始めたり、成果主義を取り入れたりする動きが生まれました。
高度経済成長期の日本では「人=コスト」という考え方が基本でしたが、バブル崩壊以後、従業員1人当たりの生産性の重要度が増し、タレントマネジメントが注目されるようになりました。
さらに、現代の少子高齢化社会による人材不足から、さらに注目されるようになりました。
タレントマネジメントの日本での現状
出典)一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(2023)『企業IT動向調査報告書2023』より作成
日本でのタレントマネジメントの現状は、売上金1兆円以上の企業でタレントマネジメントを導入している企業が60%で、検討段階まで含めると90%以上となり、大企業を中心に導入されていることがわかります。
一方で、売上金100億円未満の企業では、導入している企業は5.2%で、検討中を含めても22%程度にとどまります。
また、日本において売上高100億円以上の企業は企業数全体の0.4%程度であるため、ほとんどの企業はタレントマネジメントを導入していないことになります。
詳しくは後述しますが、タレントマネジメントは導入・運用コストが非常に高いため、このような結果になっていると推測されます。
データだけでもタレントマネジメントは大企業向きの施策であり、日本の99.7%を占めるという中小企業には不向きであると読み取れるでしょう。
タレントマネジメントのデメリット
それでは、タレントマネジメントのデメリットについて説明していきます。
従業員の理解を得るのが難しい
まず、タレントマネジメントを導入する際に従業員の理解を得ることが不可欠ですが、自分が数値化されるという抵抗感から従業員の同意を得ることが非常に難しいです。
自分の様々な要素を数値化され、管理されることで、監視されているという気持ちが生じることは自然なことでしょう。
従業員の理解を十分に得られていないと、組織へのエンゲージメントが下がり、最悪の場合離職につながってしまいます。
人を正確に数値化することが難しい
人を数値化するには、多様な視点から定量的に要素を測定する必要があります。しかし、その数値化が非常に難しいのです。
代表的な項目は、年齢や勤務年数などの「基本的情報」、業務に関連するスキルやコミュニケーション能力などの「能力・スキル情報」、従業員の評価履歴や実績などの「職務内容・実績情報」、業務時間や欠勤早退などの「勤怠情報」、従業員のキャリアビジョンや性格などの「価値観・マインド情報」があります。
「基本的情報」や「勤怠情報」など比較的簡単に定量化できるものがある一方で、「能力・スキル情報」や「価値観・マインド情報」といった数値化が難しいものもあります。
しかし、タレントマネジメントを効果的に活用するために重要となるものは「数値化が難しい情報」です。そもそも価値観などが数値化することに適していないことは皆さんも感じるでしょう。
このような数値化が適していない情報を無理に数値化することで、本来の情報が歪んだ形で数値として現れてしまうため、本来の目的である「適材適所な人材配置」の達成は非常に難しいでしょう。
運用が難しい・時間がかかる
タレントマネジメントは運用が非常に難しく、運用に時間がかかります。
タレントマネジメントを適切に運用するには、数値化された人材情報を適切に分析する能力を持つ人が社内に必要になります。上述の通り、数値化も完璧でないため、数値の裏側にある情報も加味して分析するという非常に高度な分析力が必要になります。そのような高度な分析力を持つ人材は少ないだけでなく、完璧にこなすことができる人はいないと言っても過言ではないでしょう。
また、情報を収集するにあたっても非常に時間がかかります。タレントマネジメントのソフトを導入すれば、ある程度は効率化することはできますが、従業員のデータを整理したり、従業員にアンケートに回答してもらったりと、タレントマネジメントを活用するためのデータを収集するのにも一苦労です。
いざタレントマネジメントを導入しようと思っても、活用できるのが1.2年後であるという可能性も高いでしょう。
導入・運用コストが高い
タレントマネジメントを導入・運用するには、金銭的・人的コストが非常に高いです。
まず、導入コストについては、タレントマネジメントのシステムを導入する場合が一般的ですので、そのシステムを導入する際の契約金が必要になります。また、タレントマネジメントを活用するには上述の通り、数値化をするために様々な準備をする必要がありますので、それに対する人件費が必要になります。
運用コストについては、タレントマネジメントサービスの月額の利用料や適切に運用するための専門の人材が必要になります。
これらのことから、タレントマネジメントを導入し運用するのに膨大な費用が必要になることがわかると思います。
これらのコストをかけてもタレントマネジメントが成功する可能性は低いです。その理由は後述の「タレントマネジメントが失敗する理由」で詳しく説明していきます。
タレントマネジメントのメリット
上記のようなデメリットがある中でもタレントマネジメントが注目されている理由は下記のようなメリットがあると考えられているからです。
- 人材をデータ化し適材適所な人材配置ができる
- 人材をデータ化することにより効果的な人材育成ができる
- 適材適所の人材配置により従業員エンゲージメントが向上する
実際にタレントマネジメントを完璧に実践することができれば、上記のメリット・効果を受けることができますが、多くの企業はその効果を実感する前に失敗してしまいます。
失敗する要因については、下記の「タレントマネジメントが失敗する理由」で詳しく説明しますので、そちらを続けてご覧ください。
タレントマネジメントが失敗する理由
ここからはタレントマネジメントが失敗する要因について説明していきます。
タレントマネジメントが成功する条件
タレントマネジメントシステムが成功する条件としては以下の要素を満たしている必要があります。
・目標が明確・適切である
・マネージャーが評価を熟知し、適切に運用できる
・全マネージャーで評価の基準を統一する
・情報を正確に管理し、分析することができる
・上司・マネージャーから適切なフィードバックを与えている
目標設定がバラバラ
タレントマネジメントシステムは、データの項目に「職務内容・実績情報」とあるように目標管理・業績管理システムと併用して実施する場合が多いです。(主にはMBO(Management by Objectives、目標管理制度)
しかし、目標の設定の仕方に問題がある場合、タレントマネジメントシステムはうまく機能しません。
例えば、同じ能力を持つ従業員でも、一方は簡単な目標を、もう一方は難しい目標を立てる場合があります。簡単な目標を立てた従業員は目標を達成し、もう一方は目標の80%しか達成できませんでした。
達成率で比較した場合、例え難しい目標を立てた人と簡単な目標を立てた人の成果が同じでも、簡単な目標の方が評価されることになってしまいます。
また、目標でも定量化したり、達成率を測定することが難しいものもあるでしょう。
このようなことから、タレントマネジメントを適切に運用するには、目標設定を統一化する必要がありますが、それは現実的には非常に難しいといえます。
上司・マネージャーによって評価が異なる
数値化された業績でも、最終的には非常に主観的な評価になってしまうことも失敗する要因です。
同じ業績を見ても、上司によっては「期待通り」と判断する一方で、別の上司は「期待以上」と判断する場合もあります。
従業員から見ても、同じような業績を残しているのに、評価が違うとなると従業員エンゲージメントが下がってしまう結果になるでしょう。
これについても上司・マネージャーに依存しない統一した客観的な評価を実現する制度が必要ですが、結局は人が人を評価するので、本当の意味での客観的な評価を実現することは不可能に近いでしょう。
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タレントマネジメントの指揮系統が人事部にない
上記の目標管理や評価制度を全社で徹底するために人事部に指揮機能を持たせる必要があります。
人事部に指揮系統を持たせている日本の企業は少ないため、その組織改変から実施する必要があります。
また昨今、HRBP(戦略人事)と呼ばれる人たちが注目されていますが、まさにタレントマネジメントを実現するにはHRBPのように人事部主導で組織の戦略を実現することが必要です。
しかし、実際のところそれをこなすことができる人材が少なく、人事部の再教育から始める必要があり、非常に時間がかかってしまいます。
どちらもタレントマネジメントを効果的に活用するためには必要不可欠な要素ですが、実現するには非常に時間がかかってしまいます。
このようにタレントマネジメントを実現できればその効果は非常に魅力的ですが、その基礎となる部分の構築が非常に難しく、時間がかかるものなので、効果をあまり実感することなく失敗に終わってしまう企業も少なくありません。
脱タレントマネジメントの流れ
上記の失敗する理由から徐々に脱タレントマネジメントの流れができてきています。その流れになったタレントマネジメントを取り巻く要素の限界について説明していきます。
MBO(目標管理制度)の限界
タレントマネジメントの中核をなす1つにMBOがありますが、そのMBOが限界を迎えています。
MBOが効果的であるために前提となるのが
・MBOシステムが公正で客観的である
・上司の評価を受け、点数をつけられることで部下の業績は向上する
・従業員はお金でモチベーションが湧く
・従業員は不正をしない
というものです。
しかし、上述の通り、目標管理はバラバラで、目標達成への評価についても上司によって異なる場合が往々にしてあるため、MBOシステム自体が公正で客観的でないものであることは明らかでしょう。
例えば、カスタマーサポート業務に関して、MBOを実践すると「サポートの対応数」が主な目標になるでしょう。しかし、本来であれば、サポート業務が発生しない方が製品として健全な状態なはずです。
仮にサポートが発生したとしても、できるだけ1回のサポートでお客様に満足してもらう必要があります。
つまり、サポートが必要でない製品として健全であればあるほど、サポート業務が発生する数が減ります。しかし、サポートの数が減るということは目標である「サポートの対応数」が達成できなくなり、カスタマーサポートの従業員の評価は低くなります(会社としてサポート業務が発生しないことは嬉しいはずなのに)。
そのような事態が起こるため、従業員はできるだけ1回のサポートで終わらないようにあえて不親切なサポートをすることにより、お客様が何度もサポートを求めるようにするようになります。
その結果として、お客様の満足度は下がり、会社として不幸な結果に終わってしまうでしょう。
この例えからでも、会社の業績を上げるためのMBOはその目的を果たすことなく、悪い方向に従業員を導いてしまう可能性が高いため、MBOの制度としての欠陥が明らかになっています。
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業務考課などの評価の運用工数が膨大
タレントマネジメントは評価制度とも連動しています。上述の通り、その評価基準は全社で統一され、公正である必要があります。
そのため、期末になれば、上司やマネージャーは評価を行うための事務作業に業務時間のほとんどを費やさなければなりません。また、評価をすり合わせるための会議に多くの時間を使ってしまうでしょう。
評価の作業ではなく、評価をするための準備作業が大多数を占め、本来するべきはずの部下へのフィードバック等のマネジメント業務が疎かになってしまいます。
その非効率さから、脱タレントマネジメントの流れが出てきているのでしょう。
従業員のモチベーションを下げる
タレントマネジメントの効果に「従業員のエンゲージメントが向上する」とありますが、逆の結果に終わってしまうことも少なくありません。
従業員は、数値化された評価が自分の期待以下だった場合、明確で公正な根拠がない限り評価を受け入れることができないでしょう。
しかし、そもそもタレントマネジメントを取り巻く目標管理や評価制度が完璧に公正で客観的であることは不可能に近いため、従業員は納得しないまま評価を受けることになります。そのようなことから、組織への不信感が募り、エンゲージメントが下がり、最悪の場合退職に至るでしょう。
また、多くの評価制度は、1年や半年のような長期間の成果によるものです。しかし、期初の失敗を元に評価が低くなると「もっと早く言ってくれれば改善できたのに…」とそんな前のことを言われても納得できないという風になってしまいます。
これを改善するためには、上司が短期間で部下に対してフィードバックをすることが最も効果的で、業績も向上しますが、タレントマネジメントを取り巻く環境が短期間のフィードバックを難しくしています。
時代の潮流はパフォーマンス・マネジメント
タレントマネジメントは正しく活用できれば、その効果は絶大なものですが、そのシステムを運用するに当たって現実的に不可能な要素がたくさんあることから、脱タレントマネジメントの流れが現れています。そもそも、人を数値化して本当の意味で客観的に評価することは不可能なのです。
そんな中、注目を集めているものが「パフォーマンス・マネジメント」です。
パフォーマンス・マネジメントは現場起点で人事評価を実践するマネジメント手法です。人事部で現場を指揮系統するのは難易度が高く、現場を知っているのは現場ということから、評価の中心を現場に移したのです。
パフォーマンス・マネジメントは目標管理・評価運用の数々の課題に対し「高頻度の1on1ミーティング」で短期間で評価を行う仕組みです。また、高頻度の1on1により評価をするための情報収集を日常的にできるようになり、評価のための準備作業が非常に少なくなります。
また、従業員も上司からフィードバックを日常的に受けることができるようになり、評価の納得感が高まるだけでなく、従業員エンゲージメントも上がり、離職率が低下します。
実際にAppleでも高頻度の1on1によるフィードバックを実践されていることから、パフォーマンス・マネジメントが注目され始めました。
パフォーマンス・マネジメントを実現する国内初のツール「Co:TEAM(コチーム)」
まとめ
今回は、タレントマネジメントが失敗する理由について説明してきました。
タレントマネジメントは、実現できれば素晴らしいものですが、その実現に高い壁があることも事実です。
タレントマネジメントを導入する際は、上記の課題を乗り越えることができるか事前に確認しましょう。
また、タレントマネジメントには導入・運用コストが非常に高く、大企業向けの制度になります。
中小企業の方には「パフォーマンス・マネジメント」を強くおすすめしています。
中小企業でも効果的なマネジメントを行いたい方はお気軽にご相談ください!
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