絶対評価と相対評価の違いとは?メリット・デメリットと人事評価での使い方を解説!
企業における人事評価には、個人の能力を測る方法として「絶対評価」と「相対評価」の2種類があります。
「絶対評価」と「相対評価」はそれぞれに長所と短所があり、一方が必ずしも他方より優れているわけではありません。そのため、自社の評価制度を設計する際には、これらの特徴を十分に理解し、業種や職種、役職などに応じて適切に使い分けることが重要です。
そこで、この記事では、絶対評価と相対評価の違い、それぞれの評価方法の特徴、そして効果的な運用方法についてご紹介します。また、各評価基準のメリットとデメリットも詳しくご解説しますので、ぜひ自社に最適な評価制度を選ぶための参考にしてください。
絶対評価とは
「絶対評価」とは、集団内での順位を考慮せず、個人の能力や成果を基準に評価する方法です。事前に設定された評価基準のもと、その基準をどれだけ満たしているかによって、個々のレベルが評価されます。
例えば、営業部門で「個人販売目標100万円」という目標を設定した場合、この目標を達成した営業部員が評価されます。部署やチーム全体の成績ではなく、個々が目標をクリアすることで評価されるため、個人レベルでのモチベーションを高い状態で保つことができます。
このように、絶対評価は基準が明確であり、自分の業績が直接評価されるため、目標達成に向けてやる気を保ちやすい点が特徴です。しかし、評価者によって評価がバラつきやすいことや、評価者に大きな責任がかかるという課題も存在します。
相対評価とは
「相対評価」とは、組織や集団内での順位を基に、個人の能力を評価する方法です。この手法では、集団内の順位に応じて評価指数が設定されます。
例えば、「S」評価は上位10%、「A」評価は10~30%、「B」評価は30~60% といった具合に、相対評価では事前に評価の分布が決められ、対象者同士を比較して順位付けを行います。これにより、個々の成績を相対的に評価していくのが特徴です。
相対評価を用いると、評価の偏りを抑え、バランスよく評価を分布させることができます。そのため、日本では従来から広く採用されており、学校教育での学力評価や企業の人事考課などでよく使われてきた方法です。
絶対評価と相対評価の違い
絶対評価と相対評価それぞれについて簡単にご説明しましたが、違いをわかりやすくまとめると、以下の比較表のとおりになります。
評価方法 | 絶対評価 | 相対評価 |
評価の定義 | 個人の能力を、あらかじめ設定された目標基準に基づいて評価する方法 | 個人の能力を、集団内の他者と比較して評価する方法 |
評価の基準 | 設定された目標への達成度が基準 | 集団の中での順位や位置が基準 |
具体例 | 目標達成率が150%なら「S」評価、成績上位者順に「S」評価1人、120%なら「A」評価、100%なら「B」評価 など | 「A」評価4人、「B」評価5人 など |
絶対評価は目標達成度を基に評価するため、個人が納得しやすく、成長を促進しやすいですが、基準設定が難しいという課題があります。一方、相対評価は、集団内の順位を重視する評価方法で、バランスが取りやすい反面、競争が激化しやすいです。
どちらの評価方法にもメリットとデメリットがあり、組織や目的に応じて適切に使い分けることが重要です。絶対評価と相対評価それぞれの具体的なメリット・デメリットについては、下記にてご説明します。
絶対評価のメリット・デメリット
まず、絶対評価のメリット・デメリットについてご説明します。
絶対評価のメリット
絶対評価の主なメリットは、以下の通りです。
・個人の成長や目標にフォーカスした評価ができる
・評価基準が明確で納得しやすい
個人の成長や目標にフォーカスした評価ができる
絶対評価の1つ目のメリットは、「個人の成長や目標にフォーカスした評価ができる」ことです。
絶対評価では、個人ごとの目標達成度に基づいて評価が行われます。そのため、個々の成績やスキルアップに焦点を当て、それぞれの努力を正当に評価できる点が特徴です。また、評価がどのように上がるのかが明確で、課題や目標が理解しやすいことも大きな利点です。
組織にとっても、どの従業員やチームが成長しているかを把握しやすくなり、人事異動や昇進の際の参考情報として活用できます。このように、絶対評価は個人の成長を促進し、組織全体のパフォーマンス向上にも貢献します。
評価基準が明確で納得しやすい
絶対評価の2つ目のメリットは、「評価基準が明確で納得しやすい」ことです。
絶対評価では、個人の努力に基づいて評価できるため、「なぜこの評価になったのか」という理由を説明しやすいです。評価基準が目標達成度にあるため、評価対象者には納得しやすい理由を提示することができます。この方法では、どの点が優秀か、どの点が改善が必要かを具体的に伝えやすくなり、評価の透明度が向上します。
また、絶対評価では同じ評価を受ける人が複数いても問題ありません。これにより、相対評価のように同程度のスキルを持つ人々に対して評価を変更する必要がなくなり、評価者にとっても公平かつ一貫性のある評価を行うことができます。
絶対評価のデメリット
一方で、絶対評価の主なデメリットは、以下の通りです。
・評価者ごとの差異が出やすい
・評価基準の設定が難しい
・人件費が高騰しやすい
評価者ごとの差異が出やすい
絶対評価の1つ目のデメリットは、「評価者ごとの差異が出やすい」ことです。
絶対評価の場合、評価者によるバラつきが発生する可能性があります。評価者それぞれが持つ評価の傾向により、甘い評価をする人もいれば、厳しい評価をする人もいます。そのため、評価基準が大きく異なる場合があり、これに注意する必要があります。
特に、数値で明確に示せる目標がある場合は、評価が比較的安定しやすいですが、数値化が難しい場合には、評価者が変わるたびに評価結果が異なる可能性があります。したがって、評価者の評価傾向を調整し、バラつきを最小限に抑えるための対策が求められます。評価基準やプロセスを標準化し、評価者間の一貫性を保つことが重要です。
評価基準の設定が難しい
絶対評価の2つ目のデメリットは、「評価基準の設定が難しい」ことです。
評価の基準が簡単すぎると、多くの人が高評価を受けてしまい、評価の差がつかなくなります。一方、基準が難しすぎると、多くの人が低評価になってしまう可能性があります。このように、絶対評価では、評価基準の設定が難しいです。
そのため、適切な評価基準を設定するために、多くの人が平均的な評価を受ける程度のバランスを見極める必要があります。このためには、過去のデータを分析し、社員の能力を把握することが重要です。しかし、評価基準を適切に設定するまでには作業の負担が大きく、プロセスが複雑である点にも注意が必要です。
人件費が高騰しやすい
絶対評価の3つ目のデメリットは、「人件費が高騰しやすい」ことです。
絶対評価では、個人の評価に対する差をつけにくいという特徴がありますが、評価者が極端に甘い評価をする場合や、多くのメンバーが目標を大幅に達成する場合には、多くの人が高い評価を受けることがあります。その結果、昇給やインセンティブの対象者が増えることになります。このような状況では、計画的に人件費をコントロールすることが難しくなり、人件費が予想以上に高騰する恐れがあります。
この問題に対処するためには、評価の調整を行うことが必要です。全体の評価バランスを調整し、過剰な高評価の人数を制限することで、人件費の管理を改善できます。
相対評価のメリット・デメリット
続いて、相対評価のメリット・デメリットについてご説明します。
相対評価のメリット
相対評価の主なメリットは、以下の通りです。
・全体の評価バランスを保ち、人件費をコントロールできる
・グループや集団の中で順位をつけていくため、評価しやすい
・評価者による評価のバラつきが抑えられる
・組織内の競争が活発化する
全体の評価バランスを保ち、人件費をコントロールできる
相対評価の1つ目のメリットは、「全体の評価バランスを保ち、人件費をコントロールできる」ことです。
相対評価では、あらかじめ決められた割合で評価を分配するため、高評価から低評価までの全体のバランスを保ちやすくなります。これにより、昇給対象者を絞り込み、人件費を予算内で管理することができます。
一方で、先程ご説明したとおり、絶対評価では、個人の目標達成度に基づいて評価を行います。極端な場合には、全員が個人目標を大幅に達成すると、全員が高評価を受ける可能性があります。しかし、昇給できる金額には上限があるため、全員に昇給を適用することはできません。これにより、「評価制度の目的は何か?」といった社員の不満が生じる可能性があります。
さらに、営業職とバックオフィス職など、職務内容が大きく異なる場合、達成基準の難易度を統一するのは困難です。しかし、相対評価では全ての職務に対して同じ割合の評価分布が適用されるため、基準の厳しさや易しさに差がなく、公正さは完全ではないものの、不公平感が生まれにくいというメリットがあります。
グループや集団の中で順位をつけていくため、評価しやすい
相対評価の2つ目のメリットは、「グループや集団の中で順位をつけていくため、評価しやすい」ことです。
相対評価では、グループや集団内での順位に基づいて評価を行います。この方法では、個々の特性や経験年数などの詳細な要素を考慮する必要がなく、明確な基準を設定せずに評価できるため、評価者にとって理解しやすい方法です。
もし一人ひとりを詳細にチェックする場合、評価者にはメンバー全員を評価する大きな負担がかかりますが、相対評価を導入することで、評価作業が簡素化され、評価者は他の業務にもっと時間を割くことができるようになります。
評価者による評価のバラつきが抑えられる
相対評価の3つ目のメリットは、「評価者による評価のバラつきが抑えられる」ことです。
相対評価では、評価者の偏見や先入観よる主観的なバラつきが抑えられるという利点があります。例えば、絶対評価では評価基準が複雑になりやすく、評価者の主観が入りやすいため、評価者が変わると評価も変わりやすいです。しかし、相対評価では評価者の主観が入っていても、被評価者を最終的に比較する必要があるので、その際に評価者ごとのズレが確認できるため評価のばらつきが抑えられます。
さらに、相対評価では予め「S」評価は上位〇%や、「A」評価は次の〇%といった評価枠を決めておくため、グループ内での評価の偏りが起こりにくくなります。この仕組みにより、高評価を受ける人数が過剰にならず、昇給の対象者をコントロールしやすくなるため、人件費の高騰を抑えることができます。
組織内の競争が活発化する
相対評価の4つ目のメリットは、「組織内の競争が活発化する」ことです。
相対評価は、企業や組織内での順位付けを行うため、従業員に競争意識をもたらし、成績を競い合う姿勢を促進します。このような競争が生まれることで、従業員はより良い成績を目指して自発的に努力し、スキルアップや成果の向上に繋がります。
その結果、管理者がコーチングや指導を積極的に行わなくても、従業員が自発的にモチベーションを高め、パフォーマンスを向上させる傾向があります。また、組織内に切磋琢磨する風土が浸透しやすくなります。
さらに、相対評価によって、評価が高評価と低評価のどちらかに偏る不均衡を防ぐことができます。これにより、全体的な評価の公平性が保たれ、従業員が評価に対してより納得しやすくなります。
相対評価のデメリット
一方で、相対評価の主なデメリットは、以下の通りです。
・個人の成長や取り組みに対する評価には向かない
・所属するグループによって評価が変わってしまう
・グループが少人数だと適正な評価にならない場合がある
・評価の理由を具体的に明示するのが難しい
・足の引っ張り合いを生む可能性がある
個人の成長や取り組みに対する評価には向かない
相対評価の1つ目のデメリットは、「個人の成長や取り組みに対する評価には向かない」という点です。
相対評価では、グループ内の他者と比較して評価を行うため、個々の成長や取り組みが十分に反映されないことがあります。その結果、スキルや経験が豊富で実績を上げているメンバーが高評価を受ける一方で、経験が浅い若手社員や努力しているものの成果がまだ出ていないメンバーは低評価を受ける可能性があります。
相対評価は成果に基づく評価には適していますが、プロセスや取り組みに対する評価には向かないため、人材育成や成長の支援には役立ちにくいといえます。目標に向かってどのように取り組んでいるかという視点で評価する際には、相対評価よりも絶対評価の方が適している場合があります。
所属するグループによって評価が変わってしまう
相対評価の2つ目のデメリットは、「所属するグループによって評価が変わってしまう」ことです。
相対評価では、個人の評価が所属するグループの全体的なパフォーマンスに基づいて決まります。つまり、同じ努力をしても、所属するグループが全体的に高いレベルであれば、個人の評価は低くなる可能性があります。一方で、グループのレベルが低い場合には、目標を達成できなかったとしても、相対的に高い評価を受ける可能性があります。
このため、相対評価は評価が一貫せず、所属するグループによって大きく変動するため、個人の努力や成果が正しく評価されているかどうかが不透明になることがあります。この特性は、評価の納得感を欠く原因となることがあり、特に個人の貢献を正当に評価することが難しくなる場合があります。
グループが少人数だと適正な評価にならない場合がある
相対評価の3つ目のデメリットは、「グループが少人数だと適正な評価にならない場合がある」ことです。
相対評価では、評価対象者が所属するグループの人数が少ないと、評価の正確さが損なわれる可能性があります。少人数のグループでは、個々の能力に大きな差がない場合でも順位を付ける必要があり、このために適正な評価が難しくなることがあります。
たとえば、能力にほとんど差がない複数の社員が同じグループに所属している場合、順位を付けるのが困難であり、評価の理由を説明するのも難しくなることがあります。グループの人数が少ないと、評価の中間値が不安定になりがちで、評価が公平でなくなるリスクがあります。したがって、少人数のグループで相対評価を行う際には、評価の適正性に注意を払い、必要に応じて他の評価方法を検討することが重要です。
評価の理由を具体的に明示するのが難しい
相対評価の4つ目のデメリットは、「評価の理由を具体的に明示するのが難しい」ことです。
相対評価では、評価基準が明確でない場合があるため、評価の合理性が欠けることがあります。たとえば、同じ程度の能力を持つ社員が複数いる場合に、順位付けを行う必要があり、その際にどのように順位を決定したのかを説明するのが難しくなります。
このため、評価理由が曖昧になりがちで、評価対象者が納得しにくくなることがあります。具体的な基準や根拠が不足していると、評価が公平であるかどうかが不明確になり、結果として社員の不満や不信感を招く可能性があります。相対評価を実施する際には、評価理由をできるだけ具体的にし、透明性を確保することが重要です。
足の引っ張り合いを生む可能性がある
相対評価の5つ目のデメリットは、「足の引っ張り合いを生む可能性がある」という点です。
相対評価では、他者との比較によって評価が決まるため、成績上位者が減れば自分が相対的に有利になると考える人が出てくることがあります。これにより、個人が努力する代わりに、他人を蹴落とそうとしたり、足を引っ張るような行動が発生する可能性があります。
特に競争意識が強く、自分の利益を最優先するという考え方を持つ社員がいるケースでは、チーム全体の協力体制が崩れ、職場の雰囲気が悪化することがあります。こうした状況では、チームのパフォーマンスが低下し、組織全体の成果にも悪影響を与えることがあります。
相対評価を導入する際には、競争が過度にならないような対策を講じることが重要です。例えば、個人の貢献だけでなく、チーム全体の協力や成果も評価に含めることで、健全な競争を促し、足の引っ張り合いを防ぐことが求められます。
人事評価における絶対評価と相対評価の使い分け
ここまでご説明してきたように、絶対評価と相対評価にはそれぞれ異なるメリットとデメリットがあり、どちらか一方が常に優れているわけではありません。業種や職場環境、さらには評価する対象者の特性に応じて、適切に使い分けることが重要です。
そこで、本パートでは絶対評価と相対評価を効果的に運用するためのポイントについてご解説します。
絶対評価を採用する場合のポイント
絶対評価のデメリットにてご説明したとおり、絶対評価にはいくつかの課題も存在します。評価者によって評価基準が異なることもあり、公平性に欠ける場合があります。また、評価の基準が簡単すぎたり、難しすぎたりすると評価に大きな偏りが生まれてしまうため、基準の設定が難しいです。
このような課題に対応するためには、以下の注意点を意識することが大切です。
・全評価対象者の能力やポジションは考慮されているかを確認する
・全評価対象者に対して目標値は最適なのかを確認する
・個人の努力・成長やプロセスも評価対象として設定する
・評価エラーに注意する
全評価対象者の能力やポジションは考慮されているかを確認する
絶対評価を採用する場合の1つ目のポイントは、「全評価対象者の能力やポジションは考慮されているかを確認する」ことです。
絶対評価では、従業員一人ひとりの能力やスキルが評価基準の中心となります。そのため、基準を設定する際には、各従業員の役職やスキルレベルに見合った目標を設けることが不可欠です。
例えば、共通の売上目標を設定する場合、経験豊富な営業担当者と、新人営業担当者に対して同じ目標を設定すると、不公平が生じる可能性があります。経験豊富な担当者にとっては目標が容易すぎてやりがいが感じられず、新人にとっては達成が難しく、モチベーションを損なう結果になるかもしれません。
したがって、評価基準を策定する際には、まず各従業員の能力や役職をしっかりと把握し、その上で現実的かつ達成可能な基準を設けることが重要です。このプロセスを経ることで、評価の透明性が向上し、従業員が公平で納得のいく評価を受けられるようになります。こうした基準作りは、絶対評価を効果的に運用し、組織全体のパフォーマンスを向上させるための鍵となります。
全評価対象者に対して目標値は最適なのかを確認する
絶対評価を採用する場合の2つ目のポイントは、「全評価対象者に対して目標値は最適なのかを確認する」ことです。
上述したとおり、絶対評価では、個々の能力が評価結果を大きく左右するため、チーム全体で共有する「目標値」が全員にとって適切であるかを常にチェックする必要があります。
例えば、目標値が低すぎると、ほとんどの評価対象者が簡単に達成してしまい、評価が機能しなくなります。逆に、目標値が高すぎると、誰も達成できず、評価制度自体が無意味になってしまいます。
重要なのは、すべての評価対象者の能力やスキル、そして彼らが置かれているポジションを十分に理解した上で、適切な目標値を設定することです。これにより、評価が公正かつ効果的に行われ、評価制度の信頼性が高まります。
個人の努力・成長やプロセスも評価対象として設定する
絶対評価を採用する場合の3つ目のポイントは、「個人の努力・成長やプロセスも評価対象として設定する」ことです。
通常、絶対評価では目標の達成度だけが評価基準となり、個人の努力や作業プロセスは考慮されないことが多いです。しかし、これにより評価が結果だけに偏り、従業員が適切に評価されない可能性が出てきてしまいます。
そのため、個人の努力や作業プロセスといった行動面の評価も取り入れることが重要です。例えば、目標に達しなかったとしても「架電回数を評価対象に含める」「契約に繋がらなかった営業件数を評価に加える」など、仕事のプロセスに対して評価を行うことで、結果重視の評価システムを改善することができます。
また、通常は数値化しにくい質的な作業を定量化することも有効です。例えば、顧客満足度や顧客へのサポート体制、サービス品質といった要素を、アンケートを通じて数値化することで、個々の努力が可視化され、評価者だけでなく評価対象者自身のモチベーション向上にも繋がります。
このように、個人の努力・成長やプロセスを評価に組み込むことは、絶対評価をより公正かつ効果的に運用するための重要なポイントとなります。
評価エラーに注意する
絶対評価を採用する場合の4つ目のポイントは、「評価エラーに注意する」ことです。
評価エラーとは、評価者の無意識のバイアス・先入観などが要因となり、誤った評価が生じることを指します。これにより、従業員は評価が公正でないと感じ、やる気を失ってしまうことがあります。絶対評価では、評価者によって評価基準が異なることがあり、このような場合では評価エラーが生じやすくなります。評価エラーが発生すると、従業員の努力や成果が正しく評価されず、逆に不公平な結果が反映される可能性があります。
例えば、ある従業員がチームプロジェクトで重要な役割を果たし、プロジェクト成功に大きく貢献したにもかかわらず、上司がプロジェクトの貢献度を誤って低く評価してしまったとします。このような評価エラーが発生すると、部下は「自分の貢献が正当に評価されていない」と感じ、モチベーションを失ってしまうかもしれません。
評価エラーを防ぐためには、評価基準を明確にし、評価プロセスを透明にすることが重要です。また、複数の評価者による評価を導入し、バイアスの影響を減らすことや、評価者研修を実施し、トレーニングを通して、評価の公平性を確保することも効果的です。正確で公正な評価を行うことで、従業員の信頼を得て、やる気を維持することができます。
相対評価を採用する場合のポイント
相対評価のデメリットにてご説明した通り、相対評価にもいくつかの課題が存在します。相対評価においては、属しているグループや、人数などにより評価にばらつきが生まれ、従業員が納得できない事案も多く出てくるようになります。「どうして自分の評価はあの人より下なのか?」といった不平不満を覚える従業員も出てきてしまうでしょう。
そこで、課題に対処するために、以下のポイントを考慮することをおすすめします。
・厳密な評価基準を作る
・従業員の能力が高度であることを前提に導入する
・従業員のモチベーションなどのケアを実施する
厳密な評価基準を作る
相対評価を採用する場合の1つ目のポイントは、「厳密な評価基準を作る」ことです。
相対評価は、チームや部署内で従業員同士を比較する仕組みです。そのため、基準が曖昧だと、評価が不公平に感じられるリスクが高まります。例えば、営業成績を評価する際、ただ「売上が高いか低いか」だけを基準にするのではなく、「新規顧客の獲得数」「顧客との関係性の深さ」「長期的な売上への貢献度」といった具体的な評価基準を設ける必要があります。これにより、単純な数字だけでなく、個々の努力や工夫も評価に反映されるため、より公平な評価が可能になります。
また、評価基準を厳密に細かく設定することで、上司や評価者の主観や贔屓、感情に左右されることなく、透明性のある評価が実現します。たとえば、AさんとBさんが同じチームで働いているとします。曖昧な基準では、上司が個人的にAさんを好んでいるために高評価を与えることが起こり得ます。しかし、明確な基準があることで、AさんとBさんの努力が公正に比較され、贔屓や不公平感を減らすことができます。
一度厳密な評価基準を設定すれば、後はその基準に基づいて評価を行うだけなので、プロセスが効率化されます。これにより、誰でも同じ基準で評価を行えるようになり、一貫性のある公正な評価が可能になります。この初期段階での基準作りは、組織の長期的な運営において非常に重要であり、信頼性の高い評価制度を構築するための基盤となります。
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従業員の能力が高度であることを前提に導入する
相対評価を採用する場合の2つ目のポイントは、「従業員の能力が高度であることを前提に導入する」ことです。
相対評価は、従業員同士の比較を基に評価を行うため、全体の能力レベルが高い状況でないと効果が薄くなることがあります。例えば、営業チーム内での相対評価を導入する場合、全員が一定以上の営業スキルや成果を持っていることが前提です。もしチーム内の能力差が大きすぎると、スキルや成果が大きく異なる従業員を無理に比較することになり、査定が不公平に感じられる可能性があります。そのため、相対評価を導入する前に、全体の能力が高く均等に近い状況であることを確認する必要があります。
また、相対評価のメリットにてご説明したように、高度なスキルや能力を持つ従業員が多い環境では、相対評価が社内競争を促進し、全体のパフォーマンスを向上させることが期待できます。逆に、能力が低い従業員が多い場合、評価の基準が低すぎて意味がなくなることがあります。そのため、相対評価を成功させるには、全体の能力が一定以上であることが重要です。
従業員のモチベーションなどのケアを実施する
相対評価を採用する場合の3つ目のポイントは、「従業員のモチベーションなどのケアを実施する」ことです。
相対評価は従業員を同僚と比較して評価するため、評価結果が他者との比較によって決まります。このため、評価が低い場合は従業員のモチベーションが下がることがあります。例えば、営業チーム内での相対評価を導入し、一部の社員が高評価を受ける一方で、他の社員が低評価を受けた場合、低評価を受けた社員は自分の努力が報われていないと感じるかもしれません。このような状況が続くと、業務への意欲が低下し、全体のパフォーマンスにも悪影響を及ぼす可能性があります。
このような問題を防ぐために、例として以下のようなケアを実施することが重要です。
・定期的なフィードバック…評価結果について具体的なアドバイスを提供し、改善点を明確にする
・目標設定のサポート…現実的で達成可能な目標を設定し、その進捗をサポートする
・モチベーション向上の施策…成果を上げた社員に対して表彰制度や報奨を設け、努力を正当に評価する
このように従業員のケアを実施することで、相対評価の不公平感を軽減し、従業員のモチベーションを維持しながら高いパフォーマンスを引き出すことができます。
絶対評価と相対評価の企業事例
最後に、絶対評価と相対評価に関する、実際の企業事例をご紹介します。
今回ご紹介する事例は下記の2つです。
- 相対評価から絶対評価に切り替えたリコーリース
- 相対評価をPIPに活用するAmazon
事例① 相対評価から絶対評価に切り替えたリコーリース
リコーグループにてリース事業を行うリコーリースは、2020年4月から評価制度を相対評価から絶対評価に変更しました。
従来の相対評価では、社員全員が目標を高い水準で達成しても、事前に決められた割合に基づいて評価が分配されていました。この方法では、社員のパフォーマンスを公平に評価することが難しく、パフォーマンスに見合った評価が行われていないとの不満がありました。
新しい絶対評価制度では、社員が設定した目標の難易度を評価者が判断し、難易度の高い目標を達成した社員全員が高く評価される仕組みになっています。この新制度では、評価者の基準にばらつきが生じないように、評価者研修を実施するとともに、初期段階では人事担当が目標設定を支援します。これにより、評価の透明性と公平性を確保し、従業員の努力と成果を正しく反映できる制度を目指しています。
参考:ニュースイッチ by 日刊工業新聞社『人事制度を相対評価から絶対評価に改める企業の狙い』https://newswitch.jp/p/21634
事例② 相対評価をPIPに活用するAmazon
Amazonでは、相対評価を用いてローパフォーマーを特定し、その社員を「コーチングプラン」や「PIP(業務改善プログラム)」といった研修プログラムの対象にしています。これらのプログラムは、業績が主要な評価基準である外資系企業を中心に導入されており、最近では多くの企業が注目し、実際に採用し始めています。
相対評価によってパフォーマンスの低い人材を特定し、特別な支援を行うことで、業績の向上と組織全体のパフォーマンス改善を図ることができます。
まとめ
この記事では、絶対評価と相対評価の違いについて、それぞれのメリット・デメリットと人事評価での使い方を解説してきました。
絶対評価と相対評価には、さまざまなメリットとデメリットがあり、一方が必ずしも優れているわけではありません。そのため、それぞれの特徴を理解しておくことが重要です。
本記事を参考に、会社の業種や方針に応じて評価方法を使い分け、適切な人事評価の運用に努めましょう。
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