部下の本音から成長を促進、会社の成長と両立させる。-安田雅彦氏が語る、部下とのコミュニケーション法-

部下の成長と会社の成長を両立させるには、会社が必要とする能力を考えるところから

本日は宜しくお願い致します。

-今回はマネージャーによくある課題ということで、まず「部下の長期的な成長と『会社に必要なこと』を両立させるためにすべきこと」をテーマにインタビューさせていただきます。まず、部下の成長と会社の成長を両立させるために、マネージャーと部下のコミュニケーションというのはどのようにすべきでしょうか?

大前提として、マネージャーが「会社の成長に向けて必要なケイパビリティが何か」というのを理解しておくことが必要だと思います。

それを分かった上で、部下がどうなりたいかを聞き出して、ケイパビリティや能力・スキルを会社が必要としているものと一致させるっていうプロセスをとっていくべきだと思います。

とはいえ、長いスパンで見る話だから、会社に必要なケイパビリティを話す時点ではあまり特定的な話にならないと思います。なので、その後も継続的に話し合いで一致させていくっていうことが大事だと思いますね。

-ありがとうございます。その点でよく伺う悩みとして、部下が「そもそもキャリアプランがない」、あるいは「何をしたいかわからない」という部下を抱えているマネージャーも一定数いるんじゃないかなと思うんですが、そういうマネージャーはどのようにキャリアに対してすり合わせをしていくべきなんですかね?

そもそも、日本の会社もこれからはビジネスパーソンとして、キャリア的に自立した人を求めていると思うんです。

自分で描いた成長像に向けて自らの意志を持って、きちんと成長していくっていう人の方が成長も早いし、よりエンゲージメントが上がってパフォーマンスも上がるということも多いですし。

そう考えると、マネージャーは「『自分の意思なんて特にないです』じゃ困る」ということをちゃんと伝えなくてはいけないですよね。加えてマネージャーに対して、その上司は「自分の部下にとってのロールモデルになれていますか?」と問わなくてはなりません。なんにせよ上司がキャリア的に自立していなければ部下が自立するようにはならないので。

-マネージャーからすると、部下のキャリアと会社としてやるべきことの2つにおいて、どちらを重視すべきか、そのバランスってかなり難しいと思うのですが、どちらを重視すべき、などありますかね?

重要性としては一緒でしょう。

まず、そもそもフレームワークとして経営は経営、キャリアはキャリアって考えられてる事が問題だと僕は思うんですよ。

やっぱりビジネスが成長すると同時に一人一人の成長がちゃんとフレームに組み込まれてないから「どちらが重要か」という認識になると思います。

そこはまず経営レベルからして、「ビジネスの成長を人の成長でどうドライブしていくか」ということを、精神論じゃなくてちゃんとフレームワークと計画で作っていくことがすごく大事だと思います。

そう考えるとやはりプライオリティは一緒ですね。

– それで言うと、よくマネージャーから伺う悩みとして「部下が実現したいキャリアプランを聞きたいけど、その場しのぎの返答で部下から本音を引き出せない」というお話を伺うのですが、安田さんは部下から本音を引き出す、すなわち「思っていることを言ってもらえている状態」にするためにはコミュニケーションやシステムの観点どのようなことが必要だとお考えですか?

まずは信頼関係を作っていくっていうことが重要だと思います。口を開けば仕事の話だけっていうのじゃやっぱり信頼関係はできないと思うので、日頃から仕事以外のことも話すことですね。

あとはマネージャー自身もある程度、内面を語るっていうか。色んな事をディスクローズしなきゃいけないと思います。自己開示によって信頼関係の構築に日頃から努めることが必要ですよね。

さらに、部下を成功に導かなくてはいけないということを考えると、仕事がうまくいってなければ障害になってることがあるかどうかを話したり、上司のサポートでうまくいくことはどんなことかっていうことを会話をしてくっていうところを話していかなくてはならないと思いますね。

– マネージャー自身の内面も語るっていうところで、苦手としてる人も一定数いるんじゃないかなと思います。例えば、安田さんが今までされてきた。あるいは見てきた中で、自己開示に有効な働きかけってございますか?

自分が周りからどう見られているかフィードバックを受けることだと思いますよ。自分が殻を作っている場合は周りから若干「怖い」と思われてると思うんですよね。

まず相手も率直に自分に対して意見をするってことで、自分も率直に意見を言えるようになるんじゃないかなと思いますけどね。

– 確かに、まず周りにどう見られているのかっていうのがわからないと、変えるべきかどうかすらわからないところはありますよね

本音を言えない人って、やっぱり本音を言われるのも嫌がるんですよね。だから最初結構傷つくんですよ、相手からどう思われているって言うのを聞くと。

時間がかかりますけど、そのプロセスを踏んで自己開示していくのは非常に重要だと思います。

「1on1は毎日やる。」安田氏が考えるコミュニケーションの仕組みのあるべき形

– 実際にそういった信頼関係を築くって上で「場」として、高頻度の1on1などが手段として挙げられますが、安田さんが考える中では、例えば「業務の話は1on1、信頼関係の構築や雑談は日ごろのコミュニケーションから」など分けたりしますか?

あまり分けないですね。ただ、ある程度職場のコミュニケーションって構造的にした方がいいなと思ってて。

1on1 とパフォーマンスレビューは分けて、1on1ではキャリアの話であったり、「調子を聞く」っていう感じ。それは短い時間で高頻度でやる。それで、基本的に関係性の構築ってのはここでやるってことかなと思うんですよね。

一方、パフォーマンスレビューはもう少し長期的、1か月に1回とかで、今期やんなきゃいけないことの進捗がどうだって話をしてくっていうところで。うまくいってなければ「何でいってないのか?」うまくいっていても、「なぜいってるのか?」サポートできることは何か。それはいわゆる、仕事の話って言われるものだと思うんです。きちんとそこは構造化してやっていくべきだと思います。

普段の会話だとリモートの会話とかってなかなか難しくなってきているので、そこでちゃんと雑談をできるようにコミュニケーションの仕組みを構造として持っておくことがすごく大事だと思います。

– 具体的にそういったリモートワークの中で、コミュニケーション、それら雑談の仕組みをとるっていうのは具体的にどのような例がありますか?どういった構造が有効だったかなどありますか?

例えば毎週一回30分、1on1でキャッチアップする。具体的な特定のパフォーマンスのレビューというよりは、簡単に「あれどう?」「どんな感じ?」とチェックすることと、本人の状況を聞くとかっていうことが有効だと思います。

パフォーマンスレビューでは、目標設定に対する進捗をきちんと話し合う。そこでうまくいってることとその原因、うまくいってないこととその原因、みたいな形式が良いと思います。

その後、じゃあ次までに具体的にどういう仕事ができるかっていうところ話し合うべきですね。だいたい頻度としては1か月に1回くらいがいいと思います。

また、評価制度で決まってるような半年に1回、あるいは1年に1回の面談には、キャリアに関する話し合いを入れるべきだと思います。そこで1年・半年の業績を通じてわかった強みとか伸びしろとかをいかして、来期どうするかを話し合う。

それに加えて、業務に取り組む中で出てきた仕事への興味ややってみたい事ってことに対してキャリアをどう設計するかっていうことも話し合えれば良いと思います。

– 先ほどのケイパビリティの話と被ってしまうところがあるんですけども、マネージャーが部下の適性を見極めるためにどういったコミュニケーションが有効ってありますか?

適性を見極めるのは、やっぱりコンピテンシー深掘りインタビューみたいなものをやっていく中で、どういう行動特性があるのかとかそういうところで見つけ出すっていうことが大事じゃないかなと思いますけどね。

それでいうと、そもそも能力とか特性・適性っていうものの概念的理解がすごい曖昧なんですよね。

「スキル」であれば想像できるじゃないですか。仕事をうまくやる技術という。それこそ制度を作る企画力の知識とスキルがあるかどうか、そのリストラクチャリングのプランを柔軟にコミュニケーションできるかどうか、のような。

適性っていうのは、スキルをうまく使ってパフォーマンスを出した上で、その奥にあるものだと思うんです。いわゆる行動特性やコンピテンシーのような。

それはきちんと概念的に学んで、それで人の能力を把握するっていう方がいいと思いますかね。

なので「適性がわからない!」という悩みに対しては、概念的な理解を高めるために勉強してくださいって言うしかないですかね。

– それで言うと安田さんの話って体系的にまとまっていて、だから皆さんにも安田さんの話を見られるんだと思うんですけど。なかなかそのように概念を体系的に理解する場所ってなくないですか?

ないでしょうね。ないと思うし、人事が学びたいか、ということも切迫感によるところだと思います。

例えば、会社で英語を話さなきゃいけない、となったら多くの人が自ら学びますよね。英語をしゃべれなかったら仕事にならないから。

英語ができる人っていうのは結構そういう人が多くて、求められるからやる。「学ぼう」っていうそのモチベーションはどこにあるかといったらやっぱり求められることだから求められてない事が問題だと思います。

– 一方で、向いていること、好きなことなど、マネージャーから何かを聞いても「特にないです」としか返ってこないように、マネージャーが部下とどう話すかってすごく難しいところがあると思うんですが、安田さんから見たらどういう原因があって、どのように解決していくべきなんですかね?

私はいまいち「どう話すかが難しい」という感覚はよくわからなくて、突き詰めるとシンプルに責任感の問題だと思います。

部下のやる気を引き出して、チームで成果を上げることが必須になっているべきだと思うし、部下に対して「今のチームで働くことが楽しいですか?」って聞いたときに、「楽しくないです」って言われたら上司がクビになるって言う状況だったら部下のことが気になってしょうがないじゃない?

グローバルカンパニーとか日本以外の国、アジア以外の国は基本的にそうだと思います。だから私が少なくても歩いてきた会社の中で、部下と何を話していいかわからないっていう会社は一個もない。

じゃあそれが天才性、社交的な上司かって言ったらそうでもない。でもなぜできるかと言ったら、きちんと1on1をやって、部下のモチベーションエンゲージメントに気を払って、部下が困っていることがあったらそれをサポートするって言うことが「仕事だ」って言われてるから。

– 責任感があって、しっかり部下をマネジメントする意志があって色んな事を聞こうにも、部下からは「特にないです」しか返ってこないというお悩みもあります。

それは日頃の会話も何もないからだし、共通の話題もないからでしょう。

さっきの話じゃないですけど、常に仕事の話をしていて、なのに1on1でいきなり「最近どうだ」なんて聞かれても部下はうまく答えられないですよね。

– 確かに。安田さんが以前おっしゃっていて印象的だったのが、日々の積み重ねによる信頼があれば厳しいフィードバックをしても大丈夫だということでした。そこでの「信頼を得ること」が重要だと思うんですが、安田さんは日常的なコミュニケーションでどんなことを意識されていますか?

やっぱりオフィスの頃は、話しかけるって言う事。あとさっきいった通り、「なんかある?」って言う頻度を高くすることですね。

リモートになってからは、まめに、とにかく1on1をやる。「どう?」って言う風に心配してあげることですね。あとは、なんとなく部下の表情、様子が変わったことに対して気にかけてあげる事。さらに、先ほど言ったように自分も内面を語る、自己開示も大事ですね。

– 安田さんはリモート下ではそういう話しかけるような取り組みって大体どれくらいの頻度でされてたんですか?

毎日やってましたね。オフィスにいたら話すんで、その分の補完はやっぱり必要。

1on1は1週間に1回かな。部下が5人いたけれど、リモートになってからはオフィスにいたらふらっと話すことがもう話せなくなるから、とりあえず毎日1時から2時はオンラインしようと。

別にカメラ切っててもいい、ご飯食べててもいい、ドトールに行ってもいい、何でもいいから、我々チームは平日の1時から2時は絶対一回オンラインしようと。meetにスケジュール入れてみんなに入ってきてもらって。話すことがなくてもなにか言葉をかわそうと。オフィスにいたら実現する偶発的な機会をオンライン上でも作ろうってやっていました。

– その取り組みは面白いですね。

メンバーもあれはよかったと言ってました。

ていうか、心配になると思うんだよね。話していないと。部下のことが気になるイコール、自分のパフォーマンスが止まると言うか。そのメンバーを高いエンゲージメントで、自分と仕事することがハッピーだと思わせないといけない、それがマネージャー・上司の仕事だから。

– プレイングマネージャーが「プレイング」、自分の業務部分に集中しすぎて、周りが見えなくなって、1on1も週一?月一でいいでしょ?みたいなことはよく起こりますが。

まあしょうがないよね、その「プレイング」の部分にチームの責任がないわけだから。例えばその部分の割合が高かったら部下の面倒は見れないと思います。

– やはり相手の反応がない場合に日常のコミュニケーションが重要というのはわかります。

やっぱり危機感が出たら話しますよそれは。

– もし仮に、安田さんが、そういう反応がない部下のマネージャーになった時に、リモート環境だったら、なるべくしつこく対話する機会を作ることはしますか?

しますね。まあ自分は人事というのもあるかもしれないけど。

コミュニケーションのリアクションが薄い人って、単純に、感情的に嫌われているか、シンプルに能力が合っていないということだと思います。コミュニケーションのリアクションが薄い人が、いい仕事するってことはあまりないですから。

そうすると1on1で何を話すかということが問題というよりは、1on1であのプロジェクトうまく進んでる?って話になってしまって、結局マネジメントに必要なコミュニケーションができなくなる。

そこでまだ成果が出てなければ当然それなりの対応になっていきますよね。なので経験上あんまりリアクションがないということに対して悩むことはないですね。

マネージャーが部下の育成に責任をもつためには、採用の制度設計から。

– マネージャーによる部下の育成方法ってのは外資から日本に入ってる部分も大きいものの、なかなか日本が消極的なマネージャーが多いじゃないですか。制度的な面で育成に消極的な要素をもたらす要因ってどのような物が思い当たりますか?

自分が採用や配属に関わっていないというのは大きいと思います。

うちのチームに片腕となるような中堅が欲しい、他の事業所の新卒10年目くらいの人が欲しいんだよねって人事に言ってるのに、新卒のわけわかんないシュッとした男が配属されてきたら上司は面白くないに決まってる。

逆に、新卒が欲しいって言っているのに、他の部署から異動してきましたってなったらさそれは面白くないよね。育てられるわけないじゃん、となる。これが一点。

さらに、育てたとして自分が異動するかもしれない。なんなら部下も異動するかもしれない、とするとそれは責任感を持たなくなる、というようなシンプルな話だと思います。

– これはもう現場で探して採用していくべき、ということですかね。

いやいや現場でなくて人事がそれをコントロールしちゃってもいいんだけど、やっぱりちゃんとハイヤリングマネージャーを採用プロセスに入れなきゃダメですよね。

上司が採用の過程に関わっていないから育てようという気がおこらないですよね。一方で評価制度だって別にチームのエンゲージメントは問われるわけでもないし、エンゲージメントが下がったってクビになるわけではないんだから、チームのエンゲージメントに責任を持つわけがないですよね。

– 先程の採用のハイヤリングマネージャーのことは、評価の納得感の話と近いかなと個人的に感じました。やっぱり、急に忘れた頃にいきなりフィードバックされるのではなくて、日々のコミュニケーションやフィードバックが大事と言うのと同じで。

ハイヤリングマネージャーでも、どんな人が必要なのか日々のコミュニケーションがされていれば、仮にいい人でなかったとしてもそれまでの過程を知っているから、まぁやるか、と思う、そんな効果が生まれそうだなと思いました。

俺は外資育ちだから、自分でYesNo言っていない人間が自分のチームに来るなんて考えられないんですよね。その人材から結果を問われるんだから、仮にNoと言った人材が来て結果を問われたらたまったもんじゃないと思う。

– 今、部下に部下育成に消極的なマネージャーがいたとすればそれは人事側のプロセスの責任なんですかね?

そう思います。だから日本企業のOSをどこから直していきますか、と問われたら、一つはやっぱりきちんと採用のプロセスに可能な限りハイヤリングマネージャーも絡めてあげることって言いますね。

後は、エンゲージメントサーベイみたいなところもきちんと入れて、それをその評価にも反映させるっていう事をやったらいいんじゃないかなと思います。

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