
今回は株式会社O:(オー)にて主催した「日本一シビアな人的資本経営サミット」にて、阪神タイガース元監督の矢野さんをお招きして講演いただいた「超積極的1on1が強い選手を育てる」の内容を弊社代表の谷本との対談形式で記事にしてお送りいたします。
スポーツ界、とりわけプロ野球の厳しい世界でも重要視され始めたコミュニケーションやマネジメント手法が、一般企業の経営・人材育成にも通じるヒントを数多く含んでいると考えております。
現場に活かせる情報ばかりですので、ぜひ最後までお読みいただけますと幸いです。
登壇者プロフィール

矢野 燿大(やの あきひろ)氏
元プロ野球選手/元阪神タイガース監督
1990年、ドラフト2位で中日ドラゴンズに入団。1997年オフに2対2の大型トレードで阪神タイガースに移籍し正捕手の座を勝ち取った。2003年・2005年にはリーグ優勝に大きく貢献し長年に渡りタイガースの司令塔として活躍。
引退後は野球解説者・評論家として活動。2016年、阪神タイガース一軍作戦兼バッテリーコーチに就任。2018年には選手のを伸ばす指導で2軍監督としてチームを日本一に導き、翌年から一軍監督に就任した。監督を務めた4年間、理想語るという信念を持ち続けチームを牽引、4年連続Aクラス入りという球団記録を作り任した。
現在は、全国での講演活動に加えて子どもたちを笑顔にする共育(教育)事業「オレたちの野球プロジェクト」をスタートし、野球界への恩返しをしている。また2010年から社会貢献活動を継続しており、筋ジストロフィー患者の方への電動車椅子の支援を行なっている。(2024年時点5,100万円)更には自身の経験から、「NPO法人THANKYOU FUND」を設立し、代表理事としてアスリートの活動の支援も行なってい

谷本 潤哉 (たにもと じゅんや)
株式会社O: (オー) CEO 広告代理店でコピーライター/webディレクターを経験後にO:を設立。
組織の「業務状況」「コンディション」「モチベーション」を可視化し、自律的に目標を達成し続けることで「強いチーム」を効率的に構築できるマネジメントサービス「Co:TEAM」を運営。 経済産業省J-startup採択|週刊ダイヤモンド「日米ヘルステックスタートアップ20選」選出
目次
監督時代、どのような監督になることを目指していたのか?

※以下、矢野氏(黒字)・谷本氏(赤字)で記載いたします。
今回はありがとうございます。まずはじめにお伺いしたいのですが、阪神タイガースの監督時代に、矢野さんはどのような監督を目指されていたのでしょうか?
そうですね。私は現役時代に、星野仙一さんと野村克也さんという2人の監督に大きな影響を受けました。星野さんは情熱的なカリスマリーダーで、ものすごい迫力と怖さ、そして同じくらいの大きな優しさをお持ちの方でした。
野村さんは「頭を使えば、うまい選手に追いつけるんだ」という考え方を徹底していて、「うまいやつだけが数字を残すんじゃないぞ」ということを選手に常に伝えてくれました。
もちろんお二人のやり方は私の中で生きていますし、監督時代もその考えは選手に伝えてきました。ただ一方で、時代は変化しており、自分が選手時代に教えられたこと、やってきたことをそのまま押し付けても通用しない部分があると思いました。
例えば昔はトップダウンが当たり前、あるいはそれが「強さ」だという見方がありましたが、今はもっとボトムアップを取り入れて、選手やスタッフの話を聞きながら、必要なところは私が補うような形が大事だと考えました。
私がやりたかったのは、選手もスタッフも裏方さんも、みんなを良くしていきたいというもの。特に「心」の部分ですね。技術ややり方は時代や理論で変わっていくかもしれませんが、心のあり方、理想をどう持つかはあまり変わらないと思うんです。
選手達がプレーの良し悪しに対して最後に「気持ちで負けました」とか「強気で行けました」とか、選手はみんな心のことを良く言うんですね。なので、「心」の部分をきちんと伝えられる監督でありたいと考えていました。
野村監督も星野監督も、どちらかというと“トップダウン”のイメージが強いですよね。そのような中で、矢野さんはあえて違うアプローチを取られたのでしょうか?
そうですね。私はトップダウンを否定するつもりはありませんが、横で寄り添えるリーダーになりたいと思っていました。
私自身が“カリスマ”的なタイプでもありませんし、もともと「学校の体育の先生になりたい」という夢もあったんです。
上に立って「俺について来い」というよりは、並列で横を歩きながら「こうしたらいいよ」「こんな風にやってみようか」と導けるリーダーの方が自分に合っているなと。
星野さんや野村さんのようなやり方でも伸びる選手はもちろんいますが、私はやはり「自分らしさ」を発揮したかったんです。そうなると、どうしても寄り添うタイプの指導者、という方向へ自然に向かっていきました。
成果至上主義とも言えるプロスポーツの世界において、矢野さんのように“並列して寄り添うタイプ”の監督は、いま増えてきているのでしょうか?
最近は増えてきたんじゃないかと思います。先駆けとしては、たとえば日本ハムファイターズの栗山英樹さん、今の新庄監督、それから今広島で監督をされている新井さんなんかもそういう雰囲気を感じますね。
昔は「昔ながらを変えないこと」がぶれない証という評価のされ方もあったかもしれませんが、私は「変化する勇気を持たないリーダーはダメだ」と思っているんです。
時代が変化しているのに昔のやり方をそのまま通そうとしても、選手がついてこなかったりする。そこを勉強して、変われるかどうかが大事だと思っています。
栗山さんや新庄さん、新井さんは、自分のやり方を貫きつつも「こうしたらいいのでは」と柔軟に取り入れている印象があるので、寄り添いながら引っ張るスタイルが最近は増えてきたのかなと思います。
時代の変化でマネージャーの素養も変わってきたと思います。今名前が挙がった新庄監督や新井監督は、もともと寄り添う資質を持っていたからああいうスタイルになっているのでしょうか? それとも監督になった後で変化したのでしょうか?
新庄さんでいうと、見た目や派手なイメージもあって「自由奔放」「思いつきでやってるんじゃないか」と思われがちですが、私はものすごく学んでいる方だと思います。
ファンを喜ばせるために何をしたらいいか、選手のいいところをどう伸ばすか、そういうことを常に考えている。実際、最近の日本ハムを見ると「固定観念にとらわれずに挑戦させる」「いいところを褒めつつ伸ばせるように指摘する」というやり方をしているように見えます。
それはまさに「勇気づけ」だと思うんです。選手の“できない”部分を責めるより、「ここができるから、もう少しこうするともっと伸びるよ」と伝える。新井さんも同じように寄り添い方を大事にしているようですし、元々の素質もあったけれども、監督になって学んだ結果として今のスタイルを取っているのではないかなと思います。
最初は新しい試みで、不安も多かったんじゃないかなと思いますが、この“寄り添う監督”というのが「正解だ」「これでよかった」と気づいたのはいつ頃でしたか?
二軍監督を任された時ですね。実はそこでかなり実験的なことをやりました。たとえば「ノーサイン」でバッティングや盗塁をさせるとか、初球からどんどん振って行けとか、とにかく失敗を恐れず挑戦するように促したんです。
すると準備力が格段に上がって、そこからチームが勝てるようになり、日本一にもなりました。選手たちも「失敗最高!」と言って前向きにやってくれたんです。
プロ野球って華やかなようでいて、実は平均寿命が7年ほどでクビになる世界。そこに飛び込む選手たちが失敗を怖がってしまうのは当然です。でも、私は「失敗から学べばいいんじゃないか?」と背中を押す形で寄り添いました。
結果、選手が楽しみながら挑戦しているのを見て、これは間違いない、と確信したんです。批判もありましたが、自分の中ではぶれずに“寄り添う”やり方を貫いたところ、成果も出たし、選手たちの成長も見られた。そこで「これが自分の理想とする監督像だ」と感じましたね。
「シビアだからこそ楽しめる」の正体

選手寿命が平均7年といわれるプロ野球の世界で、選手たちに「楽しもう」と伝えるのは、非常に難しいことではないかと思います。やはり結果を残さなければすぐにクビになるような厳しい環境だと思いますが、その中で「楽しむ」という姿勢を浸透させるのは、実際どのように感じられましたか?
そうですね、私自身も「こんな厳しい世界で楽しむなんて難しいだろうな」と思っていました。プロ野球の世界って、成績が出なければすぐクビになるシビアな環境ですし、選手たちも数字や結果に追われるので、普通に考えれば「楽しむ」とはかけ離れてしまいがちです。
でも、私が言う「愉しむ」っていうのは、子どものような「わー楽しい!」という軽いものではなくて、自分から能動的に“愉しむ”と決めるという意味なんです。例えば漢字でいうと、音楽の「楽」(ラク)ではなくて、立心偏の「愉快」の“愉”の方ですね
プロ野球でよくあるのが、満塁でヒットを打たれたらどうしよう、エラーをしたらどうしよう、といった「まだ起こっていないこと」を想像して自分を追い込んでしまう場面です。私自身も現役時代はそうでしたが、でもそこを「チャンスだ」と言い切ることで、見え方が変わってきます。
たとえば「ノーアウト満塁、ここを抑えたらヒーローになれる」「今まで練習してきた成果をここで出せたら最高じゃないか」と考えるだけで、同じ状況でも前向きに挑めるし、仮に失敗しても「次はこうしよう」と思えるんです。
苦しい練習をただ苦しくやるのではなく、「これを笑いながら乗り越えられたらすごいよな」と思ってやるだけで、同じ練習でもまったく気持ちが違ってきます。そうやって前向きにやっていると、数字や結果に追われながらも、自分たちが苦しい練習をしている意味を見いだせるんですね。
なので能動的に「愉しむ」と決めていると、失敗して悔しい思いをしても、それを糧にして次の挑戦に向かうエネルギーに変えやすいんです。これが「苦しいからやめたい」「しんどいからやめたい」だと、そこで終わりですが、「苦しいからこそ笑ってやってみよう」と思えるかどうかで、その後の取り組みが変わってくる。
プロだからこそ、必死になるだけではなく、自分から積極的に楽しむ工夫をするのが大事だと思いましたし、結果的には、「愉しむ」という姿勢がないと長いシーズンを戦い抜けないですし、7年という短い平均選手寿命の間であっても、思い切り挑戦できると思うんです。
若手選手とのp1対1のコミュニケーションをどうチームビルディングに活用していた?

新庄さんとの対談の中で、新庄さんが「やっぱり選手は声のかけ方ひとつで大きく変わる」とおっしゃっていて、矢野さんの声掛けが本当にすごい、と評価していたのがとても印象的でした。
実際、矢野さんも「ピンチはチャンス」とか「失敗を恐れず挑戦しよう」とおっしゃっていますが、選手からすると「失敗したら怒られるのでは」という不安を持つ人も多いと思います。
そういう選手はなかなか自分から動き出せないと思うのですが、最初にそうした選手たちに声掛けする時、いちばん気をつけていたことは何でしょうか? 具体的に取り組まれたことなどがあれば、ぜひ教えていただきたいです。
そうですね、まずはやっぱり「信頼」って積み重ねでしか作れないものだと思うんですよ。最初に「ピンチはチャンスだぞ」「初球から振っていいぞ」「ノーサインで走っていいぞ」と言っても、選手が「え? 本当に怒られないの?」って疑うことはありますよね。今まで「失敗すれば怒られる」のが当たり前だったので、いきなり言われても戸惑うわけです。
そこでまず大事なのが、失敗しても怒らない”という姿勢を実際に見せること。盗塁したけどイージーアウトになった、初球を打って簡単にフライを上げてしまった——そういう場面で、こちらが「何やってんだ!」と怒ってしまうと、一瞬で信頼を失います。言っていたこととやっていることが違うじゃないか、と。それは一番やってはいけない。
だからこそ「聞く」ことを徹底していました。失敗したら、「次どうすればセーフになる?」「どうやって準備する?」と問いかけて、選手に答えを出してもらうんです。自分で答えを考えて行動につなげられるようにしてもらう。私がすぐに答えを出すのではなく、聞いていった中で最後の最後に答えを言う様に心がけていました。
それを何度も繰り返していく中で、「あ、この監督は本当に怒らないんだ。背中を押すつもりで言ってくれているんだ」と分かってもらえて、信頼を積み重ねていく事で選手達も能動的に動きだしてくれる様になりました
これを一般企業に当てはめると、忙しさや業務量の多さから「部下に目をかけられない」という管理職の方が多いんですよね。プロ野球界では、監督が選手一人ひとりを見るのは当然のことなのでしょうか? それとも矢野さんがあえて意識して見ていたのでしょうか?
自分から選手達を見る機会を意識的に作っていましたね。
昔からの監督像は「上にどんと構えている」というイメージがあったと思います。もちろん昔でも個々を見ている監督はいたと思うんですが、どちらかというとトップダウンで「こうしろ!」という指示が中心になりがちだったんじゃないでしょうか。
ただ私の場合は、「相手の可能性を信じ切る」というのを自分の中で決めているんで、それなら「一人ひとり、ちゃんと見ていかなきゃわからないよね」と思ったんです。選手は大勢いますけど、やっぱりそれぞれ違う性格や状況を抱えていて、みんなに同じ声掛けしても響くわけではないですから。だから意識的に見る機会を作ろうと常に思っていましたね。
ちなみに声掛けをする時は、一対一で話すことが多いのでしょうか?
そうですね、基本的には一対一を大事にしていました。ただ、がっつりテーブルに向き合うというよりは、練習中に隣にスッと立って「最近どう?」と話しかける感じです。グラウンド整備を手伝いながら、「今、あのプレーどうだった?」とか。そういう自然な場面をよく利用していました。
なるほど、今や阪神の看板選手になった近本選手のお話がありましたが、もともと保守的だったところを矢野さんがいろいろ声を掛けたことで変わっていったというエピソードがとても印象的です。
やはり、選手一人ひとりの性格を考慮しながら「こんな言い方をしたら動いてくれるかな」とか考えて声を掛けていたのでしょうか?
そうですね。近本は、どちらかというと「安全に走りたい」タイプだったんです。ちょっと点差が開いている場面や、「ここで行くべきだろう」と思う場面でも動かないことがありました。
そこで「今日お前の盗塁を見たくて、わざわざ球場に足を運んでくれたファンがいるかもしれないぞ」とか「挑戦しなかったら価値が上がらない、アウトになってもお前がチャレンジしたことが評価される場面もあるんじゃないか」と、少しだけ背中を押してあげたんですね。
要は、本人が「あ、そうか、もったいないな」と気づいてくれるキッカケを作ってあげる感じです。全員に同じ声を掛けても仕方ないので、それぞれの性格や状況を見て、「この選手にはこういう声掛けが合うのでは」と考えます。
本当に選手それぞれ特徴が違いますし、その人がやる気になるような声掛けを見極めるのはかなり難しいと思うのですが、矢野さんが意識していたことはありますか?
私が一番大事にしていたのは、「その気にさせる」という入り口を作ることです。最初からやる気満々の子ばかりじゃないし、「怒られるかも」「できないかも」っていう選手も多いんです。そこをいきなり「やる気がないからダメだ」と切り捨てるんじゃなくて、「この子のスイッチはどこにあるかな?」と考え続けることが大事なんですね。
これもやっぱり「可能性を信じ切る」という意識で、「いつか必ず変わるかもしれない」と思って声を掛け続けます。一度や二度言って通じないなら三度、四度言います。相手も最初は様子を見ている部分があるかもしれません。
「本当にこの監督は続けるのかな?」って、試されている感じなんですね。だからこっちがブレずに言い続けると、「あ、ブレないんだ」「この人、本当に俺のことを考えてくれているんだな」と思って徐々に開いてくれる。そうなると案外、すぐにやる気スイッチが入ることも多いですよ。
なるほど、お話しの中で行動と心の両方が大切だというお話がありましたが、実際には「頑張っても難しい」というタイプの選手もいると思います。そういう選手に対してはどのように向き合っていたのでしょうか?
もちろんいますよ。全員がすぐに変わるわけじゃないですし、結果を出せないまま終わってしまう選手も残念ながらいます。ただ、私は「言い続けることをやめない」というのを心に決めていました。
選手もきっと「この人、理想ばかり言ってるけど本当にやるの?」って試すところがあると思うんです。そこで私が諦めて言わなくなったら、「ほら、やっぱり変わったじゃん、口だけだったな」と思われてしまう。だか諦めないという姿をリーダー自身が見せるのが、まず大事だと考えています。
また、リーダーはやはり「見本になる」ことが必要だと思っていて、私が楽しんで挑戦している姿を見せなければ、選手は「なんで自分だけ挑戦しないといけないんだ」となりますよね?
だから選手への言葉掛け以上に、自分自身の行動・姿勢を見せることも意識していました。
「コーチ」との関係性・接し方

これまでのお話では、矢野さんと選手との関わりについて色々伺ってきました。選手以外の面でもお伺いしたいのですが、理想のチームをつくる上でコーチの存在はどういう位置づけだったのでしょうか? 矢野さんが描くチーム像の中で、コーチはどのような役割、関係性を担っていたのか、ぜひ教えてください。
まず、私が監督をやらせてもらうときに「こういうチームをつくりたい」とか「選手・スタッフみんなに成長してほしい」というビジョンをずっと言い続けました。ただ、それを自分一人で実現できるわけではないので、コーチの皆さんがどんなアイデアや意見を持っているかを最大限に聞きたいと思って関わっていました。
例えば、私自身は元キャッチャーですけど、そのポジションの選手をどう育てるか一人で考えるより、コーチには私が気付けていない所を見つけられる人がたくさんいます。
「こういう長所がある」「この部分はもっと伸ばせる」といったアイデアは、やっぱりコーチとのコミュニケーションでしか得られない。だから私は「もう何でも言ってほしい」「まずは全部出してほしい」という姿勢を大事にしていました。
「出してくれた意見は基本的に最初は採用するよ」と伝えていたんです。もちろん、そこでうまくいくこともあれば失敗もあります。失敗したらコーチはコーチで「自分のアイデアが原因で負けた」と真剣に考えてくれるんです。そうすると次はより良いアイデアを出そうと本気になってくれます。それこそがチーム全体の成長につながると思っていました。
選手との接し方も同様に、コーチの方が選手と近い距離でコミュニケーションをとる場面が多いんです。だから、私が直接言うよりコーチを通した方が伝わりやすい場合もあるし、コーチに「あいつ最近どう?」と聞くこともできます。
そういう意味で、コーチは「監督と選手をつなぐ存在」でありながら、同時に自分自身もチームを良くするためのアイデアを出す良い存在だと考えていました。
なるほど。そうしてコーチの力を借りることで、理想のチームをつくろうとされていたわけですね。実際に組閣された当初、矢野さんのような考え方はプロ野球界ではかなり先進的だったと思いますが、コーチとの衝突はなかったのでしょうか?
最初はありましたよ。特に「自主性」や「自分で考えて練習する」という部分ですね。例えば、キャンプの時の「早出練習」。昔は「この選手は早出しなさい」と指名されてやるのが当たり前でした。
でも私はやりたい選手が自主的に早出すればいいし、終わってからも自分で“もっとやりたいという選手はやればいいと伝えたんです。するとコーチからは、そんなに放任していいんですか?と反発されたこともありました。
私自身、中日時代に苦しい思いをした経験があって、「やらされる練習」から「自分でやる練習」に変えたら成果が出たし、悔しさも自分事として倍増したんです。
だからこそ、自主性が大事だと伝えたかったです。最初は「こんなやり方いいの?」という声もありましたが、「チームとしてどういう人を育てたいのか」「結局は自分で考えて動ける選手を育てることが大事なんだ」と言い続けました。
もちろん、それによって一時的には反発もあったし「今までと違う」と戸惑うコーチもいました。
でも、私は諦めずに「こういうチームを作りたいんだ」「この先の5年10年、選手が引退した後にも力になるような指導を目指そうよ」と話し続けたんです。徐々に理解してもらえて、コーチも自分の経験や知識を踏まえた提案を積極的にしてくれるようになりましたね。
質疑応答への回答
【司会】
まず一つ目に、勇気づけや対話を重視していると、どうしてもメンバーが甘えてしまったり、「何でも自分で判断せずに上司に聞いてくる」ようになってしまわないか、と心配になります。
実際、矢野監督のように「優しく寄り添う」接し方をされていた際、選手が甘えるようになってしまったケースはありませんでしたか? もしそういうことがあった場合は、どんなふうに対応されていたのでしょうか?
そうですね。そういう選手も中にはいたかもしれません。ただ私は、「聞きっぱなしで終わらない」ことが重要で意識して接していました。
選手が「盗塁どうですか?」「初球打ちどうですか?」と相談してきても、それをただ聞いて「いいよ」で終わらせるだけでは意味がないんですよね。
行動に移してこそ成長があります。なので、私は行動まで移せるのかどうか最後まで確認していました。
たとえば、「じゃあ次どうする? どんな練習をする? どう準備する?」と問いかけて、行動まで決めてもらうんです。そして次の試合や練習で、その行動が実行されたのか、結果どうだったのか、本人と一緒にフィードバックを行います。
そこまでやって初めて、「甘え」ではなく「前向きな相談」に変わるんだと考えています。
私自身「優しく寄り添う」といっても、失敗しても叱らない代わりに挑戦しないことや諦めてしまうことにはしっかり声をかけると決めていました。
そこだけは唯一怒る部分で「お前の可能性が伸びないぞ!」というふうに声をかけていました。だからこそ、ただ質問するだけで終わる選手は自然と少なくなりますし、「聞いたからにはやってみよう」という姿勢が育ったなと考えています。
【司会】
なるほど。聞きっぱなしではなくて「行動」までフォローしていくことで、ただ甘えられないようにする、ということですね。
もう一つ、質問があります。矢野さんが横田慎太郎選手を温かく見守り、チームを鼓舞するときにも横田選手の努力を話されていたのが非常に印象に残っているそうです。野球という競争の厳しい世界の中で、横田選手という個人と阪神タイガースという組織が、共に幸せな形を実現していたように感じたと。そこで、組織と個が共に幸せになるために、どんな点を大切にされていたのかをお聞きしたい、とのことです。
横田慎太郎というのは、本当にチームの見本になってくれる選手でした。脳腫瘍の手術後、やれることが制限される中でも、朝イチでグラウンドに出てきて全力を尽くしていました。そういう姿が自然に他の選手の見本になるんです。「俺も頑張らなきゃ」と思わせてくれるそういう見本でした。
もちろん、私自身もチーム全体のことを考えていますし、優勝を目指すことや、個々の選手のモチベーションを上げることも大切だと考えています。でも、最終的には「個が伸びていくこと」がチーム全体の力になると考えていました。
たとえば、私が監督の時代には「一塁までの全力疾走」をチームの約束ごとにしていました。凡打でも内野ゴロでも、とにかく諦めずに走ろうと決めていました。私自身、現役時代に諦めてしまっていた時期もあったからこそ、そこを大事にしようと思いました、
勝っても負けても挨拶するとか、チームとして「こういう在り方でいよう」と共有することで、組織の中でもぶれない行動指針ができます。
そうすると、選手一人ひとりがそれを意識し、自分の成長ともリンクしていくんです。厳しい競争社会であっても、「自分の可能性を磨く」ことが結果的にチームの成果につながります。そういうサイクルを回していくのが大事だと考えています。
また目先の結果だけでなく、プロ野球選手は平均7年でクビになる厳しい世界なので、選手のその後も含めて育てていきたいというビジョンもありました。
だからこそ、一緒にやっている間に「こうやってやれば成長できる」という学びや在り方を身につけてもらいたいと考え、そのほうがチームにも貢献できるし、引退後も本人の人生で活きるはずだと考えていました。
つまり、組織としての目標を追いかけつつも、個々が持っているポテンシャルをできるだけ伸ばしてあげる事が大事だと思っています。そうすると、組織と個、両方が幸せになれるんじゃないかと考えていました。
謝辞
今回は、阪神タイガース元監督 矢野 燿大さんに「超積極的1on1が強い選手を育てる」についてお伺いさせていただきました。
本日は貴重なお時間をいただき、深いお話をたくさん聞かせていただいた矢野さんに、心より感謝申し上げます。インタビューを通じて、多くの学びや気づきを得られたことと思います。
そして、最後までこの記事をお読みいただいた皆さま、誠にありがとうございます。本記事が皆さまにとって、企業内のワークエンゲージメント向上の一助となれば幸いです。
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