組織開発・人材育成・マネジメントなどの領域を研究されている教授や専門家の方々にインタビューを実施し、経営者・人事担当者・現場管理職などの皆様に組織を改善する一助となる情報をお届けするシリーズです。
今回は、京都文教大学講師であられる多湖 雅博氏に、離職やモチベーション低下を避ける中小企業のワークエンゲージメントの高め方についてお伺いいたしました。
現場に活かせる情報ばかりですので、ぜひ最後までお読みいただけますと幸いです。
インタビュイープロフィール
多湖 雅博(たごお まさひろ)氏
京都文教大学 総合社会学部 総合社会学科 講師
組織開発を中心に、マネジメントやリーダーシップ、職場のメンタルヘルスなどを研究しており、従業員と企業がWin-Winの関係を築ける組織を経営学の視点から考察している。
著書に『経営理念・経営ビジョン/経営戦略』(日本医療企画)、『職場の経営学:ミドル・マネジメントのための実践的ヒント』(中央経済社)、『対話型組織開発(AI)を用いた活き活き社員のつくり方』(パブファンセルフ)などがある
導入:多湖先生について
※以下、多湖氏(黒字)・インタビュアー(赤字)で記載いたします。
今回は取材の機会をいただき誠にありがとうございます。まずは。多湖先生のご経歴と、中小企業のワークエンゲージメントに興味を持たれた具体的なきっかけについて、さらに詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?
私は最初から教員を目指していたわけではなく、医療機関での勤務や専門学校の教員としてのキャリアを経て来ました。特に病院で働いている時に役職がついてくるとマネジメントを初めて経験したのですが、これまで全く学んでこなかった分野ではあったので興味を持っていろんな研修に行っておりました。研修を受けていく中で組織マネジメントへの関心がでてきたので、大阪府立大学にMBAコースがあったので通うことにしました。そこからさらに甲南大学の博士課程まで進んで今に至ります。ワークエンゲージメントに興味を持った背景としては、大学院時代に組織をマネジメントする上で何が重要なのかと考えた時に、ワークエンゲージメントのキーワードを発見して研究してみようと考えたのが背景となりますね。
なるほどありがとうございます、ちなみに論文を拝見していると中小企業にフォーカスして研究されているかなと思ったのですが、こちらは何かご理由もあったりするのでしょうか?
今所属している、京都文教大学の方で中小企業と共同で行う授業が多く興味を持ったのがきっかけです。また、日本において中小企業の数は99%とかなり大部分を占めているので、私の研究で社会がより良くなればと少しおこがましいですが、そういった気持ちもあり研究しています。
ワークエンゲージメントについて
全くおこがましくないですよ。より多湖先生の研究している内容をお聞きしたいのですが、ワークエンゲージメントとは何かお聞きしたいのですがよろしいですか?
ありがとうございます。ワークエンゲージメントとは、従業員が仕事に対して抱く活力、熱意、没頭の心理的な状態を指します。この概念は、従来のストレス研究に基づく「バーンアウト」の反対のポジティブな概念として提唱されているものです。具体的には、以下のような形になっています。
- 活力(Vigor):仕事に対してのエネルギーや精神的な回復力。
- 熱意(Dedication):仕事に対する誇りや意義の感じ方。
- 没頭(Absorption):時間を忘れて仕事に集中する感覚。
近年出てきた、ウェルビーイングと似てるという風に言われるのですが、ウェルビーイングは生活全体の幸福感を指すことが多く、ワークエンゲージメントは特に仕事に焦点を当てて、生き生きと働けているかはかる概念になります。
なるほどありがとうございます。ちなみに、ワークエンゲージメントが高まると、どのような良い効果があるのでしょうか?
ワークエンゲージメントが高い状態になると組織にポジティブな効果を与えると考えています。一例を挙げると生産性が向上し、離職率が低下するだけでなく、組織全体の士気向上にも貢献します、またストレスを低くしたり抑うつ状態の低減もあり、メンタルヘルス的にも良い状態にできると言えます。
中小企業のワークエンゲージメントの現状と課題
ありがとうございます。多湖先生は中小企業の方々をメインで研究されているかと思うのですが、ワークエンゲージメントにおいてどのような現状なのか、その課題についてお伺いしてもよろしいでしょうか?
実は現状として、中小企業の方がワークエンゲージメントの数値が高い場合があったりするんです。理由としては、働きがいの部分かなと考えています。
中小企業は大企業と比較すると、裁量度が高く、多様な役割を担うことが多いですよね。なので、比較的やりがいに繋がるものが多く、中小企業の方がワークエンゲージメントの数値が高くなるのかなと考えています。
ただ、中小企業ならではの課題とすると下記の2点が挙げられると考えています。
- 人材育成やリソース不足:
特に小規模企業では、体系的なトレーニングやキャリアパスが整備されていないことが多く、従業員の成長機会が大手企業に比べて制限される傾向にあります。また、資金的リソースが限られるため、ワークエンゲージメント向上施策を実行に移す余裕がない場合があります。 - コミュニケーションの質:
日常的なコミュニケーションが活発であっても、、比較的規模が小さい傾向にあるため従業員間の距離が近く、コミュニケーションに不和が生じた場合には、それが顕著にワークエンゲージメントの数値や組織全体へ悪影響を及ぼすリスクがあります。
やはり、中小企業はリソースが限られてしまうので、上記のような状況が起こりやすいと言えますね。
中小企業のワークエンゲージメントの高め方
ありがとうございます、中小企業がワークエンゲージメントが高いことは意外でした。中小企業のワークエンゲージメントを上げる手法はあるのでしょうか?
中小企業におけるワークエンゲージメント向上には、まず仕事と個人の資源を高めることが前提であり重要です、具体的には下記の通りです。
仕事の資源:裁量度の向上、フィードバックの提供、ソーシャルサポートの強化など。
個人資源:従業員の自己効力感や楽観性、自尊心を高める研修やワークショップの実施。
上記が十分に確保できている状態で、私が普段ワークエンゲージメントを上げるために行なっているのは対話型組織開発の1つのアプローチであるAIを活用をしています。
(AI)はAppreciative Inquiryの略称で、グループワークを行いながら互いに共感できる価値を見つける質問を投げかけることで、人材や組織の持っている強みや良いところを発見し、利用しながら目標を達成するアプローチのことです。Appreciativeは「真価がわかる」「価値を認める」、Inquiryは「探求」「質問」などの意味を表します。
AIは、米国で開発された人材開発や組織活性化のアプローチの一つで、ポジティブな問いや探求によって、個人と組織における強みや真価、成功要因を発見し、認め、それらの価値の可能性を最大限に活かした最も成果が上がる有効なしくみを生み出すためのプロセスを指します。この手法は、成功体験を共有し、理想の職場像を描き、それを実現するためのアクションプランを策定します。これにより、従業員間の関係性を強化し、ワークエンゲージメント向上につなげることができます。
ありがとうございます、なるほどAIのようなグループワークを活用するとワークエンゲージメントは上がっていくんですね。ちなみに、挨拶や感謝のような行動はワークエンゲージメントに関係してくるのでしょうか?
挨拶に関しては、ちょうどこれから研究しようと考えていたのですが、かなり関係してくると考えています。色々な組織でAIをやってみて、イキイキして働いてくためのアクションプランとしてよく上がるのが、挨拶や感謝行動をする事なんです。そのため、断定はしないのですが深い関係性があると考えていますね。
ワークエンゲージメントと1on1の関係性について
挨拶や感謝行動が具体的に出てくるのは興味深いですね、ありがとうございます。弊社では1on1のサービスを提供しているので、気になってしまい質問なのですが、1on1はワークエンゲージメントを高める有効なのか、またどのような要素があると向上に寄与できるのかお伺いしても良いでしょうか。
1on1について詳しく研究はしていないので断言はできないのですが、1on1の仕組み的に部下の自己効力感やキャリア意識を高めるだけでなく、上司との信頼関係を強化するのでワークエンゲージメントを高める上では有力な手法だと思っています。仕事や個人の資源に直結する点も良いと考えています。
また、下記の要素は効果的な1on1の要素としてワークエンゲージメント向上に寄与できるのかなと思います。
目標の共有:部下のキャリア目標や個人的な関心事を把握し、それを業務と結びつける。
フィードバックの提供:具体的で建設的なフィードバックを通じて、成長機会を提供する。
心理的安全性の確保:部下が自由に意見や感情を表明できる雰囲気を作る。
総括:今後の展望について
お話しありがとうございました、ちなみに多湖先生が中小企業のワークエンゲージメントに期待していることはあるのでしょうか?
そうですね、やはり日本の企業のうち99%が中小企業が締めており地域と密着していて、我々の生活と直結してるところが多いです。そのため、日本の中小企業を元気にする手立ての一つとして活用できると嬉しいです。
ありがとうございます。また、ワークエンゲージメントについて今後研究してみたいこととかはあるのでしょうか?
先ほど言っていたように、挨拶や感謝行動とワークエンゲージメントの関係を調べてみたいと考えています。また、リモートワークの普及に伴い、オンライン環境下でのワークエンゲージメント維持も重要なテーマだと考えているので研究してみたいですね。
ありがとうございます。挨拶や感謝行動、また昨今普及して来たオンラインでは働く際にワークエンゲージメントがどうかわるのか非常に興味がありますね。多湖先生の今後の論文が楽しみです。
謝辞
今回は、京都文教大学の多湖先生に中小企業のワークエンゲージメントの高め方についてお伺いさせていただきました。
本日は貴重なお時間をいただき、深いお話をたくさん聞かせていただいた多湖先生に、心より感謝申し上げます。インタビューを通じて、多くの学びや気づきを得られたことと思います。
そして、最後までこの記事をお読みいただいた皆さま、誠にありがとうございます。本記事が皆さまにとって、企業内のワークエンゲージメント向上の一助となれば幸いです。
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