「何回でも、シンプルに伝える」株式会社iCARE 取締役 中野雄介氏が語る 100人の壁を超えるマネジメント術

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「何回でも、シンプルに伝える」株式会社iCARE 取締役 中野雄介氏が語る 100人の壁を超えるマネジメント術

100人の壁とは、事業成長に伴い、組織の構造が複雑化(階層深化)する中で、主に中間層(部長・課長職)のマネジメント力不足によって、人材の育成・定着やオペレーションの整備が進まず、成長に歯止めがかかってしまう現象を指します。

一方で、100人の壁を超えて成長を続けているケースは枚挙に暇がありません。

本記事では、急成長を遂げ、3年で30名から約3倍の規模となり、100人の壁を超えつつある株式会社iCARE 取締役CRO(Chief Revenue Officer) 中野雄介氏に100人の壁を超えた採用・育成・組織風土づくりのポイントについて株式会社O:(オー)代表の谷本がお伺いしました。

100人の壁を超えるまでに変わったもの・変わらなかったもの

谷本:早速ですが、iCAREさんは事業も組織も大きく伸びされていらっしゃる印象です。ここ3年間を振り返ってみていかがですか?

中野:3年前からは3倍ぐらいにはなっていますね。今100名を少し超えてるぐらいです。

谷本:素晴らしい成長ですね。100名を超える組織になって、組織の形は変化されていますか?

中野:100名になるまでを振り返ると、変わったものと変わらなかったものがあります。変わったものとしては、組織形態が明確になりました。言い換えれば、ピラミッドが大きくなってきた。

例えば、3年前は「経営陣」と「現場」みたいな感じで非常に低いピラミッドだったんです。今は、間に2階層ぐらい入ってきています。やはり、組織の中間層を整備して、パイプラインを強いものにしていかなければ、大きくなっていけないという危機感があったので、ここ1~2年は重点的に整備してきましたね。

一方で、変わらないものとしては、弊社のクレド・バリューという文化があります。

例えば、社内イベントを取り仕切るプロジェクトを「文化村」と呼んで、3年間継続してやってきました。リモート化においても、例えば、シャッフルランチをzoomでする等の施策を継続してきましたが、その様な文化を継続出来たのは、クレド・バリューのおかげであると思っています。

また、経営層やマネージャーが、クレド・バリューを体現している事も変わっていない点ですね。口ずさんでみたり、関連するSlackのスタンプを押したり、クレド・バリューが組織に浸透させるための基本的な事を徹底してきました。

もちろん、実際に浸透しているかどうかは、これからも確認し続ける必要がありますが、クレド・バリューを浸透させる「努力」というのは、変わらず続けてきたなって感じがします。

若手のシンボルとしての役割

谷本:なるほど。

中野:クレド・バリューの話に加えて、この3年間は自身のイメージについても意識してきました。弊社は、役員は40代前半が中心で、部長陣もだいたい30代後半から40歳くらいです。

一方で、僕がちょうど今年30歳になります。1人だけ若い立場なので、実力がある人は上に登れるという事をシンボル的に発信していきたいとは思っていますね。

中間層の成長という課題に向き合う

谷本:ありがとうございます。次の質問になるのですが、現在の組織づくりや文化において、課題に感じられる部分などはありますか?

中野:経営陣がもっと先を見られる状況を作り、かつ解像度高くしていくという事が必要だと思います。そういう意味では、経営陣のレベルアップはマストですね。また、その1個下のレイヤーで、それぞれの領域と部署を束ねているVP(Vice President)、部長、マネージャークラスを強固にしていかないといけません。

ビジョン・ミッション・クレド・バリューをしっかりと咀嚼して、組織に落とし込むことが今後一層重要になってくると思いますが、iCARE全体が強くなるために、最も力点が働く場所は、中間レイヤーだと思っています。

中間レイヤーが組織の上と下を強固に繋ぐ役割を果たすのは、大切だなと日々本当に今感じていますね。

谷本:課題感について回答頂きましたが、今の話に関連して、今後取り組んでいきたい事や既に取り組んでいる事はありますか?

中野:現在、中間層の成長を促すために取り組んでいる事ですか。月並みではありますが、権限委譲をどんどんしていくっていう事ですね。

やはり、意思決定の回数をどれだけ経験したかは人の成長にとって非常に重要だと思っています。一方で、クリエイティブな発想や創造的なことをしていくときの意思決定って人によってバラつきがありますよね。

だから、意思決定の判断軸みたいなのがある程度揃えるように注意を払っています。例えば、今期はこれをやるという方針を明確にする。そうすれば、方針からロジカルにブレークダウンしたところの判断っておそらくあんまり誰がやっても変わらないはずですよね。

なので、目標や方針などの判断軸をロジカルに擦り合わせた上で、意思決定をどんどんさせていくという事をかなり意識しています。そうする事で、ある事象に対する判斷を経営層と現場で一致させて、現場に意思決定をどんどんさせていくという事が出来るようになっています。

組織文化を透明度高く発信し、採用のミスマッチを防止

谷本:素晴らしい権限移譲の仕組みですね。少し話は変わりますが、中野さんTwitterでかなり発信されている中で、最近内容やスタイルを変えましたよね。組織のフェーズが変わる中で何か思惑があったんでしょうか?

中野:以前は、僕も一従業員から始まってますから、いかに会社を使って笑いを取りに行けるかみたいなとこしか考えていませんでした(笑)。部長に昇格した後も、あんまり変わってないですね。いかに日々のネタを拾って発信するかみたいなとこ考えていました。

変わり始めたのは、執行役員になってからでしたね。会社を利用するというよりも、会社に利用される側になっていきました。会社側の人間になってからは、iCAREについて本当につつがなく、メンバーに発信してもらいたいなと思うようになりました。

iCAREの人間って多分今30人ぐらいTwitterを実名でやってるんですよね。ただ、実名であり社名を出しているから、いいことだけ発信して欲しいとは全く思っていません。例えばその中野の判断がいけてないとか、そういう可能性も全然あるなとは思ってます。

全てがクリーンな部分だけではないですから。会社や事業を前に進めるためには非情な判断をしないといけない部分もあります。そこがちょっと良い風に映らなかったという人もいると思うので、そういった意見はどんどん言って貰いたいと思っていますね。

谷本:30人はすごいですね。皆さんはTwitterを自発的に発信してるんですか?

中野:Twitterってタダじゃないですか。タダで会社の情報を発信して、採用に繋がってるんですよね。iCAREという会社とブランドが、もう本当に曇りなくそのままその外に抜け出てほしいと思っています。

社員による発信内容を見て、いいなと思ってもらう人がいる一方で、逆に嫌だなと思う人は遠ざかっていくみたいなことがあっていいですよね。実際に、発信内容に「いいな」と思った人ほど組織にフィットしていますし。

採用後にミスマッチがないという視点もありつつも、本当にうちの会社を透明度高く外に出したいという流れの一環としてTwitterというものがあり、社員が楽しみながら日々の発信をができる。それが無料であれば、どう考えてもやった方がいいに決まってるんですよ。

もちろん、私はやらないですみたいな人もいます。それは個人の自由なので全く強制とかはしていません。

マネジメントの羅針盤としてのクレドとバリュー

谷本:iCAREさんに入社された方の、Twitterの発信を見ていて感じた印象と入ってから感じた印象が全く同じだったみたいな発信を以前拝見しましたが、まさに狙い通りですね。

中野:余談ですが、あるエージェントさんに、以前言われたのが圧が強すぎて、iCAREさん無理だと思いましたみたいなフィードバックを貰いました。ちょっとパリピ風というか、ワイワイしてそうなみたいな感じに見えるみたいです(笑)。

逆に、その雰囲気が本当に嫌いだという人は、入っても居づらいだけだと思うので、お互いにとって良かったというエピソードです。

組織の雰囲気に合うかは大切なので、社員の発信によって、遠ざかる人は遠ざかっていくというのは、狙い通りと言えるかもしれませんね。エンゲージメントや定着率が高いのは、やっぱり合ってると思う人が入社されているからだと思います。

雰囲気やクレド・バリューへの共感・納得度が高い状態で、自分で決断をして入ってきているわけです。つまり、クレド・バリューに反旗を翻す可能性は限りなく低いですし、それがあったのであれば辞めるべき時なのかもしれません。

逆に、クレド・バリューに基づいたコミュニケーションをしていれば、ズレないはずなんです。クレド・バリューに基づいた行動や決定だから納得できるよねっていう話ですね。

なので、クレド・バリューというのは組織をまとめ上げてマネジメントする立場からすると非常に頼りがいのあるものです。

ビジョン・ミッションと社員の仕事を繋がり説く事の重要性

谷本:なるほど。少し今の話しを掘り下げたいのですが、「ビジョンを覚えてもらえない」「マネージャーがバリューを体現できない」という課題感を持たれている会社様が多いと思いますが、iCAREさんの具体的な取り組みは工夫を教えて頂けますか?

中野:ビジョンとミッションってすごく遠いものじゃないですか。組織の上に上がるほど、視座も上がるし遠くを見る必要あるんだけれども、現場のメンバーに同じものを求めるのは、そもそも違うと思うんです。

だから、役割が異なる立場のメンバーに、ビジョンやミッションを「覚えてもらう」というのがまず間違いかなと思っています。

自分の実践例について話すと、クオーターごとにキックオフミーティングやっていて、前期の振り返りと今期の方針についての話をしています。ポイントは、ミーティングの結末=終わり方は毎回同じ内容なんですよね。

伝えているのは、セールスとマーケティングはiCAREのサービスを外に広めていくということをやってるという事。僕たちがサービスを広めていくからこそ、「カンパニーケアの常識を変える」というミッションが社会にどんどん広がっていくという事。そして、ミッションが達成すればビジョンが見えてくるという事です。

ミッションというのが登山でいうと、頂上まで登るみたいなことですよね。頂上まで登ったら、そこから見える綺麗な景色があるじゃないですか。それがビジョンという位置づけなんです。

つまり、皆が取り組んでいる行動というのはビジョンとミッションに繋がってるものなんだよと言ってるんですね。これは毎回一緒です。昔からいるiCAREに人間は、耳から耳にタコができるぐらいこの話を聞いています。

もちろん、伝えている内容にマンネリ感がゼロではありませんが、毎回心を込めて話してます。やっぱり、現場で足元の業務に目が行っていると「なんで同じことやってるんだっけ?」とか目的がわからなくなるんですよね。

だから、皆さんがやってる仕事全てにおいて一挙手一投足、全部ミッションに繋がってる。お客さんにiCAREのサービスを届けるためにやっているという事を伝える。

サービスが届くからミッションを達成するし、だからビジョンを実現するんだという話を毎回する事で、「だから私はこの仕事をやっているんだ」ということを認識してもらう。つまり、ビジョンとミッションを「覚えてもらう」のではなく、「メンバーの日々の仕事と接続する」という事が非常に大切だと僕は思います。

何回でも、シンプルに伝える

谷本:素晴らしいですね。最後になりますが、iCAREさんが現在取り組まれている「人材が定着し、働く意識が明確な組織」を作っていくためにメッセージを頂けますか?

中野:日々意識しているのが「シンプルに」「何回も言う」ことなんですよ。もちろん、いろいろな事を伝えたいし、伝えたくなっちゃうんですけれども、届きません(笑)。

組織におけるレイヤーが違うという事は、異次元の人が話してるので、言語が違うみたいな状態になるわけです。やはり、よりシンプルに、誰でもわかる平易な言葉で1文にまとめて、かつそれを何回も伝えるってことが絶対に必要だと思ってます。

頭にメッセージを残らせるためにはやっぱりそれしかないんですよ。そういえばこんなこと言ってたなとか、ちょっと困ったときに思い出してもらう所まで落とし込むまためには、シンプルに何回も伝えないと駄目なんですよね。

谷本:シンプルに伝える。すごく大事な事ですよね、それ以外に工夫されている事ってありますか?

中野:メッセージと言ってることに関しては変えずに、一定程度楽しんでもらって興味を引けるような工夫はしていますね。テクニック的な話になりますが、例えば、スライドの構成とか背景図が変わったりとかです。飽きさせない工夫は絶対必要だと思いますね。

谷本:ありがとうございます。先程の経営層と現場の距離の話がありましたが、中野さんは割と今も異星人(=現場側)にいるのに、組織の階層跳び超えて見ようとされてる印象があります。

元々そういう能力お持ちなのかもしれませんが、組織の縦串を通す上で、意識されている事ってありますか?

中野:自分の管轄する部署じゃなかったとしても、現場の人たちとも普通に他愛のない話をする事はありますね、自分から普通に話しかけに行きます。

自分がお喋りが好きなのもありますが、話した人の状態も知れるし、近況も知れるみたいなところが楽しいなと思ってます。もともと僕は現場から上がってますしね。

現場を知ってる人間、現場側だった人間として、その気持ちに寄り添えるというのは僕の経営陣の中での一つの強みかなというふうに思います。

現場の経験を踏まえると、やっぱりシンプルなことしか覚えてられないんですよね。だから、繰り返しになりますが、シンプルに、何回も伝える。それが現場に一番伝わると思いますね。

谷本:タイトルを頂きましたね。それで行きます(笑)。本日は良いお話ありがとうございました。