【2025年度】人材育成研修の助成金一覧|最大75%補助の条件と手順を解説

社員研修をしたいが予算がない、と悩んでいませんか?その解決策は、国の制度である、研修助成金の活用です。

実は、自社に合うコースを選んで研修開始前に申請すれば、費用の最大75%が補助される可能性があります。

この記事では、最も使いやすい『人材開発支援助成金』を中心に、具体的な申請スケジュール、審査に通るための必須条件までを詳しく解説します。読み終える頃には、自社が使うべき制度が明確になり、コストを抑えた人材育成へ向けてすぐに動き出せます。

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▼ この記事の内容

  • 人材開発支援助成金と推奨コース: 経費と賃金のダブル支給により最大75%が補助される本制度はコスト削減に最適で、2025年はDX対応等の「リスキリング支援コース」が特に推奨されます。
  • 受給のメリット: 金銭的なコスト削減に加え、計画作成を通じたマネジメント能力の向上や、従業員のエンゲージメント促進といった組織強化に直結します。
  • 不支給の注意点: 研修開始1ヶ月前までの計画届提出や、解雇などの「6ヶ月ルール」といった厳格な期限・要件を破ると全額不支給となるため十分な注意が必要です。

人材育成に使える助成金

人材育成に使える助成金・補助金は複数存在します。ここでは2025年現在、多くの企業で利用されている主要な制度を整理しました。種類が多く「どれが自社に使えるのかわからない」という声も多いため、それぞれの特徴を比較しながら、自社に合う制度を見つけてください。

助成金名称主な対象者活用の目的・特徴
人材開発支援助成金正社員最もおすすめ。職務に関連する専門知識・技能の習得。経費と賃金のダブル助成が特徴。
キャリアアップ助成金非正規雇用労働者パート・派遣社員の正社員化や処遇改善。雇用形態の変更と合わせた研修に最適。
両立支援等助成金全従業員育児・介護休業の取得や復帰支援。働きやすい環境整備を目的とする場合に利用できる。
東京都独自の助成金都内中小企業国の助成金への上乗せや、DXリスキリングなど独自の支援。都内企業は要確認。
IT導入補助金全企業ITツール導入時の費用補助。ツールの研修費やマニュアル作成費も一部対象。

人材開発支援助成金

厚生労働省が管轄する、最も代表的な助成金制度です。雇用保険に加入している正社員に対して、職務に関連する専門的な知識や技能を習得させるための訓練を行った場合に支給されます。

研修にかかった経費だけでなく、研修期間中に支払った賃金の一部も助成されるのが大きな特徴です。

定額制のeラーニングや外部講師による集合研修も対象となる場合があります。

キャリアアップ助成金

非正規雇用労働者(パート、アルバイト、派遣社員など)のキャリアアップを目的とした制度です。契約社員の正社員転換や、賃金規定の改定による給与引き上げなどが助成対象となります。

直接的な研修費の補助ではなく、雇用形態・処遇の改善に対する支援ですが、正社員化と合わせて研修をするケースも多く、人材育成の枠組みとしても活用されています。

両立支援等助成金

仕事と家庭の両立を支援する企業を助成する制度です。

例えば、男性社員が育児休業を取得しやすい環境を整備したり、育休からの復帰を支援する研修を行ったりした場合に対象となります。また、介護と仕事の両立支援なども含まれます。

働きやすい職場環境を作ることで、離職率の改善や優秀な人材の確保につなげたい企業に適しています。

スキルアップ助成金

主に自治体や民間団体が独自に実施している、従業員の資格取得や特定の技能習得を支援する制度の総称として使われることが多いです。

国の人材開発支援助成金とは異なり、個人が自発的にする学習費用を補助するものや、特定の業界(介護、建設など)に特化したものがあります。

要件や上限額は実施団体によって大きく異なるため、所在地の情報を確認する必要があります。

東京都独自の助成金

東京都内の中小企業のみが利用できる、手厚い助成制度です。

公益財団法人東京しごと財団などが実施しており、国の助成金に上乗せして支給されるものや、国よりも対象となる経費の範囲が広いものがあります。

特にDXリスキリング助成金など、デジタル技術の習得に関する支援が充実しており、都内の事業者であれば優先的に検討すべき制度です。

IT導入補助金

経済産業省が管轄する制度で、業務効率化のためにITツール(ソフトウェアやサービス)を導入する際の費用を補助します。

ツールの購入費だけでなく、そのツールを使いこなすための導入研修費用やマニュアル作成費なども一部対象になる場合があります。

新しいシステムを入れて生産性を向上させたい場合、セットで活用できるか確認することが重要です。

​​なぜ「人材開発支援助成金」が最も使いやすいのか

数ある制度の中で、なぜ多くの企業が人材開発支援助成金を選ぶのでしょうか。 結論から言えば、これが唯一研修費と人件費の「ダブル支給」を受けられる制度だからです。

他の一部の助成金が研修費のみの補助に留まるのに対し、本制度は研修を受けている間の給与までカバーしてくれます。 

また、自社の課題に合わせて自由に研修を組める柔軟性も兼ね備えています。

 つまり、負担は軽く、効果は最大化できる、というバランスの良さが、中小企業にとっての定番として選ばれている理由です。 

経費だけでなく賃金の一部も助成される

「人材開発支援助成金」では、研修の受講料に加えて、研修中の給与の一部も助成されます。前者を「経費助成」、後者を「賃金助成」と呼びます。

【2025年度版:コスト削減シミュレーション】 

※事業展開等リスキリング支援コース(中小企業・賃上げ要件あり)を適用

  • 研修費:300,000円
  • 訓練時間:20時間
  • 経費助成(75%): 225,000円
  • 賃金助成(960円×20h): 19,200円
  • 合計助成額: 244,200円
  • 実質負担額: 55,800円(約82%の削減) 

※受講者の時給分を除いた経費面でのインパクトです。

実質約72%の費用を国が支援してくれることになり、キャッシュフローの不安を軽減できます。

企業のニーズに直結している

コスト面のメリットに加え、企業が今、必要としているスキルを自由に選んで研修を組める柔軟性もあります。 

営業力を強化したい、管理職のマネジメント能力を高めたい、若手にビジネスマナーを教えたいなど、社内の課題に合わせたカリキュラムを作成できます。 

決まった講座を受けるだけでなく、自社の業務に特化したOJTと組み合わせることも可能で、現場で本当に使えるスキルを習得させられます。

多くの訓練をカバーできる

新入社員向けの基礎研修から、ベテラン社員向けの高度な専門技術研修まで、対象となる訓練の範囲が非常に広いです。 

外部の教育機関がしている公開講座、社内講師による研修、オンラインでのeラーニングなど、実施形態も問いません。 

正規雇用の社員であれば、職種や年齢を問わず幅広く適用できるため、一部の社員だけでなく、全社的な人材育成計画に組み込みやすいのが特徴です。

人材開発支援助成金のメリット

助成金を受給することは、金銭的補助がある、という以上の価値を企業にもたらします。

コスト面の恩恵はもちろん、申請プロセスを通じて社内の体制が整備され、結果として組織全体の力が底上げされるからです。

人材育成コストを大幅に軽減できる

中小企業の場合、条件を満たせば研修にかかった経費の最大75%(賃上げ要件などを満たした場合)が助成されます。

例えば、100万円かかる研修を実施しても、75万円が戻ってくる計算です。

実質25万円の負担で質の高い教育を提供できるため、予算の制約で諦めていた高額な専門講座や、長期間のプログラムも導入しやすくなります。

企業の生産性向上も同時に行える

助成金の申請には「生産性要件」という項目があり、これを目指すことで経営体質が強化されます。

また、研修によって従業員のスキルが上がれば、業務効率が良くなり、ミスが減り、新しいアイデアが生まれます。

結果として、同じ労働時間でもより高い成果が出せるようになり、企業の利益率アップ(生産性向上)に直結します。

従業員のキャリア形成を促進できる

会社が費用を負担して研修に行かせてくれることは、従業員にとって「自分は期待されている」というメッセージになります。

自分の成長を会社がバックアップしてくれる環境は、仕事へのモチベーションを高め、エンゲージメント(会社への愛着心)を向上します。

結果として、優秀な人材が定着しやすくなり、離職防止にもつながるのです。

マネジメント・制度運用能力の向上に直結する

助成金を申請するには、誰にどのような教育が必要かを考える「事業内職業能力開発計画」の作成が必要です。

この過程で、経営陣や人事担当者は、社員の能力を客観的に見極め、長期的な育成プランを練ることになります。

つまり、助成金の活用プロセスそのものが、単なるコスト削減策ではなく、強い組織を作るための経営強化プロジェクトとして機能するのです。

人材開発支援助成金の全6コース

人材開発支援助成金には6つのコースがあります。結論として、2025年に中小企業が真っ先に検討すべきは「事業展開等リスキリング支援コース」と「人への投資促進コース」の2つです。

この2コースは、国が推進する「DX・デジタル化」「新規事業」に対応しており、助成率も最大75%と高水準です。新規事業のための教育なら前者、IT資格やサブスク型研修なら後者、といった使い分けができます。

まずはこの2コースが自社に該当するかを確認し、難しければ他を検討するのが効率的です。以下に各コースの特徴を整理しました。

おすすめ度コース名このような企業に最適助成対象の例
★推奨事業展開等リスキリング支援新規事業・DXを推進したい
新しい分野へ進出するために社員を育てたい企業。助成率が高い。
・DX/データ分析研修・新事業立ち上げの専門講座
★推奨人への投資促進ITスキル・定額制を使いたい
デジタル人材育成や、サブスク型研修を柔軟に導入したい企業。
・ITパスポート等の資格取得・定額制eラーニング(サブスク)
一般人材育成支援基本スキルを強化したい
新入社員研修や職務に必要な専門スキルの習得。
・新入社員OJT+外部研修・職種別スキルアップ研修
一般教育訓練休暇等付与自発的な学習を促したい
社員が休んで学べる制度を作りたい企業。
・教育訓練のための有給休暇制度
特例建設労働者認定訓練建設労働者技能実習建設業の事業者
業界特有の技能講習や資格取得を行いたい企業。
・クレーン、溶接等の技能実習・認定訓練講習

事業展開等リスキリング支援コース

新規事業の立ち上げや、デジタル化(DX)、グリーン化(脱炭素)などに対応するための研修が対象です。リスキリング(新しい業務のためにスキルを学び直すこと)を組織的に進めたい企業に最適で、助成率も高く設定されています。人材育成には最もおすすめなコースの一つです。

人への投資促進コース

デジタル人材の育成や、労働者が自発的にする訓練を支援するコースです。ITパスポートなどの資格取得や、高度なデジタル技術の習得、大学院への派遣などが含まれます。

「定額制訓練(サブスクリプション型の研修サービス)」を利用する場合もこのコースが適用されることが多く、ITスキルを強化したい企業によく利用されています。

こちらもルールに気をつければ、フレキシブルな利用ができるのでおすすめです。

人材育成支援コース

最もスタンダードなコースです。職務に関連する専門知識や技能を習得させる「人材育成訓練」や、正社員経験が少ない人を雇い入れて行う「有期実習型訓練」などが含まれます

通常の業務遂行に必要なスキルアップ研修や、新入社員に対するOJTとOff-JT(職場外研修)を組み合わせた訓練をする場合に適しています。

教育訓練休暇等付与コース

会社が従業員に対して、教育訓練を受けるための有給休暇を与えた場合に助成されます。

会社が命令する研修ではなく、従業員が自分の意思で学びたいと思った時に、安心して休める制度を作ることが目的です。

3年間に5日以上の休暇取得などの要件があり、自律的な学習を促したい企業向けです。

建設労働者認定訓練コース

建設業の事業主が対象の特例的なコースです。建設業に関連する認定訓練(職業能力開発促進法に基づく訓練)を受けた場合に、経費や賃金の一部が助成されます。

建設現場で必要な資格取得や技術向上のための講習などが対象となり、建設業界の人手不足対策や技術継承を支援するための枠組みです。

建設労働者技能実習コース

こちらも建設業限定です。建設労働者に対して、技能実習(クレーン運転、玉掛け、溶接など)を受けさせた場合に助成されます。

労働安全衛生法に基づく教習などが対象で、安全に作業をするための必須スキルを身につけさせる際に活用できます。受講料の助成に加えて、賃金助成も手厚く設定されています。

申請前に知っておくべき注意点

助成金は申請すれば必ずもらえるものではありません。国の予算を使うため審査は厳格で、ルールを一つでも破ると不支給になります。

特に初めて申請する企業が陥りやすいミスや、事前に準備しておかないと取り返しのつかないポイントがあります。

期限に遅れない

ほとんどのコースで、研修開始の1ヶ月前までに計画届を労働局へ提出しなければなりません。

1日でも遅れると、どんなに素晴らしい研修計画でも一切受け付けてもらえません。

書類作成には時間がかかるため、研修日程が決まったら、少なくとも1.5ヶ月〜2ヶ月前には準備を始める必要があります。スケジュールの管理は最重要項目です。

資金繰りを計画する

助成金は「後払い」が基本です。研修会社への支払いや社員への給与支払いを先に済ませ、その領収書などを添えて支給申請をした後、審査を経て数ヶ月後に入金されます。

つまり、一時的に数百万円単位の現金が会社から出ていくことになります。

入金までの数ヶ月間、資金繰りがショートしないよう、事前にキャッシュフローを確認しておきましょう。

社員の途中退職に注意する

研修の計画届を出した社員が、研修期間中や支給申請をする前に退職してしまった場合、その社員にかかった経費や賃金分は助成金の対象外となります。

また、会社都合で退職者を出していると、助成金全体の利用ができなくなる制限(不支給要件)にかかる場合もあります。対象社員の就業意欲や雇用状況には常に気を配る必要があります。

助成金の会計処理を行う

助成金が入金されたら、それは会社の「利益」として扱われます。会計上は「雑収入」として計上し、法人税の課税対象になります。

もらったお金だから税金はかからないと勘違いして申告漏れになると、税務調査で指摘されるリスクがあります。

経理担当者や税理士と相談し、正しく処理をするようにしてください。

申請代行は社労士にしてもらう

助成金の申請書類は非常に複雑で、専門用語も多く、法改正も頻繁にあります。

自社で全てやろうとすると、担当者の負担が大きく、書類の不備で何度も修正を求められることになりかねません。

社会保険労務士(社労士)は、助成金申請のプロです。手数料はかかりますが、確実に受給するためには、実績のある社労士に代行を依頼するのが賢明です。

人材開発支援助成金の申請の流れ

実際に助成金をもらうまでの具体的なステップを見ていきます。

計画から入金までは半年以上かかる長丁場です。どのタイミングで何をすべきかを把握していないと、提出期限を過ぎてしまったり、必要な証拠書類を取り忘れたりします。

ステップタイミングするべきアクション注意点
1. 計画作成研修検討時事業内職業能力開発計画の作成
誰に何の研修をするか計画を立てる。
従業員代表の意見聴取が必要です。
2. 計画届提出開始1ヶ月前訓練実施計画届を労働局へ提出
カリキュラムや予算を申告。
【重要】1日でも遅れると受理されません。
3. 研修実施研修期間中研修実施・勤怠管理
日報作成、受講記録の管理。
時間外の受講は残業代の支払いが必要です。
4. 支給申請終了後2ヶ月以内支給申請書・証拠書類の提出
領収書、賃金台帳などを提出。
支払いが完了していることが条件です。
5. 入金審査終了後助成金の受給
審査通過後、指定口座へ入金。
「雑収入」として会計処理を行います。

事業内職業能力開発計画を作成する

まず最初に、会社全体の「人材育成のマスタープラン」を作ります。これを「事業内職業能力開発計画」と呼びます。

経営理念に基づき、どのような人材を育てたいか、そのためにどのような訓練をするかを文章化します。

従業員代表の意見を聞いて作成する必要があり、これが全ての助成金申請の土台となる重要な書類です。

1ヶ月前までに訓練実施計画届を提出する

具体的な研修内容が決まったら、管轄の労働局へ「訓練実施計画届」を提出します。

これには、カリキュラムの内容、日時、講師、対象者、予算などを詳しく記載します。前述の通り、原則として研修開始日の1ヶ月前が締め切りです。

この計画が受理されて初めて、助成金の対象となる研修をスタートする準備が整います。

研修実施中の勤怠管理を行う

研修期間中は、本当にその時間に研修を受けたかを証明する記録が必要です。

通常の出勤簿やタイムカードに加えて、研修日報や受講レポートなどを本人に作成させます。

もし研修が勤務時間外に行われた場合は、適切に残業代が支払われているかも審査されます。証拠がないと架空の研修と疑われるため、徹底した管理が求められます。

研修終了後2ヶ月以内に支給申請をする

研修がすべて終了したら、2ヶ月以内に「支給申請書」を労働局へ提出します。

ここで、実際に支払った研修費の領収書、講師への謝金記録、受講者の賃金台帳、出勤簿などの証拠書類を大量に添付します。

計画通りに実施し、費用も適正に支払われたことを証明する最終段階の手続きです。

審査通過後の助成金入金を確認する

支給申請書を提出すると、労働局による審査が始まります。

審査には通常数ヶ月(3〜6ヶ月程度)かかります。場合によっては、追加の資料を求められたり、実地調査が入ったりすることもあります。

無事に審査を通過すると「支給決定通知書」が届き、指定した銀行口座に助成金が入金されます。

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受給額を最大化する条件とテーマ

せっかく申請するなら、できるだけ多くの金額を受給したいものです。

助成金には、一定の条件を満たすことで助成率や限度額がアップする仕組みがあります。これらを知らずに申請するのはもったいないです。

助成項目通常の助成率(中小企業)助成率が最大化する条件最大助成率・助成額
経費助成45% (※1)賃金引上げまたは生産性要件を満たす最大75% (※2)
賃金助成1時間あたり760円賃金引上げまたは生産性要件を満たす最大960円 (※3)

(※1) 中小企業事業主のうち、訓練期間中の賃金を全額支給し、一定の要件を満たす場合の基本額。
(※2) 事業展開等リスキリング支援コースなど、特定のコースで賃上げと生産性要件の両方を満たした場合に適用される最高水準。
(※3) 建設業コースの一部等を除く。賃金の引上げ等をすることで割増されます。

例えば、人材開発支援助成金の付加価値には「人件費」が含まれているため、研修による賃上げや社員への還元をするほど分子が大きくなり、生産性の向上が達成しやすくなる構造になっています。

ただし、「事業展開等リスキリング支援コース」に関しては、賃金助成は一律 960円(中小企業)に設定されています。

つまり、人への投資自体が、生産性要件の達成を後押しするように設計されています。

助成額が増加する「賃上げ」の導入

多くのコースで、助成率アップの鍵となるのが「賃上げ」です。

研修を実施すると同時に、就業規則を改定して従業員の基本給などを一定割合(例:5%以上)引き上げると、経費助成率が通常よりも高く(例:45%→60%など)設定されます。

ただし、賃金引上げの対象となる従業員の範囲や、賃上げの実施時期はコースによって異なるため、申請コースごとの詳細な要件確認が必要です。

賃上げによる人件費増と、助成金による補填のバランスを計算し、メリットがある場合は積極的に導入すべきです。

受給額がアップする「生産性要件」の計算式

「生産性要件」とは、会社の決算書を基に計算される指標です。

直近の会計年度と3年前を比較し、生産性(付加価値労働生産性)が一定以上伸びている場合に助成額が割増されます。

助成金の割増を受けるには、生産性が3年前と比べて6%以上伸びている必要があります。または、1%以上の伸びに加えて雇用が増加していれば要件を満たします。

【具体的な計算例】

3年前の生産性が500万円だった場合、直近の生産性が530万円(伸び率6%)以上であれば、要件達成です。研修を通じて従業員一人あたりの売上や付加価値が増加すれば、この要件の達成が後押しされ、助成率がアップします。

【生産性要件の計算式(付加価値労働生産性)】

「生産性要件」は以下のように計算できます。

計算要素項目名決算書での確認先意味合い
分子付加価値損益計算書・勘定科目内訳明細書企業が生み出した「利益」と「人件費」を含む、企業の真の儲けを示す指標。
分母雇用保険被保険者数賃金台帳・労働者名簿会社に在籍している社員(労働力)の数。

付加価値(分子)の計算内訳

付加価値は、以下の項目の合計で算出されます。

業績が伸びている企業は、この要件を使える可能性が高いです。

採択されやすく汎用的な人気研修テーマ

審査に通りやすく、かつ会社の役に立つテーマを選ぶことも重要です。

  • 最優先テーマ: デジタル(DX)関連(データ分析、プログラミング、ITリテラシー研修)
  • 汎用テーマ: 管理職向けマネジメント研修、若手向けコミュニケーション研修

現在、国が推奨しているのはデジタル(DX)関連の研修です。プログラミングやデータ分析などの専門スキルだけでなく、全社員向けのITリテラシー研修も対象になります。

また、管理職向けの「マネジメント研修」や、若手向けの「コミュニケーション研修」も汎用性が高く、多くの企業で認められています。

審査に通る研修計画と確実に受給するための必須要件

計画届を出しても、不備があれば受理されません。また、後から要件を満たしていないと判明して不支給になるケースもあります。

審査官は、書類の隅々までチェックし、法令違反がないかを見ています。。

会社都合退職と雇用保険被保険者の確認

最も注意すべきは解雇です。支給申請をする日の前日から起算して6ヶ月前の間に、会社都合による解雇(リストラなど)を行っていると、助成金は受給できません。

また、研修を受ける対象者は、雇用保険に加入している被保険者である必要があります。

【助成金が不支給となる場合】

  • 6ヶ月前以内の会社都合による解雇(リストラ)
  • 6ヶ月前以内の労働保険料の滞納
  • 6ヶ月前以内の違法な残業やハラスメントなどの労働関係法令違反

この6ヶ月ルールを破ると、その他の要件がすべて揃っていても助成金は一切受給できません。この期間の雇用管理は特に厳格にする必要があります。

特に入社したばかりで手続き中の社員などは、加入が完了しているか必ず確認してください。

就業規則への記載と標準学習時間の算出

社内のルールブックである就業規則に、研修に関する規定(誰が費用を負担するか、賃金はどうなるかなど)が明記されている必要があります。

また、eラーニングなどの場合、各カリキュラムに標準学習時間が設定されていなければなりません。これが曖昧だと、賃金助成の計算ができず、審査で否認される原因になります。

eラーニングの受講管理と残業代の処理

eラーニングは便利ですが、管理が緩くなりがちです。LMS(学習管理システム)のログ機能を使って、「いつ、誰が、何分間ログインして受講したか」を秒単位で証明できるようにしておく必要があります。

また、所定労働時間外(自宅など)で受講させた場合、それは労働時間とみなされるため、必ず割増賃金(残業代)を支払わなければなりません。未払いは即不支給です。

助成金を活用した人材育成事例

実際に助成金を活用して成果を上げた企業の事例を知ることは、自社の計画を立てる上で非常に参考になります。「うちは中小企業だから無理」と諦める必要はありません。

西川コミュニケーションズ株式会社(印刷・IT・通信)

老舗の印刷会社からデジタル領域へ事業を拡大した事例です。

  • 取り組み: 印刷業務の縮小を見据え、社員を「DX人材」へ育成。クラウド技術やデジタルマーケティングの研修に助成金を活用しました。
  • 成果: 既存の印刷顧客に対し、Web広告やSNS運用などの新サービスを提案できるようになり、事業転換に成功。

(参考)西川コミュニケーションズ株式会社 公式サイト

石川樹脂工業株式会社(製造業)

伝統的な樹脂製品の製造から、EC販売やロボット導入へ舵を切った事例です。

  • 取り組み: 工場の自動化や自社ECサイトの運営強化のため、若手・中堅社員にデータ分析やロボット操作の外部研修を実施。
  • 成果: 助成金を活用して教育コストを抑えつつ、EC売上の大幅増加と生産ラインの効率化を同時に達成。

(参考)石川樹脂工業株式会社 公式サイト

株式会社陣屋(サービス・旅館業)

老舗旅館が自社で開発したITシステムを外販するまでに至った有名な事例です。

  • 取り組み: 旅館業務のマルチタスク化とIT化を進めるため、全社員にITリテラシー研修を実施。
  • 成果: 助成金を活用してスキルアップを図り、自社開発した管理システム「陣屋コネクト」を他社へ販売する新事業を確立。

(参考)元湯 陣屋 公式サイト

よくあるご質問(FAQ) 

Q1: 人材開発支援助成金が、他の助成金と比べて最も使いやすいのはなぜですか?

A: 他の助成金と異なり、研修の受講料(経費)だけでなく、研修中の給与(賃金)の一部も助成されるため、企業の持ち出し負担が大幅に軽減されるからです。

Q2: 助成金は後払いとのことですが、どのくらいの期間、立て替えが必要になりますか?

A: 研修費の支払いから、労働局による審査を経て助成金が入金されるまで、通常は数ヶ月(3ヶ月〜6ヶ月程度)かかります。事前にキャッシュフローを確認して、資金繰りがショートしないよう計画することが大切です。

Q3: 助成金の「生産性要件」を満たして、受給額をアップさせるための計算式を教えてください。

A: 生産性要件は付加価値(利益+人件費など)を雇用保険被保険者数(労働力)で割って計算します。3年前の会計年度と比べて6%以上伸びている場合に助成率が割増されます。

Q4: 研修助成金を申請する際、特に不支給になりやすい絶対的な注意点は何ですか?

A: 最も重要なのは期限厳守です。研修開始日の1ヶ月前までに訓練実施計画届を労働局に提出しなければなりません。1日でも遅れると、その研修は助成金の対象外となります。

Q5: eラーニングやオンライン研修を助成金の対象とする際、特に気をつけるべき管理上の問題はありますか?

A:  LMS(学習管理システム)のログなどで、いつ、誰が、何分受講したかを秒単位で証明できる客観的な記録が必須です。また、所定時間外の受講は残業代を適切に支払う必要があります。

まとめ

研修助成金は、資金力に乏しい中小企業こそ活用すべき有効な制度です。特に2025年は、リスキリングや賃上げに関連する支援が手厚くなっています。

申請手続きは確かに複雑ですが、社労士などの専門家を頼り、スケジュールに余裕を持って進めれば、決して高いハードルではありません。

まずは「事業内職業能力開発計画」の作成から始め、コストを抑えながら社員と会社の成長を実現させましょう。

※本記事の内容は、2025年(令和7年)4月1日時点の厚生労働省公表資料に基づいています。助成金制度は年度途中で内容が変更される場合があるため、申請時には必ず最新の要件をご確認ください。

【出典・参考資料】

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