エンゲージメントで「自律駆動型の組織」をつくる ー 株式会社キュービック 人事マネージャー 染谷和彦氏インタビュー

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エンゲージメントで「自律駆動型の組織」をつくる ー 株式会社キュービック 人事マネージャー 染谷和彦氏インタビュー

広告代理店→喫茶店→人事という異色のキャリア

谷本:染谷さん本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、担当されている業務内容についてお聞きしてもよろしいでしょうか?

染谷:ピープルエクスペリエンスオフィスという組織に所属しています。いわゆる人事ですが、タレントアクイジションという採用チームコーポレートコミュニケーションという社外広報・社内広報を担当するチーム、そしてタレントマネジメントチームという3つのチームに分かれています。

そのタレントマネジメントチームのチームマネージャーを務めています。入ってきた方の能力をより伸ばすという成長支援と、意欲高く働いてもらうための従業員体験の最大化全般に取り組むのがミッションです。

研修を行う場合は、研修設計もするのですが、当社の場合にはCDC(Career Development Cycle)なるものを成長支援の枠組みとして設けており、仕事を通した成長を重視しています。

谷本:ご経歴が広告代理店にいらっしゃって、その後喫茶店を営まれた後に、人事の道に歩まれたということで、特殊なキャリアでいらっしゃいますよね。どういう経緯があって今のお仕事に至ったのでしょうか?

染谷:はじめは電通で13年働いていました。新聞局がほぼ11年ぐらいでちょうど新聞の広告をやってる中でインターネット広告が出てきてきました。

1996年に電通がソフトバンク社と合弁でネット専門のメディアレップであるサイバーコミュニケーションズ(現カルタコミュニケーション)という会社を作りまして、そこに1999年から2000年にかけて1年半取締役として出向していた期間がありました。

ちょうど1999年から2000年はインターネット広告が一気に爆発するタイミングで、とても忙しかったです。

サイバーエージェントの藤田さんとか、GMOインターネットの熊谷さんとか、錚々たるメンバーとも一緒に仕事をさせてもらったんですが、そのときに、彼らのような、日本にとどまらない世界規模というか地球規模の、「大きな志」を自分が持っていないことに気づきました。

一方で、広告の仕事だと、ユーザーの顔を直接見えないことが多い点に疑問を感じていました。自分はサービスを提供する先の具体的な顔が見える方が合っているのかもしれないと思いましたね。

もともと学生時代ずっと飲食のアルバイトをやっていて、お店を経営したいという気持ちはずっとありましたので、商売をやってみようと決断した経緯です。

谷本:コーヒーはもともとお好きで喫茶店を選ばれたんですか?

染谷:アルバイトはずっとバーテンダーだったので、バーも考えたのですが、夫婦で経営する前提だったので喫茶店を選びました。

お客様との対話から産業カウンセラー、人事の道へ

谷本:電通から喫茶店へジョブチェンジされている方は染谷さん以外知らないですね。

染谷:そうですか?結構飲食店を営まれている方いらっしゃいますよ。喫茶店といっても、基本コーヒーを作ってる時間よりもお客さんの話を聞いてる時間の方が長いんですよ。いろんな人の話を聞いている中で、メンタルの問題を抱えて会社を休職されている方も結構多いことに気がつきました。

ちょっと調子が良いので外に出てコーヒーでも飲んでみようと思って来ましたみたいな方が、割と2008、9年ぐらいからとても増えてきた感覚があったんですよ。

話をしていると、ネガティブ思考に引きずり込まれそうになることがありました。これは話し方、聞き方なるものを学んだ方がいいなと思い、カウンセラーの勉強を始めたんですよ。

それで、産業カウンセラーの資格取ったときに、これを生かすとしたら組織に所属した方がいいのかなとか思うようになりました。そこで人事に興味を持ったという流れです。

人事がやりたいというよりは、資格を生かすと考えたときに、どこかの組織に人事として所属するのが一番だろうなと思ってというのがあります。

谷本:マネージャーの方で1on1を会社としてやる制度やルールができたときに、1on1の時どう接していいか、何を話したらいいかわからないという話をお聞きします。産業カウンセラーの資格を取られていると、会話しやすくなるんでしょうか?

染谷:相手にちゃんと興味を持って聞くということは、スキルの問題なので、それは身につきますよね。傾聴力、質問力の2つのスキルは、テクニックとして学べます。そこの部分は社内の1on1でも使えると思います。

メンタル系の知識も当然学ぶんですけど、それよりは、一対一で話す際の「正しく聞く」というのと「正しく質問する」という基本的スキル部分の方が比重としては大きいかもしれません。

40代後半からの人事への挑戦とシニア層のエンゲージメント

谷本:産業カウンセラーの資格を取られてから、また組織に所属するという道を選ばれたんですね。

染谷:ただいきなり喫茶店の店主を人事で雇ってくれる企業はなかなかなくて、いくつか探したんですけど難しかったですね。なおかつもう40代後半だったので、結局電通の経験に興味を持ってくれたアパレル企業に宣伝部長で入ったんです。

宣伝部長として入社して、その後宣伝部長兼人事部長というポジションを獲得し、そこから人事選任になっていきました。

谷本:はじめは宣伝も人事も兼務されていたんですね。かなりの業務量になりそうです。

染谷:宣伝と人事では業務内容が重ならないので、倍働くしかなかったですね。そこで人事の方である程度結果が出せたので、宣伝部長の後任を採用して私は人事専任になりました。そこから人事としてのキャリアをずっと歩んでいます。

谷本:テレワークが浸透していくなかで、どうすればシニア層に前向きに仕事してもらえるのかという課題を持たれてる会社が多いと感じています。染谷さんはシニア層のエンゲージメントについてどのようにお考えでしょうか?

染谷:「これまでの経験で貢献したい」という方が圧倒的に多いですが、それはそんなに通用しないと思っています。それよりも「結構年食っちゃってますけど、やりたいことがあって」とか、さらにその次に「夢があって」みたいな方はすごく活躍してくれる可能性が高いなと思っています。

谷本:「これまでの経験で貢献したい」ではなかなか難しいと確かに言われていますね。

染谷:そういう方、圧倒的に多いんですよ。新しい会社でどのような新たなスキル、新たな経験を積みたいですか?と質問したときに止まってしまわない方が良いですね。

谷本:いきなり人事という、これまでと違う道を選ばれるってなかなかすごいことですよ。

染谷:成長したい欲はずっとありますね。新しいものや知らないものに触れるのはとても楽しいです。

谷本:アパレル会社さんでは、最終的に人事部長専任になられたんですよね。

染谷:その後に一つ違う企業を経験しました。60人ぐらいの規模の会社で、執行役員の最高人事責任者、CHROの肩書きで4年ほど働いて、キュービックに来ています。

個人の成長を可視化するシステム「CDC」とは

谷本:1on1を組み込まれたCDC(Career Development Cycle)と言われる独自開発のシステムがすごい面白いなと思っています。CDCについての簡単な概要についてお聞きしてもよろしいでしょうか?

染谷:メンバーが仕事を通して成長し、ありたい姿になるのを支援したい。それが、全体的な狙いです。あくまでも「仕事の経験を通して」学んでもらうという考え方を採用しています。

具体的には、まず、現在地に対してストレッチが求められるところに目標をセットします。次に、達成するまでの過程を線で描きます。注意点としては、目標数字が単に達成できればいいという考え方ではありません。目標の線(プロセス)も合わせて達成できたときに一番評価が高くなります。単純に「成果」を測定するのではなく、いかに「成長」を見られるかを重視した制度にしています。

また、人事制度的にはミッショングレード制を採用しており、成果ではなく、「次の半期に渡すミッションの重さ」で等級を決めています。成果が高ければ、次の半期はより重いミッションになります。

ただし、外部環境で成果は出したけど、実力が上がってないねというケースもあります。その場合は、ミッションが変わらないので、給料は変わらないとかもありえます。

谷本:成果志向の方から、成果だけ出してればいいじゃないかという反発はありませんでしたか?

染谷:僕がキュービックに入った3年前、CDCなる考え方は既にあったのですが想定通りの運用ができていませんでした。なぜならば、先ほど申し上げたようにCDCを回すための目標評価制度になっていなかったからです。

仕事を通して社員の成長を促すという狙いはずっと前からあったのですが、目標制度や評価制度が実際はそれに準じた形になっていませんでした。発揮能力評価で等級を決めていたので、抜擢人事がしづらかったんですよね。

そういうものを可能にするために、ミッショングレードに変更してきたという流れがあります。ご質問の成果評価で成果出してればいいじゃんみたいな意見は、僕が入ったころにはもうない環境になっていました。

谷本:元々CDCは社長が考えたんですか?

染谷:実はCDC的なことってリクルート社がやってることに非常に近しいらしいんですよ。顧問的な立場で当社の経営に携わっていただいてる方に、元リクルート社の方がいらっしゃいまして、リクルート社の持っている成長の仕組みの考え方を参考にさせてもらっています。

谷本:私もちょうど2週間ぐらい前にリクルート社の本を読みました。ナンバー2だった方が、リクルート社の今の仕組みを作られて、今もずっとそのままでやって、さらに、卒業生がまた次のビジネスをどんどん産んでたりして。御社もリクルート社を参考されたんですね。

染谷:リクルート社でいうWill・Can・Mustシートみたいなものですね。本人のやりたいこととできることを踏まえ、ストレッチにMustの目標を置く事で、ちゃんと成長させましょうCanを大きくしましょうという考え方は、リクルート社的な概念を参考にしています。

谷本:既に顧問の方が考えられていて、ベースがあって運用だけがうまくできなかったんですね。

染谷:運用とそれを実現するためのルールを整合性がある形に整えたのがこの3年で自分のやってきたことになります。

谷本:制度って作ること以上に定着と運用が難しいと思います。真っ先にどういったところに取り組まれたかお聞きしてもよろしいでしょうか?

染谷:入社した年にクレドの見直しというのがありました。会社のビジョンがアップデートされたので、そこにあわせて行動指針としてのクレドもアップデートするという流れです。まさに、新しいクレドなるものができたタイミングだったんですね。

クレドはミッション・ビジョンを実現するために社員に求めたい行動指針なので、それを評価しないのはおかしいよねということになりました。まずは、そのクレド評価を評価の軸に据え、成果評価と同じぐらいのボリュームで導入するというところから始めました。

クレド評価を導入したタイミングで、成果評価は目標達成率で、行動評価はクレド評価という事まで決まり、スキル評価が残りました。そのスキル評価も、社員全員に求めるコアスキルと、職種別スキルに分けて、成果評価、クレド評価、コアスキル評価、職種別スキル評価っていう四つの体系にするということが多分一番先にやったことかなと。

評価の納得感を生む1人あたり30分の「キャリブレーション」

谷本:定性的な情報をもとに評価をされていますよね。定性情報なので人によって解釈に違いが生まれやすかったとか、実態を捉えづらかったといった課題についてお尋ねしたいです。

クレド評価を始められて、どれがこの行動はクレドに沿ってるのかとか、マネージャーの方は評価されるのが難しいと思うのですが、実際そのあたりはいかがだったんでしょうか?

染谷:この1年半ぐらいはそこが一番苦労してきたところですね。当社の仕組みでいくと、考課検討会議が、だいたい2週間ぐらい続くのですが社員1人30分議論の時間があって、ここには直属の上長とラインのさらに上の人間、人事、それから場合によっては周辺の部署のマネージャーも出てきて、1人の部下の評価を4〜5人で議論するんです。

いわゆるキャリブレーションというものなんですけれども。このキャリブレーションに1人30分×120~130人全部出て、その結果を受けて昇級昇格会議を丸一日かけてその評価の結果を等級にプロットし直すんですよね。

そこではミッショングレードに次のミッションがふさわしいかどうかってマネージャー以上約30人が1日8時間缶詰になって議論をするんです。だからそういう意味で、マネージャー以上全員の目を入れることで、マネージャー1人ひとりの主観によるブレを修正するということをしています。

半期に1回なんでまだ実施が2、3回程度なのですが、どんどん1人あたりの議論の時間が短くなってきているので、マネージャー陣の目線が揃ってくればもっと効率化はできるだろうなと思っています。

谷本:実際この間に2〜3回、回されたというお話ありましたけども、現場の方の納得感はかなり違ってきたりされるんでしょうか?

染谷:ミッショングレードなので、次はあなたにはこのぐらいの難易度のミッションを渡しますという部分に関しては、納得というよりも「期待の合意」を強く意識しています。

給料欲しいから自分にはもっと難易度高いミッションくれという人間が出てきた場合にはこちらとしてはウェルカムなので、じゃあうんと重いミッション渡すからしっかりやってねという形ですね。

評価は時間をかけてやっているのですが、それは正しいミッションを渡すための調整だと思っています。その評価によって「納得いかない」というののはさほど起きてないですね。それを踏まえた上で次の半期のミッションが決まるので、具体の1個の評価項目にあまり話がおよびづらいです。

谷本:そのミッションみたいのものは御社の場合はもう会社からこうですっていう個人アクションみたいなものをお渡しするんですか?それともやり方をアクション化してくださいという形で、個人個人が何かアクションを立てるようなイメージなんでしょうか?

染谷:そこもステージによります。ジュニアのステージは、行動まで役職者が細かく設計するようになっていますが、ある程度ランクが上がってくれば、定量のゴールだけ指し示して、それをどう実現するかは自分で考えるようになっています。

単純に数字を達成すればいいということではなくて、どういうプロセスで達成するかまで計画を立ててもらっています。そして計画通りにいった場合に加点するようにしています。

先程から申し上げているCDCはメンバーの成長を促進するための仕組みですから、目標達成までのプロセスで本人の強みの伸長か課題の克服がなされるように、すなわち「成長テーマ」に基づいたものが設定されるようにしています。。

1on1でCDCの運用を推進する

谷本:先ほど人事に三つチームがあると仰ってましたが、評価の運用に関しては、染谷さんのチームでやられてるんですか?

染谷:はい、タレントマネジメントチームでやっています。

谷本:1on1はCDCの仕組みの中でどのように絡んでいるのか、お聞きしてよろしいでしょうか?

染谷:成長テーマになるものについては、「あなたの強みと課題はこれなので、次の半期はこういうミッションでこう成長してほしいです」と伝えていますが、それは本人にとってはMustとして与えられるものですよね。

そのMustとWillをどう紐づけるかみたいなところが課題としてあるので、アジャストさせるというか、組織の目標と個人の目標を一緒に線に乗せるみたいなことが1on1でできればいいなと考えています。

谷本:マネージャー1人1人の方に、Willと業務目標とを紐づけていくために1on1があるということはお伝えされて、実践されているんでしょうか?

染谷:まだそこは道半ばですね。1on1は本来、テーマによっていろいろと使い分けなきゃいけないと思うのですが、難しくて。今型化してるのは月1で行う目標進捗の確認の面談です。これは全役職者マストで行っています。

そこで目標の進捗に大きくブレがあれば修正しに入ったり、目標進捗を通しての成長支援をしたりしています。

個人のWillをそこにどう紐付けるかというのは、それプラスアルファの1on1でやってねという話はしてるんですけど、そこをマストでつけちゃうと、マネージャーの力量によっては逆効果になる可能性もあるんですよね。

例えば、Willのぼんやりしたメンバーを責めるようなことになったりだとか。今は目標進捗を確認するための1on1だけをマストで型化してます。

谷本:今の仕組みに落ち着かれるまで、どのような経緯だったんでしょうか?

染谷:最初は隔週ぐらいでという話をしました。ですが、いざ実施状況を聞くと毎週のようにやってる人もいれば、ほぼやってない人もいたんですよね。

マネージャーに最低限の成長クオリティを保障してもらうためには月1はマストという結論に至りました。そこをフリーアジェンダにするとまたブレかねないので、月1は目標進捗確認と必要な修正などのネクストアクションを議論する場としました。そして余裕があれば、そこを通して本人のWillも聞いてねぐらいのトーンで話しました。

谷本:実際の現場間でお話されてることは、ログなどで管理をされてらっしゃるんですか?それともそこは現場に委任されてるんですか?

染谷:基本的には現場に任せているのですが、直近はカオナビを使っています。カオナビ上にログを残す用のフォーム作って、まだ強制ではないんですが使える人は使ってくださいという温度感で今試験運用をしています。

残してくれた情報をもとに、今度人事が全然違う切り口で面談もできるので、この半年1年の間にマストにする流れで進めたいなとは思っています。

谷本:先ほど、マネージャーの方が全員評価会議の方に参加して議論するというところを体系化されていったとのことでしたが、そこに至るまで試行錯誤があったかと思います。もし何かエピソードがあればお聞きしてもよろしいでしょうか?

染谷:いまだに試行錯誤の最中です。評価の軸が主観に寄ってしまったものを、周囲の目は入れるものの、多少偏った部分が残ってしまっているなとは感じていますね。あとは全員のフィードバック面談まではチェックを入れられていないんです。

Aくんの「課題」はここで「強み」はここ。次半期はその「強み」を生かすような成長テーマのミッションを渡そうと評価会議で議論していたにもかかわらず、フィードバックの段階で「課題」にフォーカスしてメッセージを伝えてしてしまうこともあるんですよね。

そうすると、Aくんはこの半期は「課題」ばかりの半期だったんだという受け止め方になってしまい、次の半期もその「課題」の克服をどうしたらいいだろうになってしまって、本来計画していた「強み」を生かすミッションからズレてしまうことも少なくありません。

そうなると「言ってることと実際に指示してることが違う」と現場は受け止めてしまうじゃないですか。その辺りが正しく回らないうちは、メンバーの不信感に繋がるようなケースもいくつかありました。

1on1のコツは「Can」を広げていく事

谷本:1on1が上手くなりたいという方へはどのようにアドバイスされますか?

染谷:とにかく「聞くこと」が大事だと思います。聞いてくれないと思われてしまったら、本音は絶対話してくれないです。あとは否定しないことですね。

例えば、Aくんがどんなに間違ったことを思っていても、そういうふうに感じたというのは事実なので、それはもう否定のしようがないですよね。感じたことを認めた上で、何でそう感じたんだろうというふうに考えさせるのが、傾聴から質問への流れです。

「いや、それは誰々さんがこう言ってたからそう思うじゃないですか。」と言われたら、「本当にそう?違う意味でも受け取れるよね?」と問いかけるようなイメージです。

谷本:普通にやれるようにするには、こういう訓練が必要なんですね。

染谷:テクニックだと思います。

谷本:1on1で問いかけても、特に何もないですと発言する社員は少なからず御社にもいると思います。染谷さんはこのような方と1on1をするとしたらどう対処されますか?

染谷:Willがないのは悪いことではないと思っています。でも「今のままでいいと思ってないんだよね?」ということは聞きます。そうすると、どうなりたいかはないけれど、こうゆう力をつけたいとかこうゆうことができるようになりたいとかは言えることが多いんです。広げたいCanがちゃんと本人の中にあるんですよ。

そうしたら「この半期のミッションではそこのCanを思いっきり伸ばしてみようか」とすれば、この半期仕事に一生懸命取り組むことでその「Aというスキルを上げる」が、その子の少なくとも半期のWillにはなって、結局そこでWillとMustが一致するじゃないですか。そうなれば出力も上がってくると思うんですよね。

そのままでいいってことはもう給料も1円も上がらないし、仕事もずっと今のままだし、それが本当に理想なの?というところですよね。

谷本:そのままでいいですって方はいましたか?

染谷:そのままでいいですはないんですけど、上記のような部分をしっかり説明しないと、目標に必死に取り組むことに関して抵抗を示す方はいますね。

高い目標を立て、組織と個人の成長スピードを合わせる

谷本:高い目標を立ててもらうために、何か工夫はされてらっしゃいますか?

染谷:チームの目標をメンバー全員で達成しましょうという中で、あなたはどんな役割を担いますか?というところを目標にするようにしています。

谷本:チーム目標があって役割が皆さん決まっていく中で、ある程度既に高い目標を与えられている背景があるということなんでしょうか?

染谷:はい。まだまだ当社自体が成長中のベンチャーで、会社自体が超ストレッチな目標を毎年追い続けてるので、自然にそこから紐づいているミッションになります。

だからどちらかというと課題としてあるのは、組織の成長スピードに個人の成長スピードがついてきていない場合、そこのミッションの渡し方がものすごく難しいです。うまくハマれば組織、個人の双方を急成長させることも可能ですが、その人にあったストレッチだとチーム目標未達になってしまうケースもあり得ます。そこはなかなか難しくて、そこの調整には毎回苦労しています。。

エンゲージメントで「自律駆動型の組織」をつくる

谷本:評価で頑張りがかなり認められて働きがいのある組織という印象を受けてます。だから、頑張るモチベーションは埋まりやすいですよね。

染谷:そこでいくと人に対するエンゲージメントと、仕事に対するエンゲージメントと、組織に対するエンゲージメントとで三つの軸で考えていまして。

当社は人に対するエンゲージメントがとても強い会社なんですよね。ですから、人を好きになってくれることに対してはいろいろな施策でカバーしています。

人を好きになってくれれば、その好きな人に喜んでもらうために仕事頑張るになってきて、仕事頑張るようになると、その先のユーザーにどうハッピーを届けるかみたいになって、組織全体のエンゲージメントも次第に高まってくる。そこまで高まれば、もうあとはもうほっといても成長してくれると。

谷本:この時代にマッチするような理想の組織についてどのようにお考えでしょうか?

染谷:組織の規模にもよると思うんですけど、キュービックは「自律駆動型の人組織を目指す」という中期人事戦略を去年掲げたんですね。人的資源から人的資本へみたいなのとか、デロイトトーマツさんが毎年発表している「グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド」の中にも自律駆動の文脈が入っていたりして、直近の人事業界の流れもそうなってきています。

やはり将来性が危うい、何が起こるかわからないという世の中だからこそ、社員1人1人が自律している組織はマストだと思っています。その自律駆動型の人なるものを、どうやって増やすかが課題だし、やらなければいけないことかなとは考えています。

なので、CDCも我々とかマネージャー側が回すということになっていますが、メンバーが自律的に自分で目標セットして、ぐるぐる1人で回せるようになったらもう最強かなと思います。

目標達成したので、次のステップに行くためにこういうミッションください。そのためにこういうスキルを伸ばしますみたいなことを、本人から言うような人たちの集まりにしていきたいです。

谷本:メンバーがこの評価、CDCの仕組みを含めて、自分たちに何を求められてるかということはすごく理解されているんですね。何かしらで発信して伝えられるようにしているんですか?

染谷:先ほど月1の1on1をマストでやっていると伝えたんですけど、その面談を当社では「コア面談」と呼んでるんですね。コア面談はだいたい月の前半でやっています。月末には「コアデー」という日を設け、どんなに忙しくとも2時間全社員の業務を止めて、自分の1ヶ月を振り返るようにしているんですよ。

自分の1ヶ月を振り返って、そこに対して周囲のチームメンバーからその人の今月1ヶ月の「Good」と「Motto」を伝えます。360度評価ではないんですけど、周囲からフィードバックをもらう形です。目標やCDCで成長テーマに置いたものに対して、どれだけ1ヶ月で進めたかを毎月本人にも自覚をしてもらう場となっています。

谷本:対面ですか?テキストでフィードバックされるんですか?

染谷:コアデーでの2時間のうち、最初の30〜40分は自身で振り返る時間をとって、次に周囲のチームメンバーの1ヶ月のGoodとMottoをテキストで書く時間を設けて、その後オンラインでつないで、各メンバーに伝え合うという時間を40分ぐらい取っています。

谷本:これはネガティブな情報をあえて出さずに、ポジティブな情報だけでやられているんですか?

染谷:「Motto」なので、あくまでも”期待”を伝えてというオーダーにしています。

ダメ出しではなく、「あなたならもっとこうできると思う」「こうすればあなたはもっとよくなる」というように伝えてほしいと。

谷本:人事の取り組みに関して、国内外問わず気になる会社さんはありますか?

染谷:外資ですとGoogle社、スターバックス社、Netflix社、国内であればサイバーエージェント社やメルカリ社の書籍は一通り目を通しています。似たような根っこを持ちながら当社よりもはるかに巨大な組織を動かしている企業様の動向は気にしています。

あとは経営陣同士の親交も深く、たびたび情報交換させてもらっているグッドパッチ社もですね。デザイン組織で人事的に様々な面白い試みをされているので、勉強させてもらっています。

谷本:自律駆動型の組織を作るとなると、新しい役割を担っていく人事の方が増えてくると思うんですけれども、未来の人事担当者はどのような人になると思われますか?

染谷:人事担当者は制度を運用する人ではなくて、組織の変革を主導する人でなければいけないと思います。組織がどう変わるべきなのかみたいなものを、道標示して主導するのが人事の役割だと思っているので、事業と同じ感覚で組織を変えていく人事が必要になってくるのかなと思っています。

谷本:仰る通りですね。本日は様々なご質問にお答えいただきありがとうございました。