経営・人事が知るべきエンゲージメントの高め方【安田雅彦氏に聞くオンラインセミナー #1】
目次
- 機会に満ちた環境でプロ人事としてのキャリアを開拓
- エンゲージメントの定義
- エンゲージメントの高い会社の3つの特徴
- エンゲージメントを高めるために必要な3つの要素
- エンゲージメントの向上が組織にもたらすメリット
- ジョンソン・エンド・ジョンソンから学ぶエンゲージメントを維持する努力
- エンゲージメントスコアを人事のKPIに
- 現場との1on1でエンゲージメントの一次情報を取りにいく
- ステークホルダーとのエンゲージメントの重要度の擦り合わせ方
- エンゲージメント向上の大前提は「矛盾のない経営判断」
- エンゲージメント経営は中長期目線で取り組む
- エンゲージメントが低い「ぶら下がり社員」が生まれる理由
- エンゲージメントが改善されても、離職率が変わらない場合の対処法
- 「反抗勢力」への人事の向き合い方
- 配置転換(異動)とエンゲージメントの関係性
機会に満ちた環境でプロ人事としてのキャリアを開拓
谷本:自己紹介をお願いします。
安田:安田雅彦です。6月末までラッシュジャパンで、人事統括責任者・人事部長をしていました。来月からは自身の会社(株式会社 We Are The People:https://wearethepeople.jp/)の経営に専念する予定です。
僕は人事のプロフェッショナルとして最終的に、日本の人事トップになりたいという目標がありました。そのために、「どういう経験を積めば良いのか?」「キャリアのパズルのピースはどこが埋まっていて、どこが埋まっていないのか?」等、自身を客観的に見ながら、これまでキャリアを作ってきました。
僕のポリシーは、会社をあてにしないということです。会社に自分のキャリアを握らせないというのが信条です。それぞれ行った先で、自分で生きていける成長機会にチャレンジしてきました。
成長機会がゴロゴロ転がっている会社の方が、社員は仕事にエンゲージします。キャリアで最も役立ったと感じられる成長機会に溢れた職場をいかに作り出すかが、これからの会社にはすごく大事になってくると思っています。
エンゲージメントの定義
安田:それでは、今日のテーマに移っていきましょう。エンゲージメントの日本語訳って何でしょうか?愛社精神、納得感、帰属意識、結び付き…だいたいこんな感じでしょうか。どれも確かにそうなんですけど、一言で定義できない感じもありますよね。
僕は、ジョンソン・エンド・ジョンソンにいるときに初めてエンゲージメントという言葉を聞きました。日本で実装していくときに、どう訳そうかという話になったのですが、結局訳さないでおこうという結論になりました。日本にぴったりの概念がなかったからです。
日本人の就業観に、エンゲージメントという言葉は最近まで存在していなかったのではないかと思っています。Gallup社の調べによると、先進国の結果で、エンゲージメントスコアにおいて日本はビリから数えて2番目だそうです。
これは日本の会社員は極めてエンゲージメントレートが低いということを表しています。だからこそ、近年エンゲージメントが注目されているんだと思います。
僕は「明日もここで働こう」「明日もこの仕事をやろう」という思いがエンゲージメントなのではないかと考えています。これは会社という集団、あとは仕事、職務に対してエンゲージしているからこそ思えることですよね。
エンゲージメントの高い会社の3つの特徴
安田:次に、「エンゲージしている状態」がどういう状況で起きるのか考えていきたいと思います。僕の経験上、過去エンゲージメントが高い会社に共通してることがありました。
一つは組織文化や価値観が成文化されていること。どんな行動を求めるかどうあってほしいかがメッセージとしてあり、人事制度にもそれが込められていることです。
二つ目は前述の価値観や組織文化の浸透・理解が徹底されていること。何を価値として認めるか、何を大切にしているか。社員1人1人にまで、うちの会社的にはありだなとか、なしだなみたいな言葉が通常の会話の中に出てくるくらい徹底されているということです。
最後は信頼関係。多様性を認め合いコミュニケーションをはかろうとする信頼関係を、メカニズムや訓練で体系的に理解してつくるというところが非常に大事になります。
この三つが、僕が過去働いてきた中で、エンゲージメントが高いと感じる会社に共通している部分です。
エンゲージメントを高めるために必要な3つの要素
安田:次に、エンゲージメント向上に必要な事について話したいと思います。エンゲージメントが高い会社は、「組織文化」「価値観」「信頼関係」全てを維持・浸透させる努力をしています。
具体的に説明していきましょう。1点目は、エンゲージメントの土台となっている組織文化・価値観・信頼関係が組織の中に生きているかを常に確認をしています。
2点目が、制度に矛盾を持っていません。顧客に対する責任を徹底的に追求するのであれば、その責任が経営判断に宿っています。
最後に、正解のない議論を考える風土です。理想的な価値観や組織文化を議論しあう土壌があるという事です。
この3つがあるところが、組織文化、価値観、信頼関係というのが常に組織の中に生きていて、エンゲージメントが起きやすいということなんですよね。
最近、中小企業様にコンサルティングをする中で、価値観を明確にしたいと言ったときに、新しく作り出すのは得策じゃないと思うんですよね。今日までの成功のDNAを発掘し、価値観を「創る」のではなく、「明らかにする」事の方が重要です。
あとは信頼関係ですね。信頼関係も理解と努力が必要です。「自分」と「あなた」は具体的に何が違うのかを明確にして、違いに寄り沿ったコミュニケーションを訓練で身に付けることがすごく大事だと感じています。
違いを理解した上で他者を受容する。これを努力して職場で維持していく行為があると、価値観もそのまま維持され、組織文化も築き上げられます。
エンゲージメントの向上が組織にもたらすメリット
安田:エンゲージメントが高まる事のメリットは、組織に自律性・自主性が生まれることです。指示がなくても動くようになる。どうなっていくかわからない環境の中でも、従業員が自分で判断して、お客様やマーケットの変化に対応していく組織になる。
もう一つのメリットは、メンタル的に健康な状態を保てるところです。メンタルを壊す人の傾向を見てみると、コントロールされる職場や組織など、自分で働き方をマネジメントできないケースが多いですよね。なので、自ら目標設定をして、課題意識と判断基準で進んでいく組織づくりが重要です。自立した組織はこれから目指していく一つの形だと思います。
少し話をまとめると、エンゲージメントを高めるためには、信頼関係を努力して築いていくこと、価値観をクリアに持つことですね。そして、組織文化です。
ジョンソン・エンド・ジョンソンから学ぶエンゲージメントを維持する努力
安田:参考までに私が今までいた会社を実例にご説明します。
エンゲージメントが特に高い会社と感じた会社はラッシュとジョンソン・エンド・ジョンソンでした。組織文化、共有される価値観、努力して作る信頼関係によって、エンゲージメントが明らかに育まれていましたね。
今日は、ジョンソン・エンド・ジョンソン(以下J&J」についてお話ししたいと思います。J&Jには、クレド、我が信条という共有の価値観があります。四つの責任を成文化したものになります。
第1に顧客、患者、医療従事者に対するもの。第2に社員に対するもの。第3が地域社会に対するもの。第4が株主に対するものです。この4つのステークホルダーに対する明確な責任を果たすことこそが我々の事業の目的であり、存在意義であるというのが「わが信条」の考え方です。1943年に作られて多少変更されてますけど、ほとんど変わっていないと思います。
「我が信条」を維持する努力としては、第1に全世界中のありとあらゆる拠点の入り口に、畳3畳分ぐらいの大きさでドカーンと貼ってあります。
J&Jの採用面接のときに、「この会社はクレドに背いたら生きていけないんですよ」と言われたんですよね。入社すると本当にそうでした。懲戒規定にクレド違反というものがあるぐらい徹底しているんですよ。
J&Jでは「我が信条に則り」ってことを言うんですよね。あらゆるビジネスコード・判断・戦略は我が信条に則っているということを見据えて伝えていくということをしていました。
維持する努力でいうと、第2に「クレドチャレンジミーティング」というものが1年に1回定期でありました。エグゼクティブが来たときには、「私のクレド体験」を話すんです。トップ自ら自分はクレドをどう考えているか、クレドに基づいて判断した経験はどうだったかということをシェアするんです。
第3にマネージャー研修でワークショップがありました。例えばメキシコの法人が赤字です。その工場を閉鎖すると、多分来年度は黒字になります。ただし、メキシコシティの850人の雇用が失われます。いずれもクレドに基づくもので、どちらもクレド違反です。
さて、あなたがGMならどっちを選びますか。この問い対して答えを上げて、なぜその結論をしたかってことをディスカッションするんですよ。常に胸に手を当てて、クレドとは何かを考えるということをしています。
エンゲージメントスコアを人事のKPIに
最後に、サーベイです。全世界である期間を捉えて、あなたの職場、上司、同僚は、あなたが所属している法人は、クレドに則った経営をしているかということを毎年調べるんです。
例えば、クレドの結果が3年連続ポジティブでなく改善の跡も見られない場合、経営トップやその職場の上司の責任が問われ、処遇に影響が出ます。ポジティブ回答というのは5段階のうちの3、4、5が該当します。エンゲージメントが高い土壌というのは、会社全体としてそういう姿勢であることが大事なんじゃないかなというのが今日までの僕の経験です。
谷本:アンケートの結果が来ておりますが、エンゲージメントサーベイって意外と取り組まれていない会社さんも多いようです。
安田:サーベイは絶対やった方がいいと思います。別に特別なツールを導入する必要はなくて、シンプルにGoogleフォームで質問した方が、アクションプランを取りやすいと思うんですよね。
谷本:エンゲージメントサーベイをやりたいんだけれども、結果が悪かったときに開示するとショックを受けてしまうという話をお聞きします。
安田:気持ちはわかりますけどね。どう段階を踏んでやっていくかですよね。エンゲージメントに対する理解が進んでも、起点は客観的に見て自社のエンゲージメントが高いかどうかというところにせざるを得ないかなと思うんですよね。
谷本:エンゲージメントスコアに人事の目標として設定し、高めようとする会社さんは増えている印象です。
安田:増えているでしょうね。ラッシュもグローバルエンゲージメントのサーベイやっていました。結果を見て各部門や全社のエンゲージメントを定量化してました。さらに分解して、それが報酬・上司との関係性・職場環境・自分の評価に対することなのかを細かく見ていくんですよ。そして、全体として各国、部門、店舗、職場で凹んでいるとこに対して、具体的にどういうアクションを起こすべきか考えることをずっと繰り返していきました。
人事のKPIとして、エンゲージメントが高めるためのアクションについて主導権を持っていけるかどうかが重要です。僕は最終責任者だったので、エンゲージメントサーベイの結果を自分の評価の一部にはしていました。
現場との1on1でエンゲージメントの一次情報を取りにいく
谷本:現場のマネージャーの方との1on1はどれぐらいの頻度でしたか?
安田:シニアリーダーは1ヶ月に1回やるようにしていました。経営トップとはほぼ毎週やっていましたね。
谷本:現場のマネージャーの方と上手くコミュニケーションをとるにはどうしたらよいのでしょうか。
安田:基本的には1年に1回は必ず1on1を行うことですね。J&Jのときは担当事業が五つぐらいあって、全部で200人ぐらい対象者がいましたが、1年に1回は絶対に話すことにしていました。
谷本:文化や価値観、信頼感を高めたいと思われてる会社さん多いと思うのですが、人事責任者としてどういったアプローチをするのがよいのでしょうか。
安田:まず現状をきちんと知ることだと思うんですよ。例えば、エンゲージメントについて、何をもって低いって言ってるのかですよね。サーベイが全てではないと思います。会社のモラルやモチベーションが下がっている時、何かの事象を見て言ってるはずです。
この事象を経営陣や関係するリーダー陣は、追求し、背景が何かということを理解することが大事です。ファクトの裏側についてディスカッションして、原因を特定する必要があります。
谷本:その事象が現場でブラックボックス化しているとか、リモートワークで現場の問題が見えづらいというお話もお聞きします。
安田:やはり見に行く必要があると思います。1on1はいろんなスタイルがありますが、個人的には2つの種類があると整理しています。
1つは人材能力開発のためにパフォーマンスを評価するためのもの、もう1つは最近どんな感じ?というチェックインをするためのものです。この2つの性格の違う1on1をうまいこと使っていくのが、リモートでもエンゲージメントの高い職場を作るコツですね。
リモート時代になっててまだ2年ぐらいなので、今は試行錯誤する段階ですよね。でも、一人ひとりちゃんとチェックしていくのは有用だと思います。
ステークホルダーとのエンゲージメントの重要度の擦り合わせ方
谷本:ラッシュさんとJ&Jさんは安田さんが入られる前から価値観や信頼感は高かったんですか。
安田:J&Jはもともと高かったですよ。ラッシュは成長が鈍化した2012年頃には、本来の自分たちは何者なのかというところに行き着く価値観とか組織文化がだいぶ弱まってましたね。僕が入社したタイミングの2015年から、ブランドエンゲージメントをもう一度高めるという目標をずっと掲げていました。
谷本:ブランドエンゲージメントは働いてる人のエンゲージメントとは別のものなんですか?
安田:ブランドにエンゲージして働こうという意味なので、同じですよ。自分たちのビジネスを通じて、世の中をハッピーにしようというエンゲージメントなので、そこをいかに皆に共感してもらえるかを考え努力してきました。
谷本:安田さんがラッシュに入られたとき、経営層の方は、ブランドエンゲージメントの重要性を上げなくてはいけないという認識をお持ちだったんですか?
安田:はい、経営層にその認識は一番ありました。
谷本:人事としてエンゲージメントを高めていきたいと思ってるが、経営層はあまり関心がないようなパターンもあると思います。安田さんはそのような人事の方にどうアドバイスをされますか?
安田:我々人事は何を見てエンゲージメントは急務だって言っているのかというところですよね。逆に経営者は何を見てエンゲージメントはアージェンシー(緊急性)が高くないと言っているのか。
経営層にとってアージェンシーが高い課題って何かというところを知ることが大事です。掘り下げて追求していく作業をしないと駄目でしょうね。人事と経営層の問題意識のギャップはよくある話だと思います。
組織の階層が1個上がると情報量が全然違うので、自分が見ているところと経営陣が見ているところが違うのは当たり前なんですよ。なので、関連性を持たせた提案をしていくことは大事じゃないかなと思いますよね。
J&JでHRBPだった頃、自分とトップの問題意識がずれる事がありましたが、そういう場合は積極的に日々のコミュニケーションをとるようにしていました。経営陣の問題意識も同じように理解してあげて、自分と経営陣の問題意識を擦り合わせることが利害関係者をマネジメントする上で、すごく大事です。
だから、僕は事業部長と偉い人の横から離れなかったですよね。常に、ニーズを探るチャンスをいつも狙っていました。ですから、担当役員に会うのは提案のときだけというのは絶対駄目ですよ。そんな提案通るわけありません。
先ほども言ったように、レイヤーが違えば、情報量も違うし、問題意識も違います。自分の問題意識と経営層の問題意識を一致させる糸口を常に探索することは、人事担当の大事なセンスだと思いますね。
谷本:一方で日常業務に忙殺されて時間を割けないという話をお聞きすることが多いですが、この辺りはどのようにお考えですか?
安田:その倍働けばいいんですよ。常にオーダーを断らないというのが僕のポリシーです。自分が人事としてやりたいことを通す時に、貸し借りみたいなところはやっぱあります。経営陣に聞く耳を持ってもらわないと前に進まないので、まずは利害関係者のニーズに応える状態を作っておくことが大事です。
谷本:若い人の離職が目立ち始めたのでエンゲージメントを高めたいという人事の方のお話を聞くのですが、売り上げ拡大を重要視している経営層にどのように理解してもらえばよいのでしょうか。
安田:その問題も、人事と経営の課題意識を一致させるようにするという事が重要です。現状は人材が定着しないから売上が伸びないんだという点を説明するしかないんですよね。
谷本:ありがとうございます。ここからQ&Aに対する質問に答えていきたいと思います。最初に、安田さんはブランドエンゲージメントを高めるために、何をされましたか?
エンゲージメント向上の大前提は「矛盾のない経営判断」
安田:ブランドエンゲージメントを高めるためには、何が有効かという話だと思うんですけど、一番はブランドエンゲージメントに基づいた経営判断を常にしていくことですよ。
ラッシュは動物実験に反対しているので、売り上げが見込めても、輸入された化粧品を中国大陸で販売する際には動物実験が義務付けられている以上、そこでは絶対に販売しないと決めているんです。
ブランドのフィロソフィーに矛盾がないビジネス判断が、すべての現場でなされている。これが最もブランド価値があることだと思いますよね。人事の仕組み施策もそうあるべきですよ。先日コロナウイルスのワクチンを打つときに、万が一全員がワクチン接種に行かざるを得ないことになったら、店舗の営業はどうするのかという話になったんですよね。
そのときに、店番1人でもいいんじゃないか、という話になったんです。なぜならば、社員の安全安心を最優先にするというポリシーがあるからです。自分たちが一番大事にしているものは、オペレーションに影響が出ても貫くんですよね。
人事も同じです。「そうは言っても、売上が落ちるじゃないですか」の「そうは言っても」を可能な限り作らない。ゼロにはできないにしても、ゼロにする努力を怠らない。これがブランドのフィロソフィーであり、これに対するエンゲージメントをどう高めるか。僕がいつも考えていたのはそういうことなんですね。
だから、海洋プラスチック反対だと言うのであれば、ペットボトルおかしいよねという話になりますよね。ラッシュの社員はペットボトルの飲料は飲みません、皆で話し合って、品川オフィスはペットボトルの持ち込み禁止にしたんです。本当に矛盾ない施策をどんどん打ち出していくんです。
谷本:そういう取り組みを会社でやっているってことは、皆さんにも周知を意識的にされてるんですか。
安田:もちろんです。さっき言った正解のない議論とか、ブランドフィロソフィーをどう考えるっていうことです。ブランドエンゲージメントを高めるために、話し合う機会を人事は積極的に作っていました。
例えば「Black Lives Matter」があったときに、この問題について我々はどう考えるか、どういうことをしていくか、ということを店長全員100人ぐらいMeetでつないでやりました。ブランドフィロソフィーについてみんなで考える機会を積極的に設けていましたね。
エンゲージメント経営は中長期目線で取り組む
谷本:経営者の方からのご質問です、エンゲージメントが低い状態に対して、まずどのような取り組みをすべきなのでしょうかというご質問がありました。まず、エンゲージメントが低いとどこで評価されているんですか?
安田:まずは組織文化、価値観があるかどうかですよね。会議室の壁にかかっているだけになっているのであれば、何のために我々は存在してるのかを考える必要があります。そして、我々は何のために仕事してるんだっていうことを話すことが大事です。
ゼロから作るのではなく、過去にさかのぼって成功のDNAを発掘してみましょう。例えば、「世界の全ての食卓に、笑顔を与えること」だよねとか、そういうところに行き着くと思うんですよ。今日まで大事にしてきたものをもう1回みんなであぶり出して、それを真ん中に置いてこれからの働きやすいエンゲージメントの高い職場を作っていきましょうという活動になってくると思います。
谷本:エンゲージメント向上に向けて取り組み始めてから、成果が出るまでどれぐらいかかるものなんでしょうか。
安田:僕の自分の経験で言えば3年〜5年かかると思います。簡単にはいかないので、本当に積み重ねです。
谷本:異動が激しかったり、担当者がよく変わる会社は時間かかりそうですよね。
安田:そうですね。組織文化や価値観をあぶり出し、信頼関係を醸成していく。そして、エンゲージメントを高めていく作業は劇的に変わらないですよね。僕もラッシュで6年やって、振り返ってみれば6年前よりは良くなってるかなと感じるぐらいです。でもやらなかったら、どんどん悪くなりますからね。
谷本:社員のエンゲージメントに関して、アカウンタビリティ(説明責任を果たすための指標)は何を使用したらよいのでしょうか。
安田:世の中に価値を提供し続けるということが、エンゲージメントの高い職場の一つの結果なので、ビジネスの安定的な成長だと思いますよね。短期的なとこでは見ないですよね。
谷本:このあたりは今までいらっしゃった会社さんで共通していましたか。
安田:施策の判断としてエンゲージメントサーベイの肯定回答率上がったみたいなのはありましたけど、エンゲージメントが高い組織になりつつあるかどうかを見るのは中長期のスパンになります。
ビジネスの成長は価値創出の結果なので。
谷本:社員が自分の仕事が企業を通じて社会の貢献に繋がっていると実感させることが大事だと思うんですけども、いかがでしょうか。
安田:そう思います。あなたは私達はビジネスを通じてどういう世界が作りたいんだっけというのは、売上が上がっていることが、それを実感することになりますよね。売上を見て実感させるよりは、自分らがどういう貢献をしたいんだということを最初に考えることが大事です。
エンゲージメントが低い「ぶら下がり社員」が生まれる理由
谷本:ぶら下がり社員が常態化している状態に対して、人事としてできることはありますか。退職勧奨などではなく彼らのエンゲージメントを引き出す具体的な打ち手が見えておりません。
安田:これからやっていきたいなと思ってることはまさにここなんですよね。「働かない50代」はよく言われてますけど、本当にそうなのかというところです。
退職勧奨や次の社内キャリアを提供しにくい職場組織において、こういう人たちをどうしていくかは一つの課題ですよね。エンゲージメントをもう一度高める、やる気を出すためのリカレントエンゲージメントワークショップのようなものをせざるを得ないんじゃないかなと思います。
ぶら下がり社員になるには何か理由があると思っています。働かない50代って言いますけど、彼らはの多くは若い頃に死ぬほど働かされているんですよね。その時に、日本は年功序列で後々パフォーマンス下がっても高いお給料もらえるから、今は安い給料で馬車馬のように働くんだと言われている。だから、「働かない50代」は自身の若い頃の債務を取り返してるつもり、私はそう思っているんです。
ぶら下がってる人には、理由があるはずなので、人事は確認をきちんとしないといけないです。僕の持論は、誰も好き好んでローパフォーマーにはならないということです。ローパフォーマーになる理由が背景があるはずです。
谷本:安田さんは独立されて、なぜ日本の中小企業向けにやられていくのですか。
安田:このままにはしていけないという問題意識があるからです。時代の変化、いろんなもののギャップ、ねじれ、予想せずに起きてしまったことに対して、パフォーマンスを出し切れてないハッピーじゃない人たちに対してリーチしていって、解決するという。少しでも全ての人にとって、明日も出勤したい!と思う職場を作っていきたいと思ったんですよね。
谷本:先ほどのお話にあったぶら下がり社員問題は、どのようなところから取り組まれていくのがよいでしょうか。
安田:その人たちをリスペクトしながらも、火をつけに行くとところですかね。ぶら下がり社員でも何十年やってきて、成功のDNAは絶対あると思うんですよ。だから、そういうのを引き出していくことをやっていきたいなと思いますよね。
エンゲージメントが改善されても、離職率が変わらない場合の対処法
谷本:離職率を気にされている人事の方が多いと思うのですが、ちゃんとマネージャーが対応していて、社員からは評価は上がっているが離職率が下がらないというところについて、先ほどのささやき戦術が有効なんじゃないかと思ったんですけども。
安田:それぞれ違うので、サーベイ結果を見せていただきたいです。お給料の不満はどんだけやっても常に出るんですよ。故に、ブランドの素晴らしさに対するエンゲージメントを高めていく施策の方が正しいのではないかと思います。
「反抗勢力」への人事の向き合い方
谷本:いつもネガティブな発言をする社員がいる中で、反応しやすい方々を引っ張って周りへの影響を良い反応に変えていくのか。ネガティブな影響与えている方をどう引っ張っ行くのか。その辺りにどう力を入れればよいのでしょうか。
安田:僕はネガティブ側にテコ入れをしますね。1人のネガティブ社員と1人のスーパー社員で、どちらが組織の影響力高いかというと前者です。また、ポジティブな方はそのままにしていても良いですが、ネガティブな人は触らなかったら絶対変わらないので、アプローチする必要があると思います。
谷本:安田さん自ら行くんですか。そこはどう近づくんですか。
安田:僕は担当人事になるとミーティング、1on1、営業同行、お店訪問とどんどん近づいていきます。最終的にはその人たちに厳しいことを言わなきゃいけないかもしれない立場ですから。信頼関係を土壌に作っていくからこそドラスティックな施策もできるわけなんで。
配置転換(異動)とエンゲージメントの関係性
谷本:配置転換の必要性とまずは何のために仕事をするかっていうことってのバランスはどう取るべきでしょうか。安田さんは先日適材適所という言葉があまり好きじゃないとおっしゃっていましたが。
安田:適材適所って会社の理屈だと思っています。極めて経営側の言い方で、ビジネスのためにこの人はここって会社の都合で決めるという話ですよね。
エンゲージメント向上において、何のために仕事をするかということは重要です。一方で、経営方針における社員の配置転換の必要性とのバランスをどう取るべきかは課題ですよね。会社の理屈と個人の利益、天秤にかけたら会社の理屈が無条件で優先になるっていう時代というのはこれから変わっていくと思っています。
既に摩擦が起きてるわけじゃないですか。あと、希望しない転勤を廃止する会社も出てきたりとか。どんな仕事であっても、この会社(ブランド)が創出したい価値の一環になってることへの理解をどうさせるかっていうことじゃないかと思うんですよね。
だからよく大企業だと人事やってる人が突然なんか中国四国の支店長になったりとか、何かそういう話があるってことでしょ。新規事業開発のプロジェクトリーダーが当然人事になったりとかっていうことがあるんですよね。
自分は仕事や職種に対するエンゲージメントと、会社や組織に対するエンゲージメントは違うと考えています。
基本的に人事異動があって、長期雇用を前提とする会社は、この会社、ビジネスを通じてどう価値を創出するか、そして今度やる新しい仕事は、そこにどういう貢献をするのかということを、異動先でいつも一生懸命考える。エンゲージメントをそういう作り方にしないと駄目なんでしょうね。
谷本:難しい問題ですよね。
安田:どんな仕事をするのかも重要です。僕もプロの人事という仕事を通じて、その会社のバリューを創出しようということを考えてエンゲージしてきたわけですから。僕はどんな仕事をするかの方に重要性を置いてきましたが、当然そうではない方もいる。
この会社にいることによって価値を創出することの方が大事だと考えてる人もいますよね。財務・マーケ・広報など、どの仕事やってたって、やはりこの会社が描く未来を俺はこの仲間たちと作りたいんだよいうエンゲージメントもあって当然です。
エンゲージメントの前提条件や対象を明確にしないまま、ジョブ型とか言ったって上手くいかないというのが私の見解です。
谷本:マネージャーは異動をさせてほしい、でもそのメンバーはここに残りたいみたいな状況でたくさん判断もされてきたと思うのですが。
安田:この質問で思ったのですが、やっぱりそのエンゲージメントのグランドデザインは大事なんでしょうね。そもそもどういう構造でエンゲージメントを上げていくのかを人事を考えた方がいいんでしょうね。
谷本:制度だったり、ルールに矛盾がないっていうのが徹底されているかという点が最初のハードルになりそうです。
安田:そこに矛盾があると、エンゲージメントやキャリア展望の整合性が取れないとか、メンバーシップ型相変わらずでおかしいよねみたいな話が出て来てしまいます。人事における一貫性は非常に重要だと思います。
谷本:ドライだとしても誠実ですよね。
安田:一貫性を持つってことは誠実であるってことです。
谷本:最後のご質問です。自分で生きていける機会がマーケットバリューを与えてくれる企業、チャレンジたくさんできるとエンゲージも高いとのことですが、どういったレベル感のチャレンジが程よいのか、懸念点などアドバイスがあればお願いします。
安田:人事異動なくしたらいいんじゃないかと思っています。
谷本:希望性ではなく、まったくなしですか?
安田:原則なし。全ての空きポジションは全部手上げにする。
谷本:それはなぜですか?
安田:自分でマーケットバリューを高めようという行為ができるじゃないですか。
谷本:最初にその配属される自分で選べる前提ですか?
安田:最初は新卒はいいとして、その後はもう全部手上げ式。空きポジションが出たら、中にも外にも公募する。ちなみにラッシュはないんですよ。なくても1年間で2割ぐらい動きます。
あともう一つは、タレントマネジメントの考え方として、成長は変化でこそ起きるという点が重要です。だからやっぱりチャレンジする人は成長する人。チャレンジを応援するマネージャーは良いマネージャー。抱え込むマネージャーは駄目なマネージャー。というポリシーを持っておく必要があります。
谷本:配置についてですが、例えば、マネージャーが異動させたいと思っても本人がそこにいたいという希望が優先される組織の方が理想なんでしょうか?パフォーマンス的に彼はここが適正じゃないんじゃないかとか、考えるとこっち部署で仕事をした方がいいんじゃないかというような役割の変更をマネージャーが提案するケースってのもありますよね。
安田:そんなことってある?
谷本:あんまりないのか。
安田:そういうマネージャーの意見は信じないです。上司側が部下のパフォーマンスを上げるための能力を向上させるための努力をしてないし、チャレンジもしてないんです。そのままどっかに送り出そうとしてるケースがほとんどですよね。うちの部署で頑張れが大事なんですよ。
谷本:どういうレベル感でみたいな部分の質問はいかがでしょうか。
安田:チャレンジレベルの話ね。歩幅は人それぞれ違うと思っています。一歩思いっきり飛んで3mの人、60センチの人もいればちょっとで180センチ行く人もいるんで、その辺をうまく見極めて、1人ずつの成長に寄り添ってあげたいと理想的には思っています。
自分のマーケットバリューを高めるための程よいチャレンジはないですよ。全力でやるしかない。僕はあんまり自分のことに関してみるとやっぱりマーケットバリューを高めたい、次の転職では絶対もっといいポジション欲しいと思ったときに、ほどよさってのは考えなかったです。もうとにかく今できることを全力で全部やりたいっていう感じだったんで。
谷本:安田さんが名マネージャーだと思う人はどのような人ですか。
安田:基本的にはきちんと部下から逃げないできちんと部下と向き合ってる人だと思いますよね。
いろんな話もちゃんと聞いて、絶対逃げない嘘つかないごまかさないことですよ。僕自身もそう思ってやってきたんですけど。直接対面するというかね。対峙することを恐れないっていうマネージャーはやっぱりすごく信頼できるなと思います。
谷本:最後いい感じにしていただいて。ありがとうございました。
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