
スキルマップとは従業員のスキルを表に可視化したものです。効果的な教育プランの策定や従業員のモチベーションアップ、人材配置・採用の最適化などに役立ちます。
特に、給与計算から資金調達まで業務が多岐に渡る経理財務においては、スキル管理の必要性が高く、導入されている事例が多いです。
本記事では、売上を伸ばしたい経営者/役員・人事担当者などを対象に、経理部・財務部にスキルマップを導入するメリットや項目の具体例を解説します。無料のテンプレートもご紹介するため、ぜひ最後までお読みください!
目次
スキルマップとは?
スキルマップとは、業務で必要なスキルを洗い出し、各従業員がどのスキルをどの程度習熟しているか(スキルレベル)を一覧表として可視化したものです。対象となるスキルは、全社共通スキルから業務分担ごとの専門スキルまで、様々なものがあります。企業によっては「能力マップ」「技能マップ」「力量表」「力量管理表」などの呼び方があり、海外では「スキルマトリックス(Skills Matrix)」と称されています。
導入目的は、効果的かつ効率的な人材育成と人員配置をすること。一人ひとりのスキルや適性の有無、課題を明確にすることで、業務効率化が達成できます。さらに、従業員のスキルを一元管理することで自社の保有するスキルが把握でき、どの能力を強化するべきかが明らかになります。これによって、効果的な教育プランや研修プログラムの立案が可能になります。
特に、法的コンプライアンスに注意する必要があり、業務も多岐に渡る経理・財務職においては、丁寧な人材育成が欠かせません。スキルマップを活用して効果的な育成計画を立て、トラブルを防いでいきましょう。
スキルマップを作成・運用するメリット
ここからは、経理・財務の分野でスキルマップを作成・運用するメリットを、以下の4点に分けてご紹介します。
- 経理・財務業務が可視化される
- 従業員のスキルが可視化される
- 従業員の育成が促進される
- 業務分担・配置が最適化される
スキルマップの導入に迷っている方は必読です。
経理・財務業務が可視化される
1つ目のメリットは、スキル項目の整理によって経理・財務業務が可視化され、業務の抜け漏れ防止となることです。
経理・財務の仕事は、日次業務、月次業務、年次業務、予算編成、資金調達・運用など1年を通して多様です。よって、経験が浅い従業員が「今どのようなタスクがあり、何が優先されるべきか」を判断をするのは困難を極めます。知識・経験のある従業員へとタスクが集中し、細かな業務プロセスがブラックボックス化することもあるでしょう。
このような状況で、もしベテラン従業員が不在になると、業務の抜け漏れが生じる可能性が高いです。金銭を扱う仕事でのミスは契約先からのクレームに直結し、企業の信頼性が損なわれてしまいます。従業員全体が業務の種類や優先順位を理解し、抜け漏れが発生しにくい安定した体制をつくることが大切です。
業務を可視化するツールとして、スキルマップを活用していきましょう。
従業員のスキルが可視化される
2つ目のメリットは、従業員のスキルを可視化できることです。
項目ごとに客観的なスキル基準を設けることで、個々のレベルが明確になります。また、データを一元管理し、組織として不足しているスキルをチェックすることで、社内教育や採用活動を効率化できるでしょう。
さらに、従業員スキルの可視化は欠員発生時にも有用です。十分なスキルを持つ代替要員を把握しやすくなるためです。
働き方の流動化が進む今の時代、転職や休職、退職はいつ発生してもおかしくありません。マイナビによる「転職動向調査2025年版(2024年実績)」によると、「2024年の正社員の転職率は7.2%で高水準を維持し、40-50代で増加」しています。特に、経理・財務は特定のサービスの営業などと異なり汎用性の高いスキルであるため、転職が多い傾向にあるようです。
参考:https://career-research.mynavi.jp/reserch/20250312_92959/
スキルマップで従業員のスキルを見える化し、人材計画や欠員対応の土台をつくりましょう。
従業員の育成が促進される
3つ目のメリットは、従業員の育成が促進されることです。業務の標準化と従業員のモチベーションアップの2点で、スキルマップは効果を発揮します。
まず、安定的な業務遂行をするための業務の標準化は、人材育成をする上での一つの指標です。従業員が持つスキルと求められる水準とのスキルギャップを埋める作業といえます。前述のように、経理・財務業務と従業員スキルの両方を並べて可視化できるスキルマップは、業務標準化ツールとして活躍するのです。
具体例として、OJTによる新人研修があげられます。OJTは実務で実践的なスキルを習得できる一方で、指導者の負担が高く、教育の質もばらつきやすいのが弱点です。そこで、振り返りにスキルマップを活用し、スキルギャップのある項目について重点的にフィードバックをするようにします。これにより、上司の負担を軽減しつつ、一定のレベルまで従業員を成長させることができます。
加えて、スキルマップはモチベーションアップにも貢献します。スキルや成長プロセスが可視化され習得目標が立てやすくなるとともに、明確な評価基準ができることで人事評価への信頼性が上がるためです。さらに、公認会計士や税理士などの資格をスキル項目に登録すれば、一層の学習意欲向上が見込めるでしょう。
経理・財務は業務範囲が幅広く、自分でスキルアップ・キャリアアップの方向性を定めにくい職種だと言われています。スキル獲得の内容やプロセスを体系化するスキルマップは、中長期的なキャリア設計を可能にする点で、大きな役割を果たすのです。
このように、業務標準化の支援とモチベーションアップの2点から、スキルマップは従業員育成を促進します。
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業務分担・配置が最適化される
4つ目のメリットは、業務分担・配置が最適化されることです。
スキル項目の評価に基づき、確実に遂行可能な業務を割り当てることができます。また、業務の標準化の重要性を述べてきましたが、個々の従業員は少なからず得意・不得意を持ちます。客観的に強みを把握できるスキルマップを活用し、効果的な人材配置を実施しましょう。例えば、財務分析が得意な従業員は予算管理、税理士資格を持つ従業員は税務申告といったイメージです。
業務分担・配置の最適化は、生産性向上やコスト削減につながります。スキルマップを用いて人材配置の改善を目指すことが大切です。
経理業務・財務業務のスキル項目一覧
スキルマップの作成にあたって行うのが、スキル項目の洗い出しとそれらの分類です。
ここでは、経理業務・財務業務のスキル項目を一覧形式でご紹介。具体的には「財務会計」「税務業務」「財務業務」「IT・システム運用」の4つの分類に分けて、細かいスキル項目を列挙していきます。
ただし、後述のスキル以外にも普遍的なスキルが求められることはご留意ください。例えば経理・財務担当者は、総務部、人事部など他の部門の相談を受けたり、分析結果のポイントを整理して報告をしたりします。したがって、場合によっては、プレゼンテーションスキルやフィードバックスキルなどコミュニケーションにまつわる項目も必要になります。
なお、スキル項目と分類を設定した後は「評価基準と評価方法の策定」や「定期的な見直し」といった導入ステップが続きます。詳しくは下記の記事をご覧ください。
財務会計
財務会計は、企業の経営や財務に関する情報を外部の利害関係者に提供・報告するための業務です。財務情報を透明化して信頼性を高め、経営の健全性が評価されるようにする重要な役割を担っています。利害関係者としては、株主、投資家、銀行、取引先などが挙げられます。
具体的なスキル項目例は下記の通りです。
業務 | 具体的な業務内容 |
---|---|
会計方針・規定の策定 | ・会計方針の策定 ・経理規定 ・マニュアルの策定 |
請求・支払関連業務 | ・請求書発行 ・領収書発行 ・支払依頼書 ・領収書受取 ・現金出納帳作成 ・支払処理 ・ファームバンキング・オペレーション ・手形決済、手形交換 ・受取手形、支払手形処理 |
経費精算・信用管理 | ・立替経費精算 ・旅費精算 ・仮払処理 ・信用管理 ・売掛金Aging管理 ・未収Aging管理 ・不良債権管理 ・買掛債務Aging管理 |
決算業務・監査対応 | ・月次決算、スケジュール管理 ・年次決算、スケジュール管理 ・連結決算、スケジュール管理 ・減損会計、退職給付会計、税効果会計、企業結合会計などの難論点の対応 ・IFRS決算 ・引当金管理、前払金、前払い費用管理 ・会計監査対応(監査キックオフ・中間監査・期末監査・論点詰め交渉) ・監査報酬交渉 |
棚卸・在庫管理 | ・実地棚卸し(棚卸資産、固定資産) ・在庫評価計算 ・固定資産管理 ・棚卸資産管理(在庫移動表)、仕入れコスト管理 |
開示・報告書作成 | ・開示書類作成(有報、会社法決算、決算短信、IR資料) ・決算レポート作成(決算承認取締役会向け)、決算分析(増減分析) |
予測・分析・業務プロセス改善 | ・フォーキャスト作成サポート(連結影響など) ・BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング) ・BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング) ・SS(シェアードサービス) |
財務リスク管理・事業再編・M&A対応 | ・財務リスクのリスト化と適切な処理 ・事業再編 ・M&A対応(財務DD、連結インパクト試算、リスク対応) |
税務業務
税務とは、企業が法令に従って正確かつ適切に納税するための業務です。
誤った税務処理を行った場合、過少申告加算税や延滞税などの措置が取られ、企業の損失を招いてしまいます。一方、税額控除や特例措置を活用できれば、過剰な税負担を防ぐことができます。
ここから、企業の健全かつ安定的な活動を支える上で大切な業務であると言えるでしょう。
具体的なスキル項目例は下記の通りです。
業務 | 具体的な業務内容 |
---|---|
税務申告・納付 | ・申告、納付(法人税、消費税、事業税、都民税)、予定申告、納付 ・住民税、源泉所得税、固定資産税 |
税務管理・調査対応 | ・移転価格文書化、移転価格管理 ・税務調査対応 ・国際税務対応(外国源泉税、海外税務問題対応等) ・税務コスト削減立案、実行 ・税金コストのフォーキャスト作成 |
組織・事業再編対応 | ・組織再編対応 ・事業再編、M&A対応(税務DD、ストラクチャー立案への参画) |
財務業務
財務は、企業の資金調達や資金運用、リスク管理などの将来のお金の流れを計画し、管理する業務です。
財務会計は過去の取引や経済活動を記録し、報告することに焦点を当てていますが、財務業務は未来に焦点を当て、持続的な成長の実現を目指しています。経営者の意思決定を支える不可欠な業務です。
具体的なスキル項目例は下記の通りです。
業務 | 具体的な業務内容 |
---|---|
資本政策・資金調達 | ・資本政策策定 ・適正資本構成の追求 ・資本コスト(WACC)の引き下げ ・資金調達(借入、エクイティ) ・金融機関対応(銀行、証券会社、VC) ・格付け対応 ・自社株買い ・株式交換 ・遊休資産の売却処分 ・配当方針策定 |
財務管理・運用 | ・投資効果の算定(DCF、IRR、Payback Period) ・EBITDA管理 ・資金繰り表の作成 ・キャッシュフロー計算書の作成 ・余剰資金の運用 ・為替ヘッジ、ヘッジ会計適用 ・為替コストの引き下げ |
投資家・グループ対応 | ・投資家対応 ・グループCMS、ネッティング |
IT・システム運用
クラウド会計システムやRPAなどを導入する企業が増えている今、IT・システム運用の能力の重要性が高まっています。IT・システムを活用することで、業務の自動化や、データ収集・分析の効率化、ヒューマンエラーの防止などが可能になります。その運用能力は、時代の変化に対応する上で欠かせないスキルの一つなのです。
ただし、Excelなどで難しい関数を使えれば「スキルがある」というわけではありません。使用者の目線に立つことを意識し、シンプルで分かりやすいものにする力が求められています。
運用するシステムやITの知識の例は下記の通りです。
運用するシステム | ・ERP(SAP、Oracle、MF等) ・開示システム(プロネクサス、宝印刷) ・連結システム ・RPA ・ワークフローシステム ・税務申告システム |
ITの知識・スキル | ・OCR活用 ・API活用 ・Excelスキル(関数、Pivot、クエリ) |
無料公開されている税務財務のスキルマップテンプレート
スキルマップ作成は一定の労力を要しますが、テンプレートの活用によってスムーズに導入することができます。
有料のクラウドサービスという選択肢も存在しますが、まずは無料のテンプレートで試したい方が多いのではないでしょうか。特に、Excel形式など既存ツールを使用するものは、手軽に試せるため導入のハードルが低く、多くの企業で利用されています。もちろん自社に合わせてカスタマイズすることも可能です。
ここでは、厚生労働省の「職業能力評価シート」と、当サイト「コチーム」のバックオフィス向けスキルマップテンプレートの2つをご紹介します。
厚生労働省 職業能力評価シート(Excelテンプレート)
厚生労働省のホームページでは「職業能力評価シート(スキルマップ)」の無料テンプレートをダウンロードできます。Excel向けのテンプレートになっており、スキル項目や評価基準を自由に変更可能です。
対応するのは、16の業種と19の事務系職種。経理・財務に該当するのは、事務系職種の1つである「経理・資金財務・経営管理分析」で、そのなかでも「経理」「資金財務(トレジャリー)」「経営管理分析(FP&A)」の3つにカテゴリ分けされています。
さらに、それぞれ下記の4レベル6ポジションに分けられているため、3カテゴリ×6ポジションで計18個のテンプレートをダウンロード可能です。
- レベル1 「エントリー/スタッフ」
- レベル2 「シニア・スタッフ」
- レベル3 「スペシャリスト」「マネージャー」
- レベル4 「シニア・スペシャリスト」「シニア・マネージャー」
この「職業能力評価シート」には、必要な知識や基準などの細かい例が記載されています。併せて公開されている導入・活用マニュアルやキャリアマップとともに、スキルマップ作成の参考にしましょう。テンプレートの利用を考えていなかったとしても、下記のリンクから目を通すことをおすすめします。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000093991_00001.html
また、スキルマップではありませんが、経済産業省が「経理・財務人材育成事業」の一環として公開しているスキルスタンダード(スキル標準)も、評価基準の設定や運用をする上で役立つはずです。ぜひご覧ください。
https://www.cfo.jp/fass/meti/skill_standard.html
コチームのバックオフィス向けスキルマップテンプレート
弊社コチームのスキルマップも無料で公開しています。新入社員向けやマネージャー・管理職向け・マーケティング職向けなど、さまざまな業種・職種・役職を育成するためのテンプレートがあります。
他のスキルマップと異なり、会社ごとにカスタマイズせずとも、すぐに使えるものが多いです。現在、そのうちの一部のスキルマップを無料で配布していますので、ぜひ下記リンクよりダウンロードいただけますと幸いです。
効果的なスキルマップの作成・運用なら「コチーム」!
「コチーム」は、「スキルマネジメント(1on1×スキルマップ)」を運用できる国内唯一のツールです!スキルマネジメントを効果的に管理・運用するための各種機能を搭載しております。
- 会社ごとのオリジナルスキルマップを独自学習させたAIを用いて作成!
- 1on1機能とスキルマップ機能の連携で、スキルの習得を促進!
- スキルの獲得状況を一元管理!
- 1on1の省力化機能で現場管理職の負担を最小限に抑えて運用可能!
まとめ
この記事では、経理・財務職においてスキルマップを活用するメリットや項目例、テンプレートなどをまとめて解説しました。
経理・財務の業務は多岐に渡るとともに、法的コンプライアンスが重視されるため抜け漏れが許されません。業務や従業員のスキルを可視化することでスキルギャップを埋め、安定した業務遂行を目指しましょう。
スキルマップの活用は、そのための戦略として有効なのです。
最後までお読みいただきありがとうございました。スキルマップの作成・運用を検討されている方、またはお悩みの方は、ぜひ弊社サービスの『コチーム』をご活用ください。スキルマネジメントを成功させるための強力な支援ツールとして、お役に立てるはずです。 ご興味がありましたら、お気軽にお問い合わせください。
お役立ち情報
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