営業の属人化を解消するには?原因・リスクと仕組みで防ぐ実践方法

営業組織の成果が一部のエースに依存する「属人化」は、もはや個別の問題ではなく構造的な経営リスクです。

しかし、いざ解消に動こうとすると「CRM/SFAは入れたが現場が入力しない」「ノウハウ共有と言っても何から手をつければいいのか」「標準化したらトップセールスのモチベーションが下がるのでは」と手が止まるマネージャーは多いです。高機能なツールを導入したのに結局エクセルに戻った、そんな経験をした方もいるのではないでしょうか。

この記事では、営業の属人化が起きるメカニズムを4つの原因に分解し、自社の属人化レベルを診断したうえで、ツール活用と組織設計の両面から解消する実践ステップを提示します。


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▼ この記事の内容

  • 属人化の本質: 単なる「情報の欠如」ではなく、「再現性の欠如」を指します。CRMに結果(売上)が入っていても、プロセス(判断根拠や顧客の反応)がブラックボックスであれば、それは属人化しています。
  • 2つの属人化: 現場スキルの「プレイヤー属人化」だけでなく、管理基準がバラバラな「マネジメント属人化」の両面を解消しなければ、組織は変わりません。
  • 解消の鍵: 「CRM入力項目の削減(5〜7個)」、「営業プロセスの7割標準化」、「評価制度へのチーム貢献(ノウハウ共有)の組み込み」という3つの具体的アプローチが、現場の抵抗を抑えつつ定着を促します。

営業の属人化とは

営業組織の成果が特定の個人の経験やスキルに依存し、その人がいなければ回らなくなる状態は、多くの企業が抱える構造的な問題です。

営業属人化の典型的な症状

以下のような場面に心当たりがあるなら、属人化はすでに進行しています。

  • 担当者が異動・退職すると、顧客との関係が白紙に戻る
  • 新人が初受注するまでに、既存メンバーの倍以上の時間がかかる
  • トップセールスの商談プロセスを、本人以外の誰も説明できない
  • CRMに情報は入っているが、商談の経緯や判断根拠が記録されていない
  • 四半期末にエースが不在になると、担当顧客の状況を誰も把握できない

「うちはCRMに情報を入れているから属人化していない」と考える管理職は少なくありません。しかし、入力されているのが結果データだけで、商談の過程や判断の根拠が記録されていなければ、他のメンバーが同じ成果を再現することはできません。

属人化の本質は「情報の有無」ではなく「再現性の有無」にあります。

属人化を放置した場合に起きるリスク

営業の属人化を放置すると、離職・異動のたびに売上が急落する「人依存リスク」が組織に蓄積されます。短期的にはエース離職による担当顧客の失注、中期的には新人の戦力化の遅れによる採用・教育コストの膨張、長期的には組織ノウハウが蓄積されないことによる競合との差の拡大と、影響は複合的に跳ね返ります。

仮に年間3名の営業が退職する組織であれば、属人化による機会損失は年間1,000万円を超える計算になります。これは新たなツール導入費用を十分に回収できる規模です。経営層への説明材料としても「放置コスト」を数値化することが有効です。

「でも、うちのエースはすぐには辞めないだろう」と思う方は多いです。しかしリスクは退職だけではありません。

異動・産休・長期休暇・体調不良など、一時的な離脱でも属人化の影響は表面化します。厚生労働省「令和5年雇用動向調査」によると、常用労働者全体の年間離職率は15.4%であり、5年以内に相当数の人材が入れ替わる計算です。属人化対策は「いつか」ではなく「今」取り組むべきテーマです。

(参考)令和5年 雇用動向調査結果の概要 

「プレイヤーの属人化」と「マネジメントの属人化」の違い

属人化には、現場の営業担当者に起きる「プレイヤーの属人化」と、マネージャーの管理手法に起きる「マネジメントの属人化」の2種類があります。多くの企業はプレイヤー側だけに注目しますが、マネジメント側を見落とすと、解消施策そのものが属人化します。

プレイヤーの属人化は、商談の進め方・顧客との関係構築ノウハウ・提案資料の作り方など、受注に直結するスキルや情報が個人に閉じている状態です。一方、マネジメントの属人化は、1on1の進め方・目標設定の基準・部下の評価方法がマネージャーごとにバラバラで、チーム運営の質が上長個人に依存している状態を指します。

比較項目プレイヤーの属人化マネジメントの属人化
依存する対象個々の営業担当者営業マネージャー
典型的な症状トップセールスの手法が共有されないマネージャーによって部下の育成スピードが大きく異なる
影響範囲担当顧客・担当案件チーム全体の生産性
解消アプローチノウハウ共有・プロセス標準化マネジメント手法の仕組み化・1on1の標準化

見落としがちなのは「影響範囲」の差です。プレイヤーの属人化が1人分の担当領域に影響するのに対し、マネジメントの属人化はチーム全体、場合によっては数十名の成果に波及します。

たとえばマネージャーAのチームは毎月1on1で商談レビューを行い新人が3ヶ月で初受注するのに、マネージャーBのチームでは放任主義で初受注まで9ヶ月かかるといった格差が生まれます。

「営業の属人化」と聞くとエース社員のノウハウ共有ばかりが議論されがちですが、マネジメントの仕組み化が進んでいなければ、共有されたノウハウを現場に定着させる仕組み自体が属人的になります。解消に取り組む際は、プレイヤーとマネジメントの両面から設計することが不可欠です。

では、そもそもなぜ属人化は起きてしまうのでしょうか。

営業の属人化が起きる原因

属人化は「個人の問題」ではなく「仕組みの不在」が生み出す組織課題です。主な構造的要因は次の4つです。

  • 情報共有の仕組みとルールが整備されていない
  • 営業プロセスが標準化されていない
  • 個人成果に偏った評価制度が共有を阻害している
  • トップセールスがノウハウを共有するメリットを感じていない

情報共有の仕組みとルールが整備されていない

営業の属人化が起きる最大の原因は、情報共有の仕組みとルールが組織として整備されていないことです。CRM/SFAを導入していても、何を・いつ・どの粒度で記録するかが明文化されていなければ、入力の質と量は個人の裁量に委ねられます。

Salesforce社の「セールス最新事情」レポート(第5版、2023年)によると、営業担当者が実際の営業活動に費やす時間は全体のわずか28%にすぎず、残りの時間は案件管理やデータ入力などの付随業務に費やされています。このデータは、CRM/SFAの入力が現場にとって大きな負担になっている現実を示しています。

ルールが曖昧なまま「とりあえず入力してください」と指示しても、形だけの運用に終わります。たとえば従業員100名規模のIT企業で、SFAの入力項目が30以上あるケースを想像してみてください。現場は「どこまで書けばいいかわからない」と感じ、結果として必須項目だけ埋めて送信します。商談の背景や顧客の反応、次のアクションの根拠といった再現に必要な情報は記録されません。

解決の鍵は「入力項目を減らし、記録すべき情報の優先順位を明確にする」ことです。入力項目を5〜7項目に絞り、商談直後に音声入力で記録できる仕組みを導入することで、入力率を大幅に改善させることも可能になります。ルールは「厳しくする」のではなく「迷わなくする」方向で設計することが重要です。

(参考)Salesforce「セールス最新事情」(第5版) 

営業プロセスが標準化されていない

属人化が固定化するもう一つの大きな要因は、営業プロセスが標準化されていないことです。アプローチからクロージングまでの各ステップが定義されていなければ、個人ごとに異なるやり方が野放しになり、成功パターンの再現が不可能になります。

マッキンゼーが2021年に発表したレポート「日本の営業生産性はなぜ低いのか」では、日本企業の営業ROI(営業コストに対する粗利の倍率)がグローバル競合と比較して大幅に低いことが指摘されています。その根本原因の一つとして、営業プロセスの不明瞭な責任分担や属人的な手法の蔓延が挙げられています。

プロセスの標準化とは、トップセールスのやり方を全員に強制することではありません。商談の各フェーズで「最低限やるべきこと」を定義し、判断の基準を揃えることです。「営業は個人の裁量が大事ではないか」と感じる方は多いです。確かに顧客との関係構築には個人のスキルが求められます。

しかし、裁量を発揮すべき領域と標準化すべき領域を分けていないことが問題です。たとえば初回訪問前のリサーチ項目、提案書の構成テンプレート、見積提示のタイミング基準などは標準化しても個性を殺しません。

営業マネージャーの立場で考えると、プロセスが標準化されていれば部下の商談がどこで止まっているかを特定できます。「なぜ受注できなかったか」を感覚ではなくプロセス上のどのステップに問題があったかで分析できるようになります。標準化は「管理のため」ではなく「再現と改善のため」に行うものです。

(参考)McKinsey & Company「日本の営業生産性はなぜ低いのか」 

個人成果に偏った評価制度が共有を阻害している

属人化を助長する構造的な要因として、個人成果に偏った評価制度があります。売上目標の達成率だけで評価される仕組みでは、ノウハウを共有する動機が働きません。むしろ「自分のノウハウを教えたら、自分の優位性がなくなる」という合理的な判断が生まれます。

多くの営業組織では、個人売上が昇格・昇給の最重要指標となっています。この仕組みのもとでは、ノウハウ共有は「善意のボランティア」でしかありません。評価に反映されない行動を継続的に求めるのは、組織設計として無理があります。

たとえばSaaS企業の営業チームで、個人のMRR(月次経常収益)達成率だけで昇格が決まる制度を運用しているとします。トップセールスのAさんが後輩に提案手法を教え、後輩が受注を伸ばしたとしても、Aさんの評価には一切加算されません。この状況でAさんが積極的にノウハウを共有し続けるのは、きわめて難しいです。

解消には、評価指標に「チーム貢献」「ノウハウ共有」「後輩育成」を組み込む必要があります。具体的には、個人売上70%・チーム貢献30%のような配分にし、共有行動を定量的に計測する仕組みを入れることが有効です。評価制度を変えずに「もっと共有してください」と呼びかけても、行動は変わりません。

スキルマップなどを使って、評価基準をはっきりさせることが重要です。

トップセールスがノウハウを共有するメリットを感じていない

評価制度と並んで属人化を固定化する要因が、トップセールス自身がノウハウ共有にメリットを感じていないことです。ノウハウを言葉にするには時間と労力がかかります。その工数に見合うリターンが見えなければ、共有は後回しにされます。

トップセールスの多くは、自分のやり方を「当たり前のこと」だと認識しています。自分のやり方を言葉にする作業は想像以上に負荷が高く、「忙しいのにわざわざ教える時間がない」というのが偽りのない本音です。

さらに「教えても相手が実行しなければ意味がない」という過去の経験から、共有自体に諦めを感じているケースもあります。「共有すればチーム全体の成果が上がり、結果的に自分も楽になる」という理屈は正しいのですが、それだけでは行動は変わりません。トップセールスにとっての具体的なメリットを設計する必要があります。

たとえば、ノウハウ共有を行ったトップセールスに「チームリーダー」や「メンター」の肩書きを付与し、キャリアパスの一部として位置づける方法があります。仮に共有セッションを月2回実施し、その結果としてチームの受注率が10%改善すれば、チーム全体の売上増加分の一部を報酬として還元する設計も可能です。

共有を「義務」ではなく「キャリア形成の一部」として組み込むことで、継続的な行動につながります。

自社の属人化レベルを診断する

属人化の解消に取り組む前に、まず自社の現状を客観的に把握することが不可欠です。「なんとなく属人化している」では優先課題が定まらず、施策の効果測定もできません。

属人化の進行度を見極めるチェックリスト

自社の属人化レベルは、以下の10項目で簡易診断できます。該当する項目が多いほど、属人化が深刻な状態です。管理職だけでなく現場メンバーにも回答してもらうと、認識のギャップが可視化されます。

チェックすべき10項目を、領域別に整理しました。

  1. 特定の担当者が休むと、その顧客への対応が止まる
  2. 新人が初受注するまでの期間が、人によって3倍以上開く
  3. CRM/SFAの入力率が50%を下回っている
  4. 商談の進捗を口頭でしか共有していない
  5. 提案書のテンプレートが存在しない、または使われていない
  6. トップセールスの商談プロセスを文書化したものがない
  7. マネージャーごとに1on1のやり方がまったく異なる
  8. 引き継ぎのたびに顧客からクレームが入る
  9. ノウハウ共有の場(勉強会・事例共有会)が定期的に開催されていない
  10. 評価項目に「ノウハウ共有」「チーム貢献」が含まれていない

このチェックリストで7項目以上に該当する場合、属人化は組織全体に浸透しています。4〜6項目であれば部分的な属人化が進行中、3項目以下であれば基本的な仕組みは機能していると判断できます。

「チェックリストは参考程度で、自社には当てはまらない項目もある」と感じる方もいるでしょう。しかし重要なのは点数そのものではなく、該当項目の偏りです。

たとえば1〜6がプレイヤーの属人化、7〜10がマネジメント・仕組みの属人化に対応しています。どちらに偏っているかで、優先すべき施策が変わります。

診断結果から優先課題を特定する

診断結果を「プレイヤー系(1〜6)」と「マネジメント・仕組み系(7〜10)」に分類し、該当数が多い方から優先的に着手するのが効果的です。両方に均等に該当する場合は、仕組み系から先に整備します。

仕組みがなければ、プレイヤー側の施策を定着させる土台がないためです。

診断結果のパターン優先アクション着手の目安
プレイヤー系が多い(1〜6に4つ以上)営業プロセスの標準化・ノウハウ蓄積即座に着手
マネジメント系が多い(7〜10に3つ以上)1on1の仕組み化・評価制度の見直し1ヶ月以内に設計開始
両方に均等に該当マネジメント系→プレイヤー系の順で整備マネジメント系を先行
該当3項目以下現状の仕組みの改善・精度向上四半期ごとの定点観測

「該当3項目以下」の場合でも安心できません。属人化は環境変化によっていつでも再発します。

キーパーソンの異動、事業拡大による新人の急増、マネージャーの交代など、トリガーは多岐にわたります。四半期に一度、同じチェックリストで定点観測を行うことを推奨します。

営業企画の担当者であれば、この診断結果をもとに経営層への報告資料を作成できます。「現状はチェック10項目中○項目に該当し、属人化レベルは中〜高です。

優先課題は△△領域で、具体的な施策として□□を提案します」と数字で語ることで、経営判断を引き出しやすくなります。診断が終わったら、次はいよいよ解消のための具体的なステップに進みます。

営業の属人化を解消する実践ステップ

属人化の現状を把握したら、次は具体的な解消施策を実行するフェーズです。

何が属人化しているかを特定する

属人化を解消する最初のステップは、「何が」「誰に」属人化しているかを具体的に特定することです。漠然と「うちは属人化している」と認識するだけでは、施策の焦点が定まりません。

特定の方法として有効なのが、営業プロセスの各フェーズを洗い出し、それぞれに「担当者が不在でも回るか」を判定するアプローチです。たとえばリード獲得・初回アプローチ・ヒアリング・提案・見積・クロージング・アフターフォローの7フェーズに分解し、各フェーズで「エース不在時に誰がカバーできるか」を確認します。

「属人化の特定に時間をかけすぎると、施策が前に進まないのでは」と感じる方は少なくありません。しかし、ここを飛ばして闇雲にノウハウ共有を始めると、効果が分散します。

特定にかける時間は1〜2週間で十分です。営業マネージャーが主導し、各メンバーに30分のヒアリングを行えば、属人化の全体像は把握できます。具体的な作業としては、まず各メンバーの担当顧客リストと商談一覧を並べ、「この人が明日いなくなったら、どの案件が止まるか」をリストアップします。止まる案件が3件以上ある場合、そのメンバーに属人化が集中しています。

この可視化だけで、優先的に仕組み化すべき領域が明確になります。

成功パターンを仕組み化してノウハウとして蓄積する

属人化の所在が特定できたら、次はトップセールスの成功パターンを「型」にして蓄積します。仕組み化とは、個人の経験やコツを「誰でも再現できる手順書・テンプレート・チェックリスト」に変換することです。

仕組み化で最も効果が高いのは、商談フェーズごとの「やることリスト」と「判断基準」をセットで文書化することです。たとえば提案フェーズであれば、「顧客の課題を3つ以上確認したか」「競合との差別化ポイントを2つ以上提示したか」「導入後のROI試算を含めたか」といった項目を明文化します。

ただし、仕組み化で失敗する最大のパターンは「ドキュメントを作って終わり」になることです。作ったノウハウが使われなければ意味がありません。

SaaS企業の営業マネージャーであれば、まず受注率が最も高いメンバーの直近10件の商談を分析し、共通するアクションを抽出してみてください。仮にそのメンバーが初回商談で必ず「顧客の意思決定プロセス」を確認していたとすれば、それをチーム全体のヒアリングシートに組み込みます。

こうした小さな仕組み化の積み重ねが、組織の再現性を高めます。

1on1でトップセールスの経験やコツを引き出す

仕組み化のための情報を引き出す最も有効な手段は、構造化された1on1ミーティングです。トップセールスの経験やコツは、本人も意識していないことが多いため、マネージャーが意図的に引き出す場を設計する必要があります。

経験やコツを引き出すのに効果的な1on1の質問には、パターンがあります。「なぜその判断をしたのか」「他の選択肢は何があったか」「初回訪問で最初に何を見ているか」「失注したとき、どこがターニングポイントだったか」といった具体的な質問を投げかけます。

「うまくいったコツは?」のような抽象的な質問では、具体的なコツは引き出せません。「1on1でコツを引き出すと言っても、そのスキルがマネージャーによって違うのでは」という声は少なくありません。まさにそのとおりで、これが前述した「マネジメントの属人化」の典型例です。1on1の質問のひな型と記録テンプレートを用意し、マネージャー間で質のばらつきを減らすことが重要です。

たとえば1on1の記録テンプレートに「今週の成功商談」「成功要因の仮説」「チームに共有すべきポイント」の3項目を設けるだけで、ノウハウの共有率は大きく変わります。仮に週1回の1on1で毎回1つのノウハウが共有されれば、3ヶ月で12個のノウハウが蓄積されます。

年間では約50個です。この積み重ねが、属人化を構造的に解消する原動力になります。

評価制度と運用ルールを整備し定着させる

ノウハウの蓄積と共有を継続的に回すには、評価制度と運用ルールの整備が不可欠です。仕組みを作っても、評価に組み込まなければ現場の行動は変わりません。属人化解消の最終ステップは、「共有する人が報われる」制度設計です。

具体的には、評価指標を「個人売上」だけでなく「チーム貢献」「ノウハウ共有」「後輩育成」を含む複合型に変更します。配分の目安としては、個人売上60〜70%・チーム貢献20〜30%・ノウハウ共有10%程度が、営業組織に無理なく導入できる水準です。

「評価制度の変更は経営判断が必要で、現場レベルでは動けない」と感じる方は多いです。確かに制度の大幅変更には時間がかかります。しかし、まずできることとして「ノウハウ共有回数」「1on1でのノウハウ共有件数」を可視化するだけでも効果があります。可視化されたデータが蓄積されれば、それ自体が制度変更の根拠になります。

小さな仕組みでも、「共有が評価される」というメッセージを組織に浸透させる効果は大きいです。たとえばノウハウ共有を四半期の表彰項目に加えるだけでも、共有セッションへの参加率は大幅に向上します。

営業の属人化解消に役立つツール活用

仕組みと制度を整えたうえで、テクノロジーを活用することで属人化解消の効果は加速します。

CRM/SFAで顧客情報と商談履歴を一元管理する

CRM/SFAは、営業の属人化解消において最も基盤となるツールです。顧客情報・商談履歴・コミュニケーション履歴を一元管理することで、「誰が対応しても同じ水準のサービスを提供できる」状態をつくります。

ただし、CRM/SFAの導入率が高い企業でも活用が進んでいるとは限りません。Salesforce社の調査では、営業担当者が使用するツール数はグローバル平均で10種類、日本では12種類にのぼり、ツールの多さが逆に負担となっている実態が報告されています。

ツールの問題ではなく、運用設計の問題です。

運用項目失敗パターン成功パターン
入力項目数30項目以上で入力が負担5〜7項目に絞り、入力率を優先
入力タイミング週末にまとめて入力商談直後に音声入力またはモバイル入力
データ活用管理職のレポート用にしか使わない1on1の商談レビュー材料として活用
定着施策「入力してください」と呼びかけるだけ入力率をダッシュボードで可視化し週次レビュー

最も改善効果が大きいのは「入力項目数の削減」です。仮に1商談あたりの入力時間が10分から3分に短縮されれば、月20商談で140分の工数削減になります。

この時間は商談準備や顧客対応に充てられます。CRM/SFAは「記録するためのツール」ではなく「次のアクションを判断するためのツール」として位置づけることが重要です。

「結局、どのCRM/SFAを選べばいいのかわからない」という方も多いでしょう。ツール選定よりも先に「何を記録し、どう活用するか」の運用設計を固めることが先決です。運用設計が明確であれば、ツールの選定基準も自然と定まります。

(参考)Salesforce「セールス最新事情」(第5版) 

スキルマップ×目標管理で育成を標準化する

CRM/SFAが「情報の属人化」を解消するツールであるのに対し、スキルマップと目標管理の組み合わせは「能力の属人化」を解消する手法です。誰がどのスキルをどの水準で持っているかを可視化し、育成の方向性を標準化します。

スキルマップとは、営業に必要なスキルを項目化し、各メンバーの習熟度を一覧にしたものです。たとえばヒアリングスキル・提案書作成スキル・クロージングスキル・業界知識などを5段階で評価し、チーム全体の強みと弱みを把握します。

「スキルマップを作っても、主観的な評価になるのでは」と感じる方は少なくありません。確かに、基準が曖昧なままでは評価者によるばらつきが生じます。

この課題を解消するには、各スキルレベルに具体的な行動指標を紐づけることが有効です。

具体的な行動指標の例を示します。

  • レベル1: マニュアルを見ながら実行できる
  • レベル2: 一人で実行できる
  • レベル3: 応用的な対応が一人でできる
  • レベル4: 他のメンバーに教えられる
  • レベル5: 仕組みやプロセスを改善できる

このようにスキルマップに行動指標を紐づけると「営業Aさんはヒアリングがレベル4で教える側に回れるが、提案書作成はレベル2で一人での対応に不安がある」といった具体的な育成計画が立てられます。目標管理と連動させれば「今四半期中に提案書作成をレベル3にする」といったアクションプランに落とし込めます。スキルの可視化と育成の標準化により、マネージャーが変わっても育成の方向性がブレなくなります。


成果を出すスキルを最短距離で身につけるスキルマップの作り方!
・スキルマップを導入しようと考えているけど、効果が本当に出るのかわからない
・スキルマップを導入しているけど、なかなか効果が出ない・形骸化している
とお悩みではありませんか?
実は、スキルマップを効果的に運用するためには抑えるべきポイントがあります!人材育成で100社以上支援実績がある弊社のノウハウを盛り込んだ、ココでしか読めない情報が満載の無料スキルマップ解説資料!
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ツール導入だけでは解消しない理由と定着のコツ

ツール導入は属人化解消の手段であり、目的ではありません。CRM/SFA・スキルマップ・ノウハウ管理ツールをすべて導入しても、運用設計と定着施策が伴わなければ「高機能なエクセル」に終わります。

ツール導入が定着しない最大の理由は、現場にとって「入力する手間 > 得られるメリット」という状態になっていることです。営業パーソンの本業は顧客への価値提供であり、ツールへの入力は付随作業です。この前提を無視して「入力は義務」と押し付けても、形だけの運用になります。

定着のコツは3つあります。第一に、ツールの価値を「管理のため」ではなく「営業活動の質を上げるため」に捉え直すことです。第二に、入力したデータがすぐに自分の業務に返ってくる導線を設計すること。第三に、定着度を定量的にモニタリングし、週次で改善サイクルを回すことです。

たとえば、CRMに入力した商談情報をもとにAIが次のアクションを提案する仕組みがあれば、入力する動機は格段に上がります。仮に週5件の商談記録から、失注リスクの高い案件が自動フラグされるとすれば、月あたり2〜3件の失注防止につながる可能性があります。

ツールは「使わされるもの」から「使いたくなるもの」へ設計することが、定着の最大のポイントです。

営業の属人化解消に取り組む際の注意点

属人化の解消は、一歩間違えると現場の反発や生産性の低下を招きます。施策の効果を最大化するには、組織のバランスへの配慮が欠かせません。

標準化と個人の強みのバランスを取る

属人化の解消は「全員を同じやり方に揃えること」ではありません。営業プロセスの標準化と、個人の強みを活かす余白の両立が求められます。標準化を過度に進めると、トップセールスのモチベーション低下や画一的な営業スタイルによる顧客満足度の低下を引き起こします。

実務上の目安としては、プロセスの70%程度を標準化し、30%程度を個人の裁量に委ねるバランスが効果的です。標準化すべき70%は、情報の記録・共有・基本的な商談ステップ・レポーティングなどの「再現性に関わる部分」です。

残り30%の裁量は、顧客との関係構築のスタイル・提案のアレンジ・クロージングの切り口などの「個性に関わる部分」に残します。「標準化されたら自分の強みが発揮できなくなる」と感じるトップセールスは多いです。この不安に対しては、標準化の対象を明確にし、「あなたの強みの部分には手をつけない」と事前に伝えることが重要です。むしろ標準化によって雑務が減り、強みを発揮する時間が増えるという伝え方が効果的です。

たとえば、営業資料の基本テンプレートを標準化しつつ、業界別のカスタマイズはトップセールスに任せるという運用にすれば、再現性と個性の両方が保たれます。標準化の目的は「底上げ」であり、「天井の制限」ではないことをチーム全体に浸透させることが大切です。

段階的に進め現場の負担を最小化する

属人化解消の施策は、一度にすべてを導入するのではなく、段階的に進めることが成功の鍵です。いきなり「CRM入力の徹底」「ノウハウ共有会の週次開催」「評価制度の変更」を同時に打ち出すと、現場は消化不良を起こします。

段階的に進めるための推奨スケジュールを示します。

フェーズ期間施策内容成功指標
第1フェーズ1〜2ヶ月目CRM入力ルールの簡素化と徹底入力率80%以上
第2フェーズ3〜4ヶ月目1on1テンプレートの導入とノウハウ蓄積月間ノウハウ登録5件以上
第3フェーズ5〜6ヶ月目スキルマップの作成と育成計画の策定全メンバーのスキル可視化完了
第4フェーズ7ヶ月目以降評価制度へのチーム貢献項目の組み込み次期評価サイクルでの運用開始

このスケジュールで重要なのは、各フェーズの成功指標を定量化していることです。仮に第1フェーズで入力率80%に到達しなければ、第2フェーズに進まず原因を分析します。「全部やろうとして何も定着しない」パターンを避けるには、この段階ゲートが不可欠です。

「半年以上もかかるのか」と感じる方もいるでしょう。しかし属人化は長年かけて蓄積された組織課題であり、短期間で一気に解消しようとするほど失敗のリスクが高まります。第1フェーズの成果が出れば、現場の信頼を獲得でき、後続の施策がスムーズに進みます。焦らず「小さな成功体験」を積み重ねることが最短ルートです。

経営層を巻き込み全社的な取り組みにする

属人化解消は営業部門だけで完結する課題ではなく、評価制度の変更・ツール投資・人事施策を伴う全社的な取り組みです。経営層のコミットメントがなければ、現場の努力は中途半端に終わります。

経営層を巻き込むためには「属人化の放置コスト」を定量化することが最も有効です。先の診断結果と、離職による売上損失の試算値を合わせて、「年間○万円の機会損失が発生しています。解消施策に必要な投資は○万円で、6ヶ月でROIが回収できます」と数字で提案します。

たとえば年商10億円の企業で、エース社員1名の退職による売上影響が年間3,000万円と試算できるとします。属人化解消のためのツール投資とコンサルティング費用が年間500万円であれば、ROIは6倍です。

経営層は数字で語られる提案に動きます。「属人化は良くない」という定性的な訴えだけでは、予算は確保できません。

Q1. 属人化を解消するために、まず何から着手すべきですか?

A. 「営業プロセスの可視化」と「課題の特定」から始めましょう。 いきなり全てのルールを変えるのではなく、まずはリード獲得から受注までの流れを細分化し、どこが「特定の個人に依存しているか」を洗い出します。「この人が休むと商談が止まる」というポイントを一つ特定し、そこをマニュアル化や共有の対象にするスモールスタートが成功の近道です。

Q2. CRM(顧客管理ツール)を導入しましたが、現場が入力してくれません。

A. 「入力項目を極限まで絞る」ことが最も効果的です。 現場が入力しない最大の理由は、入力の手間が得られるメリットを上回っているからです。30項目ある入力を「商談フェーズ」「BANT条件」「ネクストアクション」など、マネジメントに不可欠な5〜7項目に絞りましょう。また、スマホでの音声入力を許可するなど、入力のハードルを徹底的に下げることが重要です。

Q3. 標準化を進めると、トップセールスの個性が消えたり不満が出たりしませんか?

A. 「標準化」と「裁量」の範囲を明確に分けることで解決できます。 標準化すべきなのは、情報の記録方法や基本的な商談ステップなどの「誰がやっても同じ事務的なプロセス」です。一方で、顧客との関係構築や提案の切り口といった「強みを発揮すべき領域」は個人の裁量として残します。「無駄な事務作業を型化することで、得意な商談に専念できる時間が増える」というメリットを伝えましょう。

Q4. ノウハウを共有してもらうには、評価制度を変える必要がありますか?

A. はい、共有行動を「業務」として正当に評価する仕組みが必要です。 売上数字だけで評価される環境では、ノウハウ共有は「自分の首を絞めるボランティア」になりかねません。評価指標に「チームへの貢献(ナレッジ投稿数や後輩の受注率向上への寄与など)」を10〜20%程度組み込み、「教える人が最も評価される」というメッセージを組織として発信してください。

Q5. スキルマップを作成する際、評価が主観的にならないコツはありますか?

A. 「具体的な行動基準」をレベルごとに定義しましょう。 「ヒアリング力がある」といった曖昧な表現ではなく、「レベル3:顧客の潜在課題を3つ以上抽出し、議事録に残している」のように、第三者が客観的に判定できる行動ベースで言語化します。これにより、上司によって評価がブレる「マネジメントの属人化」も同時に防ぐことができます。

まとめ

営業の属人化は、特定の個人に依存した組織構造がもたらす経営リスクです。放置すれば離職や異動のたびに売上が失われ、年間で1,000万円を超える機会損失が積み上がります。

解消のためには、情報共有のルール整備・営業プロセスの標準化・評価制度の見直し・ツール活用の4つを段階的に進めることが不可欠です。

重要なのは、属人化解消を「個人の努力」に頼るのではなく「仕組み」で実現することです。1on1でのノウハウの共有、スキルマップによる育成の標準化、そしてCRM/SFAの運用設計を組み合わせることで、誰が担当しても一定水準の成果を出せる組織に変わります。

まずは本記事のチェックリストで自社の属人化レベルを診断し、優先課題を1つ特定するところから始めてください。診断結果と具体的な解消プランの策定について、専門家に相談したい場合はお気軽にお問い合わせください。

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