「パーパス浸透」を成功させるためには?経営者が行うべきスリーステップ

「パーパス」を掲げる企業が最近増えてきたのではないでしょうか?パーパスは企業や組織が何のために存在するのか、社員は何のために働いているのかという、最も本質的な目的や指針を表したものです。
このパーパスという考えは組織や企業の成功において非常に重要な考えで、経営者だけではなく企業に属する人全員が理解すべき考えです。なぜならば、企業全体にパーパスの考えが浸透することは持続的な企業の成長には必要不可欠だからです。

本記事ではパーパスの定義からパーパスを浸透させるために必要な3つのステップについて説明し、パーパスの浸透に成功した企業の事例を紹介します。

この記事は約10分で読み終わります。

パーパスとは?経営理念とは違う?

パーパスの定義

パーパスは、日本語で「存在意義」と訳されます。そのため、企業や組織が何のために存在するのか、社員は何のために働いているのかという、最も本質的な目的や指針を表したものと考えることができます。パーパスは社会との繋がりを強く意識したもので、企業の根幹の考えになるものです。そのため、一度制定したら大きく変化してはいけないとされています。

パーパスの重要性

では、なぜパーパスが今注目され、重要性が増してきたのでしょうか?

これは、未来予測が困難になってきた現代のビジネス環境の変化という背景があるからです。
現代は「VUCA(ブーカ)時代」と言われるほど、先行きが不透明で、将来の予測が困難な時代です。今後も時代は更に混迷を強くしていくと考えられ、事業を行う上で検討すべき経営課題が増えていくと考えられます。
そして、これらの経営課題にはどこにも正解がないため、意思決定が非常に困難です。これらの経営課題を解決するためには、意思決定の判断軸となるようなものが必要です。

そして、この意思決定の判断軸としてパーパスを制定することが非常に適しています。なぜならば、「VUCA時代」の先行きの不透明さを考える上で、パーパスが持つ社会とのつながりと不変性が「考える軸」となりえるからです。パーパスが判断軸となることで、困難な課題に直面した際にも意思決定をすることができます。そのため、未来の予測が困難な現代だからこそ、パーパスを制定することが非常に重要です。

経営理念とパーパスの違い

経営理念・MVV・パーパス・バリュー・クレドの説明

パーパスと良く似た意味を持つ言葉の1つに経営理念があります。パーパスは広義の意味での経営理念となり、パーパスと経営理念の考え方は非常に近いものがあります。そのため、その企業が経営理念の中で、社会とのつながりや長年培ってきた根幹となるような考え方を強調したい場合にパーパスを掲げます。

また、パーパスと近い関係性のあるクレド、ミッション・ステートメントといった言葉も広義の意味での経営理念に当たります。そのため、経営理念を掲げる際には、その企業の文化や考え方によって適切なものを選びましょう。

パーパスが浸透する事のメリット

組織の方向性が定まる

パーパスが浸透することによって、企業が得られるメリットの1つ目は「組織の方向性が定まる」ことです。前述したように「VUCA時代」のような予測困難な状況でも、パーパスを基準にして、組織の方向性を定めることができます。組織の方向性が定まっていれば、意思決定を迅速に行え、誤った判断を行う可能性を抑制できます。

また、現代の企業はグローバル市場への参入による従業員の国籍の多様化や通年採用・中途採用の増加などの背景があり、多様性が増加している傾向があります。
そのため、企業は「ダイバーシティ&インクルージョン」の考え方を求められており、国籍や性別、年齢などの違いを受容し、多様な価値観を認めなくてはいけません。このような状況下では、従業員の価値観と判断軸を初めから揃えるるのは困難です。しかしながら、企業は従業員のバラバラな価値観からビジネスの方向性を1つの方向に定めなくてはいけません。企業としての価値観を1つにし、競争優位性を確立するためにもパーパスを用いることが有効です。

企業の社会的意義の証明

パーパスが浸透することによって、企業が得られるメリットの2つ目は「企業の社会的意義の証明」です。現代社会の企業は利益だけを追求すればよいわけではありません。社会課題の解決を企業戦略に組み込み、利益を出しながら、CSR(企業の社会的責任)も果たさなくてはいけません。パーパスは「社会的つながり」や「社会的意義」を重要視する考え方です。そのため、社会的意義を重要視したパーパスが浸透することがCSRを果たすことに繋がります。

また、パーパスを制定し、浸透させることによって、その企業が社会的意義を果たしている企業であると証明することに繋がります。パーパスが浸透していれば、企業が現代の社会課題に注力していることが分かります。現代の社会課題解決に尽力しているということが従業員だけでなく周りの人や他の企業に伝われば、信頼と共感を得ることができます。その結果、その企業はパーパスを方向性としたブランドイメージを獲得することができます。このブランドイメージにより、企業イメージが向上し、売上・業績アップにつながることも考えられます。

優秀な人材の獲得につながる

パーパスが浸透することによって、企業が得られるメリットの3つ目は「優秀な人材の獲得につながる」ことです。パーパスに共感した人材が集まりやすくなり、自社にとって優秀な人材の獲得につながります。そして、企業・組織全体がパーパスを方向性の軸として活動を行っていれば、採用された人材もミスマッチを感じにくく、早期離職の防止にもつながります。

また、特にミレニアル世代(2000年代に成人あるいは社会人になる世代)の人材を獲得する際には、このパーパスが非常に重要です。ミレニアル世代の特徴として、共感を大切にすることが挙げられます。パーパスは社会的意義を大切にする背景もあり、パーパスの考え方とミレニアル世代の価値観と非常にマッチしています。そのため、今後は企業もパーパスを明確にしなければ人材獲得が難しくなっていくことも考えられます。


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パーパス浸透を成功させるためには?

パーパスを浸透させるためのスリーステップ

パーパスを浸透させるために次のステップを取ることが大切です。次項からそれぞれのステップについて説明します。

パーパスの設立

経営理念を浸透させるためのステップの1つ目は「パーパスの設立」です。
このステップではパーパスを設立し、パーパスに共感してもらうことをメインに行うステップです。パーパスは共感されることが非常に重要です。
パーパスは共感されることによって、初めてパーパスが持つメリットが発揮されます。そのため、パーパスが共感してもらえる内容であることを設立の段階では意識しましょう。

共感されやすいパーパスを設立するためには、「社会とのつながり」「社会的意義」が非常に大切です。そのため、パーパスを設立する際には「社会的意義」や「社会的課題を解決できる」点について必ず組み込みましょう。
そして、パーパスで解決したいと考える社会的課題は自社のビジネスと密接な関係があるものでなくてはいけません。企業のビジネスと遠すぎる社会課題をパーパスに組み込んだとしても、従業員からの共感を得難く、市場からの信頼も獲得しにくくなります。そのため、自社のビジネスに合った社会課題を解決することをパーパスには掲げましょう。また、パーパスは簡単に変更していいものではありません。そのため、5年、10年の単位で未来のことを考えて作成するのではなく、30年、50年先も見越して作成しましょう。

パーパスの実践

パーパスを浸透させるためのステップの2つ目は「パーパスの実践」です。パーパスを制定したとしても実践して、企業内で浸透していなくては意味がありません。特にパーパスウォッシュの状態になることは避けましょう。
パーパスウォッシュとはパーパスを掲げながらも実際の企業活動が伴っていない状態の事です。パーパスを掲げているのにも関わらず、実際に行動をしていない状況では、信頼を失いやすいです。そのため、パーパスを設立する際には、自社として実現可能性があるのかということを重要視しましょう。

パーパスが浸透しない「パーパスウォッシュ」について詳しくはコチラの記事をご覧ください!

パーパス浸透のための改善

パーパスを浸透させるためのステップの3つ目は「パーパス浸透のための改善」です。
パーパスは浸透するまでに時間がかかります。そのため、パーパスを浸透させるためには、パーパスを浸透させるための施策を取り組み続けることが重要です。

また、パーパス浸透の施策を取り組み続けなくてはならない理由はもう1つあります。それは企業には人の入れ替わりがあり、パーパスの理解度が均一ではなく、グラデーションが生じてしまうからです。
従来であれば、新卒一括採用が取られている都合上、パーパスの理解度の差は年齢に比例していました。しかし、将来的には通年採用・中途採用の増加により、パーパスの理解度と年齢の相関関係はなくなってしまうことが考えられます。そのため、パーパス浸透の施策を取り組み続けることで、従業員の中でのパーパスの理解度の差を埋める努力をすることが企業には求められます。

パーパス浸透の事例

SOMPOホールディングス株式会社

SOMPOホールディングス株式会社は、国内損保、海外保険、国内生保、介護・シニア、デジタル事業を展開する日本を代表するグループです。

そんなSOMPOホールディングス株式会社は、2021年度からこの先の20年、50年という長期のスパンでグループが何を目指していくのかを「SOMPOのパーパス」として定めました。

SOMPOのパーパス
“安心・安全・健康のテーマパーク”により、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する

SOMPOが社会に提供する価値
社会が直面する未来のリスクから人々を守る
健康で笑顔あふれる未来社会を創る
多様性ある人材やつながりにより、未来社会を変える力を育む

引用)SOMPOホールディングス株式会社「SOMPOのパーパス

そんなSOMPOホールディングス株式会社がパーパスを浸透させるために行っていることが「パーパスの自分事化」です。

SOMPOグループではグループ全体のパーパスとは別に社員一人ひとりに対し、自分の人生或いは働く意義である「MYパーパス」に向き合うことを奨励しています。

MYパーパスとは、自分自身はどのような人間なのか、自分にとっての幸せとは何か、自分自身が人生において成し遂げたいことは何か、といった「自分自身の人生の意義や目的」或いは「働く意義」を指します。

引用)SOMPOホールディングス株式会社「MYパーパス

そして、SOMPOグループの社員一人ひとりはMYパーパスを持ち、「SOMPOのパーパスとMYパーパスのどの部分が共鳴するのか」といったことについて深く考え、向き合います。その結果、SOMPOグループでは、SOMPOグループのパーパスとMYパーパスを重ね合わせた働き方を従業員一人ひとりが実践することできます。パーパスを自分事として捉えることができるため、内的な動機に基づいて日々チャレンジしながらエンゲージメントを高く保ち働くことが期待できます。

さらに多様なMYパーパスをもつ個性が集い、グループのダイバーシティを高めることでイノベーションが生み出され、「SOMPOのパーパス」の実現に繋げていくことができます。
結果として、パーパスを自分事として行うことによって、パーパスが自然と浸透することを期待できます。

参考)SOMPOホールディングス株式会社

味の素株式会社

味の素株式会社は世界一のアミノ酸メーカーとして、食品事業とアミノサイエンス事業を柱とした幅広い事業をグローバルに展開している、日本を代表する企業です。
そんな味の素株式会社は次のような志(パーパス)を掲げています。

志(パーパス)
アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献します。

引用)味の素株式会社「志(パーパス)

以前までの味の素グループの志(パーパス)は「アミノ酸のはたらきで食と健康の課題解決」でした。しかし、味の素グループでは2030年のありたい姿として、パーパスを「アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」へと進化させたそうです。そして、この新しいパーパスには、強みであるアミノサイエンス®を活かし、食と健康の課題解決だけではなく、その先にあるWell-beingへも貢献したいという思いが込められています。

そして、味の素グループでもパーパスを浸透させるために重要視していることは、「パーパスの自分事化」です。味の素グループでは行っている施策事例を以下に記載します。

・個人発表会
組織のトップがいる前で、新人からベテランまで全員がプレゼンテーションを行うものです。自分がやっていることを他の人に聞いてもらうと同時に、他の人が何をやっているのか、組織全体としてどこに向かっているのかを理解できるという点がパーパス浸透に非常に効果的です。

・ASV(Ajinomoto Group Shared Value)アワード
1年に1回の頻度で、社外有識者や社外取締役の皆さんが審査員を務める「ASVアワード」という社内イベントで表彰

・ベストプラクティスを社内SNSで共有
・従業員エンゲージメント向上のためのマネジメントサイクル

参考)味の素株式会社

ソニーグループ株式会社

ソニーグループ株式会社は、ゲーム&ネットワークサービス、音楽、映画、エンタテインメント・テクノロジー&サービスなどの事業を幅広く展開している日本を代表する企業です。

そんなソニーグループ株式会社は「Sony’s Purpose & Values」(パーパス)として次を掲げています。

Purpose
存在意義

クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。
Values
価値観
夢と好奇心
夢と好奇心から、未来を拓く。

引用)ソニーグループ株式会社「Sony’s Purpose & Values

このようなパーパスを掲げているソニーグループ株式会社ですが、このパーパスが制定されたのは2019年1月と、他の企業に比べて比較的早い時期に制定されています。

そんなソニーグループ株式会社でも、パーパスを浸透させるためには「パーパスの自分事化」を重要視しています。
ソニーグループ株式会社ではパーパス制定にあたり、CEOが全社員の社員に意見を求め、社員と対話を重ねる試みを行ったそうです。

例えば、「ソニーグループらしさとはなんだろう」という問いに対する意見をCEOはメールで求めたそうです。その際に、社員からのメールにはすべて目を通し、各個人で微妙に異なる「ソニーグループらしさ」のすり合わせを入念に行ったそうです。

ソニーグループは11万人を超えるグローバル企業です。全てのメールに目を通すだけでも非常に労力のかかる作業です。しかし、CEOは全てのメールに目を通し、社員やマネジメント層がパーパス作成のプロセスに参画することに大きな意味があると考えていたそうです。パーパスの自分事化のためには、この施策は非常に重要です。なぜならば、最終的に自分が提案した言葉がPurposeに入っていないとしても、策定プロセスに参加したということが、その後の浸透には重要になるからです。

また、ソニーグループでは行っている施策事例を以下に記載します。

・「P&V事務局」をCEO室や人事部、ブランド戦略部、広報部などで立ち上げた
・キービジュアルを作りポスターにして全世界に配布
・CEO自身がグローバルの事業拠点でPurposeへの思いを講演する
・社内のWEBサイトで「My Purpose」という特集を掲載した。

参考)ソニーグループ株式会社

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まとめ

今回の記事では、パーパス浸透について説明しました。パーパスは社会とのつながりを重要視したもので、今後の「VUCA時代」のような予測困難な状況では重要性が増していくと考えられます。
そして、パーパスを浸透させるためには次のようなステップを取ることが重要です。

設立→実践→パーパス浸透のための改善

パーパス浸透に成功した企業には共通して、「パーパスの自分事化」を重要視しています。少しでもパーパスが浸透することのお手伝いになれば幸いです。ここまでお読みいただきありがとうございました!

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