メンター制度(メンターシップ)という概念は、近年企業内で大きな注目を集めています。
経験の浅い社員と経験豊富な幹部社員をペアにしてコーチングや育成を行うメンターシップは、メンティのキャリアアップに繋がり、メンターや企業全体にもメリットがあります。
しかし、職場でのメンタリングの重要性を理解できている企業も、組織内でのメンタリングの優先順位付けや効果的な実行方法には苦労してしまいがちです。
具体的には、下記の様な悩みを持つケースが多いのではないでしょうか。
- どうやって始めればいいのか分からない
- どの社員から始めればいいのかわからない
- 仕事の締め切りや日常業務に追われてメンタリングを維持するのが難しい
しかし、だからこそ、メンター制度を確立することが優先されるべきではないでしょうか。
リモートワークが増加し、遠隔地で働く人が増えていることを考えると、職場に安心出来る関係性や環境があることは、物理的な空間以上に重要です。
メンターシップの成功の鍵は職場の雰囲気を作ることだといわれています。
本記事では、メンター制度やメンターシップの文化を醸成する上で重要な4つのポイントを紹介します。
メンター制度のメリット
メンター制度のメリットは、採用の前段階から機能します。
なぜなら、メンター制度があることは、採用候補者にとって魅力的に映ることが多いからです。
また、メンター制度は、新しく入社した社員を早いペースで成長させるための貴重なツールでもあります。
メンティは、良いメンターと接することで、より早く、より生産的に成長することができます。
優れたメンターは、人生、仕事、組織、業界についての見識や繋がりを教えてくれますが、それを一人で得るには何年もかかるものです。
このように従業員をより早く、より効果的に育成することは、個人にも組織にも素晴らしいメリットがあります。
社内メンターは、一般的なキャリアアドバイスだけでなく、職場独自の文化やシステムについて具体的な説明をすることができます。
その効果は、新入社員の最初の数日間だけでなく、従業員の定着率にまで及びます。
メンターシップは、会社が優秀な人材を維持することにも役立ちます。
優秀な社員が、自分のキャリアを実現するために頼れる真のメンターがいることを知っていれば、彼らの忠誠心は高まり、会社に留まる可能性が高くなります。
会社が自分の成長を気にかけてくれていることを知っている社員は、より積極的に行動し、その結果、パフォーマンスも向上するでしょう。
適切なメンターを選び、 積極的に参加させる
どの社員が最高のメンターになるかを決めるのは、組織図を見ればいいという単純なものではありません。
メンターとなる可能性のある社員とメンティを同じ部署や役割に配置すると、指揮系統の中で摩擦とまではいかなくても、気まずさを感じることがありうまくいかないことが多いです。
例えば、マーケティングのインターンが、マーケティング責任者の指導を受けたいと考えるのは単純すぎます。
プログラムに参加させるメンターを選ぶことは、メンティと同様に、メンターにとってもキャリア開発のきっかけとなるものです。
リーダーシップスキルを磨こうとしている将来性のある中堅社員をプログラムに参加させることは、メンター側もキャリアの成長目標を達成するための要素となります。
メンター制度がうまく機能すれば、メンターは指導の仕方、つまりコーチングやマネジメントの仕方を学ぶことができます。
また、メンターにとっては、自分が経験した成長や自分の役割やキャリアで学んだことを説明することで、コミュニケーションスキルを磨きながら、自身の学んだことも明確にすることができます。
そうすることで、メンターは自分の役割が認められたと感じることができ、根本的には組織にとってより良いマネージャー、リーダーになることができます。
これはメンター個人にとっても、組織的にとっても大きなメリットです。
また別の方法に、リバース・メンターシップというものがあります。
逆メンターシップとも呼ばれるこの制度は、下級生が上級生を指導するというもので、特定のテーマ(例:テクノロジー、ソーシャルメディア、世代間の考え方など)について話したり、また、単に世代別の視点の共有などを行います。
この制度では、一番若いメンバーでも、他の人のメンターになることができるところが特徴です。
メンター制度を整備する
正式なメンターシップ・プログラムを導入することは、企業のリーダーシップ開発への取り組みを目に見える形で示すことができます。
しかしこれは企業だけでなく従業員にとっても価値のあるものにするには努力が必要です。
現在、数多くの企業がメンター制度を導入していますが、その全てが必ずしもうまくいっているとは言えません。
その理由は、多くのメンター制度は、目的を決めて作られているにもかかわらず、期待値を設定し、それを満たすための準備を双方がしていないため、十分な成果を得ることができないのです。
継続的に、役に立つ人材を育成するためには、メンター制度が、ビジネスのニーズと、その過程で発生しうるトラブルの両方に対応していることが重要です。
トラブルとは、例えば、本業の仕事から離れてしまう、負担の大きい約束をしてしまう、気まずくて非生産的なメンタリングセッションを行ってしまう、などさまざまです。
こういったトラブルを避けるためにも、ある程度定型化されたアジェンダやテーマを設定することがとても重要です。
また、以下の様なメンター制度に関する研修も必要となるでしょう。
- メンタリングとは何か
- メンターとメンティは何を期待しているのか
- メンタリング関係で話したいことは何か
前もって期待することを決めておくことで、準備不足でやる気のないメンティが、何を聞けばいいのか、どうやって先輩としての関係を築けばいいのかわからないという、メンターからの共通の不満を解消することができます。
メンタリングを受ける多くの若手社員は、それがどれほど価値のあるものかを理解していません。
ミーティングに向けて十分な準備をせず、それが貴重な時間であり機会であると真剣に受け止めていないのです。
しかし、研修にはメンターとメンティの双方向性が必要です。
ロールモデルとしての役割を果たし、建設的なフィードバックを提供することは、リーダーシップを発揮することで磨かれることが多いです。
しかし、メンタリングのスキルとして必要な要素、例えば、キャリア目標について話し合うこと、相談相手としての役割を果たすこと、自分の領域以外でのキャリアの成功のためにコーチングすることなどは、新たに習得すべきスキルかもしれません。
役職がついたからといってメンタリングの方法をよく知っているわけではないので、メンターをさせる前に、より上手にできるように研修を組んであげるのが良いでしょう。
メンターにとっては、こういった研修や制度は、プロとしての成長を促す魅力的な刺激にもなります。
また、メンターシップ・プログラムが機能するためには、会社の役員やリーダーがその文化の模範となり、それについて話し、奨励することが必要です。
自分の時間を割いてメンターになり、組織や従業員にとってのメンターシップのメリットを理解することで会社がメンターシップに真剣に取り組んでいることが誰にでも伝わります。
メンターの都合でスケジュールを変更する事なく、(メンターシップ・)ミーティングを行い、高い評価を受けていることを確認しましょう。
最後に、リーダーシップや人事部など、すべてを調整する担当者を決めておくと、メンター制度の作成、実行、維持をスムーズに行うことができます。
フルタイムである必要はありませんが、メンター制度を実現するために時間を割くことができ、メンター制度がどのように機能するか、組織がどのように機能するか、メンターとメンティが誰であるかについて十分な知識を持っている人でなければなりません。
そして、必ずマニュアル化することが重要です。
メンター制度がどのように機能するのか、誰が参加するのか、メンターとメンティーの役割、メンターシップ制度の最適な研修方法などを明確に説明した資料や文書を作成することを怠らないように注意しましょう。
メンター制度を構造化し、期待することを明確にすればするほど、関係者全員にとってより良いものになります。
非公式なメンタリングを奨励する
正式なメンター制度は不可欠ですが、正式なプログラム以外でもメンタリング関係を奨励することで、新入社員だけでなく、経験豊富な幹部社員のプロフェッショナルとしての成長やキャリア開発に貢献することができます。
また、メンタリングを企業文化の礎として定着させることにもつながります。
これは、グループ・メンタリングや「一対多」の取り決めなど、伝統的ではないメンターとメンティーの関係を受け入れるという事です。
ほとんどのメンタリング関係は、あらかじめ決められた期間だけ続くものですが、特定の学習の必要性や問題に対処するために、状況に応じたメンタリング関係を結ぶこともできます。
メンタリングは年配の社員も若い社員も含めて、全員の仕事内容の一部であるべきで、チームの誰もが、素晴らしい指導者になれる可能性を持っています。
誰もが何らかの専門知識や権限を持つことで、リーダーとして手綱を握るための多くの扉が開かれるのです。
そして、誰もがより多くの責任を持ち、自分の知っていることを他の人と共有できるようになれば、社内のコラボレーションが促進されます。
まとめ
多くの企業がコロナ感染拡大による操業停止の影響に悩まされ、今後の未来がどうなるかを見極めようとしている今、新しいメンタリング制度を立ち上げることは、後回しにしやすいプロジェクトです。
専門的な能力開発や従業員のエンゲージメント、さらには仕事への満足感など、メンタリングのメリットを認めている企業であっても、新たなプロジェクト、特に本業と直接関係のないプロジェクトを追加することは、大きな負担となります。
しかし、今が導入にとって最も良い時期であるとも考えられます。
必要不可欠ではないにもかかわらず、メンター制度が非常に有用であることを主張するのに、これほど適した時期はありません。
メンターを持つこと、あるいはメンターになることは、従業員にとって良いことであり、ビジネス上のメリットでもあります。
人々が混乱し、不安を感じているときに、企業は従業員に手を差し伸べるべきであり、今がその絶好の機会です。
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