マネージャーが変わると業績が落ちる。優秀な人のやり方が共有されない。育成に手が回らない。目標管理が形だけになっている。こうした課題を抱えている企業は少なくありません。
これらに共通する原因は、成果の出し方が組織の「仕組み」として整備されていないことです。個人の力量に頼るマネジメントでは、担当者が変わるたびに同じ問題が繰り返されます。
そこで、数字をもとにした仕組みでこれらの課題を解決する手法が「メトリクスマネジメント」です。この記事では、その基本的な考え方から導入のステップまでをわかりやすく解説します。
▼ この記事の内容
- メトリクスマネジメントの本質: 結果(売上等)だけを見る「メトリクス管理」とは異なり、結果に至るまでの「行動」や「スキル」を数値化します。これにより、マネージャーの能力に依存せず、組織全体で安定した成果を出し続けることが可能になります。
- 解決できる課題: プレイングマネージャーの育成不足、形骸化した目標設定、業務のブラックボックス化といった、多くの企業が抱える「仕組みの欠如」から生じる問題を、数字という共通言語で解決します。
- 成功へのステップ: ハイパフォーマーの行動分析から始め、成果に直結する「センターピン」となる指標を抽出。必要なスキルを特定し、リアルタイムでの可視化とフィードバックのサイクルを回すことが重要です。
目次
メトリクスマネジメントとは
メトリクスマネジメントとは、成果につながる行動やスキルを数字で「見える化」し、誰でも成果を出せる仕組みを作るマネジメント手法です。株式会社オーが2025年に体系化しました。MLBやNBAで使われている選手育成の数値管理手法を研究し、ビジネス組織向けに再設計したものです。
選手一人ひとりのパフォーマンスデータを分析し、再現できる育成プログラムに落とし込むというプロスポーツの考え方がベースになっています。この考え方を、営業組織をはじめとするビジネスの現場で実践できるフレームワークとして確立しています。
プロスポーツ発の、数値で管理する手法
メトリクスマネジメントのルーツは、MLBやNBAといったプロスポーツの世界にあります。プロスポーツでは以前から、選手のパフォーマンスを細かく数字にして、育成やチーム戦略に活かしてきました。
2024年のMLBでは、投球の回転数や打球の速さといった細かいデータがリアルタイムで計測されています。NBAでもコート上の選手の動きをカメラで追い、1試合で数万件ものデータを集めるチームが増えています。
この「数字で人を育て、チーム全体の力を高める」という考え方は、ビジネスの世界にも応用できます。
(参考)https://www.mlb.com/glossary/statcast
メトリクス管理との違い
メトリクス管理は結果を見る手法であり、メトリクスマネジメントは結果を出すための再現性を作る手法です。この違いを理解することが、導入を成功させるカギになります。
メトリクス管理では、売上や訪問件数といった結果の数字を定期的にチェックします。しかし、「今月の売上が目標の80%だった」という事実はわかっても、提案の質が問題なのか、訪問の数が足りないのか、契約を決める力が弱いのかまでは特定できません。
一方、メトリクスマネジメントでは、結果に至るまでの過程や行動、必要なスキルまでを数字にします。「提案まではうまくいっているが、契約を決める場面でつまずいている」といった具体的なつまずきポイントを見つけられるのが特徴です。
両者の違いを整理すると、次のようになります。
| 観点 | メトリクス管理 | メトリクスマネジメント |
| 目的 | 結果の把握 | 再現性の確立 |
| 見る対象 | 売上・件数などの結果 | 結果に至る行動・スキル |
| 問いの立て方 | 「今月いくら売れたか」 | 「なぜその結果になったか」 |
| 期待できる効果 | 状況の見える化 | 誰でも成果を出せる仕組み化 |
なぜ今メトリクスマネジメントが必要なのか
メトリクスマネジメントが今求められている背景には、企業の人材マネジメントを取り巻く環境が大きく変わっていることがあります。ここでは、特に影響の大きい3つの変化を紹介します。
1つ目は、マネジメント人材の不足です。「管理職になりたくない」という意識の広がりや、ベテランマネージャーの退職により、経験豊富なマネージャーの確保が年々難しくなっています。個人の力量に頼ったマネジメントを続けること自体が、現実的ではなくなりつつあります。
2つ目は、リモートワークの普及です。対面で部下の様子を見ながら指導するやり方が通用しにくくなり、数字をもとに離れた場所からでも的確に育成できる仕組みが求められています。
3つ目は、AIやデータ分析ツールの進化です。以前は専門のアナリストが必要だった分析も、今では現場のマネージャーが自分でできるようになりました。こうした変化が重なった今こそ、数字を使って人を育てる仕組みを組織に取り入れるべきタイミングです。
メトリクスマネジメントで解決できる4つの組織課題
メトリクスマネジメントは、「特定の人に頼りきり」「仕組みがない」ことから生まれる組織課題を解決します。ここでは代表的な4つの課題を紹介します。
- マネージャーの質に業績が左右される
- マネジメントや育成まで手が回らない
- 目標設定と運用が形だけになっている
- 業務が明確化されていない
マネージャーの質に業績が左右される
メトリクスマネジメントを導入すれば、マネージャーが変わっても一定の成果を維持できる組織を作れます。優秀なマネージャーが実際にやっていることを数字で見える化し、チーム共通のやり方として整えられるからです。
営業チームの業績がマネージャーによって大きく違う、という状況は多くの企業で見られます。このバラつきの原因は、成果を出すための方法が各マネージャーの頭の中にしかなく、組織として共有されていないことにあります。
メトリクスマネジメントでは、「どのタイミングで、何を見て、どう指導するか」を仕組みとして整えます。そのため、マネージャー個人の力量に左右されにくい組織を実現できます。
マネジメントや育成まで手が回らない
メトリクスマネジメントでは、育成すべきポイントが数字ではっきり見えるため、限られた時間でもピンポイントで効果的な育成ができます。「育成の優先順位ややり方がはっきりしないから後回しになる」というのが、この問題の本質です。
たとえば、「商談の数は足りているが成約率が低い。原因はヒアリング不足だ」とわかれば、そこだけを集中的に教えられます。全員に同じ研修をするよりもはるかに効率的です。
「自分の数字を追うだけで精一杯で、部下の育成まで手が回らない」というプレイングマネージャーの悩みに対しても、データにもとづく育成の仕組みは大きな助けになります。
目標設定と運用が形だけになっている
メトリクスマネジメントでは、目標を達成するために必要な行動を数値で決め、日々追いかけます。目標が日常の業務と結びつくため、形だけの運用を防げます。
「期初に目標を決めたはずなのに、気づけば期末で、結局未達だった」というパターンは多くの企業で起きています。原因は、目標がざっくりしすぎて日々の仕事とのつながりが見えないことや、振り返りの機会が少ないことにあります。
今週の訪問数、提案した案件の進み具合、契約が取れた理由。こうした数字を見える化すると、目標を常に意識でき、軌道修正も早い段階で行えるようになります。
業務が明確化されていない
メトリクスマネジメントでは、成果を出している人の行動を徹底的に分析し、成功の要因を見える化します。「何をすれば成果が出るのか」が明確になるため、新人でも最短ルートで成長できます。
「何をすれば成果が出るのかよくわからない」という声は、新人だけでなくベテラン社員からも聞かれます。業務が特定の人に任せきりになっていると、成果を出している人のやり方が見えないままだからです。
「訪問前に何を準備しているか」「商談でどんな質問をしているか」といった具体的な行動を言葉にすることで、ほかのメンバーが学べる環境を作れます。
メトリクスマネジメントの5ステップ
メトリクスマネジメントは、正しい手順を踏むことで着実に成果につながります。大切なのは、数字を見ることではなく、数字を使って人を育てることです。
以下の5つのステップで進めます。
- ハイパフォーマーの行動を分析する
- 成果に直結する指標を絞り込む
- 目標達成に必要なスキルを特定する
- スキルの習得状況をリアルタイムで数値化する
- リアルタイムでフィードバックを行う
ステップ1:ハイパフォーマーの行動を分析する
最初のステップは、組織の中で成果を出している人(ハイパフォーマー)の行動を徹底的に分析することです。すでに成果が出ているやり方を基準にしたほうが、理想論を押しつけるよりも現実的で、実行しやすい目標を立てられます。
分析すべき項目は、1日の時間の使い方、商談の進め方、質問の仕方、案件の優先順位のつけ方などです。成果を出している人に聞いても、「普通にやっているだけ」という答えが返ってくることがほとんどでしょう。
だからこそ、単に話を聞くだけでなく、実際の商談に同席したり日々の行動を観察したりすることが大切です。本人も気づいていない「無意識の成功パターン」を見つけられます。
ステップ2:成果に直結する指標を絞り込む
次に、成果に直結する指標を絞り込みます。「これを押さえれば成果につながる」という重要な数字に集中することがポイントです。追いかける数字が多すぎると現場の負担が増え、形だけの運用になってしまいます。
指標を選ぶ基準は次の4つです。
- 成果との結びつきがはっきりしている
- 継続して測定できる
- 自分の努力で改善できる
- 現場が納得できる
たとえば営業組織であれば、訪問件数、商談化率、提案実施率、成約率といった項目が候補になります。最初は3〜5個程度に絞り、運用が定着してから増やしていくのがおすすめです。
ステップ3:目標達成に必要なスキルを特定する
成果につながる指標が決まったら、その指標を達成するために必要なスキルを洗い出し、スキルマップを作ります。スキルマップとは、業務で必要なスキルを一覧にし、誰がどのスキルをどの程度持っているかを見える化した表です。
「成約率を上げるように」と言われても、どのスキルを伸ばせばいいかわからなければ行動に移せません。スキルを特定すれば、「この数字を上げるにはこのスキルを伸ばせばいい」という道筋がはっきりします。
たとえば「成約率を上げる」という目標に対しては、課題発見力、提案構成力、プレゼン力、クロージング力(契約を決める力)といったスキルが考えられます。
ステップ4:スキルの習得状況をリアルタイムで数値化する
スキルを特定したら、その身につき具合をリアルタイムで数値化する仕組みを作ります。半年に一度の振り返りだけでは、問題の発見が遅れて手遅れになることがあるからです。
リアルタイムで数値化する方法としては、次のようなやり方があります。
- 顧客管理ツール(CRM)の入力内容から行動量を自動で集計する
- 週ごとに自己評価を入力する
- 商談に同席したときの気づきを記録する
- スキルマップを共有し、1on1で評価する
見える化したデータをダッシュボード(一覧画面)にまとめると、チーム全体の状況がひと目でわかります。マネージャーは本当にサポートが必要なメンバーに集中できるようになります。
ステップ5:リアルタイムでフィードバックを行う
最後のステップは、数値化したデータをもとにリアルタイムでフィードバックを行うことです。データを集めて終わりではなく、そのデータを使って一人ひとりの成長を支援することが、メトリクスマネジメントの目的です。
ここで大切なのが、「練習と実践の完全同期」という考え方です。プロスポーツでは、練習で試したことをすぐに試合で実践し、その結果をまた練習に反映するサイクルが当たり前に行われています。
ビジネスでも同じです。研修で学んだことを翌日の商談で実践し、その結果を振り返って次につなげる。このサイクルを速く回すことで、スキルの定着と成果の向上を同時に実現できます。
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導入時によくある壁と乗り越え方
メトリクスマネジメントの導入では、多くの組織が共通してぶつかる壁があります。次の3つを事前に把握しておけば、導入の失敗を防ぎやすくなります。
- ハイパフォーマーの行動を言葉にできない
- 数字で追われることへの現場の抵抗感
- データ収集の負担が大きい
ハイパフォーマーの行動を言葉にできない
最も大きな壁が、成果を出している人の行動をうまく言葉にできないという問題です。ハイパフォーマー本人に聞いても「普通にやっているだけ」と返ってくることがほとんどで、ヒアリングだけでは成功パターンを引き出せません。
対処のポイントは、導入の目的をていねいに共有することです。実際の場面を第三者の目で観察し、本人が無意識にやっている行動を記録していきます。複数回の観察を通じてパターンを見つけることで、言葉にする精度が上がります。
数字で追われることへの現場の抵抗感
「また管理が増えるのか」「監視されているようで嫌だ」という現場の反発は、導入時に避けて通れない壁です。この抵抗感を放っておくと、データの入力が形だけになり、仕組み自体が機能しなくなります。
乗り越えるカギは、導入の目的をていねいに共有することです。「数字は評価や監視のためではなく、一人ひとりの成長を支援するためのもの」という位置づけを、導入前に繰り返し伝える必要があります。
まずはマネージャー層が率先してデータを活用し、1on1などでメンバーにとって役立つフィードバックを返すことで、現場の信頼を得られます。
データ収集の負担が大きい
理想的なデータ収集の仕組みを一度に作ろうとすると、現場に大きな負担がかかり、定着する前に頓挫してしまうリスクがあります。最初から完璧を目指す必要はありません。
まずは既存の顧客管理ツール(CRM)から取れるデータだけで始め、追いかける指標も3つ程度に絞るのが現実的です。小さく始めて成果を実感してから、段階的にデータの範囲を広げていくことで、無理なく定着させられます。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 営業以外の部門(人事や事務職)でも導入できますか?
A. はい、可能です。 例えば人事なら「採用決定数」という結果だけでなく、「スカウト返信率」や「面接での魅力付けスキル」などをメトリクスとして設定することで、育成と改善のサイクルを回せるようになります。
Q2. 追いかける数字が多すぎて、現場が疲弊しませんか?
A. 指標を「3つ」に絞り込むことが定着の鍵です。 あれもこれもと数値化すると管理が目的化します。売上に最も影響を与える「センターピン」となる指標だけに絞り、現場が「これをやれば勝てる」と確信を持てる設計にすることが重要です。
Q3. 数値化しにくい「定性的なスキル」はどう扱えばいいですか?
A. 「行動基準」に変換してスコア化します。 例えば「ヒアリング力」であれば、「顧客の課題を3つ以上書き出せているか」といった目に見える行動に変換し、5段階で評価することで、客観的なデータとして扱えるようになります。 [Image showing a skill radar chart being updated based on weekly 1on1 observations]
Q4. ツールを導入しないと実践は難しいですか?
A. スプレッドシートでも始められますが、専用ツールの方が継続しやすいです。 データの自動集計やダッシュボード化ができないと、マネージャーの集計負荷が上がり挫折しがちです。CRM(Salesforce等)やパフォーマンスマネジメントツールを連携させ、入力負荷を下げることが成功の近道です。
Q5. 既存の目標管理(MBOやOKR)とはどう使い分ければいいですか?
A. MBO/OKRを「達成するための武器」として併用します。 OKRが「どこを目指すか」という旗印なら、メトリクスマネジメントは「どうやってそこまで歩くか」という歩法にあたります。上位目標と日々のメトリクスを連動させることで、目標の形骸化を防げます。
まとめ
メトリクスマネジメントは、プロスポーツの選手育成で培われた数字にもとづく管理手法をビジネス組織に応用し、誰でも成果を出せる仕組みを作るアプローチです。成果の出し方を「型」にすることで、マネージャーの質に左右されない組織を実現できます。
大切なのは、数字を管理すること自体が目的ではなく、数字を使って人を育てることです。
自社でも導入できるか知りたい方は、まずは今の組織課題を整理するところから始めてみてはいかがでしょうか。
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