営業はChatGPT、マーケはCanva AI、カスタマーサポートはチャットボットと、部門ごとにバラバラなAIツールを導入している企業が増えています。しかしツールが乱立すると、情報の分断、費用の二重払い、管理の不徹底といった問題が起きます。
こうしたAI乱立の課題を解決する方法が、AIオーケストレーションです。社内の複数のAIをまとめて管理し、業務全体を自動化する仕組みです。2025年の国際学会(DAI 2025)でも主要な研究課題として取り上げられるなど、世界的に注目が高まっています。
本記事では、AIオーケストレーションの基本から導入のメリット、リスク、導入ステップまで解説します。
(参考)Masters, C. et al.「Orchestrating Human-AI Teams: The Manager Agent as a Unifying Research Challenge」DAI 2025 https://doi.org/10.1145/3772429.3772439
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▼ この記事の内容
- AIオーケストレーションの定義: 異なる得意分野を持つ複数のAI(音声認識、対話、画像生成など)を連携させ、一つの大きな業務フローを自動完結させる仕組みです。「部分的な効率化」を「全体的な自動化」へと昇華させます。
- なぜ今注目されるのか: 2028年までに70%の企業が導入すると予測されています。部門間のデータ分断(サイロ化)の解消や、専門知識を持つ特定の人材への依存(属人化)を打破するために不可欠な技術となっています。
- 導入のメリット: 業務トラブルの解決時間を最大90%短縮し、経営判断をリアルタイム化します。プログラミング不要で設計できるツールも多く、組織全体でのデジタル変革(DX)を加速させます。
目次
AIオーケストレーションとは
AIオーケストレーションには、以下の主な特徴があります。
- 複数のAIを連携させる仕組み
- オーケストラの指揮者のような自動化
- 単体でAIを使う場合との違い
複数のAIを連携させる仕組み
得意分野が違う複数のAIをつなげて、1つのAIではできない複雑な仕事をこなせるようにする仕組みです。
例えばコールセンターでは、音声認識AIが話し言葉を文字に起こし、対話型AIが返答案を作り、感情分析AIがお客様の満足度を判定します。この一連の流れが自動でつながるため、人が間に入る必要がありません。
さらに各AIは、顧客管理ツール(CRM)や基幹システム(ERP)ともつながっています。CRMは顧客情報をまとめて管理するツール、ERPは会計・人事・在庫などを一括で管理するシステムです。
複数のAIと社内の既存システムがリアルタイムで情報をやり取りすることで、業務全体の自動化が実現します。
オーケストラの指揮者のような自動化
AIオーケストレーションには、全体をまとめる司令塔のAIがいます。これをオーケストレーターと呼び、指揮者のように複数のAIに指示を出してつなげます。
ユーザーが指示を出すと、オーケストレーターが必要な作業に分け、それぞれに最適なAIを割り当てて実行させます。最後に各AIの結果をまとめて1つの成果物に仕上げます。
例えば人事部門なら、採用候補者のふるい分けから面接日程の調整、評価レポートの作成まで一気に自動化できます。オーケストレーターにはChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)が使われることが多く、状況に応じて柔軟に判断できます。
人がその都度指示を出さなくても、複数のAIが自動で役割を分担して動ける点が強みです。
単体でAIを使う場合との違い
単体AIとの違いは、部分的な改善か、全体的な改善かです。単体AIでは作業と作業の間を人がつなぎますが、AIオーケストレーションではAI同士が自動で情報を受け渡します。
例えばChatGPTで文章を作る場合、その作業は早くなりますが、前後の工程は人が手作業で進めるままです。
一方AIオーケストレーションなら、業務の流れそのものを変えられます。小売業では在庫がゼロになったら広告を自動で止め、同時に仕入れの発注も自動で行うといった連続処理が可能です。
| 項目 | 単体AI | AIオーケストレーション |
| 改善の範囲 | 特定の作業(部分最適) | 業務フロー全体(全体最適) |
| 作業間のつなぎ | 人が手動で受け渡し | AI同士が自動で受け渡し |
| システム連携 | 単体で完結 | CRM・ERPとリアルタイム連携 |
| 判断の柔軟性 | 決められた処理を実行 | 状況に応じて手順を自動切り替え |
| 活用例(小売業) | 需要予測AIで売れ筋を分析 | 在庫ゼロ検知→広告停止→仕入れ発注まで自動 |
1つの作業を速くするのではなく、業務の流れ全体を効率化できるのがAIオーケストレーションの価値です。
なぜ今AIオーケストレーションが注目されているのか
企業のAI活用は、試しに使う段階から本格的に成果を出す段階に移っています。UiPath社のレポートでは、2028年までに70%の企業がAIの一括管理プラットフォームを導入すると予測されています。
(参考)EnterpriseZine「UiPath、最新の自動化トレンドを発表」2024年https://www.uipath.com/ja/newsroom/uipath-automation-and-ai-trends-report-2024
注目の背景には、以下の課題があります。
- 社内でAIツールがバラバラに導入されているから
- 部門ごとにデータが分断されているから
- AIを使いこなせる人が限られているから
社内でAIツールがバラバラに導入されているから
各部門がそれぞれ独自にAIを導入した結果、つながらないAIが社内に散らばり、全社的な相乗効果が生まれていません。
営業は顧客管理AI、マーケはレコメンドAI、サポートはチャットボットと、バラバラに動いています。ツールが増えるほど費用がかさみ、同じ顧客情報があちこちに散らばって内容が食い違うことも起きます。
さらに、誰がどのAIを使っているか把握できないと、機密情報の管理が行き届かず情報漏洩のリスクが高まります。部門ごとに個別契約をしていると、セキュリティポリシーを全社で統一するのも難しくなります。
AIオーケストレーションは、バラバラのツールをまとめるコントロールセンターの役割を果たします。利用状況をひと目で把握でき、許可制や機密データの入力制限も全社一括で適用できます。
部門ごとにデータが分断されているから
部門間で情報が共有されていないと、非効率やミスの原因になります。同じ情報を何度も手で入力するため、ミスが起きやすく、修正の手間も増えます。
例えば製造業では、営業の受注情報を生産管理が手作業で入れ直し、さらに経理が請求処理のためにもう一度入れ直します。入力ミスが起きれば、納品の遅れやクレームにつながります。
AIオーケストレーションを導入すれば、部門間の情報の受け渡しを自動化できます。顧客情報・在庫・売上がリアルタイムでつながり、経営層が全社の状況をすぐに把握できます。
データの分断をなくし、正確さとスピードの両方を改善できるのが強みです。
AIを使いこなせる人が限られているから
AIを使いこなすには、指示の出し方やシステム連携などの専門知識が必要です。しかしそうした知識を持つ人は限られ、AI活用が特定の担当者に偏りがちです。
特にIT部門への負担は深刻です。各部門から「AIの設定を手伝ってほしい」「ツールを連携させたい」といった依頼が増え、人手が慢性的に足りなくなっています。
AIオーケストレーションツールの多くは、プログラミング不要で画面の操作だけで自動化を設計・運用できます。各部門の担当者が自分で設定できるため、IT部門の負担を大きく減らせます。
特定の人に頼らず、組織全体でAI活用を進められる点が利点です。
AIエージェント、APIとの違い
AIエージェントやAPIは混同されやすいですが、それぞれ役割が異なります。
| 項目 | API連携 | AIエージェント | AIオーケストレーション |
| 役割 | ソフトウェアをつなぐ窓口 | 個々の作業を自律実行 | 全体を統括する指揮者 |
| 処理の柔軟性 | 固定(A→B→Cの順) | 状況に応じて判断を変更 | 最適な手順を自動で組み立て |
| 対応範囲 | 単一の接続 | 特定の業務領域 | 部門横断・業務全体 |
AIエージェントとの違い
AIエージェントは演奏者、オーケストレーションは指揮者にあたります。エージェントが個々の仕事をこなし、オーケストレーションが全体をまとめます。
AIエージェントとは、自分で判断しながら複数のステップを踏んで目的を達成するソフトウェアです。外部のツールを使ったり、状況に応じてやり方を変えたりできます。
例えばネットショップでは、在庫確認・決済・配送のエージェントがそれぞれ別に動きます。これらをオーケストレーターがまとめて、全体の流れをコントロールします。
エージェントが実行する人、オーケストレーションが指揮する人という関係です。
APIとの違い
APIは処理の順番があらかじめ決まった連携で、AIオーケストレーションは状況に応じて順番を変えられます。APIとは、異なるソフトウェア同士をつなぐ窓口のような仕組みです。
API連携ではA→B→Cと順番が固定されていて、想定外の状況でもやり方を変えられません。
例えば旅行予約では、API連携だと航空券→ホテル→支払いの順でしか処理できません。AIオーケストレーションなら、予算重視なら最安の組み合わせ、速さ重視なら最短の組み合わせを、その場で判断して提案できます。
APIは決まった手順をそのまま実行する仕組み、AIオーケストレーションは最適な手順を自分で組み立てる仕組みです。
AIオーケストレーションの仕組み
AIオーケストレーションは以下の3つの要素で成り立っています。
- 指揮者(オーケストレーター)が全体を統括する
- 複数のAIが役割分担して連携する
- 音声認識から分析・フィードバック生成まで
指揮者(オーケストレーター)が全体を統括する

オーケストレーターは司令塔として、作業の分解・実行・結果のとりまとめを一括で管理します。
例えば「来月のキャンペーン企画を作って」と指示すると、販売データ分析・競合調査・ターゲット絞り込み・広告案作成に分解します。最適なAIを割り当て、並行できるものは同時に進め、最終的にひとつの企画書にまとめます。
途中で問題が起きれば別のやり方に自動で切り替えます。人がいちいちチェックする必要はありません。
オーケストレーターが全体を管理することで、複雑な業務でもスムーズに自動化できます。
複数のAIが役割分担して連携する
複雑な業務も効率よく処理できるのは、各AIが得意な作業を分担するからです。文章AI・画像AI・予測AIなどが、それぞれの専門分野に応じて役割を分担します。
連携の方法は3つあります。順番型はAIがひとつずつリレーする方式、同時型は複数のAIが同時に処理を進める方式、階層型は親AIが子AIに指示を出す方式です。
これらは組み合わせることもできます。データ収集は同時型で並行して進め、分析は順番型でリレーするといった使い方が可能です。
複数のAIが連携することで、1つのAIではできない高度な業務の自動化が実現します。
音声認識から分析・フィードバック生成まで
音声データの処理は、AIオーケストレーションの活用がわかりやすい例です。録音から分析・レポート作成まで一気に処理でき、人は結果を受け取るだけで済みます。
音声認識AIが話し声を文字に変換し、対話型AIが内容を読み取って次のアクションを判断し、分析AIがレポートを作成します。
例えば1on1ミーティングの録音データを入れると、文字起こし→内容の分析→フィードバック作成まで自動で完了します。1on1は上司と部下が行う定期面談で、成長支援に欠かせませんが、記録や振り返りに手間がかかることが課題でした。
AIオーケストレーションを使えば、1on1の運用負担を減らしながら面談の質を高められます。
AIオーケストレーションを活用したツールのメリット
AIオーケストレーションの導入で、企業は以下のメリットを得られます。
- 業務効率と生産性が上がる
- データを部門横断で活用できる
- 経営判断のスピードが上がる
- 運用コストを削減できる
業務効率と生産性が上がる
最もわかりやすいメリットは、繰り返しの作業から担当者が解放されることです。データの収集・整理・分析・報告書の作成が自動化され、同じ人数でもより多くの成果を出せるようになります。
経理なら請求書の受け取りから支払い処理まで、営業なら見積書の作成から契約登録まで自動化できます。その分、商談に集中できる時間が増えます。
人事でもMBO・OKRの進捗集計やスキルマップの更新は自動化の対象です。手作業では時間がかかるうえにデータもすぐ古くなるため、自動化の効果が特に出やすい領域です。
単純作業から解放されることで、担当者はより重要な分析や企画に時間を使えるようになります。
データを部門横断で活用できる
部門ごとにバラバラだったデータがつながり、会社全体の視点で分析できるようになります。営業の顧客データ、生産の在庫データ、経理の請求データがひとつにまとまるためです。
小売業なら購入履歴・在庫・季節の傾向を組み合わせて、売れ行きを予測できます。製造業なら受注情報・生産計画・材料の在庫をつなげて、納期の精度を高められます。
データの分断がなくなれば、ある部門の知見を別の部門ですぐに活かせるようになり、判断の精度が上がります。
データを全社で一元的に活用できることは、経営判断の質を高める大きなメリットです。
経営判断のスピードが上がる
経営者は最新の状況をもとに素早く判断できるようになります。各所のデータがリアルタイムで集まり、分析されて画面に表示されるためです。
判断の速さは、競合に対する強みに直結します。変化の激しい業界ほど、スピードの差が業績を左右します。
経営判断のスピードアップは、AIオーケストレーションがもたらす競争優位のひとつです。
運用コストを削減できる
長期的に運用コストを下げられる点も重要なメリットです。手作業が自動化されて人件費を抑えられるうえ、担当者が変わっても安定して運用できるため、引き継ぎや教育のコストも減ります。
特定の担当者しか操作できなかったシステム連携が自動化されれば、退職や異動によるリスクがなくなります。業務の手順がシステムに組み込まれているため、誰が担当しても同じ品質で進められます。
属人化が解消されれば、組織として安定した運用体制を保てます。
運用コストの削減は、人件費を抑えるだけでなく、組織の安定運用にもつながります。
AIオーケストレーション導入のリスクとデメリット
メリットが多い一方で、導入前に知っておくべきリスクもあります。事前に把握しておけば、社内検討の精度が上がり導入後のトラブルも防ぎやすくなります。
- 初期コストと投資回収の見通しが立てにくい
- 既存システムとの連携に技術的なハードルがある
- 組織内の抵抗が起きやすい
- AI倫理・ガバナンスの整備が必要になる
初期コストと投資回収の見通しが立てにくい
導入には想定以上の初期コストがかかることがあります。ツールの利用料に加えて、システム連携の構築、データの整備、研修の費用が発生するためです。
特にデータが整っていない場合、不要データの除去や統合に時間と費用がかかります。ツールを入れればすぐ使えると思っていると、データ整備の段階で計画が遅れがちです。
対策は、どの業務でどれくらいの工数を減らせるかを事前に見積もることです。PoCで効果を数字にしておけば、社内稟議の根拠としても使えます。
初期コストのリスクは、事前の見積もりとPoCで抑えられます。
既存システムとの連携に技術的なハードルがある
古い基幹システムとの接続には技術的な課題がつきものです。API連携に対応していないシステムでは、追加の開発が必要になることもあります。
部門ごとにデータの形式や管理ルールが違うと、統合に手間がかかります。営業はカタカナ、経理は漢字で顧客名を管理しているケースでは、まず表記をそろえる必要があります。
導入前に自社のシステム構成とデータの状態を確認し、どこがボトルネックになるかを把握しておくことが大切です。ベンダーに技術調査を依頼すれば、想定外のトラブルを防げます。
技術的なハードルは、導入前の調査と計画で大きく下げられます。
組織内の抵抗が起きやすい
「今のやり方で問題ない」「AIに仕事を奪われるのでは」といった現場の抵抗が起きやすいのもデメリットです。
対処のポイントは、人の仕事を減らすのではなく、単純作業から解放してもっと大事な仕事に集中できるようにすると伝えることです。現場を早い段階から巻き込み、実際に使いながらフィードバックを集めると効果的です。
現場が納得しないまま進めると、ツールだけ入って誰も使わないという事態になりかねません。導入がうまくいくかどうかは、技術よりも合意形成にかかっています。
組織の抵抗は、丁寧な説明と現場の巻き込みで対処できます。
AI倫理・ガバナンスの整備が必要になる
AIが業務の判断に関わる範囲が広がるほど、倫理面の整備が欠かせません。誤った判断の責任は誰が取るのか、個人情報をどう扱うか、判断の過程をどう見える化するかを、導入前に整理しておく必要があります。
特に人事評価や採用にAIを使う場合、判断に偏りがないか定期的にチェックする仕組みが求められます。過去のデータに偏りがあると、AIがその偏りをそのまま再現するリスクがあるためです。
AI利用のガイドラインを作り、運用ルールを文書にまとめておけば、トラブルが起きたときにも素早く対応できます。ガイドラインは定期的な見直しが必要です。
AI倫理の整備は追加コストではなく、安全に使い続けるための必要な投資です。
AIオーケストレーション導入の5ステップ
導入は一度にすべてを変えるのではなく、段階的に進めるのが成功のカギです。管理職が社内で推進する際の流れを5ステップで整理します。
- ステップ1:現状把握
- ステップ2:対象業務の選定
- ステップ3:PoC(実証実験)の実施
- ステップ4:本格導入
- ステップ5:拡張
ステップ1:現状把握
まず社内で使われているAIツールを洗い出します。どの部門が、どんなAIを、何の業務に使っていて、契約費用や利用頻度はどうかを確認してください。
この段階で、ツールの重複やデータの分断が見えてきます。洗い出しをせずに進めると、あとから重複や連携漏れが発覚し、やり直しが発生します。
管理職が判断すべきは、どの課題が経営に最も影響が大きいかという優先順位です。すべてを同時に解決しようとせず、最も効果の大きい領域から手をつけてください。
現状把握は、導入全体の精度を左右するいちばん大事なステップです。
ステップ2:対象業務の選定
洗い出しの結果から、最初に適用する業務を1つ選びます。選ぶ基準は、定型業務であること、部門をまたぐ業務であること、数字で成果を測りやすい業務であることの3つです。
経理の請求処理、人事の採用選考、営業の見積もりから契約登録までの流れなどが候補になります。マネージャー育成でも、研修の管理から効果測定、フォロー面談の記録まで自動化できる可能性があります。
最初から広い範囲を狙うと複雑になります。1つに絞って小さな成功体験を作ることで、社内の理解と協力を得やすくなります。
効果が出やすく、小さく始められる業務を選ぶのがポイントです。
ステップ3:PoC(実証実験)の実施
選んだ業務で小さく試し、本格導入を判断するための材料を集めます。PoCとは、限られた範囲でまず試して効果を確かめる取り組みです。
期間は1〜3か月が目安です。導入前と導入後の作業時間やエラー率を数字で記録してください。
よくある失敗は、目的やゴールがあいまいなまま始めることです。作業時間を30%減らす、入力ミスをゼロにするなど、具体的な目標を事前に決めてください。
PoCは「試しに使ってみる」のではなく、「数字で効果を確かめる」という意識が大切です。
ステップ4:本格導入
PoCで効果を確認できたら、本格導入に進みます。運用ルールの策定、操作の研修、セキュリティや法令を守る体制の整備が必要です。
特に気をつけたいのは、AIの監視・管理体制です。誤った判断を人がすぐ修正できる仕組みがないと、ミスが自動で次々と広がってしまいます。
予算はツールの利用料に加え、設定や連携構築の費用、研修コストも見込んでください。金額はツールや業務の範囲で大きく変わるため、PoCの段階でベンダーから見積もりを取っておくのが現実的です。
本格導入では、運用体制の整備と予算の確保を同時に進めることが重要です。
ステップ5:拡張
成果が出たら、ほかの業務や部門に広げていきます。最初の導入で得たノウハウや運用ルールを共有し、展開のスピードを上げてください。
よくある失敗は、最初にうまくいったやり方をそのまま別の部門に当てはめることです。部門ごとに業務や課題は異なるため、ステップ1に戻って状況を確認する必要があります。
拡張の段階では社内に推進チームを作り、各部門との調整や進捗の管理を任せると効果的です。
拡張はそのまま横に広げるのではなく、部門ごとに合わせて再設計するつもりで進めてください。
今後の展望
AIオーケストレーションは、今後数年で企業のAI活用の主流になると予測されています。
AI連携の標準化が進む
現在は、異なる会社のAIツールをつなげるにはそれぞれ個別に接続を作る必要があり、ハードルが高い状況です。しかし、この課題を解決するための共通ルールづくりが進んでいます。
Anthropic社が2024年11月に発表したMCP(Model Context Protocol)は、AIが外部のツールやデータを安全に使えるようにする共通ルールとして注目を集めています。
共通ルールが広まれば、ベンダーの乗り換えや新しいAIの追加がしやすくなります。特定のツールに縛られず、自社に最適な組み合わせを選べるようになります。
(参考)Anthropic公式発表 https://www.anthropic.com/news/model-context-protocol
自律型AIエージェントとの統合
AIエージェントが自分で考えて動く力は、年々上がっています。言われたことを実行するだけでなく、自分で計画を立てて複雑な仕事をこなせる段階に入っています。
OpenAI社が2024年9月に発表したo1モデルの推論機能は、回答する前にAI自身が考えを整理する仕組みです。これにより、複雑な仕事にも対応しやすくなっています。
こうした自律型のAIがオーケストレーションに組み込まれれば、人が細かく指示を出さなくても、部門をまたいだ判断やイレギュラーへの対応まで自動化できるようになります。
自律型AIとの統合は、AIオーケストレーションの可能性をさらに広げる重要な流れです。
(参考)https://openai.com/index/introducing-openai-o1-preview/
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 単一のAI(ChatGPT等)を使っているだけではダメですか?
A. 作業の効率化にはなりますが、業務フローは変わりません。 単体利用の場合、AIが出した結果を人間が別のツールに転記するなどの「つなぎ作業」が発生します。オーケストレーションは、このつなぎ作業も含めてAI同士が自動で情報を受け渡すため、人間は最終確認のみに専念できるようになります。
Q2. AIエージェントとの違いは何ですか?
A. 「個」か「全」かの違いです。 AIエージェントは自律的に動く「個別の作業員(演奏者)」ですが、オーケストレーションはそれら複数の作業員を束ねて、特定の業務目的を達成させる「現場監督(指揮)」の役割を指します。
Q3. 導入には高度なプログラミングスキルが必要ですか?
A. 最近は「ノーコード/ローコード」で導入できるツールが増えています。 業務フローを画面上で図解する(ドラッグ&ドロップ)だけで、異なるAI同士を連携させることが可能です。これにより、IT部門だけでなく現場の管理職が主導して自動化を進めることができます。
Q4. 既存のシステム(Salesforceや基幹システム)と連携できますか?
A. はい、それが最大の強みです。 最新のAI技術だけでなく、社内にある顧客データ(CRM)や在庫データ(ERP)と連携することで、初めて「自社の状況に基づいた正確な判断」をAIに行わせることができます。
Q5. セキュリティや情報漏洩のリスクは高まりませんか?
A. むしろ一括管理することで「ガバナンス」が強化されます。 バラバラにAIが使われている状態(シャドーAI)よりも、オーケストレーションプラットフォームを通じて「誰が、どのデータを、どのAIに渡したか」を監視・制限できるため、安全な運用が可能になります。
まとめ
AIオーケストレーションは、社内でバラバラになっているAIツールをまとめて管理し、業務全体を効率化する仕組みです。指揮者のように複数のAIを連携させることで、1つのAIではできない自動化を実現します。
主なメリットは、業務効率の向上、データの全社活用、経営判断のスピードアップ、運用コストの削減です。一方で、初期コストや技術的なハードル、組織の抵抗、AI倫理の整備といったリスクもあるため、段階的に導入を進めることが大切です。
まずは自社の業務課題を整理し、小さな領域から始めてみてください。今のうちに準備を進めておくことで、競合より一歩先の体制を作れます。
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