エンプロイーエクスペリエンスとは?注目の背景・意味・高めるメリット・施策・注意点

近年、人事部門やHRの担当者は大きな転換点に直面しています。

2020年の新型コロナウィルスの流行により、リモートワークが一部の業種では一気に浸透しました。

結果として、これまでの「対面による」「同期的で」「ノンバーバル」な業務上のやり取りは減り、「非対面による」「非同期的な」「バーバル」なやり取りの割合が上昇し、従業員の「体験」は大きく変わりつつあります。

また、副業(複業)やフリーランスなどの働き方の多様化、価値観の異なるミレニアル&Z世代の台頭などの要因が重なり、従来の日本企業の硬直的な人事や従業員に対する考え方は支持されなくなりつつあるのではないでしょうか。

実際に、働き方の多様化は「場所」「時間」による制約を無くし、タレントと呼ばれる優秀人材を獲得する競争は一層激しくなりつつあります。

本記事では、エンプロイーエクスペリエンスとは何か、注目の背景・意味・高めるメリット・施策の例・注意点などについて解説します。

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エンプロイーエクスペリエンス(EX:Employee Experience)とは

エンプロイーエクスペリエンスとは、従業員の視点から働く環境や、ツールや目標管理・評価制度などのハードと組織風土や人間関係などのソフトの両面から、その組織で働くということの体験価値そのものを向上させようとする取り組みを指します。

エンプロイーエクスペリエンスへの注目は、従来型の「会社を中心に据えた管理・監視・統制といった役割から、「従業員・社員」を中心に据えた支援・整備へとHRを役割を再定義するものであると言えるでしょう。

エンプロイーエクスペリエンスが注目されている背景

エンプロイーエクスペリエンスは、前述の通り、人事のパライダイムを180度転換させる概念です。

「会社中心」から「従業員中心」への価値観の転換は一体どの様な背景から生じているのでしょうか。

本パートでは、エンプロイーエクスペリエンスに注目が集まっている背景について解説します。

働き方の多様化

背景の1つ目は「働き方の多様化」です。

近年、日本国内においても、リモートワークや複業(副業)、フリーランスなど働き方が多様化しつつあります。

結果として、これまでの様な画一的な体験を提供しているだけでは、従業員の多様なニーズを満たせなくなりつつあります。

ビジネス環境の不確実性の増加

背景の2つ目は「ビジネス環境の不確実性の増加」です。

VUCAの時代と表現されるように、現代は何が正解なのか分かり辛い時代です。

組織のマネージャーや経営層でも、答えを持ち合わせていないケースも多いのではないでしょうか。

そのため、これまで以上に従業員の主体性や創造性を引き出す事によって、「組織が正解に近づく確率を高める」取り組みに注目が集まっています。

エンプロイーエクスペリエンスという考え方には、組織のケイパビリティそのものを高める役割が期待されているのです。

社員研修サービスを行う株式会社リスキルでは、エンプロイーエクスペリエンスに力を入れている企業を紹介しているので、理解をより深めるためにこちらも読んでみると良いでしょう。
参考:エンプロイーエクスペリエンスとは|高めるコツを紹介【従業員に良い経験を積ませる】

エンプロイーエクスペリエンスの効果とメリット

PwCコンサルティングの調査によれば、エンプロイーエクスペリエンスの取り組み度合いや成熟度は、従業員満足度と比例関係にある事が示されています。

従業員満足度は、組織の生産性向上や人材の定着をもたらすと言われており、エンプロイーエクスペリエンスの改善は、広義の意味での業績上のメリットがあるといっても過言ではないでしょう。

エンプロイーエクスペリエンスを高めるための4つの観点

テクノロジー(HR Tech)とエンプロイーエクスペリエンスは、先行事例が豊富な海外において密接に結びついていると言われています。

テクノロジーを活用しなければ実現出来ないような従業員体験が、デジタルツールを利用する事によって可能になります。

例えば、匿名/非匿名などの公開情報を自在に設定した上で、360度フィードバックを行ったり、全社における1on1の実施率を測定し、組織の課題をあぶり出すような取り組みが挙げられるでしょう。

本パートでは、特にデジタルツールと関連性の深い、エンプロイーエクスペリエンスを高めるための4つの観点について解説します。

透明性(Transparency)

1つ目は、「透明性」です。

エンプロイーエクスペリエンスの文脈では、人事制度や評価プロセスなどが全社的に公開されていたり、組織内で率直かつオープンなコミュニケーションが行われている状態を指します。

透明性の高い組織においては、「誰が組織に貢献していて、評価をされているのか?」「部下に対して上司はどの様なサポートを、どの位の頻度で行っているのか?」が可視化された状態となります。

そのため、結果や評価を相対的に見られるようになったり、牽制機能が働く事によって、従業員の体験がより良いものとなります。

即時性(Real-Time)

2つ目は、「即時性」です。

エンプロイーエクスペリエンスの文脈では、従業員が求める人事情報(キャリアパスやグレード表、組織図など)にいつでもアクセスできる状態を指します。

特に、評価においては、「即時性」は非常に重要な意味を持ちます。

一般的に、1年に1回の年次評価は、上司と部下のパフォーマンスに対する期待値を擦り合わせる機会に乏しく、従業員の納得感を醸成し辛いと言われています。

人事評価におけるエンプロイーエクスペリエンスを高めるためには、いかに短サイクルかつ高頻度でフィードバックを行い、「即時性」の高い評価を行う事が重要となります。

個別性(Personalize)

3つ目は、「個別性」です。

これは、キャリア開発や能力開発を例に挙げるのが最も分かりやすいでしょう。

等級や役職に応じて、一律の研修や能力開発目標を強制するのではなく、一人ひとりの目指すキャリアプランに基づいた教育や成長の機会を提供することが、エンプロイーエクスペリエンスにおいては重要です。

特に、昨今は、「転職」が日本国内においても一般的になりつつあるため、ハイパフォーマーが働き続けたいと思うような体験を提供することが一層求められているでしょう。

価値志向性(Value-Oriented)

4つ目は「価値志向性」です。これは、組織や事業、働く環境についてのあるべき姿や施策と従業員の価値観を一致している状態を指します。

例えば、現在「若手」と呼ばれる20代から30代前半は、Z世代およびミレニアル世代と呼ばれており、それぞれデジタルネイティブである事から特徴的な価値観を持っています。

そのため、これまでの日本企業の伝統的な価値観に基づいた体験を受け入れられないケースも少なくないでしょう。

価値観の多様化に対して、対応できるような従業員体験を提供することが重要な時代となりつつあります。

エンプロイーエクスペリエンスを高める施策の具体例

エンプロイーエクスペリエンスを高めるためには、目的や段階に応じた施策を打ち出していく必要があります。

本パートでは、エンプロイーエクスペリエンスを高めるための具体的な施策例についてそれぞれ解説していきます。

採用CX(候補者体験:Candidate Experience)への注目

従業員の体験を高める上で最初に着手すべきは、入り口である「候補者体験=CX」を高める事ではないでしょうか。

「初頭効果」の研究に代表されるように、人間の認知における第一印象は、後々の評価に大きな影響を与えるため、採用において優れた体験を提供する事は非常に重要です。

入社時に意思決定に必要な十分な情報が与えられなかったり、面接において不快な質問をされたという経験は、入社後も尾を引く事になるでしょう。

エンプロイーエクスペリエンスを高める第一歩として、「自社が求める人材像」と「候補者体験」の整合性が取れているかを確認してみましょう。

オンボーディング・プログラムの整備

オンボーディングとは、新しく入社したメンバーが組織と業務に馴染み、活躍・定着していく事を目指した一連の取り組みを指す言葉です。

一般的に、入社したばかりの段階は、従業員の不安が最も高まっている時期となります。

この段階で、組織に馴染むために必要な知識やルール、スキル、組織風土などを理解するためのコンテンツや機会を提供する事によって、新しく入社したメンバーは少しずつ自身の能力を発揮できるようになるでしょう。

オンボーディングのプロセスが不十分な場合、社員は組織に馴染めず疎外感を感じたり、本来持っている能力を発揮できず、モチベーションが下がってしまうでしょう。

不安定な「入社」タイミングにおけるフォローを手厚く設計する事は、従業員にとっての優れた体験を実現します。

能力開発計画の策定と1on1の実施

国内市場が縮小しつつある中、企業の競争は熾烈を極めています。

会社は、従業員に対してより高い成果や業績を求める一方で、組織を持続的に成長させていくためには、一人ひとりが常に成長実感を持てるような体験を提供できるかが重要な論点となっています。

特に、ミレニアル世代やZ世代は、「就社」ではなく「就職」という価値観が強く、今の環境でスキルアップや能力開発が見込めるかどうかをこれまでの世代より重視する傾向があります。

そのため、一人ひとりの志向性や将来像にあった能力開発計画を立て、定期的な1on1ミーティングを行う事で、個人の成長を後押しするような体験が求められています。

逆に、成長実感が持てないような組織は、従業員のエンゲージメントの低下やハイパフォーマーの離職に苦しむであろう事は想像に難くありません。

多面的かつ客観性のある評価制度の運用

近年、特にITなどの先端領域においては、仕事の専門化・分業化が進行しています。

結果として、上司=評価者が、部下の専門性を正しく評価をするのが難しくなりつつあります。

そのため、近年は360度評価やピアレビュー(同僚間の評価やコメント)を通じて、多面的に評価を行う事で、評価の納得感を高める取り組みが注目を集めています。

評価制度は、多くの会社で半年から1年に1回という頻度で行われますが、体験に大きな影響を与えます。

人事評価の適正感が低い会社は、社員の士気も総じて低いと言われており、納得感の低い評価を行う会社は、従業員の体験を大きく残っていると言っても過言ではありません。

成果と満足度を両立させる評価制度と運用

エンゲージメント調査によるEX課題の特定

エンプロイーエクスペリエンスを高めるためには、組織において「どの部分の体験」に課題があるのかを早期に特定する事が重要です。

エンゲージメント調査を行う事によって、どの組織やチームにおいて、どの様な体験が損なわれているのかを定量的に把握することができるようになります。

仮にサーベイやアンケートを活用しない場合、体験の改善策は根拠を欠いたものとなり、空振りとなる可能性が高くなる事は間違いないでしょう。

退職マネジメントの実施

転職や起業、独立といったキャリア上の選択肢が一般化しつつある中、前向きな理由で退職をするというケースは少なくありません。

そのため、退職の一連の体験を設計し、退職後も「素晴らしい会社だった」と思われるようなマネジメントをすることが重要です。

近年は、会社の評判・口コミサイトをまとめたサイトが活況ですが、退職時の対応が雑であったり、急によそ者扱いするような体験は、会社に対する印象を損ね、結果としてネガティブな口コミを集める事に繋がってしまうでしょう。

逆に、退職時まで優れた体験を提供する事ができれば、口コミや退職者からの紹介という新たな採用チャネルを開拓する事が可能となるでしょう。

エンプロイーエクスペリエンス導入時に人事担当者が注意すべき点

エンプロイーエクスペリエンスは、前述の通り、入社から退職までの一連の体験を扱うため、改善の道のりは長く、険しいものとなります。

本パートでは、エンプロイーエクスペリエンス導入時に人事担当者は注意すべき点について解説します。

全社最適の視点を持つ(HRに閉じた活動にしない)

従業員の体験は、非常に複雑な要素が絡み合っていますが、中には人事施策だけでは解消不可能なものも含まれています。

具体的には、ビジネスモデルや業務特性からもたらされている「良くない体験」を人事部門主導で解決するのは困難を極めるでしょう。

例えば、繰り返しのルーティン業務の割合が高いことが、従業員の体験を損ねているような場合には、自動化やアウトソーシングといった事業部門や経営層と連携して解決に向かう必要があります。

中長期の目線を持って取り組む

従業員の体験は、一朝一夕で改善できるものではありません。

もちろん、一部の「悪しき体験」は特定の人事施策によって解決できるケースもありますが、多くの場合、問題は複合的な要因によってもたらされています。

具体的には、組織風土そのものに問題があるケースにおいては、真因を捉えた上で、段階的に変革を行っていく必要があるケースも少なくありません。

「エンプロイーエクスペリエンスは一夜にしてならず」と心得、中長期的に従業員の体験を改善していくという気概と計画性が求められることに念頭に置きましょう。

まとめ

エンプロイーエクスペリエンスという概念は、人事施策という一見「点」に思われる取り組みを、体験という「線」で繋ぎ、一貫性や意味合いを持たせるという点に大きな意味があります。

また、繰り返しになりますが、人事という「会社中心」で捉えられがちな取り組みを、「従業員中心」に捉え直す事によって、社員のエンゲージメントを高める可能性が期待されています。

まずは、改めて組織のあるべき姿やゴールを定義し、「自社にとってのあるべき従業員体験とはどの様なものか?」を社内で議論をする所から始めてみてはいかがでしょうか。

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