Co:TEAM NOTE

もしかして、ビジョンやミッションではなく、スキルの問題じゃないんですか?

最終更新日:2020/07/17

最近人事の方と話す機会が増えるなかで、「ミッション・ビジョン・バリュー」の再定義に注力している、といった話を伺うことが多い。

聞いてみると、組織として「会社が非常に緩くなってきている」「この前途多難の時代に戦えるかのか不安」とのことだった。

最近「戦略人事」という言葉が取り沙汰されているが、まさに「経営のビジネスパートナー」としての役割を人事に求める企業が増加している流れがあるらしく、そういった組織における環境シフトにおいて「ミッション・ビジョン・バリュー」から手をつけるのはわかる気がする。

そして、その戦える組織について問うと、「これからの不確実性の高い社会を戦い抜くには、まずはマインドが重要である」とのこと。

さらに深堀りしてみると、そのメッセージはどちらかというと高い成果を上げている社員ではなく、「普段の業務パフォーマンスについて疑問符を持たれている方たち」、いわゆるローパフォーマー向けであることがわかった。

パレートの法則によると、働きアリは1つの集団における生産性の80%を上位20%のアリたちが支えているらしい。

この話はまさに企業社会にも適応できるということで、会社の生産性を、ほとんど一握りのエース人材が支えている状態の企業は多い。
そういった研究は枚挙にいとまがない。

となると、ハイパフォーマーではない人がおそらく会社の中のほとんどであるので、上に記載したような、人事が変革の対象とするターゲットの規模はなかなか大きい。

「何をやっても、まったく成長しない」感 – 私も超絶なローパフォーマーだった

ちなみに私も、1社目に入った企業での成績は、これがもうとんでもなくヒドかった。
文句なしに完全な黒歴史である。

多少はあれから成長したと思うが、自己評価だけでなく、周囲からも「社内で最も仕事ができない人間」だと思われていたし、実際に何度かそう言われた。

100人くらいの会社で1番だめとなると、上位1%というローパフォーマーの中でも救いのない希少種だった

他社からの借り物をダメにしたり、大事なプレゼンを寝過ごしたり、武蔵小金井と間違えて武蔵小山に集合したり、やれと言われたことがまったく覚えられなかったり、人の話を正しく聞けなかったり。

絶対に怒らないことで評判だったホトケの上司に、2回本気で殴られた。

そんな当時、いちばん恐怖だったことは、「何をやっても、まったく成長しない感じ」が渦巻いていたことだ。

自分なりになんとか現状脱却しようともがきにもがいたが、その会社では、恥ずかしい限りだが、実にまったく成長しなかった

そして、当時は逃げるような意識も持ちつつ、転職活動に踏み切った。

結果、本当に運良く第2新卒で転職した会社で、それなりのビジネスマンになることができたが、転職するときも「お前みたいなヤツが転職できるってことは、リーマンショックは完全に回復したな」という言葉をいただいた程。※転職当時は2010年だった。

ちなみに転職先に「なんで私を採用したんですか?」と当時の人事担当者に聞いてみたら「スーツの色が違っていた」とのことだった。

お金がなくて着るスーツにも困っていて、いわゆるダークネイビーではなく、ユニクロの明るいグレーの安いスーツを着ていた。

スーツの色が違っているからなんなのか、その先の答えは今もよくわからないし、スーツの話が本当かどうかわからないが、個人的には完全に運だけで決まったと思っている。

…と、余談はさておき、80%が生産性を上げられないということも鑑みると、程度の差はあれ、こういったローパフォーマーはどの会社にも少なからず存在する

そして多くの経営者や人事が、どうすればローパーフォーマーがさらなる戦力化できるかについて頭を抱えていることを、経営者になって痛感する。

一般的に捉えられている「マインド」の立ち位置について

話は戻る。

いちばん上に書いた人事の方は、これまでのような「なんとなくみんながそれなりに仕事できている」状態から脱却していきたい、という強いメッセージを社内に発したいとのことで、幾分か納得できるところもあるが、「ビジョン・ミッション・バリューの浸透で、本当にローパフォーマーを戦力化できるものか」の一点、非常に気になった。

おそらくこんな状態を前提条件として、人事の方は脳みそで考えていたように思う。

スライド2

マインドがまず基本にあり、「興味を持った段階」になり、今度はナレッジが身につく。

そして、そのナレッジを業務で駆使していく過程で、今度はスキルが磨かれる。

そのスキルを反復実践するにあたり、実力になる。

※ここは専門的に補足すると、「スキルのさらなる想像・シミュレーション/他人の優れたスキルの実践を代理体験する」が実力につながる。

…という流れである。

結論、上記のように「ローパフォーマー」の私は成長しなかった。

上に書いた流れは非常にわかりやすく、即物的であるのは確かだが、実際私はこの手順通りに成長しなかった。

会社のミッション・ビジョンに対する共感も当時はなかった。
「前職で厳しい体験をしたが、1日でもプロのビジネスマンになって、先輩のちからを借りずとも戦えるようになりたい」という思いだけだった。

その思いで、「こういった能力が必要だな」と勝手に目標設定し、優秀な先輩に近づいてその秘訣を探ったり、社外の勉強会に積極参加したりなんかした。

よくよく考えると、当時の環境もそうだし、それからもずっとそうだったが、一概にマインドと生産性に関わっているとまでは言い切れない状態で「マインドがあるけど、ローパフォーマー」も存在したり、マインドは備わってないけどハイパフォーマーも組織には混在していた

※前者は、「プロセス評価は上司の見えている範囲でしか行えないため、感覚や超主観的な個人評価のため、平等感が損なわれる」ことが原因であることが実に多く、本当はマインドが備わっているかはわからない。この話は下の「マインドは定量評価できない」につながる。

自分の過去の転職経験から、なぜローパフォーマーから多少なりとも成長したのかを紐解くと、「自己効力感」と「小スキル」がキーだった。

自己効力感について、初耳という方もいるかと思うので、定義に則り説明すると下記のようになるが、一言でいうと「万能感」「根拠のない自信」である。

1977年、心理学の大家であるアルバート・バンデューラが提唱したセルフ・エフィカシー(self-efficacy)のこと。自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できるかという自信のこと。自己効力感を高める要素として、身近なお手本がいることや、励ましの言葉をかけること、環境などがありますが、実体験に基づく、達成体験や成功体験によって一番高まります。

「少しはやれる」→「根拠のない自信が生まれる」というサイクルが重要だった

自己効力感は最近重要視されている概念ではあるが、まだ、そこまで日本に浸透していない。

バンデューラはさすが現代を代表する心理学者であり、個人的には「個人の成長」にフォーカスすると「自己効力感」が関係していることについて、自己の体験というバイアスはあるが、非常に納得する内容だった。

私の場合、なぜ成長したかというと、それまで所属していた会社で学んだことが、たまたま転職先で非常に重要なスキルだったことが大きかった。

第2新卒で入社したこともあり、甘めに見てもらえたことももちろんあったが、「自己効力感」はそれまでの環境と異なり、育ちやすい環境だった。

一番嬉しかったのは、自分ではまったく成長せず、不甲斐ないだけのダメリーマンだと思っていた自分にも、意外とカラダに染み込んだスキルセットは存在したことだった。

そして、その「小さなスキル」が契機となり、これまでの環境とは違い、積極的に「自分のやる/やれることの範囲」を拡げていく意識に切り替わったことで、手札が増えて解決できる課題も増えていった

なお、前の会社は評価というものがそもそも存在しておらず、昇給もなければまったくの個人的な主観で「仕事ができる」ということが定性評価されていたが、そのあたりが完全とは言わないものの、定量的で明確な指標だったことも大きい。

ある程度の「スキル」とそれなりに自信が身につく環境があって、「マインド」が醸成されたのではないか

私の経験と、自分がマネージャー・経営者を経て「成長しているな」という弊社社員の一連の流れを図示してみた。

スライド3

まずは、マインドが基盤なのではなく、「小スキル」というものをベースに置いてみた。

これは算数でいうところの「掛け算」、国語でいうところの「漢字を覚える」のようなもので、「やれないとそもそも仕事が始まらないもの」

社会人的に置き換えると、締切を守る、パワポで資料をつくる、人の話を聞くといったもので、専門用語的に言うと「ポータブルスキル」というやつでしょうか。

※ポータブルスキルの説明はビズヒントさんのこちらhttps://bizhint.jp/keyword/87633

重要なのは「『持っていて当たり前のスキル』がちゃんと実践されているだけでも、人は称賛してくれる」ということである。

私は2社目でこのことを嫌というほど知った。
当たり前ができていない人が多いことを。

例えばどこかの法務局への資料提出でもいい。

ちゃんとホウレンソウを実施したうえで丁寧に経過を報告するだけでも「お、こいつ仕事ができるかもしれない」という風に思う人は多いんじゃないだろうか。

振り返ってみると意外にも仕事の出来る出来ないという話は、実際「ポータブルスキル」に関わる事が多いことに気がつく

このポータブルスキルが実践されていると称賛が発生し、今度は自己効力感がついてくる。自己効力感がついてくると、仕事に対して工夫を始める。

ポジティブなサイクルがスタートする

重要なのは、このサイクルの発端に、マインドは大きく介在しないことである。

小スキルが身につき、それを不格好ながら実践していくと、徐々に周りの人が喜んでくれ、そうすることで「自己効力感」がついていき、「俺もやれるようになってきたな」とマインドが変わってくる。

ここで、マインドが変わると、始めてナレッジに対してもっと知りたいと興味が湧いて、スキルや実力につながってくる。

自転車に始めて乗るときを想像するとわかりやすいが、マインドがないと乗れないなんてことはない。

ただし、補助輪は必要である。

極論、それをマネージャーは用意するのか、しないのかだということだと思う。

「自信と最低限のスキルが育つ環境がないと、いくらマインドがあっても、戦力化につながらない」

また、少し話はそれるが、「マインドに目を向ける」ことがそもそも難しいという前提について↓記載します。

 

 明確な「ビジョン・ミッション・バリュー」は難しい

一番やっかいなのは、マインドは定量的に評価がむずかしいことである。

たとえば「顧客主義」という社是があったとしても、会社には売上目標が存在している。

顧客に値下げを提供することは、顧客の要求には応えられるが、社内の要求には応えられなくなるといった背反性がある。

そうすると、従業員の中で、こういったグレーを処理できない場合(主に性格が関係している)、混乱と矛盾が生じる。

そういった環境では、原点に立ち戻り「顧客主義だ!」ということで、売上を落とし、社是に基づく働き方を選ぶ人は当然一定数出てくる。
こういった環境で実は愚直に働いている人であっても、「顧客主義→値下げ」を繰り返せば評価される人材たりうるだろうか。

また、評価されていない人たちは、影で「なにが顧客主義だ」と会社批判を始めるケースもある。

「ローパフォーマー」と呼ばれている人たちの正体はこういう人たちなんじゃないだろうか

例えばこういったケースで、「値下げをしなくても、満足度を下げない交渉術」というスキルを社員が知っていると、不幸は削減できるかもしれない

こうなるとローパフォーマーの発生原因は、「ビジョン・ミッション・バリュー」といったマインドに属さない問題に行き着くことも多々ある。(自省も込めて記載)

「明確で基準が人によって揺らいだりするビジョン」を設定すれば良い!という話だが、今度は創発的な求心力を失ってしまうこともある。

一番の近道は、その揺らぎに対応できるスキルを鍛えることだが、私は経験的にビジョンやミッションをつくりかえることより、そちらのほうが容易いのではと感じている。

マインドは評価ができない難しさ

また、上に続けると、もう1つの難しさは、「顧客主義」という社是にどれだけ基づいているか評価をするときの、各従業員ごとの「顧客主義度合の評価の難しさ」にある。

AさんとBさん、どっちが顧客主義?という問いに回答できる、明確な指標基準がないと、「あれ、何でこいつが俺より評価高いんだっけ?」といったことにもつながり、マインドの醸成どころか、下手をすると破壊することにもつながりうる。

会社から評価されていないと感じると、個人だけでなく、組織自体が負のスパイラルに陥る可能性もある。

 

マインド偏重への違和感 – もしかして、ビジョンやミッションではなく、スキルの問題じゃないんですか?

余談だが、イギリス、カナダ、アメリカ、最近は日本の大学にも、“Creative writing program”という小説創作コースを持つところが増えてきているという話を思い出す。

はじめて聞いた人は必ず思う。「大学の授業なんかで、しかも小説書けるような技術を伝えられるの?」と。
私もそう思った。

ちなみに、いちばん有名な小説創作コースはアイオワ大学のコースで、ジョン・アーヴィング、マイケル・カニンガムなどを輩出した。

イギリスでは、イースト・アングリア大学が有名。

カズオ・イシグロ、イアン・マキューアンなどノーベル/ブッカー賞に輝く偉大な作家たちが卒業した。

「いかに優れた技法で書くか」
このスキル育成一点にしぼって、プログラムが組まれているらしい。

技術である限り、伝授可能という視点に立っている。

Howを的確に教えれば、WhatやWhyは後からついてくるという考え方、あるいは、教えられないという考え方だ。

教えられないものは、つまり説明のつかない特別な能力で構成されているのだろうという前提で、「まずは教えやすいものを徹底的に教える」という考えで、うまくいっているということ。

マインド偏重の社会において、その成果は非常に大きな示唆をもたらしてくれる話だと思う。


最後に、今回のモデルケースとなった人事の方に聞いてみた。

「ビジョンやミッションもいいですが、このポータブルスキルがちゃんと実践できている人が、どれくらいいるのか把握されてますか?」

と聞いてみたところ、それはわからないとのことだった。

もしかして、ビジョンやミッションではなく、スキルの問題じゃないんですか?

Co:TEAM