2017年に書籍「ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法」が発刊されて以降、国内では1on1ミーティングの導入が進み、人事施策として市民権を得たと言っても過言ではありません。
一方で、その意味や目的が実施主体である現場の上司や部下に十分に共有・浸透されておらず、1on1ミーティングのテーマ設定、話す事、質問の仕方等に悩んでいる管理職、マネージャー、メンバーの方々は多いのではないでしょうか。
本記事では、1on1ミーティングという制度を最大限活用するために、その定義や意味から、運用のコツを徹底解説します。
1on1ミーティングの定義と意味
1on1の定義
1on1ミーティング(以下、1on1)とは「上司と部下の1対1で行われる対話」を指します。
アメリカのシリコンバレーで人材育成手法として1on1が導入されており、日本でもヤフー株式会社は取り入れ、書籍「ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法」により注目を集めた事から、国内でも多くの企業が導入をしています。
1on1の意味・目的
1on1の目的は部下の育成、成長支援にあります。そのため、これまでのような人事評価の面談や進捗管理のための面談とは異なり、事前準備や効果を出すためにスキルが求められます。
一方で、単なる業務上の報連相の場になってしまう事や、上司からの一方的なフィードバックになってしまうケースも枚挙に暇がありません。
1on1においては課題解決のために上司が部下に伴走していくような姿勢が求められ、アクティブリスニング(傾聴)やコーチング的なコミュニケーションが必要となります。
1on1導入の背景
VUCAと言われる時代の中で企業は生き残る必要があります。
- V(Volatility):変動性
- U(Unsertainly):不確実性
- C(Complexity):複雑性
- A(Ambiguilty):曖昧性
そんな中で日本の労働人口は減少しており、人材の流動化が進んでいます。結果として、かつてのような終身雇用、年功序列制度は時代に合わなくなってきました。
優秀な人材の離職を防止するためには従業員と企業のアライアンス関係が保てるように支援していかなければなりません。
従業員が企業にgiveする代わりに企業も従業員の求める働き方をtakeできないとこのアライアンス関係は崩壊します。
また、別の文脈で短所の改善ではなく長所を伸ばしていく志向が強い点がミレニアル世代の特徴でもあります。
このような多様な価値観に個々に対応すべく、1on1での対話が必要と考えられています。
1on1を組織に効果的に導入する前提条件
1on1の導入は簡単そうに見えて難しいものです。
形式的に導入することはできますが定期的にミーティング機会を持つだけで目的を達成できていない企業が多いのではないでしょうか。
1on1を導入して運用するために前提条件をクリアしているか、またそのための工数が十分に取れる状況にあるのかについて確認していきましょう。
1on1における具体的な質問方法とコツ
目的を事前に共有する
1on1自体の導入は多くの企業で実施されているため、周知の事実と捉えやすいですが、1on1の目的が部下の成長であると認識している人は意外と多くはありません。
1on1が始まってから「最近どうなの?」というように、メンバーの状態に対する仮説がない状態でヒアリングをするマネージャーが非常に多いと言われています。
ですが、メンバー目線に立ったとき、悪い意味で義務感が強まり、本来ヒアリングすべき事柄がヒアリングできない可能性があります。
事前に、メンバーの今困っていそうな点については業務/プライベート問わず、ある程度推察して、1on1の目的を事前に設定しておくことが重要です。
メンバーからの信頼も高まり、1on1への参加意欲が高まります。
雑談の場を別に設ける
1on1を雑談の場に使われてしまうことも多くあると思います。
コミュニケーションをとるために雑談は必要ですが、1on1を雑談の場としてしまうと目的は達成できません。
関係性構築のために雑談が必要なフェーズであれば、1on1のアイスブレイク程度として取り入れるか、もしくは雑談の場を別に設けましょう。
あくまで「メンバーの成長や仕事に悪影響を与えるものを取り除くこと」が1on1の目的であるためです。
コーチングの要素を採り入れる
1on1を行うために、上司側はコーチング、ティーチング、フィードバックを使い分ける必要があります。
例えば、課題に対する解決策が明白である場合はフィードバックだけでも良いかもしれません。
課題が顕在化しているが、解決策がわからない場合は部下の能力に合わせてコーチングとティーチングを組み合わせる必要があります。
また、課題自体が潜在的な場合もコーチングによって引き出す必要があります。
部下の状態や能力によっての使い分けが必要で、その状態把握とコーチング能力が上司側には求められます。
コーチングと書くと専門性が求められる印象ですが、困っていることを抽出し、メンバーが「どう思っているか、どうしたいか」を聞き出す事に意識を傾けましょう。
自然にメンバーの中で答えが見つかるケースが多いので、ぜひ一度実践してみることをオススメします。
同時に、上記コーチングの結果として「メンバーの中に答えが見つからなかった」場合、絶対に相手を責めてはいけません。
そのときは、コーチングを継続するのではなく、意図・背景・方法について相手が不明な点を正確に教えることが肝要です。
「懇切丁寧に教えないとわからない」からといって、そのメンバーの評価を下げることは非常にネガティブな行為です。
「答えを自ら発見できるか否か」領域はその人の能力とは関係なく、性格や思考特性によって左右される部分となります。
きちんとその人に合わせた接し方をがきるかどうかで、マネージャーとしての力量が左右されます。
「そのマネージャーと一緒に仕事をすることで、普段より能力が発揮できる」メンバーを増やしていく姿勢が成果を出せるマネジメントの基礎となります。
特に新人マネージャーだと一人で全て行うことは難しいため、アドバイザーやコーチを置くことも検討しましょう。
議事録を共有する
上司は複数人の1on1を行っているため、全ての情報を記憶しておくことは困難です。
前回の内容を振り返れるように議事録を残せるような体制を整えてください。
その際に議事録は部下側にも共有され、認識の齟齬がないか確認できるようにしましょう。
開催頻度を固定する
1on1は継続することで部下の育成に繋がります。
1番多いケースとしては、ヤフーに習って1週間から1ヶ月で定期的に開催するものです。
また、目安だけ作って部下から日程調整をしてもらうケースもあります。
何かしら1on1の頻度についてのルールがないと属人化してしまい、チームの中で差ができてしまいます。
本気でプレイングをやめてマネジメント専業になりたいマネージャーの方は「週1回」、プレイングマネージャーとしてプレイングも実施しながらマネジメントを行う場合「2週間〜1ヶ月に1回」1on1を実施することをおすすめします。
1on1の内容を評価出来る仕組みを採り入れる
1on1はあくまで部下のための対話です。部下の満足度が得られない1on1は何かしらの改善の余地があると言えます。
上司に一方的にやらされる1on1では意味がないため、満足度が低い場合はどのように改善すべきか上司側にフィードバックする必要があります。
1on1の効果を高める質問
効果的な1on1にするために上司はうまく質問をしていく必要があります。
ポイントは、営業活動に有効なヒアリングスキルを1on1のコミュニケーションにおいても転用可能という事です。
特に、営業部門における、管理職やマネージャーの方は、部下を「顧客」と見立ててコミュニケーションを取る事によって、1on1の質を高める事が可能です。
SPINの要素を取り入れた質問
SPINは潜在的な課題やニーズをヒアリングするための手法です。
これを参考にしながら、1on1でも質問をしていきましょう。
特にコーチングが苦手な人はSPINの示唆質問ができていない可能性が高く、参考にすると良いでしょう。
S(Situation Question):状況質問
状況質問は部下の現状を把握するための質問です。
あくまで次の問題質問につなげるための質問であるので、全ての状況質問を必ず行う必要はありません。
事前の情報から仮定をしながら質問していきましょう。
P(Problem Question):問題質問
問題質問は部下の既存課題を確認するための質問です。
「〜について何か課題はありますか?」のようなオープンクエスションでも、「〜の課題はありますか?」のようなクローズドクエスションでもどちらでも構いません。
I(Implication Question):示唆質問
示唆質問は部下の潜在的な課題を引き出すための質問です。
部下が気づいていない課題について解決すべき課題だと認識させる必要があります。ポイントは部下自身に気づいてもらうことです。
例えば、他のメンバーを例にして想像させてみるのも良いかもしれません。
N(Need-payoff Question):解決質問
解決質問は部下の課題に対してどのように解決ができるかをイメージさせるための質問です。
上司が必ず全ての解決策を持っている必要はなく、解決できる可能性がある知識を持つ人を示唆するだけでも十分部下は自走することが可能となります。
質問した後に沈黙をつくる
相手に話してもらうための間を作ります。
一般的に人は沈黙を恐れますが、相手に話してもらうために敢えて沈黙を作ります。
会話における質問の比率を高める
アメリカのインサイドセールスのデータではトップセールスはTalk:Listen比率が約4:6になるようヒアリングしているという結果があります。
ヒアリングするためにはやはり話すより聴く割合を多くする必要があります。
自分が話しすぎていないか話す割合を意識してみてください。
1on1で使えるテンプレート例
事前準備やテンプレートが無い場合の1on1は、短期的・実践的・顕在的な内容に話のテーマが偏りがちになります。
一方で、部下の成長支援という1on1本来の目的に立ち返ると、将来的にどの様なキャリアを築いていくかや、中長期的なビジョンから、短期的な目標設定にブレイクダウンしていくコミュニケーションが必要となります。
その場合、より広範な観点から1on1のテーマ設定が必要となるため、テンプレートを活用する事が有効です。
- 業務上困っていること(社内/社外)
- 業務改善要望
- 学んだこと/できるようになったこと
- 次にチャレンジしたいこと
- 他のメンバーとの関係性について
- 今後のキャリアについて
- 現在の業務のやりがいや大切にしていること
テンプレート活用におけるポイントは2つあります。
1つ目は、部下の方から話したいテーマをテンプレートの中から選択してもらう事。
2つ目は、部下の方から期待するコミュニケーションの形態を選択してもらう事です。
後者について具体的に説明すると、フィードバックが欲しいのか、壁打ちをしたいのか、ゼロから教えて欲しいのかによって、マネージャーが取るべきコミュニケーションが変わってきます。
マネジメントのための1on1を支援する「Co:TEAM」
1on1はマネジメントの人材育成の施策の一部であると捉えることができます。
そのため単純なコミュニケーションのための設計にならないよう注意が必要です。
特にヤフー社のやり方に沿って週1回の運用にしている場合、話す内容がなく困っている上司や雑談ばかりの1on1に意義を感じない部下はたくさんいます。
これでは雑談のための時間になってしまいます。
最も生産性が高い1on1とは、必要な人に必要な時に必要なタイミングで必要なトピックがわかった上で開催される1on1です。
そのためには上司は部下の様子をこまめに確認しなくてはなりません。
日本では上司側がプレイングマネージャーであることも多く事前の情報取得の時間がない場合が多いです。
それを解消してくれるツールがマネジメント支援サービス「Co:TEAM」です。
マネージャーの工数を削減し、定期で1on1を開催する必要もなくなり話す内容に困ることがなくなるでしょう。
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まとめ
市場の変化や働き方改革、人々の考え方の変化に対応するため1on1は既に多くの企業で取り入れられています。
しかしヤフーのように成果を上げている企業は多くありません。
目的意識を全社で持ち、前提条件が揃って初めて運用ができます。
また運用にも十分な設計が必要になることを考慮し導入を進め人材育成を成功させましょう。